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3次元微細加工技術の開発

■機械金属部 坂谷勝明 廣崎憲一 舟田義則 古本達明
■金沢大学工学部 上田隆司

 近年,生命・医療や工業の分野でマイクロデバイスの必要性が高まってきており,マイクロ機械加工は立体的な形状に意味を持つ微細構造部品や微小機械部品・光学部品,あるいはそれらを成型するための金型の製作に有用な方法として利用され,今後メカニカルな加工方法の重要性が増すことが考えられる。
 本研究では,マイクロデバイス開発などの分野で必要性が高まることが予想される3次元微細加工技術に注目し,そのための切削加工およびYAGレーザ加工について研究開発を行った。その結果,微細切削加工により,溝幅・深さ200mmの流路をもつバイオチップ成形用金型の加工が可能になった。また,スラブ型パルスYAGレーザ加工機により,ダイヤモンドやcBNなどの超砥粒砥石の高速切断加工が可能になった。
キーワード:マイクロデバイス,3次元マイクロ加工,セラミックス,レーザ加工,超砥粒砥石

Development of Three Dimensional Microfabrication Technology

Katsuaki SAKAYA, Kenichi HIROSAKI, Yoshinori FUNADA, Tatsuaki FURUMOTO and Takashi UEDA

In recent years, demand for micro-devices has risen in the fields of the biotechnology, medicine and industry. Microfabrication technology has become increasingly important, and will be indispensable in the future as a means of producing micro-indentation parts in three-dimensional shapes, micro machine parts and optical components, as well as molding dies for those parts. We studied micro-cutting and YAG laser beam machining for development of three-dimensional microfabrication technology for which there is expected to be a greater demand in the field of micro-device development in the future. As a result, we succeeded in microfabrication of molding die for embossing biochips with a channel of 200μm in width and depth. Moreover, the slab-type pulse YAG laser beam machine enabled high-speed cutting of super-abrasive stones such as diamond and cBN.

Keywords:microdevice, 3D microfabrication, ceramics, laser cutting, super abrasive stones


1.緒言
 現在,マイクロメータオーダやサブマイクロメータオーダの微細構造を加工する方法として主流となっている半導体プロセス技術は,コストがかかりすぎること,製造規模が大がかりになること,環境への影響が大きいことなどから,今後限界がくることが予想される。このような中で,近年,生命・医療や工業の分野でマイクロデバイスの必要性が高まってきており,非常に多くの分野でマイクロ構造が使われるようになり,形状も3次元的になることが予想される。一方,マイクロ機械加工は,3次元形状の創成が高自由度で高能率に行えることや,材質への制限が少ないことなどの点で有利であることから,多くの分野への適用が可能である。特に,立体的な形状に意味を持つ微細構造部品や微小機械部品・光学部品,あるいはそれらを成型するための金型の製作に有用な方法として利用され,今後実用的で高能率な3次元微細加工技術のニーズが高まると予想される。
本 研究では,今後,高度に知能化,多機能化したマイクロデバイスを大量生産することが求められるようになり,その開発などの分野で必要性が高まることが予想される3次元微細加工技術に注目し,そのための微細切削加工およびレーザ加工技術について研究開発を行った。

2.金型等の微細切削加工
2.1 ホットエンボス金型の切削加工
 バイオチップは試薬やDNA,たんぱく質のサンプルをガラス片などに並べて固定したもので,検査対象となるDNAやたんぱく質を加えて反応を見ることにより,検査対象を特定することができる。このバイオチップは,数cm角で,厚さ数mm程度のガラスやプラスチック基板上に,幅・深さ数10μm〜数100μmの溝を形成し,さらに電極やセンサ,超小型のポンプやバルブなどを組み込んだシステムである。
 従来,実験室レベルで使用されるバイオチップの作成には,ガラス基板上にエッチングなどにより細い溝を形成する手法が一般的に用いられてきた。しかし,エッチングによる加工は,コストや量産化に適用することが難しく,大量の消費が見込まれるようなバイオチップの製造には,安価で簡便な製造方法が必要となってきた。そこで注目されるのが,ホットエンボス加工である。この手法は,1mm前後のプラスチック平板に金型を比較的高温で押し付け,細い溝や微小な穴などを形成する手法である。金型を使うことにより,比較的安価で,短時間に同一形状のチップを大量に作製することが可能である。
 この加工方法において,最も重要となるのが微細形状金型の作製技術である。
図1は,35mm×45mm×10mmのアルミニウム合金板材を用いて,ホットエンボス加工用の金型を加工した例である。加工には3本の細長い突起の幅・高さは200mmとなっている。加工に使用した機械は,マシニングセンタ((株)松浦機械製作所製,FX5G)で,主な仕様は,主軸端    :BT40番,軸移動範囲:1020×560×400mm,最大主軸回転速度:27,000min-1,最大切削送り速度:30,000mm/minであり,使用した工具はf0.5〜6mmのスクェアエンドミルである。
 図2は図1の金型を使用して,アクリル板にホットエンボス加工により溝を形成した例である。金型の突起形状が細い溝として転写されていることが確認できる。使用した装置((株)石川製作所製)の主な仕様は,温度制御範囲:室温〜250℃,プレス荷重制御範囲:0〜4.9kN,試料サイズ:最大100mm□である。
 また,図3は上述のマシニングセンタを使用して,35mm×45mm×3mmのアクリル製板に直接幅0.5mmの細溝を加工した例である。

(図1 バイオチップ成形用金型)
(図2 実験用バイオチップ)
(図3 プラスチック板上への細溝加工例)

3.セラミックスのレーザ加工
3.1 レーザによる微細加工
 レーザ加工は加工対象物の硬さに依存しない加工が可能であるため,セラミックス材料の微細加工技術として注目されている。特に,波長がCO2レーザより短いYAGレーザは,集光性に優れ,スポット径の微小化が容易であり,熱影響が少ないため,精密3次元微細加工への応用が期待されている。
 図4は,スラブ型のパルスYAGレーザ加工機(コマツ製,最大平均出力:500W)を使用して,セラミックス材料の加工を行った結果である1)。酸化物セラミックスであるアルミナを加工した結果では,加工面に溶着物が残存した状態になり,微細加工に適さないことが確認できる。一方,非酸化物系セラミックスである窒化アルミニウムの場合は,加工部周辺に溶融残存物がほとんど見られず,微細加工に適することがわかる。また,元素分析結果とも合わせて,加工点付近の雰囲中への酸素の進入を抑えることにより,より精密な切断が可能であることがわかる。また,図5は同じYAGレーザ加工機を用いて,25mm×25mm,厚さ0.6mmの窒化アルミニウム基板に幅150mm,深さ約80〜100mmの渦巻状の溝を加工した例である。

(図4 セラミックス材料のYAGレーザ加工)
(図5 セラミックスヒータ用基板)

3.2 YAGレーザによる超砥粒砥石の切断
 スラブ型パルスYAGレーザによるセラミックスの精密加工の応用として,超仕上げ用砥石の精密切断加工に適用した。超仕上げ用砥石はシリンダ内面のホーニング加工や円筒ころ最終仕上げ加工などに使用される角型の砥石で,一般的には,バルク状の素材から図6(a)に示すようなダイヤモンドブレードにより切り出されて製造されている。しかし,ダイヤモンドやcBNなどの超砥粒を使用した砥石は,硬度が高く,切断加工が困難な材料であり,ダイヤモンドブレードによる切断は加工能率や歩留まりが低いという問題がある2)。そこで,本研究では,レーザ加工による超砥粒砥石の切断を試みた。
 図7は,厚さ3mmのビトリファイドボンドcBN砥石をスラブ型YAGレーザにより切断した断面の電子顕微鏡観察結果である3)。レーザバルス幅およびテーブル送り速度を一定とし,図8のようにパルス周波数を変えた場合の状態を調べたもので,周波数が高いほど,レーザ照射間隔が短くなるため,溝が深くなることがわかる。溝の幅は,砥石表面から深くなるにつれて広がっているが,最も広いところでも0.2mmであり,砥石切断に一般的に用いられるダイヤモンドブレードによる切断と比較して1/2以下にすることが可能である。切断面の状態を電子顕微鏡観察した結果を図9(a)に示す。また,ダイヤモンドブレードにより切断した面の状態を同図(b)に示す。ダイヤモンドブレードにより切断した面は,ビトリファイド砥石特有の空孔が観察でき,砥粒が表面に露出しているのが確認できる。一方,レーザ切断面には,レーザ照射により溶融したが,除去されるまでには至らなかった溶融物が砥石内部方向に約20mmの厚さで存在し,気孔がふさがれ,砥石の露出が確認できない。しかし,ダイヤモンドブレードによる切断と比較した結果,図10に示すように,切断速度はダイヤモンド砥石で約24倍,cBN砥石で2.6倍となり,YAGレーザ加工は砥石の切断能率向上に極めて有効であることが確認できた。

(図6 超砥粒砥石の切断方法)
(図7 レーザパルスと加工溝深さの関係)
(図8 レーザのパルス周波数)
(図9 超砥粒砥石の切断面のSEM観察)
(図10 超砥粒砥石の切断速度比較)

4.結言
 3次元微細加工技術の開発を目的として,微細切削加工およびYAGレーザ加工技術の開発を行った。得られた結果は,次の通りである。
(1) 微細切削加工により,溝幅・深さ200mmの流路をもつバイオチップ成形用金型の加工が可能になった。
(2) スラブ型パルスYAGレーザ加工機により,窒化アルミニウム基板に幅・深さ100mmの微細溝加工を行うことが可能になった。
(3) スラブ型パルスYAGレーザ加工機により,超砥粒砥石の切断加工を行い,ダイヤモンドブレードによる切断と比較して,cBN砥石で2.6倍,ダイヤモンド砥石で24倍の切断速度が得られことがわかった。

参考文献 1) 坂谷勝明, 舟田義則, 古本達明. セラミックスの3次元微細加工技術. セラミックス. Vol. 39, No. 12, 2004, p994-997.
2) 古本達明, 舟田義則, 上田隆司. パルスYAGレーザ加工機を用いた超砥粒砥石の切断特性.砥粒加工学会誌. Vol. 47, No. 1, 2003, p39-43.
3) 古本達明, 上田隆司, 舟田義則, 尾倉修一.パルスNd:YAGレーザによるCBN及びダイヤモンド砥石の切断特性. 精密工学会誌. Vol. 71, No. 4, 2005, p501-505.