吸着機能を持つ繊維製品の試作  ―紫外線利用によるシクロデキストリンの固定化技術―

 シクロデキストリン(CD)という筒状の糖は、内部の空洞に他の物質を吸着する性質を持っています(図1)。近年、この性質を利用した布用消臭剤や食品等が販売され、注目を集めています。そこで工業試験場では、CDを繊維表面に固定化し、物質を吸着する繊維製品を試作しました。布にCDを固定化するには、従来は樹脂を用いた加熱処理でしたが、本研究では時間が短い、廃液が出ない等の利点がある光重合を利用しました。

 まず、紫外線で光重合する特殊なCDを合成し、この溶液を布に浸せき、乾燥、紫外線照射することでCDを固定化しました。さらにこのCD固定化布にヨウ素を吸着させ、抗菌性能を付与しました。通常ヨウ素は揮発性が高いため、常温でも徐々に昇華し、機能が失われます。しかし、CD固定化布に吸着されたヨウ素はCDに取り込まれるため、非常に長持ちします。CDは空洞の大きさによりα、β、γの3種類がありますが、最も内径が小さいαCDを用いると、200日後でもヨウ素はほとんど失われないことが確認できました(図2)。さらにこの処理方法により、ヨウ素を保持させた靴の中敷きを試作しました。

 今後は技術移転を視野に入れ、製品化を目指します。


図1 αCDの構造

図2 布に吸着させたヨウ素の残存量

 

担当:繊維生活部 神谷淳(かみたに じゅん)

専門:繊維物性、有機化学

一言:繊維製品の開発を支援します。