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フォトダイオードを用いたセンシング技術に関する研究

■電子情報部 林克明 橘泰至

 フォトダイオードを用いて,人の位置検出システムと積雪センサを試作した。ユークリッド距離,マハラノビス距離,線形サポートベクタマシン(SVM),非線形SVMの4種類のアルゴリズムを用いて位置検出システムを開発した。また,安価な電子部品を組み合わせて民生向け融雪装置用の積雪センサを考案し,センサの上に積った雪に赤外線が反射すると適切な電圧を出力するようにした。本報では,受動型光センサであるフォトダイオードを利用した上記の試作システムについて,評価実験の結果と今後の課題について述べる。
キーワード: フォトダイオード,位置検出,積雪センサ

Research on Sensing Technology Using Photodiodes

Katsuaki HAYASHI and Yasushi TACHIBANA

We developed two systems that use photodiodes. One is a position detector for a person, and the other is a snow sensor. The development of the position detector is based on four kinds of algorithms: Euclid distance, Mahalanobis distance, support vector machine (SVM) and non-linear SVM. We also designed a snow sensor that could be used in a household snow-melting system by combining cheap electronic parts. We then adjusted the snow sensor to output the appropriate voltage while infrared rays reflected to the snow on the sensor. In this report, we described the results of evaluation experiments and the future tasks relating to these newly developed systems.
Keywords : photodiode, position detector, snow sensor

1.緒  言
 フォトダイオードは光を電気エネルギーに変換する受動型の光センサの一種である。本研究では,フォトダイオードを利用して低価格で実現可能,かつシステム構築が容易な二種類のセンシング技術について検討した。ひとつは,可視光を利用して人の位置を検出する位置検出システムであり,もうひとつは,赤外光を利用して積雪を検知する積雪センサである。
 本報における位置検出システムは,人の位置情報を取得するためのシステムである。人の位置や動線情報を取得できれば,例えば,店舗や美術館等では最適な商品配置や効果的な展示品配置の参考にできる。また,工場やオフィスでは人の位置情報により,適切な照明や冷暖房の制御が可能となる。
 また,積雪センサは,路面等で融雪を必要とする量の雪かどうかを検知するセンサである。積雪地域では,積雪による交通渋滞,屋根雪下ろし中の転落事故を防止するため,公共用では道路や踏み切りなど,民生用では駐車場や屋根などに融雪装置を設けている。しかし,民生用融雪装置のON/OFF制御に用いられる安価な実用的積雪センサがないことから,フォトダイオードを用いた積雪センサを試作した。
 以下,2章では位置検出システムについて,3章では積雪センサについて述べる。

2.位置検出システム
2.1 システムの特徴
  フォトダイオード1)を選択した理由は,人の位置検出を対象とするために,多くの応用で一定光量以上の照明が存在するものと仮定できるためである。また,可視光用は一般的に安価であり,システムコストを抑えることができる。さらに,ICタグのように被検出者がセンサを所持する必要がなく,カメラのようなプライバシーの問題も生じにくいという特徴を有する。

2.2 概要
2.2.1 システムの概要
 フォトダイオードと光源の間で人が光を遮断すればフォトダイオードの受光量が減少し,出力が低下する。そこで,フォトダイオードを一定床面積に必要個数を配置することで,光を遮断した人の位置を検出できることが期待される。
 本試作システムは,フォトダイオード(浜松ホトニクス(株)製,S1133)により検知部(以下,PD)を構成し,その出力電圧をエミッタ出力回路2)を通して増幅させた。その後,増幅した出力電圧をマイクロコントローラ(NECエレクトロニクス(株)製,78K0/KF2)によりA/D変換処理して,パソコン(OSはWindowsXP)で位置検出を行うように構成した。
 また,位置検出は事前に対象領域が無人の状態でのPDの出力信号と各領域に人が存在する場合のPDの出力信号を学習させておき,人がいずれかの領域に存在するときのPDの出力信号と学習結果によって検出を行う。実験環境は,図1のように,2m×4mの空間をA〜Hの8個の領域に分割し,PDを配置した。

(図1 実験空間)

2.2.2位置検出アルゴリズム
 PDの出力と事前学習の出力信号から位置を推定する判別アルゴリズムとして,次の4種類を用いた。
1)領域毎の学習データの中心とPDの出力信号のユークリッド距離で判別する方法。
2)ユークリッド距離の代わりに,学習データのばらつきを考慮したマハラノビス距離3)で判別する方法。
 さらに,各学習データを領域毎に分離する超平面を用いて判別する方法を2種類用いた。なお,超平面はサポートベクタマシン 4)(以下,SVM)により求めた。SVMは,超平面を線形にも非線形にもできる特徴を有する。
3)学習データを線形超平面で分離する線形SVMを用いる方法。
4)同様に非線形SVMを用いる方法。

2.3 評価実験
 学習データは,A〜Hの各領域が無人状態の場合の各PDの出力信号とA〜Hのうち一つの領域に人が存在する場合での各PDの出力信号である。学習では,約11秒間の計測で200個のデータを得た。なお,人が存在する場合の学習では,領域内部の中心付近を回るように動いた。このようにして,9セット(1セットはPD1個につき,各200個のデータ集合)の学習データを準備した。
 次に,検出実験では約14秒間の計測を行い,PD毎に255個のデータを得た。この実測データと上述の学習データのセットから,2.2.2のアルゴリズムを用いて,位置を算出した。
 実験の目的は,1)適切なPD配置の決定,2)窓のブラインドを開けた場合の外光の影響評価である。PDの配置は,図2の3通りである。実験は,先ず外光の影響が無いように図1の窓はブラインドを下ろしてデータを得た後に,ブラインドを開けて外光の影響を調べた。

(図2 PDの配置)

2.4 実験結果
 表1にPDの個数別の検出率の平均値を示す。この結果から,PDが4個で線形SVMを用いればPDが8個の検出率とほぼ同等となることが分かった。次に,PDを4個として,かつ図1の窓を開けた場合の外光の影響を調べた結果,表2のように外光が強い15時の検出率が,すべての位置検出アルゴリズムにおいて最も低下し,最大で35%低下(線形SVMの18時と15時の差)することが分かった。

(表1 PDの個数別検出率)
(表2 時間帯別の検出率)

2.5 位置検出システムのまとめ
 フォトダイオードを用いた位置検出システムを試作し,その評価実験の結果から以下を確認できた。
1)本実験環境下ではPDの個数は4個すなわち0.5個/m2で検出率73%(外光無)を得た。
2)検出率に対する外光の影響は大きく,最大で35%低下した。実用化にはさらに検出率を向上させ,かつ外光の影響を低減する必要がある。

3.積雪センサ
3.1 システムの特徴
 融雪装置のON/OFF制御に用いられる積雪センサとして,カメラと画像処理による方式や,超音波,レーザの測長センサによる方式が製品化されているが,いずれも価格や保守面で民生用途には向かない。また,導電検知方式は,降水と温度を検知して積雪を推定していて,安価ではあるが,精度が低く実用的には活用できていない。本研究では,システム構成を非常に簡易化して赤外線フォトダイオードとその他の電子部品も可能な限り安価の材料を選択して,1cm以下の積雪を検知する民生用積雪センサとしたことが特徴である。

3.2 概要
 図3のような赤外線の反射を利用して,積雪を検知するセンサを考案した。
 赤外LEDから放出する赤外線は,積雪に反射すると赤外フォトダイオードで検出できる。赤外フォトダイオードは,入射する赤外線の強さにより出力電流が変化するが,出力電流が微量であることから入力バイアス電流が30pA程度のオペアンプTL082を用いた増幅回路で増幅し,赤外フォトダイオードに入射する赤外線が強くなると,出力電圧値が大きくなる回路構成にした。また,赤外フォトダイオードは,太陽光に含まれる赤外線にも反応するため,赤外LEDからの赤外線と,太陽光からの赤外線を,それぞれの赤外線の強度で区別できるように,部品選定し,増幅回路の仕様を決定した。
 試作した積雪センサを図4に示す。透明樹脂で充填することで,受雪面を作り,同時に回路部分を防水・防塵処理した。試作センサのサイズφ35×20(H)mmは,充填に用いた型によって決まったが,充填前の電子回路のサイズは15(W)×30(D)×20(H)mmであることから,体積は約半分にできる。また,小型の電子部品を用いることで,更に小型化が可能である。
 試作センサに9Vの直流電源を接続すると,赤外フォトダイオードに入射する赤外線の強さに応じて電圧信号が出力され,その電圧を測定することによって積雪の有無を検知する。

(図3 積雪センサの概要図)
(図4 積雪センサの試作品)

3.3 出力電圧の測定
 試作したセンサで積雪の有無を検知できることを確認するため,図3に示す異なる周囲環境でそれぞれセンサの出力電圧を測定した。試作センサは屋外に水平設置して,積雪時,非積雪時,降雨時の出力電圧をそれぞれ測定した。また,太陽光の影響を受けるため,夜間と昼間の双方で測定を行った。
(1)夜間
 積雪がある場合は,赤外LEDから放出した赤外線が積雪に反射し,センサからは0.5〜0.9Vの出力電圧が確認できた。積雪がない場合は,赤外LEDから放出した赤外線は,透過,又は降雨の水に吸収されるため赤外フォトダイオードでは検知できず,センサからの出力電圧は0〜0.4Vの範囲になることが分かった。
(2)昼間
 太陽光に含まれる赤外線の強度は非常に強く,センサ出力は1.0〜4.0Vになった。降雨の場合は,水に一部吸収されるが,透過する赤外線は強く,センサ出力電圧は1.0〜4.0Vになった。センサ上に雪が積もると,太陽光は積雪に反射して遮られるため,赤外LEDから放出して雪で反射した赤外線が検出され,センサ出力電圧は0.5〜0.9Vになることが分かった。
 以上の測定結果から,試作した積雪センサは,約5mm以上の積雪で0.5〜0.9Vの電圧を出力することが分かった。

3.4 積雪センサのまとめ
 赤外線が雪に反射する原理を応用して,積雪センサを試作し,5mm以上の積雪を検知できることを確認した。今回の試作は,数千円の原材料費で作製できたことから,本方式の積雪センサは民生用途向けに安価に供給できると考えられる。
 しかし,日の出,日の入の弱い太陽光や照明用の白熱球から放出する赤外線が入射すると,センサ出力が0.5〜0.9Vになることがあり,検出精度に課題が残る。

4.結  言
 受動型センサであるフォトダイオードを用いて,位置検出システムと積雪センサの2種類のシステムを試作し,評価実験を行った。今後は,共に受動型センサであるため太陽光等の影響が無視できないので,外光の影響を受けないようにすることが課題である。

参考文献
1) 谷腰欣司. "フォトダイオード". 光センサーとその使い方.日刊工業新聞社, 2000, p. 31-86.
2) 谷腰欣司. "光センサー". 新時代のメカトロニクスを拓くセンサーのしくみ. 電波新聞社, 2004, p. 50.
3) 青木繁伸. "マハラノビスの平方距離". 群馬大学. http://aoki2.si.gunma-u.ac.jp/lecture/Discriminant/mahalanobis.html ,(参照 2010-07-01).
4) 栗田多喜夫. "サポートベクターマシン入門". 産業総合技術研究所. http://www.neurosci.aist.go.jp/〜kurita/lecture/svm ,(参照 2010-07-01).