4.視覚的支援による操作性の向上

図19 接触位置の表示
 本システムでは,サイバーグローブの指先で仮想空間中の対象物体に触れることで,形状操作を行っている。この際,対象物体と指先との位置関係や,触感が利用者にフィードバックされないため,操作が困難な場合がある。
 これらを解決する方法として,物体に触れたことを知らせるための何らかの表示を画面上で行い,視覚的に伝える方法や,グローブをはめた指先に振動を伝える装置を装着することにより,利用者に対し直接知らせる方法などが考えられる。ここでは,図19に示すように,物体に接触する前に,サイバーグローブの指先から最も近い物体上の位置,つまり,これから変形を行おうとしている位置を,変形の中心とし,その位置が含まれるポリゴンを赤で,また,変形範囲を緑で示す方法を採った。さらに,物体に接触し変形が行われる瞬間に変形範囲を青で示すことによって,指先が物体に触れ,変形が行われたことを視覚的に知らせる。このような表示により,利用者に的確な視覚情報を与えることで操作性の向上を実現した。

5.結  言
 本論文では,伝統工芸品等の形状を高精度に計測し,計測した物体やCGから作成したモデリング物体を仮想空間上に置き,サイバーグローブを用いて直感的に形状操作を行えるシステムについて述べた。得られた主な結果を以下に示す。
(1) 既存の工芸品の形状入力に関しては,多視点から の形状データをリアルタイムで合成することによ り,セルフオクルージョンを考慮した高精度な形 状入力(計測誤差が0.3mm以下)が可能になっ た。
(2) 形状操作に関しては,従来からの主流であった自 由形状の制御点や重みを数値的に変化させる間接 的な形状操作に対して,VRの入力装置であるサ イバーグローブを用いて「押す」,「引っ張る」 の動作により直接的に形状を変化させることが可 能になった。
(3) サイバーグローブによるテキスチャマッピングの 位置の直接的な指定により,伝統工芸の文様パタ ーンの自由なマッピングが可能になった。
(4) 形状操作の正確な位置を視覚的に利用者に伝える ことで操作性の向上が図られた。

 以上のことより,伝統工芸品試作のための総合的なデザイン評価システムが実現できた。今後の課題として,複雑な形状操作にさらに柔軟に対応できるように,使いやすいユーザインターフェースを実現することである。例えば,陶磁器製品の形状操作を行うための「バーチャル轆轤」をイメージした入力装置の開発等である。また,物体への接触などの操作感覚を力覚フィードバックすることにより,よりリアルな形状操作も実現していきたい。
 さらに,本システムを単に伝統工芸品の外観的なデザイン評価システムではなく,形状操作後の形状データをCADデータに変換し,立体造形装置等により実際に形状を再構成させる試作評価システムまで発展させていきたい。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた金沢工業大学情報工学科の渡辺弥寿夫教授に感謝します。

参考文献
1)二上,小堀:仮想空間での変位関数曲面による曲面 操作法,電子情報通信学会論文誌D-U,Vol.J78D-U, No.9,pp1356‐1362(1995)
2)杉浦,中村,吉村:3次元直接操作による手作り風 造形インタフェース,情報処理学会第45回全国大 会,399/400(1992)
3)Sederberg T. W. and Parry S. R.: "Free Form Deformation of Solid Geometric Models",Proc.of SIGGRAPH'86(1986)
4)水野,岡田,鳥脇,横井:仮想彫刻−仮想空間におけ る対話型形状生成の一手法,情報処理学会論文誌, Vol.38 No.12,pp.2509‐2516 (1997)
5)亀山研一:スタイリングCAD,Human Interface,Vol. 12, No.2,pp171‐174 (1997)
6)中野幸一,渡辺弥壽夫:VRによる伝統工芸デザイ ン支援システムの開発, Human Interface, Vol.12, No.2,pp199 - 206 (1997)
7)木下,中野,渡辺:仮想空間構築のための3次元物体 入力と形状モデリング,第40回自動制御連合講演会, 447/448(1997)


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