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LCD輝度むらの改善手法の開発

■電子情報部 漢野救泰 米沢裕司 中野幸一
■(株)ナナオ 陶山記代 小野正貴

 LCD(液晶ディスプレイ)などのディスプレイでは,表示面に輝度むらが生じており,重要な課題の1つとなっている。この課題に対して,本研究では輝度むらを改善する目的で,特定の基準による目標輝度値の設定及び表示パネルの階調特性に基づいて,入力信号レベル(階調値)を補正する手法について検討した。輝度補正演算は,階調値によって異なる輝度分布に対応できるように,階調値ごとの補正係数を計算することで行われる。本手法の有効性は,補正前後の2次元輝度分布を測定する実験により評価した。評価実験の結果,本手法は,測定輝度値が目標輝度値以上であった領域で輝度均一化を達成し,限定された少ない輝度データ数からでもLCDの効率的な輝度むら補正に利用できることがわかった。
キーワード:液晶ディスプレイ,輝度,むら,階調

Development of a Method to Improve Luminance Non-uniformity in LCD

Sukeyasu KANNO, Yuji YONEZAWA, Kouichi NAKANO, Kiyo SUYAMA and Masaki ONO

Luminance non-uniformity is one of the biggest problems in displays such as LCD. This paper describes a method of modifying the input signal level (gray value), based on the target luminance value fixed according to a specific standard and the gray scale characteristics of the panel, for the purpose of improving luminance non-uniformity. The modification process is carried out by calculating modification factors at every gray value, in order to deal with various types of non-uniformity. The effectiveness of the proposed method was examined through experiments involving measurement of two-dimensional luminance distribution before and after the modification process. The results showed that this method achieves luminance uniformity for the area where the measured value was higher than the target value, and can be used for an efficient improvement of luminance non-uniformity in LCD with even a limited amount of luminance data.
Keywords:LCD(Liquid Crystal Display), luminance, non-uniformity, gray scale


1.緒言
 近年,LCDなどのディスプレイは,医療,印刷など各種業界での普及により,従来にも増して,その高品質化が要求されている。その1つとして,表示面上に発生している輝度むらの改善がある。LCDの場合,輝度の不均一性はバックライトの発光分布の特性や液晶層のギャップむらなどに起因している1)。そして,むらの様子・程度はディスプレイごとに異なっており,重要な課題となっている。
  一般にディスプレイの輝度のむらには,局所的なむらと画面全体の大域的なむら(輝度の緩やかな勾配による不均一性)が存在する。局所的なむらに関しては,これまでにもむらの抽出・定量化手法が提案されている2)。一方,大域的でかつ一様でないむらは,その抽出・評価が容易ではない。このようなむらのあるディスプレイで写真などの画像を再生した場合には,観察者はむらの存在を本来の画像の一部として認識し,異なる印象を与えてしまう。
 本研究では,LCDの大域的な輝度不均一性を含むむらの改善を目的として,表示画面内の輝度分布を測定・解析し,目標輝度値と階調特性に基づいて効率的に輝度むらを補正する手法について検討した。

2.輝度分布
2.1 2次元輝度分布の測定
  現状のLCDの輝度むらの様子と補正処理による改善効果を把握するためには,画面全体の輝度分布を正確に測定する必要がある。本研究では,2次元色分布測定装置CA-1500(以下,測定装置)3)を使用した。
  測定装置では,受光センサとしてモノクロCCDエリアセンサを使用しており,光学レンズ,フィルタセットなどを組み合わせた光学系全体で,人間の目の感度に相関の高い分光感度を有している。このため,エリアセンサで得られる画像データから輝度・色度を測定できる。また,測定装置は測定点として40,000画素を持っているが,すべての画素で,画素間のバラツキなど誤差要因を補正する校正係数が存在し,高い精度で2次元輝度分布が測定できる3)。

2.2 LCDの輝度分布
 図1は,LCDの輝度分布の測定例である。各階調値(16,32,…,255の16種類)の画像を表示させた時の結果であり,輝度むらの存在及びむらが階調値によって異なる様子が確認できる。

(図1 LCDの輝度分布)

3.輝度むらの補正手法
 表示面内の輝度むらを低減させるため,輝度むらが存在する領域の輝度を階調値補正演算により均一化させる方法を検討した。補正の方法としては,輝度の低い領域に対して輝度を高くする補正と,輝度の高い領域に対して輝度を低下させる補正が考えられる。このうち,輝度を低下させる方が容易であるため,輝度の高い領域に対して補正を行うことで,表示面の輝度を均一化させる。

3.1 輝度むらテーブル
 2.2節のように,測定装置を用いてLCD表示面内の輝度分布を測定する。最大測定データ数は200×200(輝度むらテーブルの最大サイズ)である。高精度にむらを補正するためには全データを使用する必要がある。しかし,データを格納するメモリ容量の増大が問題となる場合には,8×8など,輝度データ数を間引いて,限定された画素位置のみの輝度データで構成された輝度むらテーブルを作成する。
  また,図1のように階調値によりむらの様子が異なるため,階調値ごとの輝度むらテーブルを作成する必要がある。ただし,この場合も高精度補正のためには全階調値での輝度むらテーブルが必要であるが,メモリ容量の制限によっては,特定の数種類の階調値での輝度むらテーブルのみを作成する。

3.2 目標輝度値の設定
 測定された輝度分布を基に,輝度均一化の基準となる目標輝度値を設定する。目標輝度値としては,以下の方法を検討した。
(a)表示面中心位置の輝度値を基に設定した目標値
   表示面中心位置での測定輝度値に対して,特定の輝度低減比率を乗じることで算出される。
(b)輝度均一化程度を基に設定した目標値
   補正処理により輝度が均一化される領域が,表示面全体に対して所定の割合になるように算出される。
  以上の方式において,いずれも目標値以上の輝度を有する領域を補正対象(輝度低減対象)とする。目標輝度値が高い場合は輝度均一化割合が低く,目標輝度値が低くなるに従い,輝度均一化割合が高くなる。
  目標値は各階調値について設定する必要があるが,上記の目標値算出は特定の階調値に対してのみ行うことで,他の階調値での目標値は,表示パネルの階調特性(ガンマ特性)に基づき自動的に求めることができる。入力信号レベル(階調値)と輝度値との関係は,一般に輝度値が入力信号レベルのγ乗に比例する。γはガンマ値である。このため,階調値VAの目標輝度値LAに対して,階調値VBの目標輝度値LBは,次式で求められる。
   LB=(VB /VA)γ・LA (1)
上式により目標輝度値を自動算出した場合は,方式(b)では,基準となる階調値以外の階調値で,輝度均一化領域が所定の割合を下回ることがある。この場合は,この階調値で目標輝度値が所定の均一化割合になるように再設定する。

3.3 補正係数テーブル
 特定の階調値において,輝度むらテーブルの各画素の測定輝度値と目標輝度値から各補正係数を算出する。補正係数は,画素位置をi行j列で表すと,階調特性(図2)に基づき式(2)で求められ,補正係数テーブルを作成する。
  k(i,j)={L/L(i,j)}(1/γ) (2)
  k(i,j):補正係数テーブルのi行j列における補正
係数値
  L(i,j):輝度むらテーブルのi行j列における測定
輝度値
  L:目標輝度値
  補正係数テーブルは,輝度むらテーブルに対応し,特定の階調値ごとに作成することで,必要に応じた数種類の補正係数テーブルが得られる。
 以上が前処理であり,階調値補正による輝度むら補正処理は次節以降で実施される。

(図2 輝度補正計算)

3.4 補正係数テーブルの選択
 表示面の各画素に対して,補正計算に使用する補正係数テーブルを選択する。数種類の補正係数テーブルの中から,補正対象画素の階調値の上下方向にそれぞれ最も階調値が近い補正係数テーブルT1とT2を求める。ここで,階調値が一致する場合,上下のうち一方しか補正係数テーブルが存在しない場合は,そのテーブルT1のみが選択される。また,補正対象画素の階調値とT1,T2の各階調値との差を,距離d1,d2として求めておく。

3.5 補正係数の補間
 T1,T2を使用して,それぞれの階調値での補正対象画素の補正係数を計算する。まず,補正対象画素位置が補正係数テーブルに登録された画素位置と一致する場合は,その補正係数が選択される。その他の画素位置での補正係数は,補間処理によって計算される。 
 補間処理方法については,輝度分布に適した処理として複数の多次元正規分布の利用などが有効であるが,演算量削減の観点からは以下の線形補間が容易である。補正係数テーブルから,補正対象画素位置の周辺4点の画素位置の補正係数を選択する。水平方向,垂直方向の線形補間を施すことで,この4点で囲まれる補正対象画素の補正係数が求められる。画素位置が表示面の上下端あるいは左右端付近にある場合においても同様に求められる。以上により,T1における補間補正係数k1,T2における補間補正係数k2が求められる。

3.6 階調値の補正演算
 補正対象画素の階調値V0のT1における補正演算は以下により行われ,補正階調値V1が求まる。
V1=V0・k1
 補正対象画素に対して選択されたテーブルがT1のみの場合は,最終的な補正階調値V =V 1である。
 テーブルT2も選択された場合は,T2における補正演算も同様に行われ,補正階調値V2が求まる。
V2=V0・k2
V1,V2を用いて,以下によりVが計算される。
  V=(V1・d2+V2・d1)/(d1+d2) (3)
 あるいは,以下のようにk1,k2を用いた補正係数の補間により,補正対象画素の最終的な補正係数kを求めることからも算出できる。
k=(k1・d2+k2・d1)/(d1+d2) (4)
  V=V 0・k
 上記において,補正係数が1以上の場合は補正を行わない。

3.7 中間階調処理
 階調値が等しい領域を持つ画像を階調値補正後に表示すると,少ない階調数では上記補間処理を施しても偽の輪郭線を生じることがある。この場合は,人間の視覚特性から中間階調を表現し,輪郭線を目立たなくさせる方法としてディザ法4,5)を使用する。本手法では,下位2ビットに対してディザ行列を使用し,行列の各要素によりしきい値処理を行う。

4.実験結果
 前記アルゴリズムに基づいて,LCD に対して補正係数テーブルを作成し,階調値補正を行うシステムを開発した。このシステムにより,補正前後の輝度分布を測定することで,本手法の検証を行った。その結果,補正前の測定輝度値が目標輝度値以上である表示領域については,輝度をほぼ均一に補正できることを確認した。補間処理及び中間階調処理は,テーブルサイズが200×200の場合は施す必要がなかったが,サイズを小さくした場合(16行×16列程度)の補正では必要であった。また,テーブル数が少ない場合は,各補正係数を階調方向で線形補間することにより,テーブルの階調値とは異なる階調値においても同等に輝度むらが補正できた。補正前(図3)と比べて,輝度むら補正処理の結果は,図4のとおりであり,輝度均一化が確認できる。

(図3 補正前の輝度分布とヒストグラム)
(図4 補正後の輝度分布とヒストグラム)

5.結言
 階調特性に基づいて輝度むらを補正する手法とこれを実行するシステムを開発し,少ない輝度データからでも輝度むらが効率的に改善できることを確認した。輝度分布は階調値によって異なるため,複数の階調値の各補正係数テーブルを作成・使用することで,輝度むら補正が可能となった。本手法では,目標輝度値の設定により,輝度均一性を優先(輝度値は低くなる)させるか高輝度を優先(輝度均一性は高くない)させるかを選択できる。

謝辞
 本研究は,石川県の平成14〜16年度地域産学官連携豊かさ創造研究開発プロジェクト推進事業「実物の深い美,質感等が再現できる高品質画像・音再生装置の開発と実用化」(管理法人:(財)石川県産業創出支援機構,PL:北陸先端科学技術大学院大学教授宮原誠氏)の一環として行われました。関係各位に感謝します。

参考文献
1)橋本憲幸. 画像表示装置(3)-LCDモニタ. 日本放射線技術学会雑誌. Vol. 59, No. 1, 2003, p. 25.
2)森由美,田村徹,吉武良治,森口喜代,棚橋高成,辻智. 認識限界コントラストに基づいた輝度ムラの定量化手法. 映像情報メディア学会誌. Vol. 56, No. 11, 2002. p. 1837-1840.
3)上松幹夫. 2次元色分布測定装置CA-1500の開発. 月刊ディスプレイ. No. 2, 2002, p. 55-61.
4)安居院猛,中島正之. 基礎情報工学シリーズ13. 画像情報処理. 東京, 森北出版, 1991, p. 55-58.
5)画像処理ハンドブック編集委員会. 画像処理ハンドブック. 東京, 昭晃堂, 1987, p. 210-213.