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県産農産物を活用した機能性食品の研究 -加賀野菜の機能性について-

■食品加工技術研究室 林美央 道畠俊英 勝山陽子
■石川県農業総合研究センター 三輪章志
■羽二重豆腐(株) 川嶋正男
■石川県農業短期大学 矢野俊博 榎本俊樹

 石川県の伝統野菜である加賀野菜に注目し,加工食品への利用などによる地域農産物の付加価値向上を目的として,加賀野菜の機能性の検索を行った。その結果,ヘタ紫なす,加賀つるまめ,加賀れんこん,金時草などに強い抗酸化能,二塚からしなにACE阻害能,ヘタ紫なす,金時草に強い抗変異原性が認められた。また,抗酸化能と抗変異原性が強かったヘタ紫なすについては,肝毒性誘導試薬であるAAPH投与ラットを用いた実験により,ヘタ紫なす食がコントロール食と比較して,ラット血漿中のGOT, GPT活性を維持し,肝保護作用を示すことが明らかとなった。また,加賀野菜をペースト,粉末化し,がんもやプリンなど冷蔵・冷凍用惣菜の試作を行った。
キーワード:加賀野菜,DPPHラジカル消去能,ACE阻害活性,抗変異原性

Study of Functional Food Containing Local Agricultural Products
- The Functions of “Kaga-yasai ”(Traditional Vegetables of Ishikawa Prefecture)-

Mio HAYASHI, Toshihide MICHIHATA, Yoko KATSUYAMA, Shoji MIWA,Masao KAWASHIMA, Toshihiro YANO and Toshiki ENOMOTO

The name “Kaga-yasai” refers to traditional vegetables that are mainly produced in the Kanazawa area of Ishikawa Prefecture. At present, 15 vegetables are recognized as “Kaga-yasai”. In this study, we evaluated the following properties of “Kaga-yasai”: antioxidant effect, inhibitory effect on ACE and hyaluronidase, antimutagenic effect, and the improving effect on AAPH-induced liver injury of rats. The results were as follows: (1) Hetamurasaki-nasu (eggplant), kaga-tsurumame (hyacinth-bean), kaga-renkon (lotus root) and kinjisou (green leaf) had a radical antioxidant effect. (2) Futatsuka-karasina (leaf mustard) showed strong ACE inhibitory activity. (3) Hetamurasaki-nasu and kinjisou had a strong antimutagenic effect. (4) A positive correlation was found between polyphenol content, radical antioxidant effect and antimutagenic efffect. (5) The effect of hetamurasaki-nasu on the plasma elements of AAPH-administered rats was compared with the results for rats that were not fed hetamurasaki-nasu. The hetamurasaki-nasu group showed lower GOT and GPT in the plasma compared to the control group.
Keywords: Kaga-yasai, DPPH radical scavenging activity, ACE inhibitory activity, antimutagenic activity


1.緒言
 石川県には「加賀野菜」と呼ばれる伝統野菜が栽培, 採取されている。加賀野菜は主として昭和20年以前から金沢市
近郊で栽培されている野菜であり, 現在, さつまいも(五郎島金時), 加賀れんこん, たけのこ, 加賀太きゅうり, 金時草, 加賀つるまめ, ヘタ紫なす, 源助だいこん, せり, 打木赤皮甘栗かぼちゃ, 金沢一本太ねぎ, 二塚からしな, 赤ずいき, くわい, 金沢春菊の15品目が認定されている。
 近年, 食に対する消費者ニーズは, 栄養素の摂取やおいしさを感じさせる感覚機能の充足だけでなく, 生活習慣病など種々の疾病に対する予防効果(生体調節機能)を期待するようになっている。このような食品の機能性への関心が高まっていることから, 本県においても県農産物の各種機能性成分を利用した加工食品への開発が望まれている。農産物の機能性作用については津志田らによる抗酸化性検索1), 木村らによるラジカル消去能の検索2)などの報告があるが, これまで石川県産農産物の機能性についてはほとんど報告されていないのが現状であった。
 そこで,本研究では加賀野菜に注目し, 加賀野菜について機能性, 即ち抗酸化性(ラジカル消去活性), 血圧上昇抑制効果(アンジオテンシンT変換酵素阻害能), 抗アレルギー効果(ヒアルロニダーゼ阻害能), 抗変異原性について検索を行い,加賀野菜の機能性のデータベース化を目的とし,再現性の高い測定結果を得ることができたので報告する。また,加賀野菜を利用した食品の試作検討を行ったので併せて報告する。

2.実験方法
2.1 試料
  加賀野菜(15品目)は市販品及び, 金沢市農業センターから入手したものを用い, それぞれを凍結乾燥した後, 粉砕し供試試料とした。対照の野菜は市販品を購入した。

2.2 抗酸化能(1,1-diphenyl-2-picrylhydrazyl(DPPH)))ラジカル消去能)の測定
  凍結乾燥粉末0.5gに25mlのジメチルスルホキシド(DMSO)を加えホモジナイズした後, 遠心分離(3,000rpm,10分間)によって得られる上清を抗酸化能の試料とした。試料が濃い場合にはDMSOで適意希釈した。測定は, DPPHを用いたラジカルの消去活性を篠原ら3), 道畠ら4)の方法に準じて測定した。測定値は, 抗酸化剤であるTrolox相当量として算出した。

2.3 血圧上昇抑制効果(アンジオテンシンT変換酵素(ACE)阻害能)の測定
  それぞれの凍結乾燥粉末0.25gを10mlのリン酸緩衝液(pH8.3)で抽出した抽出液を用い, HORIUCHIら5),OHTAら6)及び道畠ら4)の方法に準じ測定し評価した。ACE阻害能はサンプルの代わりにリン酸緩衝液を添加した反応液の馬尿酸生成量を100%とし, サンプル濃度を3段階の濃度別に測定を行い得られる近似曲線よりACEを50%阻害する濃度をそれぞれ比較した。

2.4 抗アレルギー効果(ヒアルロニダーゼ阻害能)の測定
 Kakegawaらの方法7)に準じ測定を行った。即ち, 酵素溶液はヒアルロニダーゼ(TypeW-S From Bovine Testes, SIGMA製)8mgを0.1M酢酸緩衝液(pH 4.0)2mlに溶解した。酵素活性化溶液は, Compound48/80(SIGMA製)2mg, 塩化カルシウム・二水和物15mgを酢酸緩衝液4mlに溶解した。基質溶液は, ヒアルロン酸カリウム(From Rooster Comb,和光純薬製)8mgを酢酸緩衝液10mlに溶解した。測定は,試料溶液0.1mlに酵素溶液0.05mlを加え, 37℃で20分間保持した後, 酵素活性化溶液0.1mlを加え, さらに37℃で20分間保持した。その後基質溶液0.25mlを加え37℃で40分間反応させ, 0.4N水酸化ナトリウム0.1mlを添加し反応を停止した。そこにホウ酸カリウム溶液(0.8Mホウ酸水溶液100mlに水酸化カリウム2.24gを加えて溶解)0.1mlを加え, 沸騰水浴中で3分間加熱した後, 室温まで冷却し, p-ジメチルアミノベンズアルデヒド溶液(p-ジメチルアミノベンズアルデヒド5gを酢酸44ml, 10N塩酸6mlに溶解したものを適意酢酸で10倍に希釈し使用)3mlを加えた。37℃で20分間保持した後, 585nmにおける吸光度を測定した。結果は次式により表した。

 ヒアルロニダーゼ活性(%)
={(S−SB)/ (C-CB)}×100
S:試料溶液を入れた時の吸光度
SB:酵素の代わりに酢酸緩衝液を入れた時の吸光度
C:試料溶液の代わりに蒸留水を入れた時の吸光度
CB:酵素の代わりに酢酸緩衝液を加え, 試料溶液の代わりに蒸留水を入れた時の吸光度
  対照として, 抗アレルギーを有する製剤, Disodium Cromoglycate(以下, DSCG)を0.5mg/mlの濃度で用いた。

2.5 抗変異原性の測定
  抗変異原性の測定は食品機能研究法8)に準じて測定を行った。即ち, 加賀野菜の凍結乾燥粉末0.5gを25mlのDMSOで抽出し, 0.45μmフィルター,0.2μmフィルターで順次ろ過し抗変異原性測定の試料とした。サルモネラ(Salmonella typhimurium)TA98菌株保存培地から, 一白金耳を10mlの培地(Oxoid Nutrient Broth No.2)に接種し, 37℃で14時間好気的に振とうして前培養とした。変異原物質としてTrp-P2(和光純薬製)をDMSOに溶解(0.5μg/ml)して用いた。試料100μl, Trp-P2溶液100μl, S-9mix(キッコーマン株式会社)100μlを滅菌小試験管内で混合し, リン酸緩衝液600μlを加えた。ここに前培養したTA98菌株懸濁液100μlを加え, 37℃で20分間振とうした。振とう後, 小試験管に2mlのトップアガー(0.7%寒天, 0.5%食塩, 50μMビオチンおよび40μMヒスチジンを含む)を加え, 最小グルコース培地(テスメディア 和光純薬製)に重層した。シャーレは37℃で2日間培養し, 生じたヒスチジン非要求性突然変異コロニー数を計数した。抗変異原性(%)は下式により求めた。なお, 試料そのものの変異原性, あるいは試料の試験菌株に対する毒性は認められなかった。

  抗変異原性(%)
=100−{(1−(A-B)/(C/D))×100 }
A:試料と変異原物質(Trp-P2)添加時のコロニー数
B:試料のみ添加時のコロニー数
C:Trp-P2添加時のコロニー数
D:添加物なしのコロニー数(自然復帰)

2.6 動物試験
2.6.1 実験試料
  ヘタ紫なすの表皮部分を凍結乾燥し, 粉末化したもの用いた。

2.6.2 実験動物及び飼育方法
  実験動物は8週齢(約230〜250g)のJC1:SD雄系ラット(日本クレア株式会社)を用いた。飼料はコントロール食, ヘタ紫なす表皮部粉末1%を添加したヘタ紫なす食の2群(n=6)に分けて, 7日間飼育した。実験飼料は表1に示す。飼育期間中は飼料, 飲料とも自由摂取とし, 飼育室は22℃±2℃, 照明は12時間おきに自動的に明暗に切り替わるように調整し飼育した。飼育7日目に2,2-azobis(2-amidinopropane)dihydrochloride(AAPH)を60mg/kg 体重で腹腔内投与後, 各群をAAPH投与群(n=3)と非投与群(n=3)に区別した。非投与群は投与群と同量の生理食塩水を腹腔内投与した。
  摂餌量, 摂水量は毎日各群ごとに測定し, その量を各群のラット数で割ることによって一匹あたりの1日の摂餌量と摂水量を求めた。体重の増加量は飼育期間終了日とAAPH投与日の2回測定を行った。
  AAPH投与後の約24時間以内に全群のラットをジエチルエーテル麻酔下で開腹し腹部大動脈より採血し, ただちに肝臓の摘出を行い重量を測定した。

2.6.3 血漿成分の測定
  採血した血液を直ちに遠心分離(1,000rpm, 20分間)し血漿を得た。得られた血漿は,市販測定キットを使用し,Glutamic oxaloacetic transaminase(GOP), Glutamic pyruvic transaminase(GPT), γ-GTP, 過酸化脂質を測定した。

(表1 実験飼料組成)

2.6.4 統計処理
  実験結果は平均値±標準誤差で表し,Duncanの多重比較法により群間の有意差(p<0.05)を判定した。

3.結果と考察
3.1 抗酸化能
  加賀野菜の抗酸化能を図1に示す。抗酸化能が最も高かったのはヘタ紫なすで,次いで加賀つるまめ,加賀れんこん,金時草,二塚からしな,赤ずいき,せり,源助大根の順であった。太きゅうり,たけのこ,加賀一本ねぎ,打木赤皮甘栗かぼちゃ,五郎島金時,くわいには抗酸化能は認められなかった。抗酸化能が高かった野菜について,通常の野菜との抗酸化能を比較した結果,ほとんどの加賀野菜で,対照野菜よりも抗酸化能が高くなった(図2)。
 収穫年度における抗酸化能の推移について,平成14〜16年度に収穫された加賀野菜で測定を行った結果,収穫年度によって,抗酸化能に差が認められた(図3)。特に,加賀つるまめでは,H15年度のものが,H14年,H16年度のものに比べ約1/3,金時草では,H15年度のものが,H14年度,H16年度のものに比べ,約3倍の抗酸化能を示した。ただし,年度により収穫時期が異なっていることから,抗酸化能の変動は収穫年度の気象条件や収穫時期の差異などが考えられ,今後更なる検討が必要である。
  抗酸化能は,がんや心疾患をはじめとする生活習慣病の予防や老化そのものの防止に関与する重要な生理的機能性であり,これまでの多くの研究により,野菜類やその他の食用植物に含まれる抗酸化成分が数多く単離されるとともに,それらの作用機構も次第に明らかにされてきている1)2)。本試験において,抗酸化能とポリフェノール含量には高い正の相関(R2=0.7551)が認められた(図4)。このことから,加賀野菜における抗酸化能は,主として野菜に含まれるポリフェノールに起因することが考えられる。著者らは,金時草については,抗酸化能を示す成分の1つがポリフェノールの中のアントシアニンであることを明らかにしており9),抗酸化能が高かったヘタ紫なすについても,表皮部分に含まれるアントシアニンが高い抗酸化能を示していると考えられる。また,抗酸化能が高かった加賀つるまめ,加賀れんこんでも効果はポリフェノール類に起因していると考えられ,今後更に詳細な検討が必要である。

(図1 加賀野菜の抗酸化能(H14年度))
(図2 加賀野菜と市販野菜の抗酸化能(H14年度))
(図3 収穫年度別抗酸化能)
(図4 加賀野菜のポリフェノール含量と抗酸化能)

3.2 ACE阻害活性
 加賀野菜のACE阻害活性を図5に示す。二塚からしなに最も強い阻害活性がみられ,次いでヘタ紫なす,くわい,加賀つるまめ,金沢一本太ねぎ,加賀太きゅうりなどに高い活性が見られた。五郎島金時,赤ずいき,加賀れんこんは活性が認められなかった。また,最も活性の高かった二塚からしなは通常のからし菜の約3倍の阻害活性を示した(図6)。金沢一本太ねぎ,赤皮かぼちゃ,金沢春菊,源助だいこんでは,2〜3割ほど通常の野菜よりも高い活性を示したが,その他はほぼ同等であった。加賀つるまめについては,さやえんどうの方が高い活性を示した。
  ACE阻害活性を示す成分として,ジペプチド,トリペプチドなど短鎖のペプチド類が知られており,カプトプリルなど臨床薬としても利用されている10)11)。その他,もろへいや12)やハーブ類13),種々の食品14)などの抽出物にもACE阻害活性が認められるという報告があり,ペプチドやトリペプチド以外の阻害活性成分の存在も考えられる。しかし,本試験で,ACE阻害能とポリフェノール含量との相関は認められず,また,ACE阻害能とタンパク質含量との間にも相関は認められなかった。このことから,ポリフェノールやタンパク質以外の何らかの成分がACE阻害能を示すことが示唆され,今後の検討が必要と考えられる。

(図5 加賀野菜のACE阻害能(H14年度))
(図6 加賀野菜と市販野菜のACE阻害能(H14年度))

3.3 ヒアルロニダーゼ阻害活性
  金時草,源助だいこん,二塚からしなにおいてヒアルロニダーゼ阻害活性が見られたが,いずれも弱い活性であった(表2)。その他の野菜については,ほとんど活性は認められなかった。

(表2 ヒアルロニダーゼ阻害能)

3.4 抗変異原性
  抗変異原性では,ヘタ紫なすと金時草,せりに80%以上の強い抗変異原性が認められた。二塚からしな,加賀れんこん,金沢春菊は50%以上の抗変異原性が認められた(図7)。野菜に含まれる抗変異原性成分として,これまで,リコピン15),ケルセチン16)などの報告がある。今回,加賀野菜に含まれるポリフェノール含量と抗変異原性を検討した結果,2つの要素には正の相関が認められた(図8)。このことから,加賀野菜に含まれるポリフェノール成分が抗変異原性に関わっていると考えられる。著者らは,これまでに金時草のアントシアニンを含む抽出画分ががん抑制機構の一つであるアポトーシス誘導効果を示すことを確認しており17),本実験での金時草の高い抗変異原性と併せてin vitroでのがん抑制効果が明らかとなった。また,ヘタ紫なすの高い抗変異原性についても,表皮部分に含まれるアントシアニンが高い抗変異原性に関与していると考えられる。今後は,ポリフェノール成分の単離,抗変異原活性に対する作用機構など検討が必要と考えられる。

(図7 加賀野菜の抗変異原性(H14年度))
(図8 加賀野菜のポリフェノール含量と抗変異原性)

3.5 動物試験結果
  加賀野菜の機能性(抗酸化能,血圧上昇抑制効果,抗アレルギー作用,抗変異原性)について検索を行い,ヘタ紫なすは抗酸化能や抗変異原性が強いことを明らかにした。また,へた紫なすの表皮と実との抗酸化能を比較したところ,表皮部分に実部分の約1.3倍の強い抗酸化能が認められた。そこで,ヘタ紫なすに注目し,2, 2 -azobis( 2 -amidinopropane) dihydrochloride(AAPH)によって誘導される肝毒性に対するヘタ紫なすの効果をラットを用いて検討した。飼育期間中の体重増加量はヘタ紫なす食群が有意に多くなった。餌摂取量,水摂取量についてはコントロール群,ヘタ紫なす群間に有意差は認められなかった。肝臓重量では,コントロール群,ヘタ紫なす群ともAAPH投与後に,肝臓重量の減少が認められたが,ヘタ紫なす食群では肝臓重量の減少が緩慢であった(表3)。血漿中の成分では,コントロール群に比べ,コントロール+AAPH投与群ではGOT,GPT活性が上昇したが,ヘタ紫なす群では,AAPH投与群においてもGOT,GPTの急激な上昇は認められなかった。γ-GTPでは,コントロール群に比べ,ヘタ紫なす群の活性が有意に高かった(表4)。γ-GTPはアルコール等による肝障害によって活性が高くなるのだが,今回はどのAAPH投与群も非投与群に比べ活性が低くなっており,これについては再度検討が必要と考えられる。過酸化脂質濃度ではコントロール非投与群が他の3群に比べ低くなった。ナスの表皮の色素はナスニンと呼ばれるアントシアニンであり,木村ら18)は,ナスニンをパラコート酸化障害ラットに投与し,パラコートによる肝臓のTBARS(チオバルビツール酸反応物)の上昇,肝臓ミトコンドリア画分のカタラーゼ活性の低下,肝臓トリアシルグリセロールの低下などの酸化障害の防御にナスニンが効果的なことを示している。本研究でも,AAPHを投与したラットの血漿成分にナスニンが影響を及ぼしていることが推定され,今後さらに作用機構など詳しい検討が必要である。

(表3 ヘタ紫なす食がラットの体重増加量、餌水摂取量、肝臓重量に及ぼす影響)
(表4 AAPH投与ラット血漿成分に対するヘタ紫なすの影響)

3.6 加賀野菜を利用した食品の開発
 加賀野菜は抗酸化能,ACE阻害能,抗変異原性などの機能性を有することが明らかになり,加工利用が望まれている。しかし,加賀野菜は一部を除いて生産農家は限られており,また栽培に手間をかけるために価格も割高,季節限定の種類も少なくない。そこで,収穫時期を問わず通年で,しかも手軽に加賀野菜を摂取できることを目的とし,加賀野菜をペースト,粉末状にしたものを利用した冷蔵・冷凍食品惣菜の試作を羽二重豆腐株式会社と共同で行った。試作は加賀野菜そのままもしくはペースト,粉末を利用し,がんも,プリン,フライなどを試作した(図9)。

(図9 加賀野菜を使った冷蔵・冷凍惣菜試作品)

 また,これまでの研究成果を踏まえ,加賀野菜を利用した新規加工食品が開発されている。金時草色素抽出液を利用した「金時草酢味つゆ」が青木クッキングスクールより販売された(平成15年4月より販売)。また,金時草色素,加賀つるまめ,打木赤皮甘栗かぼちゃの凍結乾燥粉末を麩焼き菓子の飾りとして利用し,平成15年10月より販売が開始された(坂尾甘露堂)(図10)。更に,多くの県内食品企業において加賀野菜を利用した加工食品の開発がさかんに行われており,今後も多くの商品の開発,販売が期待できる。

(図10 現在販売されている加賀野菜を利用した商品)

 加賀野菜はこれまで生鮮野菜としての販売が主であった。しかし,機能性などを生かし加工利用の可能性が開け,加賀野菜を利用した食品という石川ブランドを全面にあげることで,観光商品としても有意性が保つことができる。また,このような加工品が販売されることで,生産量の増加などが見込まれ,今後,原料の確保・供給体制づくりが重要となってくると考えられる。

4.結言
 石川県の伝統野菜である加賀野菜に注目し,加工食品への利用などによる地域農産物の付加価値向上を目的として,機能性の検索を行い以下の結果を得た。
1.DPPHラジカル消去法による抗酸化能測定により,ヘタ紫なす,加賀つるまめ,加賀れんこん,金時草などに強い活性が認められた。
2.ACE阻害能測定により二塚からしなに強い活性が認められた。
3.抗変異原性測定により,ヘタ紫なす,金時草に強い活性が認められた。
4.抗酸化能,抗変異原性とも加賀野菜に含まれるポリフェノール含量と正の相関がみられ,ポリフェノールがこれらの活性に関与している可能性が示唆された。
5.ヘタ紫なす食がAAPH投与ラットの血漿成分に及ぼす影響を検討した結果,AAPH投与による血漿中のGOT,GPT活性の上昇をヘタ紫なす成分が有意に抑制することが明らかとなった。

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