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九谷焼原料としての河合陶石の可能性に関する研究

■九谷焼技術センター 高橋宏 木村裕之

 石川県産出の河合陶石を利用して,磁器ハイ土製造のための技術開発を行った。河合陶石1級は鉄分とアルカリ分が少なく,白色度と耐火度が高いという特徴がある。また,河合陶石はロクロ用ハイ土としての成形性が乏しく,焼き締まりにくいため他の原料との配合が必要であった。九谷焼用ハイ土としての還元焼成用ハイ土と,白色度を活かした新規の酸化白色ハイ土調合を検討した。河合陶石1級を30〜50%配合したハイ土が良好という結果を得た。
キーワード: 九谷焼,河合陶石,花坂陶石,磁器ハイ土,ロクロ成形

Research on the Possibility of Kawai Stone as a Material for Kutani-ware

Hiroshi TAKAHASHI and Hiroyuki KIMURA

Technical development was carried out in view of manufacturing porcelain using Kawai stone, which is produced in Ishikawa Prefecture. Grade-1 Kawai stone contains little iron or alkali, and is characterized by its high degrees of whiteness and fire-resistance. However, when Kawai stone was used in the clay for wheel forming of Kutani-ware, the forming performance and tightness after firing decreased; therefore, it needs to be mixed with other materials. In this study, using Kawai stone, we produced clay for the reduction firing of Kutani-ware and white clay for the oxidization firing of Kutani-ware, which uses the whiteness of Kawai stone. The best result was obtained when clay contained Grade-1 Kawai stone in a ratio of 30% - 50%.
Keywords : Kutani-ware, Kawai stone, Hanasaka stone, clay, wheel forming

1.緒  言
 伝統的九谷焼の素地は,石川県小松市産出の花坂陶石を主原料としている。将来にわたり良質な花坂陶石を確保することは産地の最優先課題である。現時点では,埋蔵量は緊急の問題ではないが,花坂陶石の保護と並行して,花坂陶石以外の県内産陶石を利用するための技術開発が求められている。県内には白山市で産出する河合陶石があり,主に衛生陶器やタイル素地の原料として年間数千トン出荷されている。豊富な埋蔵量と安定した化学組成の陶石であるが,焼成色などの問題から九谷焼の原料としては利用されていない。
 河合陶石が九谷焼に利用できれば,窯元で利用可能な陶石の選択肢が増え,原料調達,品質および原料価格の安定化が期待できる。また,河合陶石が九谷焼原料の一部を担えば,鉱山の存続と陶石のブランド化が期待される。
 そこで本研究では,河合陶石を九谷焼原料として用いた磁器用ハイ土の技術開発を行った。

2.実験内容
2.1 河合陶石の分析と評価
 河合陶石は,河合鉱山(株)の主要等級である1級と3級を用いた。陶石の成分分析は,蛍光X線分析装置((株)リガク製 システム3270E,50kV,50mA)で,鉱物分析は粉末X線回折分析装置((株)リガク製 RINT2100,40kV,20mA,CuKα) を用いて行い,耐火度測定1)および焼成収縮計測も行った。焼成呈色は測色計(コニカミノルタオプティクス(株)製 CM-3600d)で測定した。これらすべての分析・測定は,花坂陶石との比較を行った。

2.2 ハイ土の調合
 ハイ土調合は河合陶石を主に,粘土鉱物,長石,珪石,アルカリ土類塩類等の一般的な窯業材料を用いた。ハイ土は調合後2日以上寝かせ,石膏型でφ70mm×t7mmの成形体を作製した。成形体は自然乾燥,素焼き,本焼きの順序で,それぞれの工程前後に寸法測定し収縮率を算出した。素焼きは760℃/30分保持で,本焼きは,酸化焼成では電気炉1260℃/20分保持で,還元焼成ではガス炉でSK8完倒(約1280℃),還元濃度約4%の条件で行った。還元,酸化焼成ともに施釉サンプルも作製した。釉薬は市販の1号釉(日本陶料(株)製)を用い,一部で九谷焼技術センター独自の釉も用いた。

2.3 ハイ土試作
 従来の九谷焼用ハイ土を想定した還元焼成用ハイ土と,河合陶石1級の白色度を活かした酸化白色ハイ土の二種類の検討を行った。
 全体量が100〜120gになるように原材料を所定量秤取り,アルミナポットで3時間粉砕混合を行った。粉砕混合後200メッシュの篩で粗い粒子を取り除き,吸引濾過してラボ試作ハイ土とした。
 ラボ試作ハイ土の内,良好なハイ土をスケールアップして試作した。50kg仕込みのトロンミル粉砕混合を2バッチ行い,100kgスケールのハイ土を作製した。粉砕時間は粒度分布のデータを基に決定した。粉砕混合後,200メッシュの篩に通し磁選機で除鉄を行い,フィルタープレスで水分を絞り,真空土練機で所定の硬度に調整しスケールアップ試作ハイ土とした。

2.4 製品試作
 スケールアップ試作ハイ土は,地元窯元に製品試作の評価を依頼した。評価項目としては,ロクロ成形,ロクロ成形+型打ち成形,セラローラ+プレス成形,型起こし成形など手作りによる成形2)である。

3 結果と考察
3.1 河合陶石の特徴
 河合陶石の評価結果を表1に示す。花坂陶石が長石と石英を主に,カオリナイトを含んだ構成であるのに対し,河合陶石はパイロフィライトと石英を主に,セリサイトを含む成分構成である。河合陶石1級と3級の差は,主に鉄分の差であり,3級は1級と比較して鉄分が多い。河合陶石は花坂陶石と比較してアルカリ分が少なく,単独で素焼き(750〜800℃)ができないことや,主成分のパイロフィライトにより粘りが乏しい3)ことから,成形性向上や耐火度調整のために副原料との調合が必要である。一方,河合陶石1級は白さが特徴である。これまで花坂陶石では得ることのできなかった白色度の高いハイ土の原料として期待できる。

(表1 河合陶石の特徴)

3.2 ハイ土調合の結果
3.2.1 還元焼成用ハイ土
 ハイ土調合の目標を示す。
・収縮率が,12.5〜15.5%の範囲。
・従来ハイ土との色差が10以内。
 図1の右側の様に,当初は河合陶石3級をベースに検討を進めた。収縮率が小さい傾向となり,施釉サンプルでシバリング4)が多発した。反対に,収縮率を合わせると色差が大きくなり,色系が花坂陶石ハイ土と異なる傾向となった。河合陶石1級を用いた酸化白色ハイ土の調合の内,副原料として長石を用いた系列は,還元焼成で色差が小さく,収縮率も従来のハイ土に近い結果を示した。そこで,河合陶石1級に切り替え,河合陶石1級40〜60%の調合で上記の目標を達成した。この中で河合陶石50%調合が,最も良好な結果となった。

(図1 還元焼成用ハイ土の色差と収縮率)

3.2.2 酸化白色ハイ土
 ハイ土調合の目標を示す。
・収縮率が11%以上。
・白色度(明度:L値)が85以上
 酸化白色ハイ土は河合陶石1級を主原料に検討を進めた。成形性向上を目的として,副原料としてベントナイト5)を用いた。他に粘土,長石,珪石等を組み合わせた。図2に結果を示す。明度が高いと収縮率は小さくなり,明度が低いと収縮率が高くなる傾向を示した。骨灰,リン酸カルシウムを用いた系では,施釉サンプルでシバリングが発生した。長石を用いた系は収縮率が大きく明度が低く,施釉サンプルでは目標値85を下回るものもあった。珪石を用いた系は,明度が概ね90付近となり目標を達成した。収縮率も従来のハイ土並みとなり目標を達成したが,吸水性を持つことが判明した。そこで焼き締り対策として添加剤の検討を行った。表2に河合陶石1級割合30%のサンプルの結果を示した。添加量はすべて外割5%とした。すべての添加剤で効果が見られたが,材料コストを考慮して今回はドロマイトを添加剤とした。次に収縮率の調整のため河合陶石の割合を検討した。表3に示すとおり,河合陶石の割合が最大の50%調合においても,目標を達成した。以上より,河合陶石50%を基礎調合と決定した。

(図2 酸化白色ハイ土の明度と収縮率)
(表2 添加剤の検討(河合1級30%調合))
(表3 河合陶石の割合(ドロマイト外割5%))

3.3 スケールアップハイ土の試作
 ラボ試作の結果より,次のハイ土を作製した。
・還元焼成用ハイ土
 河合陶石1級:粘土鉱物(ベントナイト/蛙目粘土/カオリン):長石=50:40:10
・酸化白色ハイ土
 河合陶石1級:粘土鉱物(ベントナイト/カオリン):珪石:ドロマイト(外割)=50:40:10:5
ハイ土の粒度分布は,花坂陶石ハイ土のメジアン径5.0〜6.0µm付近に合わせた。最終的に,真空土練機で硬度が7〜9になるように調整した。

3.4 製品試作による評価
 試作ハイ土は,ロクロやプレスによる成形性,型打ち成形,削りや手直しなどの後加工性を評価した。還元焼成用ハイ土の評価結果を表4に示す。また、今回試作した製品の一例を図3に示す。成形性は良好であり,高台部のカンナ加工も問題なくできた。型打ち(ロクロ成形後,半乾き状態で型に押し付けて凹凸をつける加工)で,縁部分にキレが発生した。この型打ちで発生するキレの対策については,今後の課題として検討を進めたい。
 次に酸化白色ハイ土の評価結果を表5に示す。型起こし成形以外は,成形性や加工性について問題はなかった。型起こしでは,成形体表面に“しわ“が発生しやすいことや,成形時に土が手につきやすく,成形しにくいという指摘があった。これはハイ土中の粒子間のすべりや凝集性が影響しているものと考えられる。これに対して,使用する副原料やハイ土調合割合の見直し,粒度分布の最適化を行って対応する予定である。釉薬との相性については,1号釉限定ではあるが,薄く施釉した場合に焼成後の釉表面がマット状になる現象が起こっている。これに対しては,施釉条件(比重,施釉時間等)の変更により良化するものもあるため,最適な施釉条件を決定したい。

(図3 製品試作品 上,中:酸化白色ハイ土(上;ロクロ成形,中;型打ち成形),下:還元焼成用ハイ土(ロクロ成形))
(表4 還元焼成用ハイ土の評価結果)
(表5 酸化白色ハイ土の評価結果)

4.結  言
 本研究は,河合陶石のハイ土原料としての可能性を調査し,ハイ土の調合を検討した。
(1) 河合陶石は,パイロフィライト,セリサイトおよび石英が主であり,長石,石英およびカオリナイトが主の花坂陶石と構成鉱物が異なる。
(2) 河合陶石1級は,鉄,アルカリ分が少なく,酸化および還元焼成の呈色はどちらも白色度が高い。耐火度が高く焼き締まりにくく,ロクロ成形性に乏しい。
(3) 河合陶石3級は,花坂陶石より鉄分が多くアルカリ分が少ない。焼成呈色は,酸化焼成では茶色系,還元焼成では青味の強い灰色系である。1級同様にロクロ成形性に乏しい。
(4) 還元焼成用ハイ土は,河合陶石1級:粘土鉱物:長石=50:40:10の調合が良好となった。型打ちでキレが発生し,実用化に向けての課題である。
(5) 酸化白色ハイ土は,河合陶石1級:粘土鉱物:珪石:ドロマイト=50:40:10:5の調合が良好となった。成形性や加工性に問題はないが,釉薬との相性が今後の課題である。実用化に向けて,粒度分布や調合の調整を進めていく予定である。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,ご協力を頂いた河合鉱山株式会社,二股製土所,谷口製土所,川田美術陶板,妙泉陶房,南製陶所,木田製陶所ならびに岡田直人氏に謝意を表します。

参考文献
1) JIS R 2204:1999. 耐火物及び耐火物原料の耐火度試験方法.
2) 大西政太郎. 陶芸の伝統技法. 理工学社, 1983, p. 2.1-2.54.
3) (社)日本セラミックス協会. 窯業原料. (社)日本セラミックス協会, 1989, p. 91-93.
4) (社)日本セラミックス協会. セラミックス工学ハンドブック[応用]. 技報堂(株), 2002, p. 651.
5) 素木洋一. 坏土の調整方法と特性. (社)窯業協会, 1969, p. 64-65.