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大型プレス成形用樹脂製金型の開発
■機械金属部 多加充彦 南川俊治
■繊維生活部 笠森正人
■(株)北日本テクノス 小林睦明 酒田謙一 吉野典功
バス等の大型車両の製造コスト削減を図るためには,大型プレス成形品を製造する金型の低コスト化などの問題を解決する必要がある。そのため,これまで金属製金型に代わる樹脂製金型の利用が検討されている。樹脂製金型は安価でかつ短期間で製作でき,形状変更も容易であるなど,試作用金型としては優位性がある。しかし,生産用として使用するには,樹脂自体の強度が不足しており,型の耐久性がない問題がある。本研究では,多品種少量生産に適した耐久性のある樹脂製金型を開発するため,材料試験やプレス成形実験に基づく評価により,表面材とコア材からなる型材料の強度や耐摩耗性の向上について検討した。
キーワード: プレス成形,樹脂製金型,強度,耐摩耗性
The Development of Resin Dies for Large Press Forming
Mitsuhiko TAKA, Toshiharu MINAMIKAWA, Masato KASAMORI, Mutsuaki KOBAYASHI, Kenichi SAKATA and Noriyoshi YOSHINO
In order to reduce the cost of manufacturing large vehicles such as buses, the cost of press forming dies for large size parts must be reduced. The use of resin dies instead of metal dies is being considered, because resin dies have several advantages including low cost, short production period and ease of shaping. However, existing resin dies lack the strength and durability required for use in production. In this study, we examined the improvement of strength and abrasion resistance of die materials consisting of surface resin and core material, based on material testing and examination of press forming, to develop a durable resin die for high-mix low-volume production.
Keywords : press forming, resin die, strength, abrasion resistance
1.緒 言
バス等の大型車両製造業では,外国製品との競争力を高めるための低コスト化が課題となっている。特に大型成形部品は,油圧プレス機を用いて製造する金属品が大部分を占めており,使用する金型も大型で高価である。しかも,一般自動車部品用と比較して生産量が非常に少ないため,車両全体の製造コストに占める金型製造コストの割合は大きい。したがって,部品を製造する金型の低コスト化を図ることが重要な課題となっている。
そこで,金属製金型の代わりに一般自動車部品の試作に用いられる簡易金型1)を利用する検討が行われている。例えば,樹脂を注型して製造する簡易金型は,マスターモデルの転写を利用すれば,金属製金型のような切削加工を行う必要がほとんどなく,安価でかつ短期間で製作が可能である。しかも,設計変更に伴う型の形状変更も柔軟に対応できる。この簡易金型でプレス成形する場合,既存樹脂では強度不足によりプレス時に破損や陥没が生じるため,型内部にZAS(Zinc Alloy for Stamping:金型用亜鉛合金)による補強を行っている。しかし,大型成形部品の生産用金型として必要な数量の部品を成形するには十分な耐久性が得られないという問題がある。
本研究では,耐久性のある樹脂製金型を開発するため,表面材とコア材とからなる金型用樹脂材料の高強度化および樹脂製金型の耐摩耗性の向上について検討した。さらに開発過程で問題となった型のき裂発生の原因解明を行い,その防止対策について検討した。
2.金型用樹脂材料の開発
2.1 表面材・コア材の物性評価
開発する樹脂製金型は,部品試作用の簡易金型製造技術を応用したもので,図1に示すようにパンチやダイは表面材とコア材の2層構造を基本とした。既存樹脂は,常温硬化性エポキシ樹脂を主剤としたもので,これを表面材に用いると,プレス成形時に陥没や破損が生じる問題があった。また,コア材は表面材と弾性率が異なるためプレス時の変形により剥離が生じる問題があった。そこで,主剤樹脂に熱硬化性のエポキシ樹脂を用い,硬化剤との配合設計により弾性率を調整し,さらに充填材として表面材には鉄粉等,コア材には安価な珪砂を混合することにより強度や耐摩耗性の向上を図ることにした。
配合設計した表面材やコア材は,圧縮試験や引張試験により求めた各物性を評価することにより,型製作に用いる材料を選定した。圧縮試験は,θ15mm×30mmの円柱試験片を作製し,圧縮強さと圧縮弾性率を求めた。引張試験は,平行部断面寸法10mm×4mmの1号試験片(JIS K7113)を用い,引張強さ,伸び,引張弾性率を求めた。表面材の選定基準として,圧縮強さ100MPa以上,圧縮弾性率4.5GPa以上,引張強さ57MPa以上,伸び7%以上,引張弾性率4.5〜5.5GPaを設定し,コア材は表面材の圧縮弾性率と同等とした。
開発した各表面材およびコア材の物性値を表1に示す。表面材RT-430Nとコア2は,日新レジン(株)製の常温硬化性樹脂による表面材とコア材で,樹脂との比較のために用いたものである。開発した表面材G-1はプレス時の圧縮荷重による破損や陥没に耐える強度をもたせるために開発したもので,RT-430Nに比べ,約1.7倍の圧縮強さ,約1.8倍の圧縮弾性率が得られた。一方,L-1は型のき裂発生を防止するために柔軟性を付与したもので,最も高い伸びを示した。また,L-7は耐摩耗性の向上を図るためにL-1を改良したものである。コア6は,プレス時の変形による表面材との剥離を防止するために開発したもので,G-1と同等の圧縮弾性率が得られた。
(図1 樹脂製金型の基本構造)
(表1 表面材とコア材の物性値)
2.2 プレス実験による型の耐摩耗性評価
樹脂製金型の耐摩耗性を評価するため,図2に示すような大型観光バス用バッテリボックス型を製作し,プレス実験を行った。ブランクシートには寸法450mm×915mmで板厚1.6mmのSPCE材を用い,500ショットまでの成形を実施した。樹脂製金型の摩耗量の測定は,非接触式三次元測定装置(gom製 ATOSII-06)を用い,100ショット毎に樹脂製金型表面の輪郭形状を計測し,ダイRとコーナR部におけるショット前の値との差分により求めた。図3にダイR部,図4にコーナR部の摩耗量測定結果を示す。表面材の摩耗量比較では,G-1やL-1の摩耗量は,RT-430Nの型よりも大きくなる場合があり,耐摩耗性が劣っていたが,L-7は,ダイR,コーナRの摩耗量は少なく,耐摩耗性に優れていることがわかった。
(図2 バッテリボックス型の外観)
(図3 ダイR部の摩耗量測定結果)
(図4 コーナR部の摩耗量測定結果)
3.型き裂発生の防止対策
3.1 き裂発生の原因解明
表面材L-7とコア6を用いて製作した型は,気温低下によって,図5にみられるような型表面にき裂が発生する問題が生じた。そこで,型のき裂発生を防止するため,型表面とコア部にひずみゲージを貼付した型を製作し,図6に示すようなヒートサイクルによる冷熱環境試験を実施した。
型の同じ個所での型表面とコア部のひずみを測定した結果,き裂の発生しないRT-430Nとコア2で作製した型は,図7に示すように表面とコア部に発生するひずみの大きさはほぼ同じであり,温度変化に追従した挙動を示した。一方,き裂の発生したL-7とコア6で作製した型では,図8に示すように低温時にコア部で急激に高いひずみが生じ,表面とのひずみ差が大きくなることがわかった。
表面材とコア材とに大きなひずみ差が生じる原因を調べるため,表面材とコア材の線膨張係数,および表面材の硬化収縮率を測定した。その結果,表2に示すように表面材に比べコア材の線膨張係数は小さいことがわかった。また,表面材の硬化収縮率は,常温硬化性のRT-430Nに比べ,熱硬化性のL-7の方が大きいことがわかった。
以上より,気温が低下すると,表面材にはコア材との線膨張係数の違いにより収縮量に差が生じ,引張応力が作用すると考えられる。加えて,L-7の場合は,硬化収縮率が大きいため,注型後の硬化時にコア材により自由な収縮が拘束され,内部に高い引張応力が残留した可能性がある。従って,L-7にき裂が発生した原因は,これらの引張応力の総和がL-7の強度を超えたことによるものと考えられる。
(図5 型のき裂発生状況)
(図6 冷熱環境試験のヒートサイクル条件)
(図7 RT-430N+コア2型の温度−ひずみ測定結果)
(図8 L-7+コア6型の温度−ひずみ測定結果)
(表2 型材料の線膨張係数と硬化収縮率)
3.2 3層型による防止対策の検討
表面材L-7は,耐摩耗性に優れるが,2層構造では気温低下によりき裂が発生する問題があり,表面材とコア材のひずみ差を軽減する構造に変更することが必要である。そこで,図9に示すような表面材とコア材との間に,中間層として表面材の収縮変形の拘束を緩衝するため,圧縮や引張りの弾性率が低く,伸びの大きい樹脂N-7を開発し,3層型への変更を行った。さらに,コア材自体も柔軟性を付与し,圧縮と引張弾性率がともにコア6に比べて低いコア47を開発した。中間層樹脂N-7およびコア47の物性値を表3に示す。3層型の冷熱環境試験を実施した結果,型表面とコア部とのひずみ差の急激な増加はみられず,型表面にき裂が発生しないことが確認された。
(図9 3層構造型の断面)
(表3 中間層樹脂と新コア材の物性値)
3.3 3層型の耐久性評価
L-7の型は,中間層を設けたことにより型が変形し,摩耗量が増加することが危惧されるため,再度プレス実験による評価を行うことにした。実験には,図10に示すような評価用樹脂製金型を作製し,寸法550mm×400mmで板厚1.6mmのSPCE材のブランクシートを用いて500ショットまでの摩耗量を測定した。ここで,ダイR等の型寸法を変えた場合の摩耗量を比較することにより,バス用部品生産用として必要とされる条件,すなわちプレス成形数3000ショットで摩耗量が2mm以下を満足する型形状の検討を行った。
図11にダイRが5mmと10mmの2種類のL-7の3層型について,ダイR部の摩耗量を測定した結果を,既存樹脂RT-430Nの型の場合と比較して示す。摩耗量は,いずれもショット数に比例する傾向を示したことから,外挿近似した直線により3000ショットまでの摩耗量を予測した。ダイR5mmの型では,RT-430Nの型とL-7の3層型のいずれも3000ショットに達する前に摩耗量が2mmを超えるのに対し,ダイR10mmの場合は,L-7の3層型において,3000ショットでも摩耗量は約1.2mmに留まった。以上の結果より,L-7の3層型は中間層による影響はみられず,型R部の大きさを考慮することにより摩耗量の低減が可能で,生産用金型として十分に適用可能であると判断した。
(図10 評価用樹脂型(左:ダイ,右:パンチ))
(図11 ダイRの摩耗量予想線図)
4.結 言
生産用プレス金型として利用可能な耐久性をもつ樹脂製金型の開発について検討し,以下の結果を得た。
(1) 物性評価に基づく表面材とコア材の高強度化とプレス実験による耐摩耗性評価により,耐久性に優れる表面材とコア材を開発した。
(2) 表面材とコア材とのひずみ差を緩衝する樹脂を中間層として挿入した3層構造にすることで,気温低下によるき裂発生を回避することができ,プレス実験では型形状を考慮することにより,バス用部品生産に適用できる耐久性が得られた。
謝 辞
本研究は,経済産業省「平成20年度戦略的基盤技術高度化試験事業」の委託を受け,日新レジン(株),(株)ジェイ・バス,金沢工業大学との共同研究の一環として実施しました。関係諸氏に感謝の意を表します。
参考文献
1) 松永昇ほか. 特集「注目される簡易金型はいま−開発の現状と今後の問題点−」. 型技術. 1991, vol. 6, no. 6, p. 18-59.