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繊維製品開発のための品質評価手法の検討 −連続糸径むら測定装置を用いた品質評価マニュアルの作成−

■繊維生活部 吉村治 土定育英 守田啓輔 神谷淳 奥村航 土田みゆき 松原真弓
■企画指導部 森大介

 これまで以上に迅速かつ確実に高品質な繊維製品の開発を支援するため,連続糸径むら測定装置を用いて糸や織編物等の繊維製品の糸むらを測定し,染色性,強伸度との相関性を調査して,品質評価手法の検討を行った。試作した糸およびその織編物,石川県内で製造・流通している糸およびその織編物について,それぞれの糸むら,強伸度むらを測定・解析したところ,伸度の変動率(CV%)と相関性が高いことがわかった。これらの結果をもとに,新たな繊維製品の品質評価手法の普及のためのマニュアルを作成した。
キーワード: 糸,織物,糸むら,連続糸径むら測定装置

Consideration of the Quality Evaluation Technique for the Development of Textiles
- Preparation of a Manual for Quality Evaluation using the Yarn Inspection System -

Osamu YOSHIMURA, Daisuke MORI, Ikuei DONJOU, Keisuke MORITA, Jun KAMITANI, Wataru OKUMURA, Miyuki TSUCHIDA and Mayumi MATSUBARA

In order to develop high-quality textile products more rapidly and with more certainty than ever before, we investigated a method of quality evaluation. This involved measuring yarn unevenness of textile products such as thread and textile and knitted fabrics using equipment for measuring variations in yarn evenness, and studying dyeing affinity, tensile strength and extension. We measured and analyzed the yarn unevenness and tensile strength and extension of yarn, textile fabrics and knitting fabrics that were prepared in our laboratory, and distributed or produced in Ishikawa prefecture, and found a high correlation between yarn evenness variation and coefficient of variation (CV%) with regard to elongation. Based on these results, we made a manual for the purpose of disseminating a new method of evaluating the quality of textile products.
Keywords : yarn, textile, yarn evenness variation, yarn inspection system

1.緒  言
 繊維製品の生産は,まず,糸種,糸の太さ,撚数,織物組織等を設計し,これをもとに糸加工,整径,製織,染色等多数の工程を経て行われている。これらの生産工程おいて,原糸や加工糸に太さ(径)のばらつき(以後,糸むらと称する)が存在すると,最終工程である染色加工後にはじめて染むらや形態不良といった欠点が顕在化する。このように,糸むらは織編物における欠点発生の大きな因子であるため,規模の大きな紡糸・糸加工・織編物製造企業では,糸むらを連続的に測定・監視できる「連続糸径むら測定装置」を設置して糸の品質管理を徹底している。
 北陸地域の多くの中小規模の企業は,これまで原糸メーカーの品質管理に依存してきたが,近年は安価な輸入原糸を使うことが多くなり,さらに新しい糸素材の開発が盛になってきていることから,中小企業が自ら糸の品質を確認する必要性が高まっている。さらに,北陸地域では非衣料である複合材料分野やジオテキスタイル分野において,今後需要の増加が期待されているアラミド繊維や高強度ポリエステル等の高強度繊維に関する糸の基礎データと織編のノウハウが不足しているという課題がある。
 そこで,繊維産地に対して,これまで以上に迅速かつ確実に高品質な新商品の開発を支援する体制を構築するため,地域イノベーション創出共同体形成事業研究開発環境支援事業(経済産業省,中部科学技術センター主管)により,連続糸径むら測定装置を新規に導入した。この装置と既設の「糸から染色までの一貫した製品試作開発用設備(紡糸機,糸加工機,織機,染色機等)」,および評価設備を活用することにより,繊維製品の品質評価手法を検討した。さらに,この検討結果をもとに繊維製品の品質評価マニュアルを作成したので報告する。

2.実験方法
2.1 品質評価手法の検討方法
 本研究では,「糸むら」を測定することで,最終の繊維製品において欠点となる「強伸度むら」,「染色むら」等を予想する方法の確立を目指した。そこで,図1に示すように織編物の試作開発による検討と,繊維素材・製品の調査とデータ収集による検討を行った。

2.2 織編物の試作開発による評価手法
 工業試験場モノづくり支援センターの試作開発設備を用いて,紡糸から織編,染色を行い,各々の工程で糸むら,強伸度むら,染色むらを測定し,糸むらと染色性や強伸度1),2)の相関を調べた(図1[1])。

2.2.1 紡糸方法
 表1に溶融紡糸および延伸条件を示す。原料にポリエチレンテレフタレート(以後,ポリエステルと称する)を用い,8フィラメントの糸を溶融紡糸機(ユニプラス(株)製 UM-2002R)によって巻き取り速度や延伸条件を変えて試作した。ここで,糸むら測定時に繊度の影響をなくすため,試作した糸の繊度が同一になるように延伸機により条件設定した。

(表1 溶融紡糸および延伸条件)

2.2.2 糸の染色と評価方法
 糸染めでは染色性が評価しにくいため,前項で試作した糸を筒編み機(ローヘン・フェンフィル製 FAK3 1/2)を用いて筒編みした後,小型染色システム(小塚エンジニアリング(株)製 染太郎K-8NDC)により,分散染料(ホロンネイビー製 S-2GRL)で,130℃,30分染色した。染色評価については,デジタルマイクロスコープ((株)キーエンス製 VXX-900)による表面観察を行った。

2.3 繊維素材・製品の調査とデータ収集
 図1[2]のように県内の市場で流通している原糸(仮撚糸)20サンプルとそれを用いた織物15サンプルを入手して,原糸の糸むらや強度と,布の染色むら等の相関性を調査した。なお,入手した糸はパーンに巻かれた状態で購入したため,各糸ともパーンの外層,中層,内層,それぞれ3箇所について,糸むら(50m×5回),強伸度(10回)を測定した。織物については,各一疋約50mずつ購入し,強伸度は5m毎に経,緯各3回(1試料あたり合計60サンプル)測定した。

(図1 品質評価手法の構築方法)

3.結果の考察
3.1 織編物の試作開発による評価
 紡糸した9種類の糸について,繊度,強伸度,糸むらの測定結果を表2に示す。また,図2に延伸倍率と糸むら(U%)の結果を示す。未延伸糸はU%が低いが,延伸倍率2倍で糸むらが急増し,その後,延伸倍率が増加するに従いU%が減少する傾向がある。また,70℃よりも80℃で延伸した方がU%は低くなっている。これは,ポリエステルのガラス転移温度が70℃近辺であり,十分な加熱がされていない状態で延伸すると,延伸する部分とされない部分が発生しやすく,糸むらが大きくなり,かつ,この傾向は延伸されない部分が多くなる低延伸倍率で顕著となったと考えられる。また,糸むらと強伸度の関係については,延伸倍率が変化すると強度および伸度は変わるため,強度や伸度のバラツキ具合を示す変動率(CV%)と糸むらの相関関係を検討した。その結果,強度のCV%とは相関性が低く,伸度のCV%と相関性が高いことがわかった。したがって,欠点解析時に強伸度試験を行い,伸度のCV%が大きかった場合,糸むらも大きいことが疑われるので,その場合は糸むら試験を行うことにより,より確実な品質評価を行えることがわかった。

(図2 延伸倍率と糸むら(U%))
(表2 紡糸した糸の繊度,強伸度および糸むら測定結果)

3.2 染色による評価
 表2の試料2を筒編した後,染色した生地を表面撮影した結果を図3に示す。明らかに太いフィラメントが濃色に染色され,反対に細いフィラメントは淡色になっていることがわかった。これは延伸されている部分は細く,延伸されていない部分は太くなる箇所が混在することが原因である。一般に,延伸されると結晶化度が増加するため,染料が入りにくくなって淡色に染まるのに対し,延伸されていない部分は結晶化度が低いため,染料が入りやすくなって濃色に染まると考えられる。したがって,糸むら測定によって大きな値が出た場合,染色しなくても,まだら模様の欠点が発生する可能性が高いと推測できた。

(図3 染色した筒編み生地の拡大写真)

3.3 繊維素材・製品の調査
 県内の市場で流通している原糸とそれを用いた織物サンプルの強伸度の平均値と変動率(CV%),および糸むらの測定結果を合わせて表3に示す。ここで,糸むらに関してはパーンの外・中・内層における結果を示す。ほとんどの糸で,外・中・内層で糸むらが異なり,外層よりも内層の糸むらが小さい傾向が見られた。全体として,糸むらが大きくなると強度および伸度のCV%も大きくなった。また,糸むらのCV%と強伸度のCV%との関係を考察したが,糸むらと強度との相関性はあまり高くなかった。一方,糸むらと伸度とは紡糸した糸の結果と同様,図4に示すように相関性が高い傾向が認められた。織物に関しては,糸と同様に糸むらが強伸度むらの原因となっていることが示唆された。

(図4 糸むら変動率と伸度変動率)
(表3 糸サンプルの糸むらと強伸度の測定結果)

 3.4 品質評価マニュアル
 紡糸した糸を含めて糸29種類,織編物24種類に関するデータを詳細に検討し,繊維製品の品質評価のためのマニュアルを作成し,工業試験場のウェブページ上に掲載した3)。このマニュアル作成に当たっては,繊維製品には,糸,織編物等があるため,その形状に分けて品質評価手法を提案した(図5)。しかしサンプルの母集団が少なかったため,現在,工業試験場の業務を通して得た繊維製品のデータを追加し,マニュアルの精度を向上させている。特に,糸の径(太さ)が,品質評価マニュアルにおける糸むらの変動率(CV%)の境界値(2および0.4)に影響を及ぼすことが懸念されるため,さらに糸径が異なる繊維製品等のデータを取得しながら,マニュアルの完成度を上げていきたいと考えている。
 作成した品質評価マニュアルは,繊維企業の欠点解析の迅速化,競争力,生産性の向上に対して効果を発揮するだけでなく,モノづくり技術の高度化を支援することが可能であり,中小企業の新分野進出,自立化にも寄与できるものと期待している。現在,講習会や交流会等を通してマニュアルの積極的な普及・啓発に努めている。具体的には,22年度の実績として,講演等の広報活動が9件,機器利用回数が300件,マニュアル配布数が153部(138社)であった。

(図5 品質マニュアル(抜粋))

4.結  言
 連続糸径むら測定装置を用いて糸,織編物等の繊維製品の糸むらを測定し,強伸度との相関性を調査した。これらの結果をもとに,品質評価マニュアルの作成を検討したので,以下に結果を示す。
(1) 工業試験場モノづくり支援センター設備で試作した9種類の糸およびその織編物の糸むら,強伸度むらの相関性を調査した結果,伸度の変動率(CV%)と相関性が高いことがわかった。
(2) 石川県内で製造・流通している20種類の糸や15種類の織編物については,パーンの外・中・内層で糸むらが異なり,外層よりも内層の糸むらが小さい傾向があった。また,同様に糸むらと伸度のCV%との相関性が高いことがわかった。
(3) 糸29種類,織物20種類に関するデータを詳細に検討し,繊維製品の品質評価のためのマニュアルを作成し,工業試験場のウェブページ上に掲載した。
(4) 糸むらと強伸度のCV%に具体的な一定の境界値を設けることで,糸や織編物等の形状が異なる繊維製品の品質評価を行えることを示唆した。

謝  辞
 本研究は,「平成21年度地域イノベーション創出共同体形成事業研究開発環境支援事業」で富山県工業技術センター生活工学研究所と実施した共同研究において石川県工業試験場が担当した内容です。

参考文献
1) JIS L 1013:2010. 化学繊維フィラメント糸試験方法.
2) JIS L 1096:2010. 一般織物試験方法.
3) 石川県工業試験場繊維生活部, 富山県工業技術センター生活工学研究所. "高付加価値繊維製品開発のための品質・機能性評価マニュアル". 石川県工業試験場. http://www.irii.jp/faci/detail/pdf/tex_15hmanual.pdf, (参照 2011-03-31).