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食器洗浄機に対する和絵具の耐久性に関する研究

■九谷焼技術センター 木村裕之 高橋宏

 食器洗浄機が普及し,九谷焼食器の食器洗浄機に対する耐久性について問い合わせが増えている。そこで本研究では,九谷焼の食器に使用されている和絵具(無鉛和絵具と耐酸和絵具)に対して食器洗浄機を想定した耐久性試験を行った。その結果,無鉛和絵具と耐酸和絵具を比較すると,無鉛和絵具の劣化が顕著であった。また,高温型と低温型の無鉛和絵具を比較すると,低温型無鉛和絵具の劣化が顕著であった。この結果を受け,無鉛和絵具の耐久性向上に関して検討を行った。無鉛フリット(絵具の主成分)組成にZrO2及びAl2O3成分を添加することにより,耐久性が改善する結果を得た。
キーワード: 食器洗浄機,九谷焼,和絵具,耐久性

Study on the Durability of Clear Colors against Washing by Dishwashers

Hiroyuki KIMURA and Hiroshi TAKAHASHI

Dishwashers become popular, queries increase about the durability of Kutani tableware for dishwasher. In this study, we conducted durability tests for clear overglazes colors(lead-free clear overglazes and acid-resistant clear overglazes) used for Kutani tableware against washing by dishwashers. As a result, we confirmed that the lead-free clear overglazes colors deteriorated to a much greater degree than did the acid-resistant clear overglazes colors. In addition, we determined that the durability of the lead-free clear overglazes colors for low-temperature firing deteriorated much more than did those for high-temperature firing. Based on these results, we examined a method for improving the durability of lead-free clear overglazes colors for low-temperature firing. Consequently, we confirmed that the durability improved by adding ZrO2 and Al2O3 to lead-free frit (the main component of the lead-free clear overglazes colors).
Keywords : dishwasher, Kutani-ware, clear colors, durability

1.緒  言
 近年,一般家庭へも食器洗浄機が普及するようになってきた。また,業務用食器洗浄機については,家庭用以上に広く普及している。現在,九谷焼では,生産量の約半分近くが食器類となっている。このような中,九谷焼の上絵製品の食器洗浄機に対する耐久性について業者に対して小売店や消費者からの問い合わせが増えている。九谷焼は,食器洗浄機での洗浄を想定していなかったことと,食器洗浄機を想定した耐久性に関する公定法がないため,九谷焼の上絵具(特に和絵具)に対する食器洗浄機に対する耐久性試験は行われていない。このため,業者が消費者からの問い合わせに対応できるように,九谷焼で使用する和絵具について,食器洗浄機に対しての耐久性に関する知見を早急に得る必要がある。
 本研究では,九谷焼の食器に使用されている無鉛和絵具と耐酸和絵具(鉛含有和絵具)について食器洗浄機を想定した耐久性試験を行い,九谷焼の特徴である上絵具がどのように影響を受けるかについて,表面光沢を指標として観察した。また,無鉛和絵具については,無鉛フリット組成にZrO2及びAl2O3成分を添加し,食器洗浄機に対する耐久性について検討した。

2.試験内容
2.1 無鉛和絵具の洗浄試験
 九谷焼で市販されている無鉛和絵具を使用して試料を作製した。無鉛和絵具の基本色である4色(青,黄,紺青,紫)の絵具を九谷焼の陶板白素地(8cm×9cm)に,筆を使用して面積40cm2となるように絵付けした。無鉛和絵具は,焼成温度が高温型と低温型1)の2種類ある。高温型無鉛絵具の試料は,850℃まで4時間30分で昇温させ850℃で15分間保持により焼成を行った。低温型無鉛絵具の試料は,790℃まで4時間で昇温させ790℃で10分間保持により焼成を行った。
 食器洗浄機は大きく家庭用,業務用の2種類にわけられる。家庭用食器洗浄機は弱アルカリ性洗剤を使用し,40〜65℃で洗浄が行われる。業務用食器洗浄機はアルカリ性洗剤を使用し,60〜85℃で洗浄が行われる。本研究では,上絵具に対しより影響を与えると考えられる業務用食器洗浄機で試験を行った。焼成を行った上絵付け試料について,以下の条件で業務用食器洗浄機の耐久性試験を行った。
・使用洗浄機:ホシザキ電気(株)製 JWE-400TU A3
・洗浄温度:70〜85℃
・使用洗剤:JWS-10DHG 濃度0.15% 乾燥仕上げ剤 suma DRI-IT
 表面光沢の変化(劣化)の指標として表面光沢度の測定を行った。洗浄回数は1000回まで行い,100回洗浄毎に光沢度計で上絵具表面層の光沢度を測定した。光沢度計はBYK Gardner製デジタル光沢度計を使用し,測定角60°で測定して評価を行った。

2.2 浸漬法による和絵具の耐久性試験
 九谷焼では食器用の上絵具として無鉛和絵具以外に耐酸和絵具(鉛含有絵具)も市販・使用されている。耐酸和絵具に対する耐久性試験は,排水問題(鉛が溶出するため)などがあり,食器洗浄機での試験が難しい。このため,食器洗浄機を擬似的に想定した浸漬法による試験を行った。

2.2.1 食器洗浄機試験との対応性試験
 以下の条件で浸漬法の試験を行った。
・反応温度:75℃
・使用洗剤:JWS-10DHG 濃度0.30%
 調整した反応溶液中に,上絵付け試料(陶板)を浸漬させ75℃で静置し反応を行った。無鉛和絵具試料のこの反応条件における浸漬時間と食器洗浄機の洗浄回数との対応関係について検討を行った。

2.2.2 和絵具の耐久性試験
 浸漬法の浸漬時間と食器洗浄機の洗浄回数との対応関係を得たので,浸漬法により無鉛和絵具(高温型,低温型の2種類)と耐酸和絵具([1],[2]の2種類)の4種類の和絵具について耐久性試験を行った。高温型無鉛絵具の試料は,850℃,870℃,890℃の3種類の温度で焼成し,低温型無鉛絵具と耐酸和絵具の試料は,790℃,810℃,830℃の3種類の温度で焼成して耐久性試験の試料を作製した。

2.3 無鉛和絵具の耐久性の検討
 無鉛和絵具は,「無鉛フリット+色素+添加剤」から構成されている。ここでは,絵具の主材料である無鉛フリットの化学組成を変化させることによる耐久性向上について検討を行った。ガラスの耐アルカリ性を向上させる成分として,ZrO2,Al2O3が知られている1),2)。本試験では,低温型無鉛和絵具に使用している無鉛フリットの1つであるAフリットに対し,Al2O3,ZrO2の添加効果について検討を行った。下表にAフリットの化学組成を示す。

(表1 Aフリットの化学組成)

無鉛フリットの試作は以下の手順で行った。
1) Aフリット+ ZrO2,Al2O3のフリット組成を調合
2) 1)を坩堝に入れ1320℃で溶融
3) 溶融した無鉛フリットを水中投下して急冷
4) 無鉛フリットをスタンパーとポットミルで粉砕
5) 粉砕した無鉛フリットを使用して絵具を調整
 食器洗浄機による耐久性試験により,低温型無鉛和絵具の青絵具が,耐久性試験を行った和絵具の中で最も劣化が顕著であった。このため,試作した無鉛フリットを使用して青絵具を調整し,耐久性試験を行った。試作フリットを使用した青絵具の絵付け試料を810℃で焼成して耐久性試験の試料とした。

3 試験結果及び考察
3.1 無鉛和絵具の洗浄試験
 図1に,無鉛和絵具の食器洗浄機による洗浄回数と絵具表面の光沢度の結果を示す。表面光沢度は,1試料あたり4点の測定を行い,かつ3試料の平均値である。一般的に,光沢度が60を下回ると目視でも光沢が失われたことが明確に認識できるようになる3)。実際に,本試験においても光沢度が60を下回ると,表面が擦りガラス状になり白濁することが目視で確認された。このため本研究では,光沢度が60を下回った試料は表面光沢が失われたものと評価した。図1中において点線は高温型無鉛和絵具を,実線は低温型無鉛和絵具の結果を示している。高温型,低温型共に洗浄回数が増えると光沢度が低下する。高温型の青と紺青では,1000回洗浄後においても光沢度60を超えている。高温型の黄と紫では800回洗浄で光沢が失われる(光沢度60を下回る)結果となった。低温型では,黄は900回前後で,紺青と紫は800回で,青は600回洗浄で光沢が失われている(劣化した)結果となった。高温型に比べ低温型において表面光沢の低下(劣化)が顕著に現れる結果となった。これは,低温型無鉛和絵具は溶融点を低くするためにホウ素やアルカリ金属成分を多く含有し,ガラス中のシリカ骨格が弱くなるため,耐久性が低下したものと考えられる。

(図1 洗浄回数と光沢度の変化)

3.2 浸漬法による和絵具の耐久性試験
3.2.1 食器洗浄機試験との対応性試験
 浸漬法に調整した0.3%洗剤(JWS-10DHG)溶液は,pH11.5であった。3.1で得られた無鉛和絵具の表面光沢度の変化(光沢の劣化)結果に対応する浸漬法の浸漬時間との関係性を調べた。光沢度の測定値から,浸漬法10時間で洗浄機約200回洗浄,浸漬法20時間で洗浄機約400回洗浄,浸漬法30時間で洗浄機約600回洗浄,浸漬法40時間で洗浄機約800回洗浄にそれぞれ相当することになる。

3.2.2 和絵具の耐久性試験
 浸漬法で試験を行い,浸漬時間は40時間(洗浄機800回洗浄相当)と100時間(洗浄機2000回洗浄相当)とした。洗浄回数は1日1回の洗浄で年間400回洗浄を行うとし,800回は2年分,2000回は5年分の洗浄回数を想定した。表2に40時間,表3に100時間の試験結果を示す。高温型無鉛和絵具の試料は,850℃,870℃,890℃(表中790℃,810℃,830℃に結果を記載)の3種類の温度で焼成を行った。表中,数値は試験後の表面光沢であり,光沢度が60を下回った試料については×(色付き),光沢度が60〜69の試料については△,光沢度が70以上の試料については○と表記した。
 無鉛和絵具と耐酸和絵具を比較すると,無鉛和絵具での劣化が顕著であるという結果になった。100時間後(2000回洗浄相当,5年分)において,無鉛和絵具では高温型及び低温型の何れも表面光沢を失う(60を下回る)結果となった。これに対し,耐酸和絵具では100時間浸漬後においても,90以上([2]の紺青を除き)の光沢を保っている。この耐久性の違いは,無鉛和絵具は鉛成分を含まないため,溶融温度(焼成温度)を低くする目的として耐酸和絵具に比べアルカリ金属成分を多く含有しているためと考えられる。また,無鉛和絵具において高温型と低温型を比較すると,低温型の劣化が顕著であった。低温型無鉛和絵具の青絵具は,40時間(800回洗浄相当)浸漬において,3種類の焼成温度いずれにおいても表面光沢を失い,耐久性試験を行った和絵具で,劣化が最も顕著であった。

(表2 40時間(800回洗浄相当)の試験結果)
(表3 100時間(2000回洗浄相当)の試験結果)

3.3 無鉛和絵具の耐久性の検討
 表4に,Aフリット組成にZrO2及びAl2O3を添加した無鉛フリットを用いて作製した青絵具の浸漬法による40時間浸漬(800回洗浄相当,2年分)の試験結果を示す。比較試料としてAフリット(青),低温型(810℃焼成試料)及び高温型無鉛青絵具(870℃焼成試料)の結果も示す。Aフリットに対しZrO21.0〜3.0%,Al2O33.0〜7.0%において,光沢度が70を超える耐久性の良好な組成範囲を得た。
 表4で得られた耐久性の良好な組成範囲の無鉛フリットについて,アルカリ金属酸化物とSiO2成分を増やし,B2O3成分を減らすことでガラス化をより促進した無鉛フリットを作製し,表5の浸漬法による60時間(1200回洗浄相当,3年分)の試験結果を示す。比較試料としてAフリット(青),低温型(810℃焼成試料)及び高温型無鉛青絵具(870℃焼成試料)の結果も示す。ZrO2 2.75〜3.5%,Al2O3 4.0〜5.0%において,光沢度が70を超える耐久性の良好な組成範囲を得た。高温型無鉛和絵具に近い耐久性を得た。

(表4 40時間(800回洗浄相当)の試験結果)
(表5 60時間(1200回洗浄相当)の試験結果)

4.結  言
 九谷焼で使用されている和絵具(4種類×4色)について上絵焼成試料を作製し,食器洗浄機を想定した浸漬法による耐久性試験を行った。その結果,耐酸和絵具と無鉛和絵具を比較すると,無鉛和絵具の劣化が著しく,特に低温型の劣化が顕著であった。
 そこで,耐久性試験の劣化が顕著にあらわれた低温型無鉛和絵具について,ZrO2及びAl2O3を添加した無鉛フリットを試作し,その添加効果を検討した。その結果,60時間浸漬(食器洗浄機約1200回洗浄相当)後においても表面光沢(光沢度が70を超える)を維持する組成範囲を得た。
 今後は,本研究で得られた知見を活用して,耐食器洗浄機性を改善した無鉛和絵具の開発に繋げていく。

参考文献
1) 木村裕之, 高橋宏. 無鉛和絵具における焼成温度の低温化の研究. 石川県工業試験場研究報告. 2010, no. 59, p. 71 -74.
2) 山根正之. はじめてガラスを作る人のために. 内田老鶴圃, 1993, p. 99-111.
3) 吉田秀治, 白石敦則. 高品質無鉛鉄赤上絵具の開発. 佐賀県窯業技術センター研究報告. 2010, p. 16 -22.