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 近赤外分光法による漆評価技術に関する研究開発
 繊維生活部 ○江頭俊郎 梶井紀孝

1.目 的
 漆器の原料である漆液はそのほとんどを中国からの輸入に頼っている。漆液は,ウルシオール(中国産,日本産)等の主成分,水分,ゴム質,含窒素物から構成されているが,天然物であるため品質にばらつきがある。その粘度や乾燥性,塗膜物性はその組成に密接に関係しており,漆液組成を調べることは,漆液の品質評価には欠かせない。その分析法についてはJIS 5950に規定してあり,煩雑で熟練を要し,しかも長時間かかるためあまり行われていないのが現状である。
  一方,近赤外分光法とはその波長が800〜2500nm の吸収や発光を利用した分光法であり,近年コンピュータのハードやソフトの発展普及に伴って,食味計,オンライン分析,無侵襲臨床診断など多くの分野で利用されはじめてきた。そこで,この近赤外分光法を漆液の組成分析に応用することによって,漆液の迅速分析を可能にするための研究を実施した。

2.内 容
2.1 近赤外分光計
 使用した装置は,フーリエ変換方式の近赤外分光計(パーキンエルマー製)である(図1)。その仕様は,以下の通りである。
<測定範囲>
 透過測定:680〜4800nm(14700〜2000cm-1)
 反射測定:700〜2500nm(14300〜4000cm-1)
<検出器>
 InGaAs検出器,DTGS検出器
<オプション>
 ファイバープローブ

(図1 近赤外分光計 )

2.2 漆液の近赤外スペクトル測定
 漆液の試料をガラスのバイアル(ビン)に入れ,底から光を当て反射光を測定した。
スペクトルの一例を示す(図2)。測定範囲は,10000〜4000cm-1,分解能は4cm-1,積算回数は30回である。

(図2 漆液の近赤外スペクトル )

2.3 従来法による漆液の組成分析
 JISに規定してある方法に従って,2000年2001年産漆液の各成分分析を行った。結果を表1に示す。

(表1 漆液の組成(%)JIS規定に準拠した分析結果 )
品 名 水分 主成分 ゴム質 含窒素物
アンコウ01-791 27.3 64.6 5.9 2.2
アンコウ01-802 26.8 63.1 7.3 2.8
アンコウ701 32.3 57.3 6.1 4.4
カンニサン01-B81 28.4 62.8 6.5 2.3
ジョウコウ00-181 30.8 59.5 7.0 2.7
ジョウコウ00-381 31.4 59.8 6.5 2.3
ジョウコウ00-501 30.6 60.0 7.0 2.4
ジョウコウ01-A 24.4 67.9 6.0 1.8
ジョウコウ01-581 27.8 62.4 6.9 2.9
ジョウコウ01-591 26.8 62.7 7.6 3.0
ジョウコウ01-903 27.2 62.8 7.3 2.8
ジョウコウ1-40 27.9 62.7 7.0 2.4
ジョウコウ1-50 29.0 63.5 5.6 1.9
シンレイ01-602 25.2 65.6 6.6 2.6
特級00-901 26.2 65.4 5.6 2.9
特級1-18 21.0 71.2 5.9 1.8
特級甲00-801 22.0 70.1 5.5 2.4
特級01-A 22.5 70.9 5.0 1.7
ヒッセツ00-201 27.1 63.3 6.2 3.4
ベトナム 33.8 43.3 18.4 4.5
モウポ00-101 20.7 69.2 6.3 3.8
モウポ01-181 20.7 70.2 6.1 3.1
ランコウ00-601 30.3 60.8 6.1 2.8
ランコウ01-502 26.7 63.2 7.4 2.7

2.4 漆液成分の検量線作成と迅速分析
 Quant+というソフトウェアを用いて,表1のデータから水分量の検量線を作成した(図3)。同様の手法によりウルシオール,ゴム質の検量線を作成した。漆液のそれ以外の部分については含窒素物とした。これらの検量線を用いると漆液の近赤外スペクトルから各成分の組成を求めることが可能になった。ある漆液の近赤外スペクトルから,各成分含有量を求めた結果の一例を図4に示す。

(図3 近赤外スペクトルと水分の検量線 )
(図4 分析結果の一例 )

3.結 果
 従来の方法では,水あるいはエタノールの蒸発,乾燥,冷却等時間のかかる工程が多く含まれているので,漆液の各成分の組成を求めるのに1日から2日を要した。今回開発した方法では,漆液をバイアルに入れて,近赤外スペクトルを測定して,検量線を用いてコンピュータで計算をさせるだけなので,1試料当たり5分とかからない。このように漆液の分析に近赤外分光法を応用することによって分析時間の短縮が図れた。
 今後,県内の製漆業者や漆器産地の支援に活用していきたい。また近赤外分光法は,食品をはじめとする製造業,農業関係,医療関係など広範囲に利用されてきており,漆以外の分野への展開も期待される。

謝辞:本研究は,輪島漆器商工業協同組合,能作漆店の協力を得て実施された。



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