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熱可塑性樹脂複合材料の研究 −コミングル法による繊維複合材料の成形−

■繊維生活部 奥村航 木水貢 長谷部裕之

 熱可塑性樹脂を用いた繊維強化複合材料は成形時間を短縮できるために,注目されている材料であるが,樹脂が強化繊維間に含浸しにくいという技術的課題がある。そこで,本研究ではコミングル法による繊維複合材料の成形について検討した。熱可塑性樹脂であるポリプロピレン(PP),ポリフェニレンサルファイド(PPS)樹脂を繊維化し,各繊維をアラミド繊維とダブルカバリング,エア混繊してコミングル糸を作製した。エア混繊では,フィード率1.0%以上の条件で良好なコミングル糸を得られた。コミングル糸をプレス成形して繊維複合材料を作製し,断面SEM画像から樹脂の含浸性を評価した。PPS/アラミド繊維複合材料では300℃の予備加熱と200℃のプレス成形で含浸性が良好になることが確かめられた。
キーワード: 繊維強化複合材料,コミングル法,ポリプロピレン,ポリフェニレンサルファイド

Study of Composite Thermoplastic Materials
- Molding of Fibrous Composite Materials by the Commingle Method -

Wataru OKUMURA, Mitsugu KIMIZU and Hiroyuki HASEBE

Recently, fiber-reinforced composite material that uses thermoplastic resin has been the subject of attention, because it can shorten the molding time. However, there is a technical problem: thermoplastic resin cannot easily be soaked in reinforced fibers. In this study, fiber-reinforced composite material was molded by the commingle method. First, polypropylene (PP) fibers and polyphenylene sulfide (PPS) fibers were prepared by melt spinning. Next, the commingled yarns, which consisted of aramid fiber commingled with PP fiber or with the PPS fiber, were prepared using the double covering method or the air composite method. Good-quality commingled yarn was obtained by the air composite method with a feed rate of 1.0% or greater. Fiber-reinforced composite material was prepared by press molding of commingled yarn, and the extent of resin impregnation was estimated by means of a cross-section SEM image. The PPS/aramid fiber reinforced composite material obtained by press molding at 300℃ with preheating at 200℃ was found to have good resin impregnation.
Keywords : fiber-reinforced composite material, commingle method, polypropylene, polyphenylene sulfide

1.緒  言
 繊維強化複合材料とはプラスチックを繊維で強化した材料であり,軽量で高強度・高弾性率という特性から,車輌の軽量化等において鉄代替材料として注目されている。繊維強化複合材料に用いられる樹脂には熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂がある。前者は加熱で硬化する樹脂であり,後者は加熱で軟化し冷却して固まる樹脂である。従来は熱硬化性樹脂が使用されてきたが,近年,成形時間を短縮でき,リサイクルが容易ということから,熱可塑性樹脂を使った繊維強化複合材料の研究開発が盛んに行なわれている1),2)。しかし,一般に熱可塑性樹脂は溶融時の粘度が高く,強化繊維間に含浸しにくいため,繊維と樹脂との間に空隙(ボイド)が多く発生するという技術的課題がある。
 本研究では,繊維間への樹脂の含浸を向上させる方法として,熱可塑性樹脂を繊維化し,この熱可塑性の繊維を強化繊維の間に配置させ,成形時に熱可塑性繊維のみを溶かすことで複合化するコミングル法3)について検討した結果を報告する。

2.内  容
2.1 溶融紡糸による繊維の作製
 マルチフィラメント製造装置及び押出機を用い,ポリプロピレン(日本ポリプロ(株)製 ノバテックPP SA03 以下,PP)樹脂とポリフェニレンサルファイド(ポリプラスチックス(株)製 フォートロン0220C9 以下,PPS)樹脂の繊維化を行った。各樹脂を繊維化するときに使用したノズルと紡糸条件を表1に示す。試作して得られた繊維の繊度はPP繊維が400dtexであり,PPS繊維は270dtexであった。得られた繊維について,熱収縮率測定および示差走査熱量計(エスアイアイ・ナノテクノロジー(株)製 EXSTAR DSC7020)を用いた示差走査熱量測定(DSC測定)を行った。

(表1 PP繊維とPPS繊維の紡糸条件)

2.2 コミングル糸の試作
 熱可塑性繊維として上述のPP繊維,PPS繊維を用い,強化繊維として220dtexのアラミド繊維(東レ・デュポン(株)製 Kevlar)を用いてコミングル糸を試作した。繊維のコミングル糸の作製方法として,ダブルカバリングとエア混繊を検討した。
 ダブルカバリング法では電子制御ダブルカバリング装置(片岡機械工業(株)製 SCM-D型)を用い,撚り数500T/m,スピンドル回転数4000rpmとし,180℃の非接触式ヒータを通過させることで撚り留めして試料を作製した。熱可塑性繊維と強化繊維の割合は,PP繊維の場合は4:1,PPS繊維の場合は2:1とした。
 エア混繊法ではエアジェット式コンポジットワインダ(中越機械(株)製 MT-CW型)を用い,撚り数60T/m,糸速度50m/minとして,空気圧0.8MPaのエアジェットノズルを通し,フィード率を0〜2%に変化させて試料を作製した。熱可塑性繊維と強化繊維の割合は,PP繊維,PPS繊維共に2:1とした。

2.3 プレス成形による繊維複合材料の試作
 上述のコミングル糸を図1のようにステンレス板に巻きつけ,ステンレス板ごとホットプレス成形することにより繊維強化複合材料を試作した。ステンレス板は150mm角,厚さ約1mmであり,繊維を巻きつける前に予め離型剤を塗布した後,30mm幅で76本になるように巻き付けた。成形はプレス機(アプライドパワージャパン(株)製 HPD-10-200)を用いた。プレス条件はPP繊維を成形する場合は160℃,PPS繊維の場合は200℃の平板金型を用い,39kN,30secの予備圧力を加えた後,80kNの圧力を加え,直ちにヒータの温度を切り,90℃まで徐冷した後,試料を取り出した。さらに,予備加熱の影響を明らかにするため,PP繊維を用いた場合は,180℃,6min,PPS繊維を用いた場合は,300℃,10minの予備加熱を加えた後,上述の条件でプレス成形を行い,比較検討した。得られた繊維複合材料について,外観評価及び走査電子顕微鏡((株)日立製 S-3000N)による断面観察を行った。

(図1 ステンレス板に巻きつけたコミングル糸)

3.結果と考察
3.1 繊維の熱物性
 図2に試作したPP繊維及びPPS繊維のDSC曲線を示す。このDSC曲線から融点,結晶化度をそれぞれ評価した。その結果を熱収縮率と共に表2に示す。
 表2より,PPおよびPPS繊維の結晶化度はそれぞれ42%,1.2%であった。コミングル法では,熱可塑性繊維をプレス成形時に溶融させるので,溶融しやすいように結晶化度が低い方が望ましい。市販されているPP繊維の結晶化度は45〜50%程度、PPS繊維の結晶化度は20〜30%程度であり,本研究では,比較的結晶化度の低い繊維が得られた。
 熱収縮率はPP繊維では-6.7%,PPS繊維では10.3%となった。プレス時に熱可塑性繊維が強化繊維より大きく収縮すると,強化繊維が座屈する力を受けるため,強化繊維の配列が乱れ,複合材料の物性が低下する可能性がある。したがって,熱可塑性繊維の熱収縮率は強化繊維と同等かそれ以下であることが望ましい。本研究で試作したPP繊維は,熱を加えると伸長した。この場合,強化繊維は繊維軸方向へ引っ張りの力を受けるので,繊維の配列に影響は少ないと考えられる。一方,試作したPPS繊維は熱収縮率が10.3%あり,アラミド繊維の熱収縮率0.6%に対して大きな値になった。市販されているPPS繊維の熱収縮率は4〜6%であり4),試作した繊維も延伸・熱処理を行えばこの程度の熱収縮率に抑えられる可能性があるが,結晶化度が大きくなり,繊維が溶融しにくくなる。本研究で用いたプレス成形機の最高加熱温度は200℃であり,溶融しやすさを優先し,延伸・熱処理を行わなかった。

(図2 試作したPP繊維とPPS繊維のDSC曲線)
(表2 試作したPP繊維とPPS繊維の熱分析結果)

3.2 コミングル糸の評価
 本研究ではコミングル糸を作製する方法として,ダブルカバリングとエア混繊について検討した。ダブルカバリングは,アラミド繊維を芯糸に,熱可塑性繊維を鞘糸として,芯糸に鞘糸を二本巻きつける手法である。図3に外観写真を示す。この方法のメリットは,芯糸となるアラミド繊維の配列を保持できることであるが,デメリットは,アラミド繊維間に熱可塑性樹脂が配置されないので熱可塑性繊維を溶かした時に含浸不良になる可能性があることである。
 一方,エア混繊はアラミド繊維と熱可塑性繊維をエアノズルに供給し,エアを吹き付けて交絡させる手法である。この手法のメリットは,アラミド繊維間に熱可塑性繊維を配置できるので,熱可塑性繊維を溶かした時の含浸が良好になると考えられることである。しかし,エア混繊時に繊維を緩ませないと交絡が出来ないので,アラミド繊維が若干弛んでしまうという問題がある。そこで,アラミド繊維と熱可塑性繊維が交絡し,かつアラミド繊維が最小の緩みになるように,巻取速度に対する供給速度の比率であるフィード率を検討した。各フィード率でのコミングル糸の外観写真を図4に示す。この結果,フィード率1.0%以上で交絡することがわかった。本研究ではフィード率1.0%でエア混繊したコミングル糸をプレス成形に用いた。

(図3 ダブルカバリングによるコミングル糸)
(図4 エア混繊したコミングル糸(上からフィード率0,0.5,1.0,2.0%))

3.3 PP/アラミド繊維複合材料の評価
 プレス成形で得たPP/アラミド繊維複合材料の外観写真及び断面SEM画像をそれぞれ図5および図6に示す。図5より,PP/アラミド繊維複合材料の場合,すべての試料でフィルム状の成形物が得られたが,予備加熱を加えた試料は,ダブルカバリング,エア混繊いずれも溶融した樹脂の流動性が上がり,鼓状のフィルムになった。これはPPの融点が165℃であるのに対し,予備加熱温度を180℃と高く設定したためであると考えられる。また,図6より断面を観察した結果,予備加熱していない試料については,PPとアラミド繊維の剥離が観察された。PP樹脂は接着力が弱いので,PP樹脂の改質やアラミド繊維の表面処理等,今後は接着力を向上させる必要がある。

(図5 PP/アラミド繊維複合材料の外観写真)
(図6 PP/アラミド繊維複合材料の断面SEM画像)

3.4 PPS/アラミド繊維複合材料の評価
 プレス成形で得たPPS/アラミド繊維複合材料の外観写真及び断面SEM画像をそれぞれ図7および図8に示す。図7に示すように,PPS/アラミドコミングル糸を用いた場合は,予備加熱しないとフィルム状の試料とすることができなかった。これは,予備加熱の有無が原因というより,PPSの融点が280℃であるのに対し,プレス機の上限温度が200℃であり,プレス成形時の温度が足りなかったという装置的な制約が主原因である。また,図8より予備加熱した試料はカバリング,エア混繊いずれの場合もアラミド繊維の中までPPS樹脂が含浸しており,かつPP樹脂の時のようにアラミド繊維との剥離は認められなかった。

(図7 PPS/アラミド繊維複合材料の外観写真)
(図8 PPS/アラミド繊維複合材料の外観写真)

4.結  言
 コミングル法によるPP/アラミド,PPS/アラミド繊維複合材料の成形性を検討した結果,次の知見を得た。
(1) PP,PPSを低巻取り速度で紡糸することにより,低結晶化度の繊維を得ることができた。
(2) エア混繊でコミングル糸を作製するには,フィード率を1.0%以上にすることが望ましい。
(3) PP/アラミド繊維複合材料はPPとアラミド繊維との接着性を改善する必要がある。
(4) PPS/アラミド繊維複合材料はコミングル法により含浸性の優れた試料を作製することができた。

参考文献
1) 高橋淳ほか. "平成19年度熱可塑性樹脂複合材料の機械工業分野への適用に関する調査報告書". 素形材センター. http://www.sokeizai.or.jp/japanese/rimcof
/images/nikkiren-19.pdf, (参照 2011-06-20).
2) 高橋淳ほか. "平成20年度熱可塑性樹脂複合材料の航空機分野への適用に関する調査報告書". 素形材センター. http://www.sokeizai.or.jp/japanese/rimcof/images
/nikkiren-20.pdf, (参照 2011-06-20).
3) 濱田泰以ほか. Commingled Yarnを用いた熱可塑性複合材料の成形. 成形加工. 1991, vol. 3, no. 2, p. 157-164.
4) 林清秀. PPS繊維. 繊維学会誌. 1991, vol. 47, no. 6, p. 316-318.