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制御盤自動配線装置のための部品位置検出機能 −ハーネス配線と結線機能への画像処理技術の応用−
■電子情報部 笠原竹博 上田芳弘 米沢裕司
■ライオンパワー(株) 池田智宏 北森英明 東出賢裕 和佐田進
制御盤は多様な装置に使用されているが,その製造方法は人手によって行われているため,製造工程の自動化が課題となっている。そこで,制御盤製造におけるハーネス結線と配線工程を自動化する制御盤自動配線装置の開発を行った。画像処理技術を用いて,この開発において必要とされた電気部品の位置検出機能を実装した。具体的には,主にエッジ抽出と,テンプレートマッチングを用いて,ハーネスを挿通するダクト穴位置と,ハーネスを結線する電気部品のネジ位置を検出できるようにした。開発した各機能について,機械的な要請から目標精度を設定し,それぞれの検出精度を評価した。
キーワード: エッジ抽出,テンプレートマッチング,位置検出,制御盤,配線装置
Development of the Function of Wiring Tools for Detecting the Locations of Electric Parts
- Application of the Image Processing Technique to Harness Wiring-
Takehiro KASAHARA, Yoshihiro UEDA, Yuji YONEZAWA, Tomohiro IKEDA, Hideaki KITAMORI, Masahiro HIGASHIDE and Susumu WASADA
Control boards are used in various machines, however, because their manufacturing process depends on manual work, automation is needed. Therefore, an automatic wiring tool was developed for control board assembly, especially for harness wiring and the connecting process. The tool has the function of detecting the locations of electric parts according to an image processing technique. Detection of the locations of the duct hole and the screws is made possible by means of edge extraction and template matching respectively. An acceptable accuracy was set for each function based on the mechanical requirements of the component, and the accuracies of the functions were evaluated.
Keywords : edge extraction, template matching, location detection, control board, wiring tool
1.緒 言
工作機械や医療機器などの機械装置には図1(a)のような制御盤が使用されており,多種多様な機械装置の制御を行っている。制御盤内部は,図1(b)のようなリレーやブレーカーなどの電気部品,電気部品を接続するハーネス,および図1(c)のような多数のハーネスを収容するダクトなどが設置されている。このような制御盤の製造工程は,(1)電気設計,(2)電気部品とダクトの設置,(3)ハーネス加工,(4)ダクト内へのハーネス配線およびダクト穴へのハーネス挿通(図1(d)),(5)ネジ締め等による電気部品とハーネスの結線(図1(e),(f)),(6)結線検査の順序で行われている。このうち,設計とハーネス加工の自動化は進んでいるが,ハーネスの結線および配線工程の自動化は達成されておらず,人手作業で行われている。今後,制御盤は外国メーカとの価格競争が厳しくなるものと予想されるため,製造工程のさらなる自動化が急務となっている。そこで,(4)〜(6)の工程であるハーネス結線,配線,及び検査を自動化する制御盤自動配線装置の開発を行った1)。
この装置開発において,2種の部品位置検出機能が必要とされ,画像処理技術を用いてダクト穴位置検出機能とネジ位置検出機能の開発を行った。ダクト穴位置検出はエッジ抽出などを組み合せることで,またネジ位置検出はテンプレートマッチング(以下,TM)を用いて実現し,それぞれの検出精度を評価した。
(図1 制御盤の概要 (a)制御盤外観,(b)制御盤内部,(c)配線用ダクト,(d)ダクトへの挿通,(e)電気部品,(f)ハーネス結線)
2.制御盤自動配線装置
開発した制御盤自動配線装置(以下,装置)は,図2(a),(b)のようにX軸ステージ上にY軸ステージを取り付けたXY軸ステージとこれに取り付けたネジ締め用ユニット2台と配線用ユニット2台からなる。ネジ締め用ユニットの先端には,ドライバーとハーネス把持機構,ならびに図2(c)のようにLED照明付きCCDカメラを装着した。
XY軸ステージと4台のユニットの位置を制御することで,図2(d)のようにハーネスをコの字形にしてダクト内に配線し,ダクト穴に挿通した後,電気部品にドライバーでネジ締め結線を行う。なお,制御盤は電気部品などがあらかじめ取り付けられた状態で,XY軸ステージより低い位置にある架台に設置される。また,対象とした制御盤の全体サイズは500×350mm〜1800×900mmで,ダクトの断面サイズは幅100mm,高さ100mmのタイプを使用し,リレーなど8種110個程度の電気部品を配置するものとして設計,試作した。
このようなハーネスの自動配線のためには,あらかじめダクト穴と電気部品のネジ位置を検出する必要が ある。そのため,ネジ締めユニット先端のCCDカメラにより制御盤内を撮像して位置検出を行う。
(図2 制御盤自動配線装置の概要 (a)装置外観,(b)装置構成,(c)LED照明付きCCDカメラ,(d)配線機能の概要)
3.位置検出機能
3.1 ダクト穴位置検出
図1(b),(c)のように配線されたハーネスを収容するダクトには,側面に幅20mmのダクト穴と呼ばれる開口部がある。ダクトの切断加工は配線長に合わせて手作業で行うため,ダクト穴の横方向の位置は決まっておらず,配線前にハーネスを挿通するダクト穴位置を検出する必要がある。検出の目標精度は,穴通しの際のハーネスとダクト穴端との接触によるハーネス損傷を防ぐため,ハーネス径や変形特性を考慮して±1.00mmとした。
ここで,図3(a)のようにダクト穴に対して開口部でない樹脂面をダクト壁と呼び,ダクト穴の間隔をダク ト穴ピッチと呼ぶ。ダクト穴位置検出では,本装置のハンドと電気部品の干渉を避けるために電気部品の最大高さを考慮して図3(b)に示すようにダクト壁に対して45°の角度から,200mmの距離でダクトを撮像することとした。このような条件で得られた画像からダクト穴位置検出のため,以下の手法を考案した。
(1)エッジ抽出・収縮処理・粒子解析
撮像した画像(図3(c))に対してエッジ抽出を行い2値化した後,エッジの膨張処理を行う(図3(d))。ダクト穴と壁が映る中央を残して上下左右をマスクした画像の非エッジ部(白色領域)の個数と面積,重心位置を算出した後,微小面積粒子を削除する(図3(e))。ここで,残った粒子はダクト穴あるいはダクト壁であり,かつダクト壁の粒子の方が一般に面積が大きい。
(2)スコア計算
残ったn個の粒子のうち,i番目の粒子の面積をsi,重心のx座標をxiとする。また,ダクト穴ピッチをPpixelとする。ダクト穴とダクト壁は周期的に存在するため,粒子の中で大きな面積を持ち,xiがPpixel程度の間隔で並んだ粒子群が存在するはずである。この粒子群を抽出するため,j番目の重心xjがxiからPの整数倍のmPだけ離れているときは1となり,そこからずれると正規分布で低下する重みWim(xj)を式(1)で与える。ここで,σはPの1/8とし,mはxi+mPが画像の左右を超えない範囲の整数とする。この重みWim(xj)をmが取り得る範囲において全ての粒子面積sjに掛けたものの和をスコアとし式(2)により算出する。このスコアが最大の粒子を含む粒子群はPpixelの周期で存在し,かつ面積が大きい粒子群と推定できるので,ダクト壁に相当するものと考えられる。
(3)ダクト穴位置検出
算出したScoreiが最大となる粒子群のある重心xjを1つのダクト壁の重心とする。また,そのダクト壁からPだけ左右にずれた位置もダクト壁の重心とする。最後に,近接する2つのダクト壁の重心の中点をダクト穴の重心とする(図3(f))。
以上の手法により検出できたダクト穴位置の精度評価を行った。ステージ上(精度20μm)にダクトを固定し,1.00mm のステージ移動量に対するダクト穴位置検出の差分の測定を60回試行した。その結果を図4に示す。なお検出位置の差分とは,ステージ移動量に対する検出位置の差のことをいう。評価結果として,±0.14mm(3σ)を得ることができ,目標精度±1.00mmを達成した。
(図3 ダクト穴位置の検出手法 (a)ダクト穴とダクト壁,(b)撮像条件,(c)入力画像,(d)エッジ膨張処理,(e)マスク画像,(f)検出結果)
(図4 ダクト位置の検出結果)
3.2 ネジ位置検出
電気部品は,制御盤内に固定されたレール上に人手によって設置されるため,特にレール長手方向の位置が事前にわからない。よって,自動でネジ締めを行うためにはネジ位置を正確に検出しなければならない。そこで,TMを用いてネジ位置を検出した。なお,撮像条件は,図3(b)と同様にCCDカメラと電気部品の距離は200mmであるが,方向は真上90°とした。
ネジ穴にドライバー先端を挿入するときの位置ズレの許容範囲を検討するために,ネジとドライバーのJIS規格を調査し,規格化されていないネジ穴の外形は非接触3次元測定機((株)ニコン製 NEXIV VMH300N)を用いて実測した。その結果,許容誤差は±0.39mmであることがわかり,本装置の位置決め精度を考慮して,画像処理によるネジ位置の検出目標精度を±100μmとした。
ネジ位置の検出は,テンプレートと入力画像をマッチングすることで行った。図5のように部品画像からネジ部分の画像を取り出し,円形フィルターを適用した画像をテンプレートとした。
ネジ表面は金属製であるため,外乱光の反射によって位置精度が低下する恐れがある。そこで,波長域が赤色のLED照明とカメラレンズに赤色パスフィルターを用いることで外乱光の影響低減を図った。その効果を評価するため,白色光を外乱光として与えて100回の試行によるネジ位置の検出実験を行った。その結果,図6のように外乱光照度を上げると検出位置のズレ量は大きくなるが,外乱光照度が168lxまでは目標精度を達成できることがわかった。一般に工場内は150lx〜1500lxの環境にあると考えられるが,本装置の外周に赤色カットパネルを施すことで,赤色域の外乱光照度を168lx以下に低減できると考えられる。以上のようにネジ位置検出の精度を評価した結果,168lx以下の外乱光による平均ズレ量は最大83μmで,検出精度(3σ)は±10μmであり,目標精度±100μmを達成した。
なお,ネジ位置検出のために上述のようにTMを用いたが,多種多様なネジに対応するために,テンプレートを必要とせず,一般物体認識が可能なHOG(Histogram of Oriented Gradient)を用いた実装も検討した2)。このHOGによる位置検出精度は,現在のところ目標精度に達することができなかったので,今後その向上を行う。
(図5 テンプレートの作成)
(図6 外乱光照度に対する検出位置ズレ量)
4.結 言
制御盤自動配線装置に必要なダクト穴位置検出機能と,電気部品のネジ位置検出機能の開発を行った結果,以下が実現できた。
(1) エッジ抽出を用いてダクト穴位置検出機能を実現し,目標精度±1.00mmに対して±0.14mmを達成した。
(2) テンプレートマッチングを用いてネジ位置検出機能を実現し,目標精度±100μmに対して外乱光が168lx以下の環境において83μm±10μmの精度を達成した。
参考文献
1) 笠原竹博, 上田芳弘, 米沢裕司, 南川俊治, 北森英明, 山戸博一. "制御盤ハーネス自動配線装置における位置検出システムの開発". 2009総合大会講演論文集. 愛媛県, 2009-03-17/20, 電子情報通信学会. 2009, D-11-47.
2) 笠原竹博,三吉建尊,上田芳弘,米沢裕司,越野亮. "制御盤配線ロボットのための位置検出と検査機能". 第14回画像の認識・理解シンポジウム論文集. 石川県, 2011-7-20/22, 情報処理学会CVIM研究会. 2011, p. 218-221