浄水場発生汚泥の窯業原料への有効利用
−浄水場発生汚泥の可塑性評価−

[化学食品部]   中村静夫
[化学食品部]   宮本正規
[化学食品部]   北川賀津一
金沢工業大学]   大橋憲太郎
金沢工業大学]   大田剛志

 石川県鶴来浄水場で発生する汚泥の有効利用を図る目的で,浄水場発生汚泥の物性を測定した。特に可塑性の評価については,Pfefferkorn法と一軸圧縮試験で評価を行い,以下の結果を得た。
(1) 浄水場発生汚泥は,アルカリ金属類を木節粘土よりも多く含有し,粘土鉱物としてイライトを含有していた。
(2) 浄水場発生汚泥の平均粒子径については,木節粘土と比較し大きな差異がは認められなかったが,比表面積  は木節粘土と比較して約半分であった。
(3) β-1,3−グルカンは,浄水場発生汚泥の可塑性向上に有効であった。
(4) 一軸圧縮試験法での可塑性評価では,β-1,3−グルカンを3%添加することにより木節粘土と同等な可塑性 を示した。 
キーワード:浄水場発生汚泥,一軸圧縮試験,Pfefferkorn法,可塑性,β-1,3−グルカン

Applications of the Sludge from Water Purification Plant as Ceramic Raw Materials
- Plasticity of the Sludge from Water Purification Plant -

Shizuo NAKAMURA, Masaki MIYAMOTO, Kaduichi KITAGAWA, Kentaro OHHASI and Tsuyoshi OOTA

 The chemical analysis, plasticity tests by Pfefferkorn method and the uniaxial compression tests were carried out to evaluate the properties of the sludge from the Turugi's water purification plant. The following results were obtained. (1)The sludge showed high presences of alkaline metals and alkali earth metals as compared with Kibushi-clay. (2) The mean diameter of a particle of the sludge was the same size of Kibushi-clay. The surface ares of particle of the sludge was half times of Kibushi-clay. (3)A β-1.3-glucan was effective for the improvement of the plasticity of the sludge. (4)As the results of the uniaxial compression test, the sludge containing 3 mass% β-1.3-glucan shows the same plasticity as compared with Kibushi-clay.
Key Words:sludge, uniaxial compression test, pfefferkorn method, plasticity, β-1.3-glucan

1.緒  言
 石川県手取川水道事務所鶴来浄水場(以下,鶴来浄水場)では,着水井で添加される凝集剤によりフロックが形成され,その後沈澱池で汚泥分が取り除かれる。この時発生する汚泥が,一般的に浄水場発止汚泥と呼ばれるものである。
 汚泥は,廃棄物の処理及び清掃に関する法律の第2条第4項1)で産業廃棄物に指定され,有用物と活用する以外は法律の適用を受け,自ら処理する以外は自由 な処理は出来ない。現在,その発生量は年間1500トン 程度あり,水田客土に利用されてきたが耕地整備事業 の終了とともに利用が減少してきた2)。その地域でも 多くの有効利用が検討されているが,実用化例は少なく,資源とし恒久的な対策が望まれているのが現状である。また,他県でも有効利用が検討されているが,組成等の相異から同じ有効利用は考えられない3)〜5)
 そこで,工業資源,特に窯業資源として活用を図るためには浄水場発生汚泥の性状を把握する必要があるが,陽イオン交換量等の定量的な物性に関する報告は少ない。即ち,浄水場発生汚泥は微細な粒子であり化学成分的には他の土壌成分と大差はないこと,可塑性に乏しく成形性が良くないということが知られているのみである6),7)。また,重要な性状である可塑性については確立された評価手法が無く,各種手法が試みられているのが現状である8)。  そこで,本研究では,浄水場発生汚泥の成形性向上 を目的とした改質を試みるための基礎研究として,化学組成等の物性を代表的な粘土である木節粘土と比較しながら求めた。さらに,成型助剤添加による可塑性向上を試み,一軸圧縮試験で添加効果について評価を試みた。

2.実験と方法
 2.1 試料の調整
 石川県石川郡鶴来町白山町の浄水場施設で採取したものを浄水場発生汚泥として用いた。採取したものを1ヶ月間で自然乾燥した後に粉砕した。70Mesh(目開き200μm)の篩いを用いて粉末試料とし,これを40℃で1週間乾燥し試料として用いた。
 また,成形助剤としてファインセラミックの成形助剤として優れた効果が報告9)されているβ-1,3-グルカン(武田製薬工業梶GビオポリーP3)を用いた。これは,微生物生産多糖類であり,D-グルコースを1,3位で直鎖状に結合したものである。難溶性で,アルカリ水溶液に溶解する。

 2.2 試料の分析
 化学組成は,蛍光X線分析装置(鞄津製作所製:VXQ-150型)を用いて,波長分散法により各試料中に含まれる元素について定量分析を行った。鉱物組成は,X線回折装置(リガク叶サ:RAD−rA型)を用いて粉末X線回折法により各試料について同定を行った。試料の粒度は,レ−ザ回折/散乱式による粒度分析装置(竃x場製作所製:LA-700型)を用いて測定を行った。この時ヘキサメタ燐酸ナトリウム溶液(0.2%)を溶媒として用いた。試料の表面積の測定には,吸着法(B.E.T.法)を用い,その測定値から比表面積を求めた。比表面積から求まる相当径と粒度分布からの径の相異を考察するため試料を透過型電子顕微鏡(鞄立製作所製H800型)を用いて観察した。
 熱分析には示差熱分析装置(リガク叶サ:CN8076E1型)を用い,Al2O3を基準物質として1200℃まで測定を行った。
 試料の吸着イオンの特性を測定するため電気伝導度,蒸留水及びKClを溶液とするpH測定を行った。電気伝導度の測定では,25℃の振動培養器で24時間攪拌後に測定した。さらに,試料の粒子表面の陽イオンとNH4+を置換させ,試料の陽イオン交換量を求めた。

 2.3 可塑性
2.3.1 Pfefferkorn法
 試料約150gに蒸留水を加え,ビニール袋中に密封後充分練り合わせた後,恒温槽中で40℃にて5日間保持した。その間毎日,ビニール袋中で練り返し,熟成を行った。この様に試料に水分を添加し熟成させたものを練土として試験に用いた。
 練土を高さ(H0)40mm,直径33mmφの成形体を作製し,高さ( h)186mmから1192gの円盤を成形体上に落下させPfefferkorn法に準じた方法10)により可塑性試験を行った。
 試験後,試料中央部から一部秤量瓶に採取し,室温での試料重量:WRT,40℃−相対湿度30%における試料の恒量時の重量:W40,100℃で1日乾燥した試料重量:W100を測定し,各々の温度における試料の含水率(DWTEMP)を求めた。
 また,変形比(H0/H1)=3.3での各温度における含水率(DW'TEMP)を求め,(H0/H1)=3.3における100℃乾燥時の含水率を可塑含水率(PI),また,40から100℃の乾燥で蒸発する水分を保水率:WR100とし,WR100とPIの比から可塑特性値(CV)を求めた。水膜厚(Wf)はPIと比表面積(Ss)から以下に示す式を用いて算出した。

2.3.2 一軸圧縮試験
 陶磁器及び窯業用粘土の可塑性を評価する方法として,Pfefferkorn法,Atterberg法,粘度計による針入法等が使用されてきた11)。しかし,これらの方法は,試験後の変形比と含水率を求めるだけのものであり,圧縮速度が急激に変化するため,変形の過程における情報を得ることができないという欠点を有しているとされている8)
 練土の圧縮による変形挙動は一般に弾性変形−降伏−塑性変形−流動と数段階の変形過程を有し,これは練土固有の粒子形態や粒度及び水膜に寄与するものと考えられる。練土が持つ変形特性を把握するには,レオロジーの分野から研究する必要があり,その挙動を知るには万能試験機による一軸圧縮試験が最適な試験方法であると考えられている8)
 そこで,一軸圧縮試験は,名古屋工業技術研究所で行われている試験方法8)に準じ,浄水場発生汚泥,木節粘土及び可塑剤を添加した試料を対象とし,含水量,成形助剤の添加率を変化させて圧縮試験を行った。試験には,小型万能材料試験機(鞄津製作所製:AG-500型)を用いた。表1に試験条件を示す。

表1 試験条件
試験片 形状 円柱状
20mm
高さ 15mm
圧縮速度 10mm/min
変形量 12.5mm


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