メタマテリアル技術とその応用展開  ―金属小片を並べて電波を効果的に吸収―

図1 光の屈折

 空気と水との界面では光は屈折によりその進路が曲がります。この際、屈折の向きは空気や水それぞれの物質の電磁気的特性の関係により決まり、図1において空気(物質A)から水(物質B)へ伝播する際、通常はその境界に垂直な面に対して正の方向に進みます(図1:青矢印)。ところが負の方向に進む物質というのも存在し得ることが近年明らかになりました(図1:赤矢印)。この物質は、銅などの金属小片を周期的に並べて構成した人工材料で、「メタマテリアル」と呼ばれています。

 メタマテリアルは金属小片のサイズや形状・配置間隔等を変えることにより、その電磁気的特性は幅広く変化し、上述のような特異な現象も発現させることが可能です。すなわちメタマテリアルは、その構造によって光を任意の方向に屈折させることができるもので、本性質を応用した様々なデバイスが提案されています。

 一例を挙げると、レンズの材料にメタマテリアルを用い、負の屈折を利用することで、一般に凹凸となるレンズ形状を平面状にしたり、薄型にすることが可能です(図2)。これにより、厚みの薄い携帯電話などにも望遠ズーム機能を簡単に搭載できると考えられます。

図2 平面レンズ

 しかし、実際に光に影響を与えるようなメタマテリアルを実現しようとすると、ナノオーダ(1nm=10億分の1m)の微細な加工が必要となり、簡単ではありません。これは、光が持つ波が、ナノオーダの非常に短い間隔で振動することに関係しています。

 メタマテリアルは光と同様に電波についても同じ効果を示します。電波はミリオーダ(1mm)以上の間隔で振動するため、メタマテリアルを構成する金属小片はミリオーダ以上のサイズが適しており、試作も比較的容易に行うことができます。このことから、メタマテリアルは電波への応用研究も盛んに行われており、その代表例としてアンテナが挙げられます。

 例えば、放射素子と反射板を組み合わせて動作させるアンテナを考えた場合、両者をある一定の距離をおく必要があります。距離が近いと、放射素子からの直接の電波と、反射板で反射した電波が互いに弱め合ってしまうためです。そこで、両者の距離を近づけた時に反射波が放射素子からの電波と強め合うようにメタマテリアルを設計し反射板の代わりに採用することで、アンテナの薄型化を図ることが検討されています(図3)。


図3 アンテナ薄型化の検討例

 また、無線通信機器にアンテナを複数搭載すると通信速度等の性能を向上させることができますが、機器の大きさが限られていることで、これらアンテナ間距離を近づけて配置すると電波の放射方向が重なり互いに干渉するため、性能が劣化してしまいます。そこで、メタマテリアルを用いてアンテナからの電波の放射方向を制御することで、アンテナ間の干渉を抑えながら通信性能を向上させることができます。このアンテナへの応用は既に一部の無線LAN機器等で実用化されています。

 この他にも、特定の周波数で電波の吸収を示す性質があり、工業試験場ではメタマテリアルの応用の一つとして電波吸収体に関する研究を県内企業と共同で取り組んでいます。例として、図4に示す形状の試料について、銅板の小片のサイズを変更した際の吸収特性の測定結果を図5に示します。今後は、無線LAN(2.4GHz/5GHz帯)や高速道路のETCシステム(5.8GHz)等に使用されている周波数で実用可能な形状について検証していきます。

図4 試作メタマテリアル 図5 電波吸収体性能評価例

 

担当:電子情報部 杉浦 宏和(すぎうら ひろかず)

専門:電波工学、アンテナ工学

一言:電子機器等に害を及ぼす不要な電波を抑制します。