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耐火断熱れんがの高品質化と環境低負荷製造技術の開発

■化学食品部 佐々木直哉 豊田丈紫 北川賀津一 田畑裕之

 本研究では,珪藻土れんがの品質安定化と排煙中の亜硫酸ガス濃度の低減を目的に,珪藻土に様々なカルシウム源を添加した。テストピースによる予備試験では,Ca(OH)2を5%添加することにより再加熱収縮率を2%以下に抑え、50%以上の高い脱硫率を示した。実証試験では,混合方法の改善により石灰5%と消石灰1.5%添加の配合割合でれんが形状に押出し成形することができ,950℃で焼成することで再加熱収縮率を2%以下に抑えることができた。また焼成後のれんが中の残留硫黄分から,この配合割合における排煙中の脱硫率は36.3%であると推定された。
キーワード: 耐火断熱れんが,珪藻土,再加熱収縮率,亜硫酸ガス,硬石膏

Quality Improvement of Insulating Fire Bricks and Development of Production Technology with Low Environmental Impact

Naoya SASAKI, Takeshi TOYODA, Kazuichi KITAGAWA and Hiroyuki TABATA

In order to stabilize the quality of diatom bricks and decrease the concentration of SO2 gas emitted during sintering, we added various sources of calcium to the raw materials. Sintering by the addition of calcium hydroxide (Ca(OH)2) caused anhydrite (CaSO4) to crystallize. The addition of 5% calcium hydroxide decreased after-contraction to less than 2% and resulted in a high desulfurization rate of more than 50%. In the production line, extrusion molding was made possible through improvement of the mixing method with the addition of 5% calcium carbonate (CaCO3) and 1.5% calcium hydroxide. This composition decreased after-contraction to less than 2% after sintering at 950℃. Based on the amount of sulfur remaining in the bricks of the composition after sintering, the desulfurization rate was estimated to be 36.3%.
Keywords : insulating fire bricks, diatom, after-contraction, sulfur dioxide gas, anhydrite

1.緒  言
 耐火断熱れんがは,軽量で熱伝導率が低く,900〜1500℃と広範囲に亘る炉壁の断熱材として鉄鋼関連やガラス溶解炉など様々な分野で利用されている。材質は,耐熱温度により粘土質や高アルミナ質,また,耐スポーリング性に優れたコーディエライト質などがある。その中で900〜1000℃域の低温用耐火断熱れんがには能登珪藻土が利用され,「珪藻土れんが」として古くからその地位を築いてきた。産地の七尾市,珠洲市では,この珪藻土れんがが主要産業の一つであるが,業界の課題として珪藻土原土の品質差による1000℃域のれんがの再加熱収縮率(JIS R 2613-1998では残存線変化率という)のバラツキや,焼成時に発生する亜硫酸ガスなどの煙による住民苦情があった。
 本研究では珪藻土にカルシウム源を添加し,珪藻土に含まれている硫黄分と反応させることで,れんが中に硬石膏(CaSO4)を析出させ,再加熱収縮率を2%以下に抑えると同時に,排煙中の亜硫酸ガス濃度を50%以上削減させる新たな製造技術の確立を目標とした。まず,テストピースによる予備試験から各種カルシウム源と硫黄の反応機構を明らかにするとともに,目標を満たすカルシウム源とその添加量を算出した。また,予備試験結果に基づき,製造ラインによる実証試験を行った結果について報告する。

2.テストピースによる予備試験
2.1 実験方法
2.1.1 テストピースの作製
 カルシウム源には,Ca(OH)2およびCaCO3(和光純薬工業(株)製 特級試薬)を用い,500mmのふるい目を通した七尾産の珪藻土乾燥粉末100gに対しそれぞれ5,10,20gずつ添加した。これらの試料とおが屑80mLを混合機により水分50%で混合後,ハンドプレス成形機(ENERPAC製 WPM-20)によりθ50mmの円柱状に成形することでテストピースを作製した。

2.1.2 熱分析と結晶の評価
 前述と同様の割合で珪藻土粉末とカルシウム源を乳鉢で混合した試料を用い以下の測定を行った。焼成過程における重量減少と反応解析は,示差熱分析装置((株)リガク製 TG8120)を用い,10℃/minで1000℃まで加熱し測定を行った。焼成過程における収縮挙動は,熱機械分析装置((株)リガク製 TMA8310)を用い,試料を5×5×20mmにプレス成形後,10℃/minで1000℃まで加熱し,2h保持した状態で測定を行った。1000℃焼成後の結晶相同定は,X線回折装置((株)マックサイエンス製 SRAM18XHF)を用いて行った。

2.1.3 かさ比重と再加熱収縮率の評価
 2.1.1項で作製したテストピースを電気炉(日陶科学(株)製 STV-10M-W)にて100℃/hで昇温し,おが屑燃焼のため500℃で2h保持後,1000℃まで上昇させ焼成した。かさ比重は,焼成後のテストピースの重量と体積から算出した。再加熱収縮率は焼成後のテストピースを電気炉((株)モトヤマ製 ST2035D)にて1000℃,12h保持の条件で加熱後,径の寸法変化から算出した。1000℃焼成後の硬石膏の分布状態は,プレス成形した試料をAu蒸着し,電子線マイクロアナライザー(日本電子(株)製 JXA-8100)を用いて,CaとSの2次元マッピング分析を行った。

2.1.4 亜硫酸ガスの測定と脱硫率の評価
 2.1.2項で調整した試料を0.2g秤量後,焼成ボードに載せ,管状炉にて10℃/minで1000℃まで加熱し,ポータブルガス分析計((株)堀場製作所製 PG250A)により発生した亜硫酸ガス濃度を測定した。脱硫率は,それぞれ焼成中に発生した亜硫酸ガス濃度を積算し,無添加試料との比較により算出した。

2.2 結果と考察
2.2.1 カルシウム源と硫黄の反応解析
 図1にCa(OH)2とCaCO3をカルシウム源として珪藻土に添加したときの示差熱分析結果を示す。Ca(OH)2添加では,450℃付近で吸熱反応を示し,CaCO3添加では750℃付近で吸熱反応を示している。これは,それぞれCa(OH)2とCaCO3の分解に伴う吸熱反応であると考えられる。また,450℃付近の発熱反応は,カルシウム源を添加しない試料にも認められることから石英の相転移によるものと考えられる。図2にカルシウム源添加による1000℃焼成後のX線回折パターンを示す。カルシウム源を添加することで硬石膏(CaSO4)が析出するが,Ca(OH)2添加では添加量とともに硬石膏の最強線(020)の強度が強くなるのに対し,CaCO3添加では変化していない。また,カルシウム源を20%添加すると硬石膏以外に珪灰石(CaSiO3)やラルナイト(Ca2SiO4)が析出することから,この添加量ではカルシウム成分が過剰となっていると考えられる。

(図1 カルシウム源の添加量による示差熱分析結果 (a)Ca(OH)2,(b)CaCO3)
(図2 カルシウム源の添加量によるX線回折パターン (a)Ca(OH)2,(b)CaCO3)

2.2.2 かさ比重と再加熱収縮率
 図3にカルシウム源添加量によるかさ比重と再加熱収縮率の変化を,図4に焼成収縮曲線を示す。図3(a)に示すかさ比重は,どちらの添加剤とも添加量に対して0.7付近で変化していない。過去に実施した能登珪藻土の研究1)では,CaCO3を添加した場合,800〜850℃で分解に伴う気孔が増加することから,かさ比重が最低値を示し,その後900℃までは焼成収縮とともに気孔が小さくなり,かさ比重が上昇するという報告がある。本研究においても,カルシウム源添加による硬石膏などの析出量増加と焼成収縮により,かさ比重が増加傾向を示すと予測された。しかし図4(a),(b)に示すように,カルシウム源の添加量とともに1000℃での焼成収縮率が抑えられていることから,おが屑の燃焼等で生じた気孔が保持され,かさ比重が変化しなかったと考えられる。また,図3(b)に示す再加熱収縮率は,どちらの添加剤とも5%以上添加することで目標である2%以下になっている。これは,図5に示すCaとSの2次元マッピング分析結果より,大きさ約50μmの硬石膏の粒子が析出し骨材となることで再加熱収縮率が抑えられたと推測される。再加熱収縮率に寄与する硬石膏の析出量は,Ca(OH)2添加とCaCO3添加とで再加熱収縮率に違いが認められないことから,析出量の少ないCaCO3添加でも十分効果があるといえる。

(図3 カルシウム源の添加量による各物性値の変化 (a)かさ比重,(b)再加熱収縮率)
(図4 カルシウム源の添加量による焼成収縮曲線 (a)Ca(OH)2,(b)CaCO3)
(図5 カルシウム源20%添加によるCa,Sの2次元マッピング分析結果 (a)Ca : Ca(OH)2添加,(b)S : Ca(OH)2添加,(c)Ca : CaCO3添加,(d)S : CaCO3添加)

2.2.3 亜硫酸ガス濃度と脱硫率
 図6にカルシウム源添加量による亜硫酸ガス濃度の変化を示す。亜硫酸ガスは,450〜500℃付近で一番多く発生し,Ca(OH)2添加では添加量とともに亜硫酸ガス濃度が低くなるが,CaCO3添加では添加量に対し亜硫酸ガス濃度が変化していない。図7にカルシウム源添加量による脱硫率の変化を示す。Ca(OH)2添加では添加量とともに脱硫率が高くなり,5%以上の添加で目標の50%以上になる。CaCO3添加では,脱硫率が約20%とCa(OH)2添加より低く,添加量を増やしても変化しない。これは,前述の反応解析から450℃付近で分解するCa(OH)2の方が,750℃付近で分解するCaCO3より硫黄との反応性が高いため,硬石膏が多く析出し脱硫率が高かったと考えられる。
 以上のテストピースによる予備試験の結果から,Ca(OH)2を5%添加することで,目標とする再加熱収縮率を2%以下に抑え,亜硫酸ガスの発生を50%以上削減することができた。

(図6 カルシウム源の添加量による亜硫酸ガス濃度の変化 (a)Ca(OH)2,(b)CaCO3)
(図7 カルシウム源の添加量による脱硫率の変化)

3.実証試験
3.1 試験方法
 実証試験で使用したカルシウム源は,水酸化カルシウムとして工業用の消石灰(上田石灰製造(株)製 特号),炭酸カルシウムとして石灰(近江鉱業(株)製)または炭酸苦土石灰(上田石灰製造(株)製)を用いた。テストピースによる予備試験の結果から,カルシウム源の添加量を5%とし既存の製造ラインにミニホッパーを設置して試作を行った。成形体を乾燥後電気炉(日陶科学(株)製 STV-10M-W)にて50℃/hで昇温し,おが屑燃焼のため500℃で4h保持後,所望の温度で焼成した。焼結体をれんが形状に削り出し,JIS R 2614とJIS R 2613に準拠し,かさ比重と1000℃域のれんがの再加熱収縮率を測定した。また,押出し成形による亀裂発生の有無の確認を行うため,珪藻土粉末5kgに対し,消石灰,石灰をそれぞれ0.25kg添加し,おが屑0.2kgと水3.5Lを加え混合機(日陶科学(株)製 T-20)により混合後,土練機(日陶科学(株)製 VM-1S)にて押出し成形を行った。珪藻土原土と焼成後のれんが中に残留した硫黄分は,炭素・硫黄分析装置((株)堀場製作所製 EMIA-920V)により測定を行い,その値から排煙中の脱硫率を推定した。

3.2 結果と考察
3.2.1 押出し成形について
 テストピースによる予備試験の結果から,消石灰の添加量を5%とし,製造ラインを使用して試作を行った。図8に製造ラインでの押出し成形の様子を示す。消石灰を5%添加した場合は,押出し成形時に亀裂が生じたため,添加量を徐々に減らした結果,1.5%以下で亀裂が生じなくなった。また,石灰を2.5%添加した場合は,押出し成形時に発泡現象による亀裂が生じた。苦土石灰を2.5%添加した場合も同様の現象が起こった。これは,珪藻土原土が酸性(pH3-4)を示すため,押出し成形時に石灰と反応し炭酸ガスが発生したことによるものと考えられる。そこで,小規模の試作試験として混合機により珪藻土とカルシウム源を十分に混合後,土練機による押出し成形を行った。図9に示すように消石灰5%添加では,製造ラインによる試験同様,押出し成形時に亀裂を生じたが,石灰5%添加では製造ラインでの試験のような発泡現象は起きず,押出し成形が可能となった。この結果から反応を事前に促進させるため,珪藻土粉砕前に石灰と混合して一晩放置後,製造ラインによる試験を行った。その結果,発泡現象を抑えることができ,石灰5%と消石灰1.5%添加による押出し成形が可能となった。

(図8 カルシウム源の添加による製造ラインでの押出し成形時の様子 (a)消石灰5%,(b)石灰2.5%)
(図9 カルシウム源の添加による土練機での押出し成形時の様子 (a)消石灰5%,(b)石灰5%)

3.2.2 試作れんがの物性について
 図10に石灰5%と消石灰1.5%添加で試作したれんがの焼成温度によるかさ比重と再加熱収縮率の変化を示す。かさ比重は,焼成温度とともに増加し,カルシウム源を添加することで0.1程度増加している。これは,硬石膏の析出に伴う比重の増加が顕著に現われたためと考えられる。そこで,規格(かさ比重0.7以下,かつ再加熱収縮率2%以下)を満たす気孔率となるようにおが屑の添加量を4倍に増加させ,950℃付近で焼成したところ,1000℃域のれんがの規格を満たすことができた。また,表1に示す珪藻土原土と焼成後のれんが中に残留した硫黄分から,この配合割合における排煙中の脱硫率は36.3%であると推定された。これは,図4に示すようにCaCO3を5%添加した場合,約20%の脱硫率があり,Ca(OH)2を1.5%添加した場合,約15%の脱硫率があることから,この配合割合における脱硫率は妥当であると考えられる。図11に,本配合割合で製造ラインを使用して試作したれんがの外観を示す。
 以上の実証試験の結果から,製造ラインでれんが形状に成形するためには,目標である脱硫率50%以上を達成できなかったが,1000℃域のれんがの規格(かさ比重0.7以下,再加熱収縮率2%以下)を満たす配合割合と焼成条件を把握することができた。

(図10 試作れんがの焼成温度による各物性値の変化 (a)かさ比重,(b)再加熱収縮率)
(図11 試作れんがの外観写真 上部:現行品,下部:試作品)
(表1 珪藻土原土と試作れんが中に含まれる硫黄分)

4.結  言
 珪藻土れんがの品質安定化と排煙中の亜硫酸ガス濃度の低減を目的とし,テストピースによる予備試験と製造ラインによる実証試験を行った結果を以下に示す。
・テストピースによる予備試験を行った結果
(1) 亜硫酸ガスは450〜500℃で一番多く発生するため,450℃付近で分解するCa(OH)2の方が,750℃付近で分解するCaCO3より反応性が高く,脱硫に効果が大きかったと考えられる。
(2) カルシウム源を添加することにより,大きさ約50μmの硬石膏の粒子が析出し骨材となることで1000℃での収縮が収まり,再加熱収縮率を2%以下に抑えることができたと考えられる。
(3) Ca(OH)2を5%添加することにより亜硫酸ガスの発生を50%以上削減させ,再加熱収縮率を2%以下に抑えることができた。
・製造ラインによる実証試験を行った結果
(4) 製造ラインによる押出し成形時に,消石灰5%添加では亀裂が生じ,石灰2.5%添加では発泡現象による亀裂が生じた。
(5) 石灰を珪藻土粉砕前に混合して一晩放置することで発泡現象を抑えることができ,石灰5%と消石灰1.5%添加の配合割合でれんが形状に成形できた。
(6) おが屑の添加量を調整し,上記の配合割合で成形したれんがを950℃で焼成することにより,1000℃域のれんがの規格(かさ比重0.7以下,再加熱収縮率2%以下)を満たすことができた。
(7) 焼成後のれんが中の残留硫黄分から,上記の配合割合における脱硫率は36.3%であると推定された。

謝  辞
 本研究を遂行するにあたり,実用化試験として原材料や設備の提供,製造ラインによる試作にご協力頂いた冨士断熱工業(株),丸越工業(株),太成工業(株)の皆様に感謝します。

参考文献
1) 石川県珪藻土利用研究会基礎部会. 能登珪藻土の基礎研究. 石川県工業試験場. 1966, p. 148