高出力半導体レーザの現状と将来  ―レーザ加工を変革する次世代レーザの出現―

 1960年にメイマン博士(米国)が世界で初めてレーザ光の発振に成功してから、今年でちょうど50年になります。レーザ技術は大いに発展し、今日では通信、計測、医療、そして材料加工などあらゆる分野で応用されています。金属材料の切断や溶接、穴あけなど加工の分野では早くから研究開発が行われ、炭酸ガスレーザ、YAGレーザ、エキシマレーザなどのレーザ加工機が実用化されています。しかし、いずれの装置も高価でメンテナンスが煩雑であることがレーザ加工の普及にとって大きな課題となっています。今、こうしたレーザ加工機の分野が大きく変わろうとしています。その主役が"半導体レーザ"です。

 半導体レーザの構造と集積化技術について図1で説明します。P型およびN型と呼ばれる半導体材料を特殊な層(活性層)を介して接合します。これに電流を流すと活性層に光が発生し、増幅することでレーザ光として取り出すことができます。構造が簡単で小さく、低価格であるためCDやDVD、ブルーレイなどの情報機器や光通信の分野で多く使用され、今や全世界で販売されているレーザ関連製品の半分を占めています。


図1 半導体レーザ素子の構造と集積化技術

 しかし、1つの半導体レーザ素子では大きくても1W程度であり、加工の分野ではこれまでほとんど使用されていませんでした。そこで、数十個の素子を横一列に集積したアレイバーや、バーを積み重ねたスタックなどが開発され、100W以上の高出力半導体レーザ装置が製品化されています。これにより、溶接や熱処理などの熱加工が可能な出力があり、低価格、長寿命、そして小型で容易に取り扱える画期的な加工用レーザ装置が使えるようになりました。

 現在では、半導体レーザ素子の高出力化が急速に進み、単体でも10Wの素子が製品化されています。図2に示すように薄い金属板ならこれ1つで貫通溶融が可能です。しかし、そのほとんどが海外製であり、我が国の高出力半導体レーザ技術は欧米に比べて遅れています。そこで、今年度から次世代レーザ技術の開発が国家プロジェクトとして始まりました。数年後には1素子で80W以上の出力を持つ半導体レーザ素子の開発が期待されています。これまでの半導体レーザでは困難とされていた切断や穴あけが可能となり、持ち運び可能な超小型レーザ加工機ができるのも夢ではありません。


図2 高出力半導体レーザ素子と金属溶融加工例

 工業試験場では、高出力半導体レーザを用い、超薄板や微細ワイヤの接合、小径ピンの熱処理などの応用研究を大阪大学と共同で行っています。さらに、(株)村谷機械製作所(金沢市)と空冷式高出力半導体レーザ装置を共同開発し、これを応用したレーザろう付機を試作しました(図3参照)。接合精度に優れ、メンテナンスフリーと低価格の実現から、大手工具メーカに採用されることになりました。今後も半導体レーザ技術を活かした特色ある装置作りを推進し、県内企業の競争力向上を支援したいと考えています。


図3 マルチビーム式レーザろう付機

 

担当:機械金属部 舟田義則(ふなだ よしのり)

専門:レーザ加工、精密測定

一言:今までにないレーザ装置です。一度、使ってみて下さい。