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ろくろ成形用白磁坏土の開発

■九谷焼技術センター 佐々木直哉 若林数夫

 本研究は、現在のろくろ成形用坏土の焼成色を白くし,ろくろ成形による手作りならではの様々な加工を施すことで,高品質で高付加価値のある商品を作ろうという業界の強い要望により,ろくろ成形用白磁坏土の開発を行った。目標として(1)ろくろ成形が可能,(2)耐火度がSK26〜27,(3)白色度が75以上を挙げ開発を行い,試作段階として目標とする坏土が完成した。
キーワード:ろくろ成形,白色度,花坂陶石,磁器坏土

Development of White Porcelain Bodies for Jiggering

Naoya SASAKI and Kazuo WAKABAYASHI

This research involved whitening the firing color of existing bodies for jiggering, and by using various processes used in the production of handmade thrown ceramics, developed white porcelain bodies in response to a strong demand on the part of the ceramics industry, which wants to make high-quality product with high added value. We were able to achieve our objective of developing porcelain bodies for which (1) jiggering is possible, (2) fire resistance is SK26-27 and (3) whiteness is 75 or higher in the unglazed state, and carried out trial production.
Keywords:jiggering, whiteness, Hanasaka pottery-stone, porcelain body


1.緒言
 現在,九谷焼素地の成形には,ろくろ成形,鋳込み成形,ローラマシン成形法等があり,それぞれの成形法によって特性の異なった坏土が使用されている。ろくろ成形用坏土は,特に成形性が重要となるため,花坂陶石の水簸物(すいひぶつ)に木節,蛙目粘土を添加し調整されている。しかし花坂陶石の水簸物にはFeが多く,木節,蛙目粘土にはFe, Tiが多く含まれているため,焼成するとねずみ色がかった素地となる。業界としてもこの焼成色を白くし,ろくろ成形による手作りならではの様々な加工を施すことにより,高品質で高付加価値のある商品を作ろうという強い要望がある。
  そこで坏土の基本的性質である鉱物組成,化学組成,粒度,成形性,焼成色,耐火度の関連性を解決し,今までにない高品質で高付加価値のあるろくろ成形用白磁坏土の開発を目的とする。

2.実験内容
2.1 坏土の試作
最小2kgから最大30kgの調合で花坂陶石をベースに約40種類の坏土を試作した。ベースとなる花坂陶石は,スタンパーで粉砕したものを水簸し,目開きが75μmのフルイを通して使用した。他の原料との混合は二通りの方法で行った。一方は,水簸した花坂陶石をフィルタープレスで脱水した試料と他の原料をミルで混合・粉砕する方法である。もう一方は,水簸した花坂陶石とミルで粒度調整した他の原料を泥ショウの状態で混合する方法である。それぞれ混合した泥ショウをフィルタープレスで脱水し,真空土練機や手で練って脱気して坏土を試作した。

(図1 試作坏土)

2.2 坏土の評価
  化学組成は,ガラスビード法を用いてガラスビードを作製し,蛍光X線分析装置(理学電機(株)製,システム3270E,50kV,50mA)で定量分析を行った。粒度は,目開きが20μmのフルイを通し,残った試料のwt%を測定した。耐火度は,JIS R 2204(耐火物及び耐火物原料の耐火度試験方法)に従い測定を行った。収縮,白色度を測定するため,石膏型で型押し成形し,径72mm,厚さ7mmの円盤状のテストピースを作成した。白色度は,施釉していない素地について分光測色計(MINOLTA製,CM-3600d)を用いて白色度ハンターの値を測定した。成形性は,石川県九谷窯元工業協同組合,加賀市九谷陶磁器協同組合に依頼し,実際に窯元でろくろ成形して評価を行った。

3.結果及び考察
  3.1 成形性について
 表1のように5種類の坏土を試作し,ろくろ成形,かんな加工について評価を行った。ろくろ成形については,〜[4]の調合まで問題なく可能であるが,[5]の調合になると保形性が小さくなりろくろ成形しにくい傾向を示した。かんな加工については,[1],[2]の調合は問題なく可能であるが,[3]の調合から削り表面がささくれたようになった(図2)。花坂陶石のみの成形性については,表1の中国カオリンを抜いた調合で検討した結果,ろくろ成形については花坂陶石(75μm以下)が70wt%,花坂陶石(1.41mm〜75μm)が30wt%の調合まで可能となるが,かんな加工については花坂陶石(75μm以下)が80wt%,花坂陶石(1.41mm〜75μm)が20wt%の調合までしか可能ではなかった1)。このことから中国カオリンを入れることでろくろ成形時には水分とともに保形性を補っていると考えられる。しかしかんな加工時には自然乾燥をして半乾きの状態で作業をするため、水分の少ない状態では中国カオリンを入れても成形性を補えず,削り表面がささくれたと考えられる。

(表1 花坂陶石による白色度と成形性への影響)
(表2 粒度による白色度と成形性への影響)
(図2 高台の削り表面)

3.2 粒度について
 表2のように調合を同じにして原料をミルで粉砕,混合して坏土を試作し,粒度による影響を評価した。粒度を細かくすると素地に含まれる鉄化合物等が粉砕されて白色度が向上し,焼成後の欠点となる黒ボツ等を少なくすることができた。またミルで粉砕,混合して坏土を試作してもろくろ成形には問題ないことがわかった。これは,坏土の原料をミルで粉砕,混合すると粒度の粗い部分が細かくなり,ろくろ成形にとって重要となる2μm以下の粘土鉱物には影響を及ぼさないためだと考えられる。ただし[3]の調合のように粒度を細かくし過ぎると,ろくろ成形後の自然乾燥の段階で切れる傾向を示した。かんな加工については,表2の調合ではまだ花坂陶石(75μm以下)が少ないため削り表面がささくれた状態になった。

3.3 白色度について
 白色度については,約40種類の試作坏土で測定を行った。結果,Fe2O3とTiO2が0.6〜0.8wt%の範囲であれば,白色度が75±3の範囲となる傾向を示した(図3)。ただし,試作した坏土は花坂陶石をベース(50wt%以上)とし,目開きが75μmのフルイを全通したものとする。

(図3 白色度とFe2O3+TiO2(wt%)の関係)

3.4 耐火度について
 耐火度についても白色度と同様に約40種類の試作坏土で測定を行った。結果,Al2O3のゼーゲル数が2.3〜3.0の範囲であればSK26〜27となる傾向を示した(図4)。白色度と同様,試作した坏土は花坂陶石をベース(50wt%以上)とし,目開きが75μmのフルイを全通したものとする。

(図4 Al2O3のゼーゲル数と耐火度の関係)

3.5 坏土の物性について
 坏土の製造方法について,従来の方法と違うところは,花坂陶石の水簸物をミルで粉砕することである(図5)。結果,粗い部分に含まれている鉄化合物等を細かくし,焼成後の欠点となる黒ボツ等を少なくすることができた。表3より最終的な坏土の調合は,花坂陶石(75μm以下)が60wt%,福島珪石が10wt%,中国カオリンが30wt%となった。また物性については,耐火度がSK27(1610℃),収縮は成形体が焼成体の1.2倍,白色度は施釉していない状態で74,粒度は20μm以上が10.9wt%であった。化学組成は表4に示す通りである。成形性については,両組合とも高評価であり,ろくろ成形による小皿やお碗,型打ち成形による鉢,型起こし成形による置物まで手作りによる様々な成形に対応できた(図6)。また大皿(径34.5cm)も成形することができた(図7)。

(図5 坏土の製造方法)
(表3 坏土の調合及び物性)
(表4 坏土の化学組成)
(図6 試作品)
(図7 大皿(径34.5cm))

4.結言
(1)坏土の調合は,花坂陶石(75μm以下)が60wt%,福島珪石が10wt%,中国カオリンが30wt%となった。
(2)物性については,耐火度がSK27(1610℃),収縮は成形体が焼成体の1.2倍,白色度は施釉していない状態で74,粒度は20μm以上が10.9wt%であった。
(3)試作品としては,ろくろ成形による小皿やお碗,型打ち成形による鉢,型起こし成形による置物まで手作りによる様々な成形に対応できた。また大皿(径34.5cm)も成形することができた。

謝辞
  本研究を遂行するに当たり,成形性の評価や坏土の総合評価を行って頂いた石川県九谷窯元工業協同組合,加賀市九谷陶磁器協同組合の皆様に感謝します。

参考文献
1)佐々木直哉.石川県工業試験場研究報告.2003,p.59-64.