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超薄板製品の三次元溶接技術の開発

機械金属部 舟田義則 廣崎憲一 中島明哉

 半導体製造産業や電子機器産業,精密機械産業などでは,製造に微細または極薄な部材を溶接することを必要とする製品や部品が多い。そこで,半導体レーザによる超薄板溶接技術の確立を目指し,その実用性を検証するため,全6軸多軸位置決め装置と半導体レーザからなる三次元溶接システムを試作した。そして,インコネル718製溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ溶接やSUS304製織機部品の全周溶接を試みた。その結果,ダイヤフラムの内周エッジ溶接では80%以上の確率で微細漏れのない溶接を可能とした。また,織機部品の全周溶接では溶け込みが均一な溶接を可能とし,半導体レーザによる超薄板溶接技術の実用性を示すことができた。
キーワード: 超薄板溶接, 三次元溶接, 半導体レーザ

Development of Three Dimensional Welding Technique for Products Consisting of Thin foils

Yoshinori FUNADA, Kenichi HIROSAKI and Akichika NAKASHIMA

In semi-conductor, electricity and precision machine industries, there are many products needing to weld micro and thin metallic materials. In order to establish the welding process for thin metallic foil with direct diode laser processing, 3D welding system was prepared equipping with the automatically stage with six axis and a diode laser. Using this system, an internal edge welding of inconel 718 diaphragm used as welding bellows and a round edge welding of SUS304 parts used in a textile machine were tried to inspect the practical performance of thin foil welding using direct diode laser. As the results, leakless internal edge welding of inconel 718 was possible with a probability more than 80%. A round welding of SUS304 parts was also successful with a uniform weld bead. From those results, it was concluded that hin foil welding using direct diode laser processing could be applied to the practical products.
Keywords : thin foil welding, three dimensional welding, direct diode laser processing

1.緒  言
  近年,半導体製造装置産業や電子機器産業,精密機械産業,医療機器産業などでは,微細または極薄な部材を溶接して製造される部品や製品を多く使用している。溶接部材の薄肉化や微細化が進む程,溶け落ちや溶接歪みを防ぐために溶接熱の精密な制御が重要になる。これには,アーク溶接よりも熱の制御性に優れたレーザ溶接が有効である。
 当場では,従来レーザ溶接機に比べて電力効率が10倍以上も高く,また,メンテナンスフリーで長寿命な半導体レーザに注目し,これを利用した超薄板溶接技術の開発に取り組んでいる。その結果,半導体レーザ特有の楕円形ビームが溶接部の幅狭化と溶接速度の向上に寄与することを明らかにし,板厚50mm以下のSUS304超薄板の突き合わせ溶接が可能であることを示した1)。さらに,超薄板金属の重ね溶接2)やエッジ溶接3)が可能であることも明らかにした。
 これら全ては,溶接部が直線の単純形状サンプルを対象とした基礎的検討の結果であり,半導体レーザによる超薄板溶接技術の実用性を保証するとは言えない。そのためには,実製品を対象とした溶接試験を行い,溶接部が三次元曲線であっても安定して溶接できることを示す必要がある。
 本研究では,溶接ワークを三次元的に位置決め可能な多軸位置決め装置を試作し,これに半導体レーザを組み込んで超薄板製品用三次元溶接システムとした。そして,溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ溶接試験や織機部品の全周溶接試験を行い,半導体レーザによる超薄板溶接の実用性を検討した。

 

2.三次元溶接用多軸位置決め装置
  溶接ワークを三次元的に溶接するには,ワークを位置決めするための直交3軸位置決め機構と,任意の方向からレーザ光を照射するための傾斜または回転機構が2軸分必要になる。また,半導体レーザではスポット形状が楕円であるため,その方向を決めるためのオリエンテーション機構が必要になる。
 そこで,図1に示す全6軸の多軸位置決め装置を製作した。装置の主な仕様と位置決め精度を表1に示す。これに,最大出力200W,焦点位置でのレーザスポットが0.1mm×2mmの楕円形の半導体レーザを組み込んだ三次元溶接システムを試作した。多軸位置決め装置とレーザ電源は1台のパソコンで制御しており,位置決めとレーザ出力を同時にプログラム制御できる。

(図1 多軸位置決め装置と半導体レーザによる三次元溶接システム)
(表1 多軸位置決め装置の主な仕様)

 

3.実製品を用いた実証試験
3.1 インコネル製溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ試験
3.1.1 内周エッジ溶接試験方法
  半導体製造装置の重要な配管部品である溶接ベローズは,図2に示すようにドーナツ状のダイヤフラムの内外周エッジを交互に溶接することで製造される。近年,耐熱性や耐食性の向上のため難溶接材料であるインコネル製のベローズが求められている。しかし,精密溶接に広く使用されているパルスYAGレーザ溶接技術では,溶接歩留まりが30%以下と低いことが問題視されている。そこで,インコネル製ダイヤフラムの内周エッジ溶接について半導体レーザによる三次元溶接試験を試みた。
  図3に試験方法を示す。専用ホルダにて板厚が0.1mmで内径がf25mmのインコネル718製ダイヤフラムを2枚重ねて固定し,その内周エッジに対して斜め30゚の方向からレーザ光を照射した。また,システムに組み込んだ半導体レーザでは,焦点位置でのレーザ光スポットが長径2mmの楕円スポットであり,これまでの実験結果4)から,板厚0.1mmのダイヤフラムを溶接するには長過ぎることがわかっている。そこで,楕円スポットが溶接方向に対して斜め45゚に回転した状態になるよう半導体レーザの姿勢を制御し,溶接時の溶け込み長さを短くした。

(図2 溶接部ベローズの構造)
(図3 溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ溶接試験方法)

3.1.2 内周エッジ溶接試験結果
  レーザ出力を160Wで一定とし,溶接速度を1.6mm/sから2.4mm/sまで変化させて溶接試験を行った。図4は溶接部を側方から観察した結果と,溶接部の断面を観察した結果である。アルゴンガス吹きつけによるシールドが不完全なため,溶接部表面が若干酸化しているものの,溶接ビードが途切れることなく連続的に形成されていた。溶接部断面形状はレーザ照射方向に大きく溶け込み歪んでいるが,内部には微細割れなどの欠陥が無く,安定した溶接が行われていた。
  溶接条件毎に10個の溶接サンプルを作製し,ヘリウムガスリークテストにより,溶接部の気密性を調べた。表2はその結果であり,溶接速度1.6mm/sおよび2.0mm/sで溶接した場合,10個中2個だけが「漏れあり」の結果となり,80%の確率で気密性が保たれていた。また,溶接速度2.4mm/sで溶接した場合,全て「漏れなし」の結果となり,100%の確率で気密性を確保できた。
  半導体レーザ溶接を適用することによって溶接歩留まりが従来の30%から大幅に改善された。この理由として,レーザ照射が連続であることとスポットが適度に楕円形であることから,溶接時の急激な加熱冷却を防いだことが考えられる。以上の結果から,インコネル製溶接ベローズの製造に半導体レーザ溶接が有用であることが示された。

(図4 溶接部外観および断面)
(表2 ヘリウムガスリークテスト結果)

3.2 織機部品の全周溶接試験
3.2.1 全周溶接試験方法
  図5に示すワークは,肉厚0.3mmのステンレス製(SUS304)の部品であり,これを対称に重ね,全周を溶接した後,織機部品として使用される。このワークの先端は丸く閉じており,また,扁平につぶれている特殊な形状を呈している。溶接時の位置決めが難しく,従来のレーザ溶接やアーク溶接では溶接品質にばらつきがあり,その解決が課題となっている。そこで,この織機部品の全周溶接を試みた。
  溶接試験では,専用ジグで固定したワークに対して,図6に示すようにストレート端部から溶接を開始し,先端部を経由して反対側のストレート部まで溶接した。その間,溶接部に対してレーザ光が常に法線方向から照射されるようにワークを位置決めし,さらに,ワークの位置を半導体レーザの同軸モニタ機能を用いて計測し,その結果に基づいて,溶接部にレーザ光を正確に集光できるよう位置決め装置を多軸制御した。

(図5 SUS304製織機部品)
(図6 織機部品の全周溶接試験方法)

3.2.2 全周溶接試験結果
  レーザ出力100Wおよび溶接速度10mm/sの条件で溶接したワークの溶接部外観を図7に示す。いずれの部分においても溶接ビードが途切れることなく形成されている。しかしながら,その溶け込みは,図8に示すように場所によって異なる。これは,行きストレート部での溶接熱が反対側にまで伝導し,これが帰りストレート部での溶接時に予熱として作用し,溶け込みが深くなったと考えられる。
  溶接速度を同じ10mm/sとし,レーザ出力を80Wおよび120Wで溶接試験した結果を図9に示す。いずれの場合も,上述の理由により行きストレート部よりも帰りストレート部で溶け込みが大きくなっている。その一方でレーザ出力80Wでの帰りストレート部の溶け込み深さが,レーザ出力100Wでの行きストレート部の溶け込み深さとほぼ同じである。そこで,図10に示すように,溶接が行きストレート部から帰りストレート部に進につれて,レーザ出力を100Wから80Wに変化させた。その結果を図11に示す。溶接部の溶け込みは行きストレート部と帰りストレート部とで同じとなり,均一化が図られた。これには,半導体レーザ溶接が高い繰り返し性を有することと,試作したシステムにてワークの位置決めとレーザ出力を同時に制御できたことが寄与している。

(図7 溶接部外観(レーザ出力100W,溶接速度10mm/s))
(図8 溶接部断面(レーザ出力100W,溶接速度10mm/s))
(図9 溶接部溶け込みとレーザ出力の関係)
(図10 溶接時のレーザ出力変化パターン)
(図11 レーザ出力変化ありの溶接部断面)

 

4.結  言
  溶接ワークの多軸位置決装置を製作し,半導体レーザ溶接を組み込んだ三次元溶接システムを試作した。これにより,溶接ベローズ用インコネル718製ダイヤフラム内周エッジ溶接およびSUS304製織機部品の溶接試験を行い,半導体レーザ溶接による超薄板溶接技術の実用性を検証した。結果は以下のとおりである。
(1) 三次元溶接のための全6軸の多軸位置決め装置を製作し,位置決めと同時にレーザ出力も制御可能な半導体レーザ三次元溶接システムを試作した。
(2) 板厚0.1mmのインコネル718製溶接ベローズ用ダイヤフラムの内周エッジ溶接試験を行ったところ,80%以上の確率で微細漏れのない溶接を可能にした。
(3) 肉厚0.3mmのSUS304製織機部品の全周溶接を行ったところ,ワークの位置決めに併せてレーザ出力を制御することで,溶け込みが均一な全周溶接を可能にした。

 

謝  辞
  本研究の遂行するに当たり,ご助言を頂いた大阪大学准教授阿部信行氏に感謝します。また,装置製作やサンプルに提供にご協力頂いた津田駒工業(株)および(株)ベローズ久世に感謝します。

 

参考文献
1) 舟田義則, 廣崎憲一, 中島明哉. 半導体レーザによる超薄板溶接技術の開発. 石川県工業試験場研究報告, 2006, No. 55, p. 9-14.
2) 舟田義則, 阿部信行. 半導体レーザの直接加工による超薄板ステンレス鋼の重ね溶接. 先端加工学会誌, 2007, Vol. 25, No. 1, p. 45-50.
3) 舟田義則, 阿部信行, 塚本雅裕. 半導体レーザによる超薄板Ni基耐熱合金のエッジ溶接. 溶接学会全国大会講演概要, 2006, No.78, p. 92-93.
4) 舟田義則, 阿部信行. 半導体レーザによるインコネル製ダイヤフラムのエッジ溶接. 溶接学会全国大会講演概要, 2007, No. 80, p. 54-55.