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能登大納言小豆を用いた機能性飲料の開発
■化学食品部 武春美 勝山陽子 中村靜夫
■企画指導部 道畠俊英
■石川県農業総合研究センター 林美央
■石川県立大学 榎本俊樹 熊谷英彦
能登大納言小豆は石川県指定の戦略作物で,粒が大きく鮮烈な色つやをもつ等の特徴から,粒を活かした利用が進められてきた。生産量が増加する一方で規格外品の有効活用が求められている。本研究では,規格外品の能登大納言小豆を乳酸発酵させた機能性飲料の開発を試みた。その結果,発酵前の小豆の糖化処理には,糖化酵素と可溶化酵素を用いた処理が効果的であった。また,石川県伝統発酵食品由来のγ-アミノ酪酸(GABA)生成能をもつ発酵菌群の中から,小豆糖化液でGABA高産性乳酸菌を選抜し,有機酸とともにGABAの機能性を付与した機能性飲料を試作する技術を確立した。
キーワード: 能登大納言小豆,糖化,乳酸発酵,γ-アミノ酪酸(GABA)
Development of a Functional Drink using Noto-Dainagon Adzuki Beans
Harumi TAKE, Yoko KATSUYAMA, Toshihide MICHIHATA, Shizuo NAKAMURA, Mio HAYASHI, Toshiki ENOMOTO and Hidehiko KUMAGAI
"Noto-Dainagon adzuki beans", one of strategic crops of Ishikawa Prefecture, have been mainly used whole, because of their large size and good luster. While their production has been increasing, there is a demand for the development of applications for non-standard adzuki beans. In this study, we attempted to develop a functional drink by lactic fermentation of non-standard Noto-Dainagon adzuki beans. We found that treatment by simultaneous use of a saccharifying enzyme and a solubilizing enzyme was more effective for saccharification if carried out before fermentation of the beans. We selected three kinds of lactic acid bacteria having a high ability to produce g-aminobutyric acid (GABA) in saccharified adzuki beans from among various lactic acid bacteria isolated from traditional fermented foods of Ishikawa Prefecture. We established a technique for the production of a functional drink containing organic acid and GABA.
Keywords : Noto-Dainagon adzuki beans, saccharifying, lactic fermentation, γ-aminobutyric acid (GABA)
1.緒 言
能登大納言小豆は石川県指定の戦略作物で,能登地方において栽培され,近年,生産量が拡大している。これまで,能登大納言小豆は大納言の中でも粒が大きく鮮烈な色つやをもつ等の特徴から,粒を生かした和菓子や洋菓子の材料として利用が進められてきた。また,能登大納言小豆の研究より,栄養成分および遊離アミノ酸等の機能性成分について,他産地の小豆と同等であることが明らかとなっているので1),規格外品の能登大納言小豆の有効利用が求められている。
小豆には,整腸作用をもつ食物繊維,高血圧を予防するカリウムや貧血を予防する鉄等のミネラル,抗酸化能をもつポリフェール等,健康維持・増進に寄与する成分が多く含まれているという報告2),3)があり,機能性食品として注目されている。これまでの開発事例としては,餡製造時の煮汁や焙煎小豆の熱水抽出液を利用した飲料があるが,これらはいずれも小豆の水抽出物であり,食物繊維やポリフェノール等の水不溶性成分は,ほとんど含まれていない。
本研究では,規格外品の能登大納言小豆を用いて,煮熟処理,糖化処理した後,乳酸発酵して機能性乳酸飲料の開発を試みた。特に機能性成分としては,血圧降下作用4),成長ホルモン分泌促進作用5)等の生理作用があるγ-アミノ酪酸(GABA)に注目し,石川県産の発酵食品から得られたGABA生成乳酸菌群の中から,小豆糖化液中でGABA高産性を有する乳酸菌を用いた。
2.実験方法
2.1 試料
本研究では,石川県農業総合研究センターの能登分場で平成19,20年度に生産された石豆(種皮にある種孔が詰まっているため吸水できない豆)や割れ粒等の規格外品を含む能登大納言小豆(以下,小豆とする)を用いた。
2.2 小豆の煮熟処理
水に16時間浸漬した小豆1に対し,水4の割合で耐熱容器に入れ,温度は110,120℃の2種,処理時間は5,10,20,30minの3種として,オートクレーブ(東京理化工業(株)製)により加圧加熱して煮熟処理を行った。
2.3 小豆の糖化処理
小豆の糖化処理には,得られた煮熟小豆を均一な溶液とするために,ミキサーにより粉砕した小豆汁を用いた。
糖化処理に用いる酵素は,以下に示すA〜Eの食品用粗酵素(ヤクルト薬品工業(株)製)6種類を使用した。糖化酵素として,グルコアミラーゼを主活性とする酵素1種類(ユニアーゼBM8)(以下,Aとする)とα-アミラーゼを主活性とする酵素1種類(ユニアーゼ30)(B),可溶化酵素として,プロテアーゼを主活性とする酵素1種類(パンチターゼNP-2)(C),セルラーゼを主活性とする酵素2種類(セルラーゼY-2NC,マセロチーム2A)(D),ペクチナーゼを主活性とする酵素1種類(ペクチナーゼSS)(E)をそれぞれ蒸留水に溶解し,試料重量の0.1%となるように添加した。
糖化処理方法は,小豆汁に糖化酵素のみを添加した場合とタンパク質,セルロース,ペクチン分解酵素を添加した場合について,それぞれの酵素に共通する至適温度60℃で反応させ,糖度計((株)アタゴ製 PAL-J)により糖度(Brix)が一定となった処理時間を終点とした。また,得られた糖化液のグルコース濃度はグルコース測定用キット(和光純薬工業(株)製 グルコースCUテストワコー)により測定した。
2.4 GABA生成乳酸菌
都市エリア産学官連携促進事業(文部科学省)で石川県立大学で探査された「アジのなれずし」や「イカの麹漬け」等の石川県産伝統発酵食品からスクリーニングされたGABA生成乳酸菌10種類(Lactbacillus buchneri 2種,Lactobacillus paramesenteroides 2種,Lactobacillus brevis 6種)を用いた。それぞれの乳酸菌の分離元等の詳細を表1に示す。
(表1 石川県の伝統発酵食品より分離されたGABA生成乳酸菌)
2.5 有機酸分析とGABAの分析
小豆乳酸発酵液の分析のため,発酵液約0.5gに蒸留水5mLを加え振とう後,ろ紙でろ過した液を蒸留水により10mLに定量した。さらに,その液をフィルターユニット(日本ミリポア(株)製 Millex 0.45mμ)でろ過して分析試料とした。有機酸は有機酸分析計(日本ダイオネクス(株)製 ICS-1500)を,GABAはアミノ酸分析計((株)日立製作所製)を用いて定量した。
3.結 果
3.1 小豆の煮熟処理
小豆の煮熟処理は,温度110℃で5,10minの処理条件で行ったところ,石豆では吸水が起こらず,煮熟が不十分であった。一方,その他の処理条件では,石豆の種皮に胴割れや崩壊が確認され,正規品と同等に煮熟された。石豆は種孔から吸水できないが,加圧により種皮が破壊され,吸水可能になったと考えられる。この結果から,ランニングコストを考慮し,温度120℃,処理時間5minで行うこととした。
3.2 小豆の糖化処理
図1は,酵素の種類と酵素処理した小豆糖化液のグルコース濃度を示す。なお,図中の小豆汁は,糖化処理前のものでグルコース濃度は検出限界以下であった。これに対し,糖化処理を行ったもの全てでグルコース濃度が増加した。糖化を主活性とするAまたはBの処理ではグルコース濃度は低い傾向を示し,最も低いBは1.0g/100mL未満であった。一方,2種類以上の酵素を添加した場合は,いずれも高い傾向を示し,全ての酵素A+B+C+D+Eが最も高く約5.6g/100mLであった。また,AとC,D,Eのいずれかをそれぞれ添加したA+C,A+D,A+Eを比較すると,A+Cが最もグルコース濃度が高い。これは,糖化の原料となる小豆の澱粉粒子が,吸水・加熱によりタンパク質に包み込まれて餡粒子になり,澱粉粒子への酵素糖化作用を阻害するが6),A+Cの場合はCにより澱粉を取り囲むタンパク質を分解することによって,澱粉の糖化が促進されることを示している。一方,A+D,A+Eでは,小豆の種皮の成分であるセルロースやペクチンをD,Eが可溶化することによって糖化が進んだと考えられる。
以上より,小豆の糖化処理には,いずれの酵素にも効果が認められることから,糖化酵素AとBに,可溶化酵素C,D,Eを加えて5種類の酵素で小豆糖化液を調製することとした。
(図1 酵素の種類と小豆糖化液のグルコース濃度 A : グルコアミラーゼ,B : α-アミラーゼ,C : プロテアーゼ,D : セルラーゼ,E : ペクチナーゼ)
3.3 小豆糖化液に適したGABA生成菌の選抜
小豆糖化液に適したGABA生成乳酸菌の選抜には,表1に示す乳酸菌10種類を用いた。これらの初発菌数は105cfu/gとなるようにした。
図2,図3は,グルタミン酸ナトリウムの添加なしと1%添加,2%添加した場合について,GABA乳酸生成菌の乳酸とGABA生成量を分析した結果である。図2中の小豆糖化液は,発酵前のもので乳酸含有量は50mg/100g程度である。これに対し,AN群とSB群ともに乳酸の増加が見られたが,AN群の方が増加傾向が大きい。また,AN群のうち,Lactobacillus brevis系のAN1-5,AN2-2,AN3-5,AN4-5で増加傾向が見られ,AN1-5のグルタミン酸ナトリウム1%添加が最も多く,約1550mg/100gであった。なお,グルタミン酸ナトリウム添加濃度と乳酸含有量の関係は,乳酸菌の種類により異なっており,一定の傾向が見られなかった。
図3中の発酵前の小豆糖化液のGABA含有量は10mg/100g程度である。これに対し,乳酸菌3種AN1-1,AN1-5,SB21を用いた場合のみ増加が見られ,その他の乳酸菌では殆ど変化が見られなかった。また,GABA含有量の多いAN1-5およびSB21ではグルタミン酸ナトリウム添加量が1%のときにGABA含有量が多く,いずれも2%で生成量が減少する傾向が見られた。このことから,高濃度のナトリウムイオン存在下では菌体内酵素L-グルタミン酸脱炭酸酵素の活性が低下したことが考えられる。ただし,詳細についてはさらに検討が必要である。
得られた発酵液のpHおよび菌数については,図に示さなかったが,いずれの発酵菌も培養時間の経過に伴い,pHの低下および菌数の増加が認められ,発酵24時間でpH3.5〜4.0,菌数107〜109cfu/gであった。
(図2 GABA生成菌による小豆糖化液の乳酸発酵物の乳酸生成量)
(図3 GABA生成菌による小豆糖化液の乳酸発酵物のGABA生成量)
3.4 小豆糖化液の官能試験と呈味の改善
乳酸菌AN1-5,SB21を用いた小豆発酵液(グルタミン酸ナトリウム添加量1%)について,味の官能試験を行った結果,いずれの発酵液も添加したグルタミン酸ナトリウムによる旨味と,発酵により得られた乳酸の酸味が強く,甘味が低いことがわかった。これらの調整を行うために,旨味は乳酸発酵前に添加するグルタミン酸ナトリウムの添加量0.1,0.3,0.5,0.8,1.0%について官能試験を行い,旨味に影響しない0.1%とした。また,酸味と甘味は,米麹の甘酒と同程度のBrix30となるように,小豆糖化液1に対し米粉糖化液2を加えることで補糖だけでなく,酸味も低減することができた。なお,米粉糖化液は,清酒製造副産物の白糠(酒米の精米時に発生する米粉)に同量の水および酵素Bを加え,至適温度75℃で液化処理を行った後,酵素Aを添加し,至適温度60℃で24時間処理したものを用いた。
3.5 米粉糖化物により補糖した小豆糖化液の乳酸発酵
前節で調製した小豆米粉糖化液の発酵試験は,GABA生成能が高い発酵菌AN1-5およびSB21を用いた。GABA含有量が効果的であると推奨されている10〜20mg/日7)を参考とし,発酵液中のGABA含有量10〜20mg/100gとなる条件を検討した。その結果,発酵24時間でいずれの菌も上述の推奨値であるGABA含有量約16mg/100gで,Brix35,乳酸量200mg/100gの発酵液が得られた。また,味と香りの官能試験では,甘味,酸味が調和して,発酵により生成された乳酸等の有機酸の芳醇な香りが付与された。しかし,油の酸化様の臭いが感じられたので,香気成分を分析した結果,パルミチン酸等の脂肪酸およびノナナール等のアルデヒド類によるものと推測された。今後は商品化に向けて,これらの成分の低減方法の検討を行う必要がある。
4.結 言
規格外品を含む小豆の有効活用方法として,乳酸発酵飲料の開発を行い,以下の成果を得た。
(1) 石豆を含む小豆の煮熟には,温度120℃,処理時間5minの条件で加圧加熱処理をすることで,正規品と遜色ない煮熟小豆が得られた。
(2) 小豆の糖化には,糖化酵素であるグルコアミラーゼ,およびα-アミラーゼに,可溶化酵素であるセルラーゼ,プロテアーゼ,ペクチナーゼを併用することが効果的であった。
(3) グルタミン酸ナトリウムを添加した小豆糖化液を原料に用いることで,GABA生成能の高い発酵菌2種を選抜できた。
(4) 小豆乳酸発酵液の甘味を調製するために,米粉糖化液による補糖を行い,乳酸発酵した結果,発酵24時間でGABAを推奨値である16mg/100gを含む小豆乳酸飲料を試作できた。
謝 辞
本研究の成果の一部は,文部科学省の都市エリア産学官連携促進事業で実施しました。
参考文献
1) 林美央. 能登大納言の品質特性と解明. 石川県農業総合研究センター試験成績概要集. 2006, p. 371-372.
2) 小嶋道之,西繁典,山下慎司,前田龍一郎. 小豆エタノール抽出物添加飼料によるラットの血清コレステロール上昇抑制. 日本食品科学工学会誌, 2006, vol. 53, no. 7, p. 380-385.
3) 小嶋道之,山下真司,西繁典,斉藤優介,前田龍一郎. 小豆ポリフェノールの生体内抗酸化活性と肝臓保護作用. 日本食品科学工学会誌, 2006, vol. 53, no. 7, p. 386-392.
4) Takashi H, Tiba M, Iino M Takayasu T. The effect of gamma aminobutyric-acid on blood pressure. Jpn. J. Physiol.,1955, 5, p. 334-341.
5) Cavagnini F, Invitti C, Pinto M, Maraschini C, Dilandro A, Dubini A, Marelli A. Effect of acute and repeated administration of gamma aminobutyric-acid(GABA) on growth-hormone and prolactin secretion in man. Acta Endocrinol. 1980, 93, p. 149-154.
6) 鈴木繁男監修. 餡ハンドブック. 光琳書院, 1975, 532 p.
7) "特定保健用食品許可(承認)品目一覧". 消費者庁. http://www.caa.go.jp/foods/index4.html, (参照 2011-07-10)