仮想現実による伝統工芸品作製支援システムの開発

[製品科学部]   中野幸一
繊維部   漢野救泰
繊維部   米沢裕司

 提案する伝統工芸品のための試作システムは,仮想空間上のオブジェクトに対してサイバーグローブを用いて,「押す」あるいは「引っ張る」の動作で直接形状に触れるような感覚で形状を変化させることができる。また,形状変形後のオブジェクトに対して,文様などのテキスチャを自由に張り付けることも可能である。さらに,工芸品の3次元形状を非接触で高精度に計測する手法についても開発を行った。このシステムの開発により,製品デザインのための直感的な外観シミュレーションが可能になった。
キーワード:仮想現実,形状変形,伝統工芸品,3次元形状,外観シミュレーション

Development of CAD System for Traditional Craft
with Virtual Reality

Kouichi NAKANO,Sukeyasu KANNO and Yuji YONEZAWA

 This paper presents a CAD system for traditional craft which a designer can deform the object in a virtual space by "push" or "pull" operations as he touches it directly using Cyber Glove. Moreover, a texture mapping method on the surface of the deformed object is proposed.And the method for non-contact measuring the 3D shape was also developed for the purpose of inputing the shape of traditional craft works in high accuracy. The method can improve the accuracy by interpolating the missing data caused by self-occlusion. The simulation of external appearance for a new design of works became possible by developing a CAD system with VR.
Key Words:Virtual Reality, form deformation, traditional craft, 3D shape, simulation of external appearance

1.緒  言
 近年,Virtual Reality(仮想現実:以下VRとする)は,機器操作シミュレーションやデザイン設計をはじめとして多くの産業分野で利用されている。特にデザイン設計の分野において,VRは計算機上での対話性や臨場性が特に優れたデザイン設計支援環境を提供してくれる1),2)。現在多くのデザイナーが使用している3次元(以下3Dとする)CADには,3Dデータを入力するためには多くの時間を要する事やCADシステムの操作が複雑で自由に使いこなせない等幾つかの不都合な点があり,製品デザインの直感的な外観シミュレーションが容易に行えないのが現状である。例えば,計算機内に作成された自由形状に対して形状操作を行う場合,自由形状の定義パラメータである制御点や重みを数値的に変更する等の間接的な形状変形が主流であり3),デザイナーが直接触るような感覚で形状操作ができる支援システムが望まれている4),5)。本稿で提案する工芸品作製支援システムは,前述した問題点を改良したものであり,形状操作の際サイバーグローブを用いて直接形状に触れるような感覚で形状を変化させることができる。変形は,仮想空間のオブジェクトに対して,回転体の径方向と局所的な部分を「押す」あるいは「引っ張る」の動作で行う。
 石川県は,地場産業として九谷焼や輪島塗をはじめとする多くの伝統工芸品の産地である。近年伝統工芸品の低価格化(大衆化)や新製品の短寿命化に伴い,新製品開発のサイクルが速くなってきている。しかし,従来の新製品漆器製造工程には,木地(形状作製)→塗り→蒔絵(文様の加飾)→問屋への提示といった一連の工程があり,製品の修正変更に経費と時間の大きなロスがあった。今回提案するVRを用いた形状操作により木地工程が代替でき,さらに,文様のテキスチャマッピングにより蒔絵工程が代替できる。よって, 本システムの開発により,伝統工芸品の効率的な外観シミュレーションが可能になり,工芸品の試作時間の短縮や経費の削減等の効果が図られる。
 本研究では,伝統工芸品のオブジェクトを仮想空間上に作成する方法とサイバーグローブを用いて,仮想空間中のオブジェクトを効率よく変形する手法6),7)について述べる。


* トップページ
* 研究報告もくじ
 
* 次のページ