有機分子を応用した防錆技術の開発  ―皮膜を維持したまま検査が可能に―

 防錆油は、簡便な防錆剤として従来から使用されています。しかし、検査時には寸法精度に影響を及ぼすため有機溶媒での除去が必要であり、廃液処理の課題もあります。そこで、工業試験場では(株)本螺子製作所(能美市)と共同で、皮膜を維持したままで検査が可能な防錆技術を開発しました。

 開発した防錆技術は、有機分子を介して銅部材上にナノオーダのシリカ皮膜を形成させる新技術です。この有機分子は、シリカ粒子と結合するアルコキシシラン基(-SiO3)と、銅と結合するチオール基(-SH)を両端に持つことから、シリカ粒子と銅との接着剤の役割を果たします(図1)。

 また、この技術は処理の簡便性にも優れています。通常ではナノオーダのシリカ粒子は凝集・沈殿をしますが、この有機分子と結合することにより、有機分子で全体を保護された沈殿のしにくいシリカ粒子の溶液が合成できます。その結果、この溶液に銅部材を浸すだけで、シリカ皮膜の形成が可能となりました。

 この皮膜の防錆効果については、塩水噴霧48時間で錆が発生しないことが示され(図2)、また、(株)本螺子製作所工場内の実環境でも3ヶ月の間、錆が発生しないことが実証されました。


図1 シリカ皮膜の模式図
        
図2 塩水噴霧試験結果(48時間)

 

担当:化学食品部 嶋田一裕(しまだ かずひろ)

専門:分析化学、界面化学

一言:防錆に関してご相談ください。