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1.目 的 凍り豆腐は高野豆腐とも呼ばれ,我が国独特の伝統食品である。石川県においては,羽二重豆腐(株)でのみ生産されており,その生産量は年間約318トンと全国的にみてもトップクラスであり,全国規模で販売を行っている。しかし,その製造工程において切りクズや不良品など,年間約1トンと大量の凍り豆腐クズが発生し,産業廃棄物として処理されているのが現状である。しかし,成分的には製品と全く同じであるため,精製されたタンパク質を多く含んでいることが考えられる。そこで,凍り豆腐クズを大豆の代替物として味噌の試醸を行うことによる,凍り豆腐クズの有効利用について検討した。また,試醸した味噌について機能性(抗酸化性,血圧上昇抑制効果)について検索し,機能性食品としての可能性についても併せて検討を行った。 2.内 容 2.1 試醸方法 通常の米味噌の配合比を基本とし,凍り豆腐クズ,精米,製麹の配合比を変えた7種類の味噌(凍り味噌1〜7)及び,対照区として丸大豆を用いた味噌(対照味噌)について試醸した。すべての試醸味噌は,室温において熟成し,試醸期間は3ケ月とした。 2.2 試醸味噌の成分分析 試醸味噌の一般成分は定法(水分は乾燥重量法,タンパク質はケルダール法,脂質はジエチルエーテルによるソックスレー抽出法,灰分は550℃での直接灰化法,塩分はモール法)により行った。遊離アミノ酸,有機酸は試醸味噌を蒸留水で抽出後,0.45μmメンブランでろ過した抽出液を,アミノ酸分析計(日立L-8500)及び有機酸分析計(ShodexOA)にてそれぞれ分析した。 2.3 試醸味噌の機能性評価 試醸味噌の凍結乾燥粉末のジメチルスルフォキシド抽出液を,活性酸素1,1-diphneny-2-picrylhydrazyl(DPPH)を用いたラジカル消去能で評価した。また,血圧上昇抑制効果は,凍結乾燥粉末のリン酸緩衝液(pH8.5)抽出液を,血圧上昇に関与する酵素の1つであるアンジオテンシンT変換酵素(ACE)の阻害能を,生成する馬尿酸を高速液体クロマトグラフィーで測定することにより評価した。 3.結 果 3.1 試醸味噌の一般成分 対照味噌を含むすべての試醸味噌において,塩分は9.4〜11.2%とほぼ仕込み食塩量と一致し,一定の塩分濃度を持つ味噌が得られた。水分では,凍り豆腐クズの仕込み割合が多い凍り味噌1〜3で50.6〜53.3%と高い傾向が見られ,これら以外の試醸味噌では45%前後と通常の製品と同程度の水分量を示した。タンパク質は,凍り豆腐クズと製麹の配合割合が高い凍り味噌1〜3,6,7で12.7〜15.2%と対照味噌(10.7%)よりも高いタンパク質含有量を示した。従って,凍り豆腐クズを利用することにより,従来の米味噌とは違ったタンパク質高含有の新しいタイプの味噌が得られた。 3.2 試醸味噌の有機酸、遊離アミノ酸組成 いずれの試醸味噌においても,有機酸の成分としてはクエン酸,ピログルタミン酸,酢酸,リンゴ酸,乳酸,コハク酸であり,量的にはクエン酸とピログルタミン酸が大部分を占めていた。遊離アミノ酸組成では,表1に示すように,総遊離アミノ酸量は2233〜3435mg/100gといずれも対照味噌(1762mg/100g)より高い値を示した。特にタンパク質含有量が高い凍り味噌2,3では,対照味噌の約2倍と非常に高いアミノ酸量を示した。また,すべての凍り味噌において対照味噌よりもアミノ酸量が増加したことから,凍り豆腐クズのタンパク質は生大豆のタンパク質よりも麹プロテアーゼの作用を受けやすい構造となっており,同じ熟成期間でより多くのアミノ酸が生成されたものと推察される。また,遊離アミノ酸組成ではいずれの試醸味噌においてもグルタミン酸が最も多く,次いでアルギニン,リジン,アスパラギン酸,セリンなどであった。 (表1 試醸味噌の遊離アミノ酸組成(mg/100g) ) 3.3 試醸味噌の機能性評価 試醸味噌のDPPHラジカル消去活性では,凍り味噌1,3,4において他の試醸味噌よりも高い活性が見られたが,いずれもIC50値の没食子酸相当量が20μmol/g-乾燥重量と,非常に低いものであった。一方,試醸味噌のACE阻害能については,すべての試醸味噌において強いACE阻害活性が確認された(図1)。更に凍り味噌はいずれも対照味噌の約2倍前後の非常に強い阻害活性を示した。つまり,凍り豆腐クズを利用した味噌には,血圧上昇抑制効果を持つ,いわゆる機能性食品としての可能性が示唆された。 以上のことから,凍り豆腐クズを利用した味噌は,旨味成分であるグルタミン酸を多く含んでおり,血圧上昇抑制効果の期待できる機能性食品としての可能性があることが示唆された。 (図1 試醸味噌のACE阻害能 ) |
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