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ナノ粒子を用いた食器洗浄機対応漆器の開発

■繊維生活部 ○江頭 俊郎 藤島 夕喜代 梶井 紀孝 笠森 正人
■(株)能作 海道 正人
■(有)能作うるし店 岡 裕之

1.目 的
 漆塗り椀を長く使用していると変色(退色)することがよくある。これは漆の中の水溶性成分が溶出するためであることが知られている。また,食器洗浄機を使用するときには高温での洗浄・乾燥になるため,従来の漆塗り椀では対応が難しかった。しかし,平成17年から19年度文部科学省都市エリア産学官連携促進事業で,漆液に無機系酸化物系ナノ粒子を添加することにより,漆塗膜の耐熱水性が向上することを見出した。さらに平成20年から21年科学技術振興機構の「地域ニーズ即応型研究」の採択を受け,それをさらに進展させた食器洗浄機に対応可能な変色しにくい漆器の開発を行った。

2.内 容
2.1 ナノ粒子の選定
  食器洗浄機がかなり普及してきており、漆器業界では食器洗浄機対応漆器の開発が望まれている。そこでTiO2,ZnO,Al2O3,SiO2のナノ粒子を数%添加して漆液の改質を試みた。それぞれの漆液をABS樹脂板に塗布し手板を作成した。塗布後一ヶ月以上経過した手板について業務用食器洗浄機(ホシザキ製JWE-400TUA3)による洗浄試験を1000回実施した。その結果,ZnOナノ粒子を添加した手板が最も変色しにくく(図1),黒味も強かった。従ってその後はZnOナノ粒子に絞って試験した(添加量は,重量%)。ZnOナノ粒子を添加した漆は従来の透漆,黒漆よりも洗浄試験前後の色差が小さく,変色しにくかったが5%以上の場合には添加量には依存しなかった(図2)。

(図1 ナノ粒子の違いによる色差の推移)
(図2 ZnO添加漆,透漆,黒漆の色差の推移)

2.2 漆液の調製
  漆液へのナノ粒子の添加混練を3本ロールミルと自転公転式攪拌機(小型混練機)で試み,混練後の漆液粘度と顕微鏡観察によって分散度を判定した。その結果,自転公転式攪拌機で前処理を行い,3本ロールミルで仕上げる方法によって,分散度が良好な漆が得られることがわかった。また,漆の主成分であるウルシオールとZnOナノ粒子を混練したマスターバッチを作って,使用時に漆と混ぜることで,長期保存が可能になった。

2.3 ZnO添加量の検討
  ABS板に透漆と黒漆にZnOナノ粒子を0%,0.5%,1%,2%,5%添加した漆塗膜の手板を作成し,塗布後一ヶ月以上経過した後,洗浄試験を実施した。
  黒漆にZnOナノ粒子を添加した塗膜より,透漆にZnOナノ粒子を添加した塗膜の方が変色しにくく,透漆にナノ粒子ZnOを1%以上添加すると洗浄試験4000回実施後でも色差が5以下に抑えられることがわかった(図3,4)。

(図3 透漆塗膜の洗浄性試験による色差の変化)
(図4 黒漆塗膜の洗浄性試験による色差の変化)

2.4 椀の洗浄試験
  試作椀(木製,木粉樹脂製)の洗浄試験を1000回実施した。お椀の形状であっても,洗浄による色味の変化は手板と同等な結果が得られた(図5)。ZnOナノ粒子の最適な添加量は,洗浄試験前後の色差とZnOナノ粒子添加漆液の粘度を考慮して,2%程度が適当と考えられる。

(図5 ZnOナノ粒子添加漆塗り椀を1000回洗浄後の写真)

3.結 果
(1) ZnOナノ粒子添加漆の塗膜は,洗浄試験による変色防止効果が見られた。
(2)マスターバッチ法を用いることによって長期保存が可能になった。
(3)透漆にZnOナノ粒子を1%以上添加すると,食器洗浄機による試験(4000回)前後の色差が5以下に抑えられた。