2.円筒突起物の加工

図1 絞り加工と張出加工の相違

図2 加工工程の概要
  2.1 工程の検討
 薄板上にプレス加工で円筒突起物を加工し,ピン一体型のフレームとして利用するには,加工周辺部のしわやフレーム全体のゆがみの発生を防止できるかが問題となる。
 円筒絞り加工時に作用する応力状態1)は,図1(a)の絞り加工の場合,円周方向に圧縮応力が作用して肉厚が増加する。この増加を抑えるためにしわ押さえを行うが,半径方向に引張応力が作用するため,周辺材料がダイ穴に向かって移動し,フレーム全体にゆがみが生じてしまう。
 これに対し,図1(b)に示すような張出し加工では,加工部分の材料が二軸の引張応力により引き伸ばされるため,周辺材料の収縮量は少なく,フレーム全体のゆがみが少なくなると考えられる。
 また,小径で高い円筒を加工するには,絞り加工工程を数回行わなければならない。そのため少ない工程数で材料の板厚を薄くすることにより高さを確保することができる押出し加工などを組み合わせるなどの工夫も必要である。
  以上のことを考慮した結果,図2に示すような第1工程で材料の張出しによる周辺材料の移動防止と必要体積の確保を行い,第2〜7工程で押出し加工と絞り加工の組み合わせにより,板厚を薄くしながら,突起物を高くし,しごきにより円筒表面の凹凸を滑らかに成形し,第8工程で小径で高い円筒突起物に仕上げる金型を試作した。

 2.2 試験加工
 材料の種類やパンチ・ダイの工具形状の影響による円筒突起物の成形性を調べるため、最大加圧力294kN{30t}のクランクプレス加工機に試作した金型を取り付け,工程ごとにスライド量を変化させながら被加工材(ブランク)を加工した。
 ブランクの材料は,板厚1.2mmのSPCE(深絞り用冷間圧延鋼板)とSUS304(ステンレス鋼板)の2種類を用い,円筒突起物の寸法は直径4mmで10mm以上の高さを目標とした。
 また,最初に設計した金型による試験加工の結果をもとに,ダイ肩半径の大きさやテーパなどの工具形状を変更し,成形性の向上について検討した。

 2.3 試験加工結果と評価
 試験加工の結果,各工程での突起物は図3に示すような形状に加工された。
 各材料について各工程で加工した突起物の高さの変化を調べると,図4に示すように第3工程までは両材料ともほぼ等しい高さを確保しているが,SUS304は第4,5工程で高さの上昇が少ないことがわかる。この原因はSUS304の方がSPCEより加工硬化が大きいためであると考えられ,その結果SPCEでの仕上げ高さは,9.5mmを得たのに対し,SUS304での仕上げ高 図3 各工程の突起物形状 さは7.5mmに留まった。


図3 各工程の突起物形状

 一方,図4の各工程での高さの変化を調べると,突起物の高さは第1〜5工程で上昇し,第5工程以降は減少している。ここで,第5工程から第6工程にかけての減少量は大きく,それ以降の減少は緩やかであることから,仕上げ工程の高さは,第5〜6工程での高さの減少の程度が大きく影響することがわかる。
 したがって,仕上げの高さを向上するためには,第5工程までに高さをより高くするか,第6工程での高さの減少を極力少なくするようにパンチとダイの工具形状を変更することが必要であると考えられる。そこで第5工程のダイ肩半径を大きくし,工具のテーパ角度を緩やかにしたものに構造を変更し,その効果を調べた。
 図5に第5工程の工具形状を変更する前と変更後のSPCE材の加工物の高さの変化を示す。
 第5工程では,工具形状を変更した場合,変更前に比べ突起物の高さが約1mm程度高くなったのがわかる。さらに第6工程以降の高さの減少の程度も少なくなり,仕上げでは変更前よりも2mm以上の高さを確保することができた。


図4 各工程の円筒突起物の高さの変化

図5 工具形状の影響による高さの変化

 第5工程の加工物断面の金属組織をみると,工具変更前の場合は図6(a)に示すように湾曲部分の板厚が急激に薄く変化しているのに対し,工具変更後の場合は図6(b)に示すように,板厚はほぼ一様に薄くなっ ている状態が観察された。このことから,変更後は材料がスムーズに移動したために板厚を薄くすることができ,その移動した体積の分だけ突起物の高さが高くなったものと考えられる。
 以上の結果をもとに,8回の工程を順送化した金型を試作し,プレス加工を実施した結果,厚さ1.2mmのSPCEの薄板上に直径4mm,高さ11.8mmの円筒突起物を連続的に加工することができた。図7に順送金型,図8に円筒突起物の加工サンプルの外観を示す。
 さらに,実用化のために,このSPCEの薄板に加工した円筒突起の先端の軸方向に圧縮の荷重を与える試験と,円筒の先端の軸に直角に荷重を与える曲げ試験を実施した。
 その結果,圧縮試験では,約450N{46kgf}の荷重で塑性変形し,約2kN{200kgf}の荷重で座屈した。
 一方,曲げ試験では,約150N{15kgf}の荷重で塑性変形し,約350N{36kgf}以上は曲げ変形が増大したため,負荷を与えることができなくなった。
 したがって,円筒突起物の曲げ強さは圧縮強さの約1/3と低いことから,円筒突起物を柱などに利用する場合には,十分な強度を有するが,回転軸などに利用する場合は,フランジ部の曲率を小さくするなどの改良によって曲げ強さを向上させる必要があることがわかった。



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