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食品副産物を有効利用した食品加工技術の開発 −キャベツ加工副産物の漬物への利用−

■化学食品部 武春美 勝山陽子 辻篤史 松田章 中村靜夫
■(株)セイツー 奥村晃

 カットキャベツ製造工程の副産物の有効利用を目的に,キャベツの外皮を原料とした漬物の開発を試みた。その結果,キャベツのブランチング処理は,鮮度維持及び品質安定だけでなく,辛味成分の低減に有効であることが明らかとなった。また,キャベツの外皮の漬物製造に適した発酵条件を見出し賞味期限の設定を行った。さらに,実用化に向けて,合成培地の代替品としてキャベツ汁培地の利用を検討し,乳酸菌スターター溶液として有効であることを明らかにした。
キーワード: カット野菜,食品副産物,乳酸発酵

Development of a Food Processing Technology for the Effective Use of Food By-products
- Use of the By-product of Cut Cabbage for Pickles -

Harumi TAKE, Yoko KATSUYAMA, Atsushi TSUJI, Akira MATSUDA, Shizuo NAKAMURA and Akira OKUMURA

In order to effectively use the by-products of cut vegetables, we attempted to make pickles, using the outer leaves of cabbage. As a result, we found that the blanching process for cabbage was effective not only in maintaining its freshness and quality, but also in reducing its sharp taste. We identified fermenting conditions suitable for the outer leaves of cabbage, and set the expiration date for the product. Furthermore, we examined the possibility of using cabbage juice as a culture medium, instead of a synthetic medium, and confirmed that it was an effective starter for the production of lactic acid bacteria in cabbage fermentation.
Keywords : cut vegetables, food by-product, lactic acid fermentation

1.緒  言
 食品製造業では,平成12年の食品リサイクル法の制定以降,食品製造副産物の有効利用法を模索する企業が増加している。しかし,食品副産物の利用は飼料や肥料への活用に留まり,食品へ再生されるケースが少ない。この理由として,副産物の鮮度維持に手間やコストを要することや食味劣化が原因と考えられる。このような状況の中で,食品製造者から未利用の食品加工副産物から新たな加工食品の開発が求められている。
 本研究では,カットキャベツ製造工程の副産物であるキャベツの外皮を漬物に有効利用するため,通常の品質維持及び不快臭低減を目的としたブランチング処理1)をスチーム及びボイルにより行った。これらの処理効果は,香気成分分析により検討し,不快臭低減効果のあったブランチング処理品については,酢キャベツ及びキムチ由来の乳酸菌2種を用いて漬物を開発し,併せて,保存試験により賞味期限の設定を行った。
 さらに,漬物製造の実用化に向けて,合成培地の代替となるキャベツ汁培地及び乳酸菌スターターとしての利用の可能性も検討した。

2.実験方法
2.1 漬物の発酵試験及び保存試験
2.1.1 試料
 試料に用いたキャベツは,(株)セイツーで不要となったキャベツの外皮部分で,カット製造工程の副産物である。このキャベツの外皮は,ブランチング処理としてスチーム処理(温度130℃,時間45秒)及びボイル処理(温度100℃,時間30秒)を行った。これらのブランチング処理品(スチーム及びボイルキャベツ)は,-20℃で凍結保存し,適宜室温で自然解凍して試験に供した。

2.1.2 乳酸菌
 漬物の試作に用いた乳酸菌は,石川県立大学保有乳酸菌から酢キャベツ由来乳酸菌Lactobacillus plantarum No.639株(以下,639株)及びキムチ由来乳酸菌Lactobacillus plantarum No.625株(以下,625株)の2株を使用した。

2.1.3 乳酸菌の耐塩性試験
 乳酸菌の耐塩性試験用培地は,乳酸菌用合成培地として使用されるMRS(DE MAN ROGOSA SHARPE)培地に食塩を0, 3, 6, 10%添加した食塩含有MRS培地を用いた。この培地10mLに,食塩を含まないMRS培地で前培養した乳酸菌液を乳酸菌数102cfu/mLとなるようにそれぞれ植菌し,温度30℃で48時間の静置培養後に培地の濁りを評価した。

2.1.4 香気成分分析
 測定用試料は,ガラス製バイアルに試料2g,蒸留水10g及び吸着樹脂(アジレント・テクノロジー(株)製 twister)を入れ,室温で1時間撹拌し溶液中の香気成分を吸着させ,GC-MS(アジレント・テクノロジー(株)/ゲステル(株)製 7890A,5975C/ MPS2)により分析した。

2.1.5 漬物の調味液
 調味液は,塩味2種類(0.8%と3%食塩水)とキムチ風味1種類(一味唐辛子2.8g,ガーリック粉1.6g,生姜粉1.6g,砂糖4g,本だし5g,塩3.6g,水180gの混合液)の3種類とし,いずれも調製後に煮沸殺菌処理した。

2.1.6 漬物の発酵試験及び保存試験と評価
 発酵試験は,スチームキャベツ15gに調味液15mLを入れた後,MRS培地にて前培養した乳酸菌を初発菌数106cfu/mLとなるように接種した。この混合物はバリア性包装材MLR-3(カウパック(株)製 構成:PET12μ/ONY/18μ/LLDPE70μ)に入れ,パック包装機((株)古川製作所製 FVCμ-G)にて真空包装しパック包装品とした。その包装品は,温度30℃の恒温器で48時間静置発酵を行った。保存試験は,得られた発酵物を温度10℃の恒温器内で24日間保管した。
 pHは,発酵前と発酵時間18, 30, 48時間後の漬物の溶液部,官能評価は発酵時間18, 30, 48時間後のキャベツ部分を適宜サンプリングした。また,乳酸菌数と乳酸量は,発酵前と発酵終了時に漬物の溶液部を測定した。ここで,乳酸菌数の測定はMRS培地を使用し,温度30℃で48時間後のコロニー数をカウントした。乳酸量の定量は,試料溶液をメンブランフィルター(0.2μm)でろ過し,適宜希釈して有機酸分析装置((株)日本ダイオネクス製 ICS-1500)で分析した。

2.2 キャベツ汁スターター溶液の検討
2.2.1 キャベツ汁培地の作製方法
 キャベツのスチーム品500gに3倍量の水を加え,ミキサーで破砕後,加熱抽出(温度100℃,20分)を行った。次に,ろ紙(No.5A)によるろ過と遠心分離で固形分を除いた。得られたキャベツ抽出液は,500mLガラス瓶に400mLずつ等分し,ボイル殺菌(100℃, 20分)しキャベツ汁培地とした。

2.2.2 キャベツ汁培地を用いたストック用乳酸菌液の調製方法及び保存試験
 乳酸菌は639株を用い,MRS培地10mLにて前培養した。得られた前培養液は,遠心分離により菌体を回収後に10mLの生理食塩水に懸濁して洗浄した。洗浄後に再度遠心分離により菌体を回収し,1mLの生理食塩水により懸濁し,乳酸菌液を得た。次に,懸濁した乳酸菌液1mLをキャベツ汁培地10mLに添加し,温度30℃で24時間の静置培養によりキャベツ汁スターター溶液を得た。ストック用乳酸菌液の作製は,得られたキャベツ汁スターター溶液に細菌用ストックに使用される15%グリセロール添加(A),細胞保存液に用いられる3%トレハロース添加(B),15%グリセロール及び3%トレハロース添加(C),無添加(D)の4種類とした。これらの調製には,60%グリセロール溶液,12%トレハロース溶液,生理食塩水を使用し,いずれのストック用乳酸菌液もキャベツ汁の濃度が1/2に希釈される濃度に調製した。保存試験は,これらのストック溶液を1.5mLバイアルチューブに分注後,冷凍庫(-20℃)に保存し,保存日数5, 10, 25, 60日の乳酸菌数の測定を行った。

2.3 試作品の作製と評価
 試作品の作製は,スチームキャベツの重量を15gから500gにスケールアップし,前述の漬物の発酵試験及び保存試験と同様に(株)セイツーと共同で行った。但し,調味液は塩味(3%食塩水)とキムチ風味の2種類とし,乳酸菌液は前述のストック溶液をキャベツ汁培地にて前培養した。

3 結  果
3.1 漬物発酵試験及び漬物保存試験
3.1.1 乳酸菌の耐塩性
 乳酸菌の増殖できる塩分濃度を確認するために耐塩性試験を実施した結果,いずれの乳酸菌株においても,6%までは濁りがみられた。これより,今回検討した漬物用調味液の塩濃度のうち,6%までは乳酸菌の耐性があることが明らかとなった。

3.1.2 キャベツのブランチング処理品の不快臭低減効果
 スチームキャベツ及びボイルキャベツの香気成分分析を行った結果,ボイルキャベツで主要の3成分(イソチオシアニック酸フェニルエステル,イソチオシアネート-4-メチルチオブタン,3-メチルチオプロピルイソチオシアネート)が多く含まれ,少量の2成分(3-ブテニルイソチオシアネート,アリルイソチオシアネート)が検出された(図1参照)。これらの成分は,キャベツ等のアブラナ科の野菜がカット等による組織の損傷及び破壊した際に酵素の活性化により生成する辛味成分のイソチオシアネート類で2),いずれの成分もスチーム処理品では検出されなかった。この理由として,温度130℃の高温下の雰囲気に曝されるスチーム処理は,キャベツ全体が急激な温度上昇により酵素の活性を最小限に抑え,酵素が失活し,ボイル処理で検出されたイソチオシアネートの発生が抑制されたためと考えられる。
 このようにスチーム処理は,品質及び鮮度維持だけでなく,辛味成分の低減にも有効で,キャベツ独特の香りを抑えた食べやすい漬物の開発が示唆された。そこで,漬物製造にはスチーム処理品を利用することとした。

(図1 ボイルキャベツ及びスチームキャベツの香気成分)

3.1.3 スチームキャベツの発酵試験
 スチームキャベツ発酵試験の経時変化に伴うpHと官能試験及び発酵開始時と終了時の乳酸菌数と乳酸量の結果を表1に示す。pH及び官能試験の結果については,いずれの調味液,乳酸菌株を使用した場合にも発酵時間の経過に伴いpHの低下がみられ,発酵18時間でpHが4付近まで低下したが,官能評価で酸味が不十分だったため発酵時間を延長し,酸味が十分感じられた48時間を発酵の終点とした。得られた発酵物の乳酸量はいずれの発酵条件でも乳酸菌数が109cfu/mLまで増加し,400mg/100mL以上の乳酸生成が認められた。また,キムチ風味は塩味と比べ乳酸の生成が多く,官能評価においても強い酸味を感じられた。これは,キムチ風調味液に含まれるショ糖等の栄養源が菌の代謝を促進したと考えられる。この他,外観の変化については,塩味で発酵24時間以降に退色がみられたのに対し,キムチ風の場合には唐辛子の着色で目立たなかった。

(表1 キャベツのスチーム処理品の発酵試験結果)

3.1.4 保存試験
 保存試験期間中は,いずれの調味液及び乳酸菌においても保存期間の経過に伴うpHの低下がない。また,乳酸量も保存期間中に僅かに増加する傾向が見られたが,24日保存後も乳酸菌数は108cfu/mLを保持し,酸味も維持され,外観には大きな変化はしていない。
 賞味期限の設定には安全係数を加味し,各種の品質評価を基準に設定することとなっている3)。本キャベツ漬物の場合は,乳酸菌数の多い包装品を10℃保存しており,pHや乳酸量などに大きな変動は無いことから,官能評価が最も有効な保存試験の指標になると考えられる。本試験結果から,安全係数を0.8と仮定した場合の賞味期限は20日程度になる。

3.2 キャベツ抽出液を用いた培地作製と乳酸菌スターターとしての利用の検討
 漬物製造の乳酸菌スターターは,実験用の合成培地を使用した場合,味への影響を避けるため菌体を回収し洗浄を行う必要がある。しかし,実験用の合成培地の代替としてキャベツ汁を用いた培地が使用できれば,乳酸菌培養液をそのまま添加することが可能となる。そこで,キャベツ抽出液を用いたストック溶液の調製及び乳酸菌スターターとしての利用の検討を乳酸菌639株により検討した。
 キャベツ汁培地による培養の結果,培養時間24時間後に乳酸菌増殖による濁りが観察されたため,キャベツ汁培地がMRS培地の代替品として利用できた。
 図2は,-20℃冷凍保存における保存日数に伴う乳酸菌生菌数を測定した結果である。ストック用乳酸菌液A(15%グリセロール添加)は,60日間の保存期間中に乳酸菌数の低下は殆どなかった。また,C(15%グリセロール及び3%トレハロース添加)は10日目までは乳酸菌数を維持していたが10日目以降に低下し,60日後で102cfu/mLとなった。これらに対し,B(3%トレハロース添加)とD(無添加)は保存直後に乳酸菌数が急激に低下し,60日後の乳酸菌残存数が102cfu/mL未満となった。この結果から,キャベツ汁培地を用いたストック溶液にはグリセロール添加が有効であり,トレハロース添加による酵母や細胞の保存効果はみられなかった4)。本試験結果より,グリセロールの添加は,乳酸菌細胞の損傷を緩和する働きを持つことが示唆された。

(図2 キャベツ汁スターターの保管に伴う乳酸菌数の変化)

3.3 試作品の作製
 乳酸菌639株を用いた発酵試験の結果,いずれの調味液についても発酵停止時間とした発酵48時間でpH4付近まで低下したが,乳酸菌数が107cfu/mLオーダーで生育が遅く,酸味が足りなかったため発酵時間を延長した。その結果,発酵時間72時間で十分な酸味が得られ,pH及び乳酸量が表1に示す値と同等の発酵物を得たが乳酸菌数の増加は108cfu/mLオーダーに留まった。この理由は,キャベツ汁培地の栄養源の不足が原因で乳酸菌の生育が順調に進まなかったと考えられる。そこで,今後は実用化に向けてキャベツ汁培地に不足する栄養源の添加した前培養やキャベツ汁培地を用いた乳酸菌の植え継ぎ等について検討する必要がある。

4.結  言
 カットキャベツ製造工程の副産物であるキャベツ外皮の有効活用方法として漬物の開発を行い,以下の成果を得た。
(1) スチームによるブランチング処理は,カットキャベツ特有のイソチオシアネート類を減少させ,食味の向上につながる。
(2) 発酵試験の結果,温度30℃,発酵時間48時間で乳酸菌数109cfu/mL,乳酸量400mg/100mL以上で程よい酸味がある漬物を製造できる。
(3) 保存試験の結果,賞味期限は温度10℃で20日程度の設定が可能である。
(4) 漬物製造の実用化のため,キャベツ汁を用いたストック用乳酸菌スターターの検討を行い,十分な酸味が得られた。

参考文献
1) (株)伊藤園. アブラナ科野菜の処理方法,アブラナ科野菜飲食物の製造方法及びアブラナ科野菜飲食物. 特開2001-275602. 2001-10-9.
2) 矢野昌充, 西條了康, 太田保夫. イソチオシアネート類によるカットキャベツの褐変防止とエチレン生成阻害. 園芸學會雜誌. 1986, vol. 55, no. 2, p. 194-198.
3) 氏家隆. 科学的根拠に基づく消費・賞味期限設定. Foods & Food Ingredients J. Jpn. 2009, vol. 214, no. 2, p. 157-163.
4) T. Miyamoto, K. Kawabata, K. Honjoh, S. Hatano. Effects of trehalose on freeze tolerance of baker’s yeast. J. Fac. Agr, Kyusyu Univ. 1996, vol. 41, p. 105.