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 レーザによるセラミックス3次元形状加工技術の開発
 機械金属部 ○古本達明 舟田義則
 金沢大学工学部 上田隆司

1.目 的
 セラミックスが工業用材料として注目されて20年以上経過するが,硬脆材料であるため加工が難しく,実用的にはダイヤモンド工具や超砥粒砥石を用いた切削加工や研削加工が主流である。一方,これらの代替加工法としてレーザ加工がある。これは,発振されたレーザビームをレンズで集光して試料に照射し,そのとき生じる熱によって加工を行うものである。非接触で加工するため材料硬度に依存せず,また,各種工具を用いずに加工できることから摩耗等を考慮する必要がない。近年は,レーザビームの品質や出力がめざましく向上しており,レーザの特長を活かした各種微細加工への適用が期待されている。本研究では,セラミックス材料として熱に弱いとされる超砥粒を含むビトリファイドボンド砥石を取り上げ,スティック砥石製造へのレーザ加工の適用性について検討したので,以下に報告する。

2.内 容
2.1 実験方法
 本研究に用いたレーザ加工機は,スラブ型パルスYAGレーザである。同加工機は,スラブ型と呼ばれる特殊形状を呈したYAG結晶を採用しており,従来型と比べてビーム品質が高いことを特長としている。実験に用いた超砥粒砥石は,表1に示すようにcBNとダイヤモンドの2種類で,粒度が#2000であり,ビトリファイドボンドを結合材とした厚さ3mmのものである。実験は,レーザ照射パラメータの影響を調べるため,レーザビームを超砥粒砥石の表面を焦点位置として照射し,表2に示すようにレーザ光のピーク出力やパルス幅,繰り返し数,レーザビームの走査速度を変えながら切断を行った。なお,レーザ照射時は,アシストガスとして0.9MPaの高圧エアーを常時噴射し,ノズル先端と試料表面の距離を1mmとした。

(表1 超砥粒砥石の仕様 )
 レーザ ( Nd:YAG laser)
  波長 l 1064nm
  ピーク出力 P 2.5 - 6.8 kW
  パルス周波数 n 5 - 80Hz
  パルス幅 t 0.2ms
 走査速度  1 - 10 mm/min

(表2 実験条件 )
 レーザ : Nd:YAG
 波 長 : 1064nm
 ピーク出力 : 2.5 - 6.8 kW
 パルス周波数 : 5 - 320Hz
 パルス幅 : 0.2ms
 走査速度 : 1 - 10 mm/min
 アシストガス : エアー(0.9MPa)
 加工ノズル口径 : 1.5mm

2.2 実験結果および考察
 レーザ切断したcBN砥石の切断面および模式図を図1に示す。砥石にレーザが照射されると,照射部中心は熱で溶融し,更に温度上昇することによる蒸発や,アシストガスで吹き飛ばされることにより溝が形成される。この溝は,発振周波数やレーザ走査速度を変更して,同一箇所へのパルスレーザ照射回数を増やすことによって次第に深くなり,やがて貫通に至る。このようにして得られる切断幅は,最も幅が広い砥石裏面でも200mm前後であり,一般的に用いられるブレード切断と比較しても十分に狭い切断が可能である。また,レーザ切断面表層には,熱変質層と呼ばれる溶融物が再凝固した層が確認された。そこで,この切断面をEPMA分析してブレード切断した表面との比較を行った。図2は,各切断面のEPMAスペクトルである。ブレード切断面には,砥粒成分である窒素と結合材成分である酸素に対応するピークが存在している。これに対し,レーザ切断面には,窒素のピークが確認されず,酸素のピークが大きい。一般に高温環境下では超砥粒が酸化することが知られており,この結果からレーザ切断面を砥石面として使用するにはドレッシングが必要となることがわかる。
 次に,レーザ照射パラメータを変えながら切断実験を行って得られた切断幅の測定結果を図3,図4に示す。切断幅は,最も幅が大きい砥石裏面で測定した。図3は,レーザピーク出力と切断幅の関係を示しているが,切断幅はレーザピーク出力の上昇と共に広くなっている。図4は,単位長さあたりのレーザ照射回数と切断幅の関係を示しているが,パルス周波数やレーザ走査速度といった時間パラメータを変えても,切断幅に大きな差がみられない。したがって,歩留まりを考慮して切断幅を狭く加工するには,レーザピーク出力をなるべく抑える必要があり,加工時間を短くするためには,パルス周波数を大きくして単位長さ当たりに照射される回数を多くすることで,切断幅を狭く保った状態で加工速度を上げることが可能となる。更に,単位長さあたりのレーザ照射回数が120回未満では切断できないことから,切断幅が狭く,かつ加工速度が最速な条件を選定することが可能となる。図5は,このようにして得られたレーザ照射条件を用いて,厚さ3mmのビトリファイドcBN砥石をスリット加工したものである。砥石幅が0.3mmと精密な切断が可能であることがわかる。

(図1 砥石断面の観察 )
(図2 EPMA分析結果 )
(図3 ピーク出力と切断幅の関係 )
(図4 照射回数と切断幅の関係 )
(図5 cBN砥石の精密切断 )

3.結 果
 超砥粒砥石をレーザ切断することにより,ブレード切断より歩留まりが良く,かつ高速で加工可能であることを示した。今後は,ブレード切断では対応できない幾何形状加工や,極小ビトリファイド砥石の製造への適用について検討していく予定である。




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