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純米酒用酒米の少量発酵試験法の研究

■化学食品部 山田幸信 松田章
■農業総合研究センター 三輪章志

 酒造好適米の早期育種選抜を目的に,総米100g規模の純米酒用酒米の少量発酵試験法を検討した。少量発酵試験法で得られる清酒のアルコール度数は,CO2重量減少量を目安として上槽することによりほぼ一定となった。日本酒度は10℃の低温で発酵を開始し最高温度15℃になるまで1日1℃ずつ昇温する温度管理を行うことによりばらつきを抑えることができた。また,従来規模の総米500gの発酵試験と比較すると日本酒度が若干低いものの,その差は小さかった。これらのことから,総米100gの少量発酵試験法はサンプル量が少ない酒米育種選抜の早い段階で発酵試験を実施するための手法として利用可能であると考えられた。
キーワード: 酒造好適米, 総米100g規模の少量発酵試験法, CO2重量減少量, 発酵温度

Study on Small-quantity Fermentation for Selection of Rice Variety for Junmai-shu

Yukinobu YAMADA, Akira MATSUDA and Shouji MIWA

For the purpose of efficient selection of sake rice varieties in the early stage, a small-quantity fermentation test using 100g of sake rice was carried out. The sake that was centrifuged from sake-mash (moromi) by the measure of a decrease in weight due to generation of CO2, showed an almost constant alcohol value. The variation in the value of sake scale was found to be smaller in the case of raising the fermentation temperature by 1°C per day from 10°C to 15°C than in the case of keeping the temperature constant at 15°C during the fermentation period. The sake scale value for the sake obtained by the small-quantity fermentation test using 100g of rice was slightly low compared with that obtained by a conventional fermentation test using 500g of rice under the same conditions, but the difference in the values was negligible. Consequently, the small-quantity fermentation test using 100g of sake rice can be used as an effective variety selection technique for a small quantity of sake rice in the early stage.
Keywords: sake rice, small-quantity fermentation test using 100g of rice, CO2 generation, fermentation temperature

1.緒  言
 酒造好適米の育種選抜試験では,小規模な発酵試験(小仕込試験)を行って得られた清酒を分析・官能評価した結果を基に品質評価が行われている。小仕込試験を行う際,実験室レベルで500g以上,工場レベルでは4kg以上の白米が必要となる。しかし,酒米の育種選抜試験では500gの白米サンプルが確保できるようになるまでに交配から約8年以上の年月を要し,その間は栽培中の生育特性や米粒の理化学性のみを指標として選抜しているのが現状である。
 現行よりも少量の米で小仕込試験を行えれば育種選抜の効率化を図ることができる。しかし,従来は総米200g規模の試験事例が数例ある程度1)-4)で,総米100g規模の事例の報告はない。その要因として総米量500g未満の小仕込試験は操作上の誤差から繰り返し試験間のデータのばらつきが生じやすく,しかも少量発酵試験で得られる清酒の酒質は実用規模の酒と異なると言われている。しかし,ばらつきの程度や要因を検討した事例は無い。
 本研究では,総米100g規模の純米酒用酒米を用いて,再現性がよく総米500gの発酵試験との相関が得られる少量発酵試験法を検討した。

 

2.実験方法
2.1 試料
 掛米は兵庫県産‘山田錦’を見かけ精米歩合70%に精米し,水分約15%に調整したものを使用した。麹米は徳島製麹(株)製の純米酒用乾燥麹I-60を,酵母はきょうかい901号酵母を麹汁培地を用いて30℃4日間前培養したものを,仕込水および洗米用水は(株)福光屋(金沢市)の井戸水をメンブレンフィルターで濾過したものを使用した。このほか,発酵時の雑菌防止用に乳酸(食品添加物用)を使用した。
2.2 清酒の仕込方法および分析方法
 難波ら1),小関2),寺島ら4)の仕込方法をもとに,掛米の精米歩合70%,発酵時のもろみの最高温度15℃とし,普通純米酒として醸造した。具体的な手順は次の通りとした。
 仕込方法は,まず所定量の仕込水・麹米・乳酸を容器に入れ,培養酵母を仕込重量1gに対し1×105個となるように接種したのち10℃で1日前培養し水麹とした。そこに1時間浸漬・1時間蒸きょう・30分放冷した掛米を加えてもろみとした(前日水麹・1段酵母仕込)。仕込配合量を表1に示す。発酵中は恒温水槽でもろみの温度を15℃に保った。ただし,発酵開始時の温度管理については,15℃一定で管理したもろみと,10℃・8℃・6℃でそれぞれ発酵開始し1日1℃ずつ温度を上げ15℃に到達後15℃一定で管理したもろみの発酵経過や清酒品質を比較し,清酒品質のばらつきが少ない方法を検討した。
 発酵経過は1日に1回もろみのCO2重量減少量を測定することで観察し,所定の重量が減少した時点で遠心分離機で上槽(もろみを清酒と酒粕に分離する操作)して得られた清酒を分析試料とした。また,上槽の目安となるCO2重量減少量については,アルコール度数が18%を越える重量減少量を求めた。さらに,発酵途中の成分分析を行う場合は,同一条件で別に用意したもろみから,3日おきに10mlずつ採取し遠心分離して得られた上清を測定サンプルとした。清酒の一般成分は国税庁所定分析法5)に基づき分析した。また,アルコールに変化したものを含めてデンプンが糖化された量を示す原エキス分はアルコール分と日本酒度から算出した6)。
 総米100gのもろみと総米500gのもろみの比較試験では,総米500gのもろみの仕込み原料や上槽の目安とする重量は総米100gのもろみと同一の比率とし,温度管理法も同一とした。

(表1 仕込配合)

 

3.結果と考察
3.1 上槽の目安となるCO2重量減少量
 総米200g以上の少量発酵試験での上槽の目安1),4)とされている総米100g当りCO2重量減少量30gで上槽すると,清酒のアルコール度数は16%台とやや低く,日本酒度もかなり甘口の値となった。同様に上槽した総米200gの小仕込み試験のアルコール度数は,難波らの報告1)では17.8%,寺島らの報告4)では17.6%となっている。これらの報告と比較すると,本試験の総米100gのもろみはまだ発酵途中であると考えられた。本醸造酒でアルコール添加を行う目安とされるアルコール度数18%7)を発酵終了の基準とした場合,総米100gでアルコール度数が基準値に到達したのはCO2重量減少量33.5g/総米100gで上槽したものであったことから,以降の実験ではCO2重量減少量が33.5g/総米100gに到達した時点を上槽の目安とした(表2)。

(表2 総米100g少量発酵試験のCO2重量減少量と清酒の品質)

3.2 少量発酵法で得られる清酒の品質のばらつき抑制のための発酵管理条件の検討
上槽時のCO2重量減少量をおおむね一定とすると清酒のアルコール度数はほぼ一定となったが,日本酒度にばらつきが見られた(表2)。その発生原因を検討するため1日当たりのもろみ重量減少量を観察したところ,発酵開始から3〜6日目でCO2重量減少量の立ち上がりが急なところでばらつきが特に大きく,この初期段階での発酵経過が清酒の日本酒度のばらつきに影響していると考えられた(図1)。そこで,10℃で発酵を開始し15℃になるまで1日1℃ずつ昇温する温度管理を行ったもろみと,発酵開始から終了まで15℃で管理したもろみの比較を行ったところ,前者で日本酒度のばらつきが小さくなった(表3)。また,発酵開始時の温度が8℃,6℃で同様に昇温して清酒の日本酒度は,10℃から発酵を開始した場合に比べてばらつきが大きくなった(表4)。10℃で発酵開始したもろみと15℃一定のもろみの1日あたりCO2重量減少量の推移を見ると,前者の方が発酵開始7日目までの1日あたりCO2重量減少量のばらつきは大きいものの緩やかに増加した(図2)。また,発酵期間中のもろみ中の原エキス分は,発酵開始温度が高い方が期間を通じて高く推移したが,発酵開始より3日目では15℃一定で管理しているもろみのみが原エキス分が高く,他の温度管理のもろみはほぼ同じ値であった(図3)。
これらのことから,発酵温度を当初から目標温度にすると発酵初期のデンプンの糖化やアルコール発酵が急激に進み,最終的に得られる清酒の日本酒度のばらつきが大きくなりやすいが,目標の発酵温度よりも低い温度で発酵を開始させて糖化やアルコール発酵を緩やかに行わせることにより,清酒の日本酒度のばらつきを抑えることができると考えられる。一方で,発酵開始温度が低すぎても日本酒度のばらつきが見られているが,発酵の進み方が緩やかすぎることが原因と考えられる。
以上から,目標発酵温度15℃の場合,発酵開始温度は10℃程度が望ましい。この結果は,糖化とアルコール発酵の指標である原エキス分の初期制御や生成曲線全体の形状,上槽時の濃度とも因果関係があるものと推察された。

(図1 総米100gのもろみを15℃一定で管理した場合の1日あたりCO2重量減少量の推移 )
(表3 総米100gにおける発酵温度15℃一定と10℃→15℃のもろみの清酒品質 )
(表4 総米100gにおける発酵温度10℃以下のもろみの清酒品質)
(図2 発酵開始時の温度管理の違いによる発酵経過の変化)
(図3 発酵開始時の温度管理の違いによる原エキス分の推移)

3.3 総米量の違いによる清酒品質の変化
 総米量の違いによる清酒品質の変化については,難波ら1)の報告にあるように全く同一の仕込比率の総米380kgと総米543gのもろみではアルコール度数はほとんど差がないのに対し日本酒度は総米543gのもろみの方が低くなる(甘口の酒になる)。仕込比率や発酵中の管理を同一にした総米量100gと500gのもろみで清酒品質を比較したところ,同様にアルコール度数はほぼ同じだが日本酒度は総米100gの方が若干低くなった(表5)。総米量が異なるもろみの1日あたりCO2重量減少量を比較したところ,ピークとなる日を中心として3日間程度総米100gのもろみでCO2重量減少量が多くなり,それ以外の期間はほぼ同じ経過をたどっている(図4)。また,原エキス分は総米量100gの方が発酵期間の初期にやや高めに推移している(図5)。このように仕込比率や発酵中の管理を同一にしても,総米量の規模が異なると発酵経過が変化してしまうため,最終的に得られる清酒の日本酒度の差が発生すると考えられる。発酵温度や上槽時のCO2重量減少量と日本酒度の差の関係については,さらなる検討が必要である。

(表5 総米量の違いによる清酒品質の違い)
(図4 総米量の違いによる発酵経過の変化)
(図5 総米量の違いによるもろみ中の原エキス分の推移)

 

4.結  言
 総米100g規模の少量発酵試験法でも,発酵開始時の温度を制御し,一定のCO2重量減少量を目安として上槽することにより,得られる清酒のアルコール度数や日本酒度のばらつきを抑えることができた。日本酒度のばらつきは発酵初期のデンプンの糖化や糖のアルコール発酵が急激に進むことにより発生していると考えられた。総米量500g規模の発酵試験と比較した場合,総米100g規模の少量発酵試験法は清酒の日本酒度が低くなるものの,発酵条件の調整によって差が小さくなる可能性がある。これらのことから,総米100g規模の少量発酵試験法はサンプル量が少ない酒米育種選抜の早い段階で発酵試験を実施するための手法として導入可能である。
 なお,本研究は石川県農業総合研究センターの「石川ブランド清酒用酒米評価法の開発」試験研究予算課題を,石川県工業試験場に持ち込み連携体制で行なったものである。

 

謝  辞
 本研究を開始するに当たりご助言を頂いた秋田県農林水産技術センター総合食品研究所 高橋仁氏に感謝します。また,貴重な井戸水をご提供いただいた(株)福光屋に感謝します。

 

参考文献
1) 難波康之祐, 小幡孝之, 萱島進, 山崎与四良, 村上光彦, 下田高久. 小仕込試験法の設定. 醸協. 1978, vol. 73, no.4, p. 295-300.
2) 小関俊彦. 高香気ソフト化清酒「山形清々」の開発について. 醸協, 1995, vol.90, no.8, p. 578-585.
3) 高橋仁, 田口隆信. 酒造好適米新品種「秋田酒こまち」の開発と酒造特性. 醸協, 2003, vol.98, no.9, p. 598-609.
4) 寺島晃也, 菅野三郎. 県産酒造好適米「雄山錦」の醸造特性. 富山県食品研究所研究報告, 2004, vol. 5, p.5-10.
5) 注解編集委員会編.第四回改訂国税庁所定分析法注解. (財)日本醸造協会. 1993.
6) 増補改訂清酒製造技術. (財)日本醸造協会. 1978.
7) 東京国税局鑑定指導室編.酒造教本. (財)日本醸造協会. 1999.