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能登栗の皮むき省力化機器の開発

■機械金属部 多加充彦 古本達明 嶺蔭士朗

 本研究では,能登地区におけるむき栗の安定供給体制を確立するため,人手による栗の皮むき作業の省力化を可能にする鬼皮むき機を開発した。まず,ノコ刃を取り付けた回転テーブルを用いた機械的手法を基本にして効率的に鬼皮を除去できる新しい機構を考案した。さらに,その機構を備えた試作機を製作し,フィールドテストによりこの機械の性能を評価した。その結果,この開発した機械が省力化のために役立ち,むき栗の生産性の向上に対して高い実用性を有することを確認した。
キーワード:省力化機械,食品加工,栗,皮むき

Development of Labor Saving Machine for Peeling Noto Chestnuts

Mitsuhiko TAKA, Tatsuaki FURUMOTO and Shiro MINEKAGE

We developed a peeling machine for the outer skin of chestnuts called "oni-kawa" for the purpose of saving labor and ensuring a stable supply of peeled chestnuts in the Noto district. First, a new system using a turntable with saws was developed to peel the chestnut skin efficiently. Then, a prototype with this mechanism was manufactured, and the performance of the machine was evaluated in a field test. As a result, it was confirmed that the machine would contribute to labor saving and improve productivity in the peeled-chestnut industry.

Keywords:labor saving machine, food processing, chestnuts, peeling


1.緒言
 能登地区では,昭和40年以降,国営農地開発地を中心に丹沢,筑波などの品種の栗が栽培され,現在,年間約100トンの生栗が皮付きの状態で共同出荷されている。これら能登栗は市場価格300〜400円/kgで取り引きされているが,低価格な中国産栗や韓国産栗の進出などの影響を受け,生産者は経済的に厳しい状況に直面している。
  一方,県内菓子業界では地元食材を用いた商品開発が活発に行われており,能登栗も菓子の原料としてむき栗に加工した状態での出荷が望まれている。そこで,地元農協では平成14年より収穫した生栗の一部をむき栗に加工し,菓子業界への出荷を試験的に実施した。その結果,新鮮で味覚や外観などの品質も良いことから,季節限定の高級和菓子に利用されるなど引き合いも多くなった。しかし,むき栗加工は,5,6人の高齢作業者の手作業によって行われており,作業者の負担も大きく,人件費等を考えると1日に重量25kgの供給が限界となっている。県内菓子業界からの要望に応え,さらにむき栗の販路を拡大していくためには生産工程に機械を導入し,高齢作業者の負担軽減と生産性の向上を図ることが必要不可欠となっている。ところが,能登地区の生産規模に適する実用的な皮むき機は市販されておらず,国内栗主産地における皮むき処理は未だ手作業で行われているのが現状である。
  本研究は,県農林水産部の新産地づくり支援事業としてJAおおぞら(穴水町)が中心となって推進するむき栗の安定供給体制の確立への協力依頼を受け,栗皮むき作業の省力化と生産性の向上を図るための簡易型鬼皮むき機の試作開発を行った。

2.栗の皮むき工程
2.1 国産栗の構造的特徴
 一般に,国産栗(日本栗)は外国栗に比べ果実が大きく,その果実の形態は毬(いが)の中に収まっていたときの個数や配置により側面が球面状であったり,平面状であったりするなど個体差が大きい1)。また,果実は通称”鬼皮”,”渋皮”と呼ばれる果皮で覆われているが,鬼皮は硬くて表面が滑り易く,渋皮は果実に密着して剥がれにくくなっており,外からの刺激に対し強固に内部を保護する構造を有している。

2.2 栗の皮むき方法
  このような特徴から分別などの取り扱いに苦慮する栗の鬼皮や渋皮を効率良くむくため,これまで数多くの物理的・化学的手法が提案されている1)。最も一般的な方法は切削・研削など機械的手法によるもので,その他,冷凍・加熱処理や酸などの薬品で処理するもの,またそれらを複合したものがある。ところが,これらの方法を用いた装置が開発されてもほとんど生産機として普及していない。この主原因は皮むきの高機能化を追求するほど製造コストが高くなる反面,栗の収穫期が約2カ月間と短いため機械の稼働率が低く,設備投資によるメリットが十分得られないことが挙げられる。また,加熱や化学的処理を行うと生栗本来の色合いや味覚が損なわれる恐れもある。現状では果皮を完全除去できる理想的な機械は開発されておらず,手仕上げを省くことができないことから,専用のはさみ工具2)などを用いた手作業による方法が主流となっている。
 以上のような状況から,現実的な生産工程の機械化においては手仕上げの前処理に利用し,年間稼働率を考慮して常設を必要としない簡易で低価格な装置の開発が望まれているといえる。

2.3 能登地区におけるむき栗の生産工程
 能登地区の栗産地活性化を図るため,JAおおぞらでは,県内菓子業へのむき栗の供給を開始した。むき栗の取引価格は,kg単価で皮付き生栗の約6〜8倍にもなり,付加価値は高い。しかし,菓子業界からの要望は果実の変色を防止し,食感を良くするため,渋皮がほぼ完全に除去された状態での供給という厳しい条件を伴う。そのため,最終工程の手仕上げは避けられないものの,全工程手作業による方法では1日に25kgの加工出荷が限界となっており,供給量の拡大の要望に対応できなくなっている。
  そこで,図1に示すように全工程を鬼皮むき,渋皮むきおよび手仕上げの3工程に分け,前者の2工程の機械化が検討された。これにより,手仕上げ工程ではわずかに残った渋皮を切除するだけとなり,手作業における労力は大幅に削減され,1個当たりの作業時間の短縮により生産性の向上が期待できる。
  栗皮むき機の導入に関しては,前節で述べた現状から,能登地区の生産規模に見合う鬼皮むき機は市販されておらず,新たに開発する必要があった。そのため工業試験場では,県農林水産部の協力依頼を受け,鬼皮むき機の試作開発に着手した。
  一方,渋皮むき機は平成15年に広島県の潟`ヨダから砥石研削による簡易型機械が製品化され,これを利用することにした。

(図1 むき栗の生産工程)

3.鬼皮むき機
3.1 仕様の目標設定
  渋皮むき工程で用いる市販機は鬼皮を除去した栗に対し,段取り時間などを含めると一回当たり30分間で25kgを処理することができる。生栗から鬼皮を除去すると重量は約80%に減少するため,この25kgを準備するには前の鬼皮むき工程では約33kgの生栗を処理することが必要である。すなわち,鬼皮むき機には1分間で重量が約1.5kg(約100個)の生栗を処理する能力が必要とされる。
  鬼皮むき機の試作開発においては,以上のような処理能力を目標値とし,しかも構造を単純化した簡易型機械の試作を目指すこととした。

3.2 鬼皮むき機の基本構造
  多量の生栗を短時間で処理する機構として,鬼皮表面にキズを付け,それをきっかけにして鬼皮を引きはがす機械的手法が有効であると考え,図2に示すような複数枚のノコ刃を取り付けた加工テーブルを回転させる構造を基本に用いた。この方法は,ノコ刃によって表面にキズが付けられた栗が容器や栗同士との衝突を繰り返し,その衝撃や干渉によって鬼皮をむくことが可能である。しかし,単なる回転だけでは図3(a)に示すように回転時の遠心力により栗が円筒容器の側面に集中してしまい,浮遊する栗はノコ刃との接触が不十分でむき具合にばらつきが生じるなどの欠点がある。しかも容器容量の割に処理できる栗の量は少ない。そこで,これら欠点の解決法として(b)に示すようにテーブル上面から栗を加圧することでノコ刃との接触域の増加と切削性の向上を図り,同時に片べりしないよう栗が適度に容器内を循環できる機構を考案した(特許出願中)。さらに,容器側面には鬼皮の剥離と排出のための独自形状のスリットを設けるなどの工夫を取り入れた。図4に試作機の外観を示す。試作機は最大2.5kgの栗の投入が可能で,駆動にはインバータ制御による200Vの誘電モータを用い,直径300mmのテーブルには4枚の超硬合金製のノコ刃が取り付けられている。

(図2 基本構造)
(図3 基本構造の欠点とその解決法)
(図4 試作した簡易鬼皮むき機)

4.皮むき実験
4.1 性能評価
 試作機の加工性能を評価するため,1.5kgの生栗に対し,加圧の有無,加工時間などをパラメータとした加工実験を行い,皮むき状態への影響を調べた。
 図5(a)〜(c)に加工テーブルの回転速度を800min-1とし,加圧した状態で加工時間をそれぞれ15秒,30秒,45秒としたときの皮むき状態を示し,加工時間30秒で,加圧しない場合の皮むき状態を(d)に示す。図より,加工時間が短いと鬼皮が除去されていない栗が多く存在し,加工時間を長くすると果実まで損傷を与えているのが観察される。したがって,加工時間を調整すれば果実に損傷を与えることなく鬼皮のみを除去できることがわかる。さらに,適度の加圧を負荷することで同じ加工時間でもほとんどの鬼皮が除去でき,開発した加圧機構の有効性が確認できた。また,テーブル回転速度を遅くすると処理時間が長くなるが,その反面,衝撃による果実のワレなどの損傷が少なくなるなどの利点もあることがわかった。
  以上の実験をもとに処理量に応じて果実に損傷を与えずに鬼皮のほとんどを除去できる最適加工条件を選定した結果,本試作機により一度に2.5kgの生栗に対し,鬼皮の除去が約1.5分間で可能となり,処理能力の目標値を十分に達成した。

(図5 加工パラメータによる皮むき状態の比較)

4.2 フィールドテスト
 収穫期の9月中旬から11月上旬にかけて,穴水町のJAおおぞら出荷場で簡易試作機のフィールドテストを行い,性能評価の他,作業者による操作性や安全性などの不具合の抽出も実施した。
 フィールドテストの結果,試作機は30分間で50kgの鬼皮むきが可能であった。この試作機と市販の渋皮むき機と併用することにより,最終手仕上げ工程(図6)では5,6人でも1日100kgの処理が可能となり,その結果,むき栗の出荷量は1.3トン(平成15年度)から,3.2トン(平成16年度)へと増加し,約2.5倍の生産性の向上が実現した。
 以上のフィールドテスト終了後,作業者の要望・意見を集約し,渡辺工業鰍フ協力を得て改良・設計開発を行い,2号機を試作した(図7)。2号機は100Vの一般電源で使用することができ,一度に最大5kgの生栗を投入することができる。さらに高齢作業者による作業性や安全性を考慮し,操作ボタンの簡略化や加工タイマの設置を行い,加工テーブルの非常停止機構を付加している。 現在,図8に示す産官連携プロジェクトにより加工用クリ安定供給体制の確立を図り,年間20トンの出荷を目指している。その中で試作した2号機についても次年度の収穫期にフィールドテストを行い,更なる性能の改善を図る予定である。

(図6 手仕上げの作業風景)
(図7 鬼皮むき機(2号機))
(図8 加工用クリ安定供給体制確立プロジェクト)

5.結言
 能登栗の皮むき作業の省力化を図り,むき栗の安定供給の確立を実現するため,鬼皮むき機の試作開発を実施し,以下の結論を得た。
 (1)ノコ刃の回転による機械的手法を基本にして,効率的に鬼皮を除去する新しい機構を考案し,それを付加した鬼皮むき機を開発した。
 (2)試作機のフィールドテストの結果,市販渋皮むき機との併用により作業者の省力化と大幅な出荷量増加が可能となり,開発した鬼皮むき機が生産機として実用性の高いことを確認した。
  今後も,開発した鬼皮むき機の改良を進める一方で,能登地区の栗産地の活性化にむけて技術支援を行っていく予定である。

謝辞
最後に,試作機の開発にあたり,プロジェクトの関係各位,渡辺工業鰍ノ多大なる協力を頂いた。ここに感謝の意を表します。

参考文献
1)真部孝明. クリ果実その性質と利用. 東京, 農山漁村文化協会, 2001, 121p.
2)果樹研究所ニュース 第7号. つくば市, 農業・生物系特定産業技術研究機構, 2003-10, p. 2.