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高耐衝撃性軽量複合材料の製造技術の開発

■繊維生活部 沢野井康成 笠森正人 吉村治 木水貢 守田啓輔 神谷淳 奥村航 長谷部裕之
■企画指導部 森大介
■丸井織物(株) 宮本徹 永井章裕
■クボタリサーチジャパン(株) 加藤駿
■ワイエムポリマックス(有) 田中能成
■平松産業(株) 惣川武勇 石田応輔
■優水化成工業(株) 曽原隆夫 柏崎雅彦
■一村産業(株) 松村峰彰

 軽量で高強度な炭素繊維強化複合材料が自動車業界で普及するためには,さらなる軽量化に加え,複雑形状への対応や耐衝撃性の向上が求められる。本研究では,熱硬化性樹脂を使用し,賦形性に優れた炭素繊維・耐衝撃性繊維素材と発泡コア材を用いたサンドイッチ構造複合材料の製造技術について検討した。その結果,[1]立体形状にも賦形できる織物・組紐の組成,[2]耐衝撃性の向上に有効な繊維表面の改質技術と[3]中空ガラスビーズ入りの軽量な発泡コア材製造技術に関する知見を得ることができた。これらの繊維素材とコア材を用いて一体成形したサンドイッチパネル材は,炭素繊維のみのものに比較して,衝撃試験では変形が少なく貫通しにくいことを明らかにした。
キーワード: 複合材料,耐衝撃性,サンドイッチ構造,発泡コア材,賦形性

Development of Lightweight, Impact-resistant Composite Material with a Sandwich Structure

Yasunari SAWANOI, Masato KASAMORI, Osamu YOSHIMURA, Mitsugu KIMIZU, Daisuke MORI, Keisuke MORITA, Jun KAMITANI, Wataru OKUMURA, Hiroyuki HASEBE, Toru MIYAMOTO, Akihiro NAGAI, Takashi KATO, Yoshishige TANAKA, Takeo SOGAWA, Ousuke ISHIDA, Takao SOHARA, Masahiko KASHIWAZAKI and Mineaki MATSUMURA

In order to spread the use of lightweight, high-strength CFRP in the motor vehicle industry, improvements such as increased impact resistance and decreased weight must be made. In this study, we examined the production technology of a composite material with a sandwich structure, which consists of fabric or braids of carbon fiber and impact-resistant fiber with a high formativeness, and a foam core material of thermoset resin. As a result, we obtained information about the following: 1. Composition of fabric or braids with a high formativeness; 2. Modification technology for use on the fiber surface for improvement of its impact resistance; 3. Lightweight foam core material containing hollow glass beads. It was confirmed in the impact test that the sandwich panel made by integral molding of the fabrics and core material was deformed and penetrated less than the panel that contained carbon fiber only.
Keywords : composite material, impact-resistant, sandwich structure, foam core material, formativeness

1.緒  言
 鉄よりも強く,アルミよりも軽い炭素繊維強化複合材料(以下,CFRP)は,「環境・エネルギー」問題を抱える自動車業界等にも注目されている。これらの分野に用いられるCFRPには,さらなる軽量化と強度の向上に加え,複雑な立体形状への加工と耐衝撃性の向上が求められている。
 本研究では,熱硬化性樹脂を用いた耐衝撃性のある軽量CFRPの製造技術に関し,複雑形状への対応,耐衝撃性の向上,軽量性の向上について検討した。得られた結果をもとに複合材料サンプルを試作し,その耐衝撃性について検討した。

2.高耐衝撃性軽量複合材料の検討
 高耐衝撃性で軽量な複合材料開発のため,比重が小さい軽量発泡コア材を高強度な炭素繊維と耐衝撃性繊維(ポリアリレート液晶繊維)の織物・組紐で両側から順に積層したサンドイッチ構造を樹脂で一体成形することを目指した。このため,[1]賦形性の良い繊維素材の条件,[2]耐衝撃性向上のための繊維表面の改質,[3]発泡剤を用いた軽量コア材について検討を行った。

2.1 賦形性に優れた繊維素材
 輸送車両分野で使用される3次元等の複雑な部品形状を製造するには,織物や組紐の繊維素材がその形状に追従する必要がある。この時,繊維素材の変形のし易さや追従のし易さを賦形性という。
 本研究では,炭素繊維及び耐衝撃性繊維について,糸の太さと組織を検討することで,立体形状にも追従できる織物・組紐の組成を検討した。賦形性を測定するために用いた各種形状の治具とこれによる賦形性の観察結果の一例を図1と図2にそれぞれ示す。賦形性の評価解析は,賦形性測定の際における繊維素材のシワ,目開きと突起の発生状態を観察した。
 各種繊維素材についての賦形性観察結果より,賦形性の良い繊維素材の条件として,[1]織物及び組紐ともに糸の繊度は小さいほど良い,[2]織物は平組織よりもツイル(綾)組織の方が良い,[3]組物は2軸構造よりも3軸構造の方が良いことが明らかになった。

(図1 賦形性測定のための各種形状の治具)
(図2 賦形性の測定例(耐衝撃性織物))

2.2 耐衝撃性の向上
 複合材料の衝撃性には,繊維と母材樹脂との接着性が重要となる。そこで,樹脂系の前処理剤2種(A,B)を精練済みの耐衝撃性繊維織物に1.0wt%塗布し,その積層材(樹脂:熱硬化性樹脂)について,図3に示すデュポン式衝撃試験機を用い,衝撃痕から接着性を調べた。ここで,積層材試料の衝撃面に発生した衝撃痕(図4と図5の点線囲み部分)は繊維と樹脂との接着性が関与する層間剥離によるものと考えられ,衝撃痕の面積が小さいほど接着性が高い(衝撃痕の面積と接着性は逆相関の関係にある)と考えられる。
 図4に,衝撃エネルギー4.90J(高さ50cm)の場合の衝撃面をマイクロスコープで観察した結果を示す。これより,樹脂A処理品,樹脂B処理品は衝撃痕が面積の小さい円状であるのに対し,未処理の精練品では衝撃痕が面積の大きい扇状となった。このことより,樹脂系前処理剤による繊維表面の改質は,耐衝撃性向上に有効であると考えられる。
 しかしながら,樹脂系材料による繊維への前処理では,樹脂で生地の風合いが硬くなって賦形性も低下した。そこで,生地の硬さへの影響が少ない油剤系の前処理剤3種(C,D,E)について検討した。各油剤を0.5wt%塗布した場合の結果を図5に示す。これより,3者の中でも油剤Eは衝撃痕がC,Dと比べて小さい円状であることが確認された。油剤Eは同C,Dに比べ,今回使用した熱硬化性樹脂との相性が良かったと思われる。
 これらの結果から,油剤系前処理剤の繊維表面への低量塗布は,耐衝撃性の向上とともに賦形性への影響も少ないことが明らかになった。

(図3 デュポン式衝撃試験機)
(図4 衝撃試験結果(樹脂系))
(図5 衝撃試験結果(油剤系))

2.3 軽量性の向上
 本研究の目指す複合材料のさらなる軽量化には,軽量コア材の開発が必要となる。このため,コア材に発泡剤を配合することで軽量化を図ることにした。また,車両用部材には難燃性も重要となるため,熱伝導率が低く燃焼性の無い低比重の中空ガラスビーズもコア材に配合することにした。
 表1に,発泡コア材作製に使用した樹脂剤を示す。これら樹脂剤の混合比率を調整することで,比重の異なった平板コア材(厚さ5mm)を試作した(図6)。比重が0.2〜0.6の範囲で試作した種々の平板コア材について,圧縮応力を測定した結果を図7に示す。これより,コア材比重と圧縮強度には相関関係が見られ,比重0.2〜0.6の範囲で内部がほぼ均一なコア材になっている。この結果を基に,さらに金型を用いた小型箱形形状コア材(150mm×200mm×30mm)の試作を行った。図8はコア材の外観で,表2に樹脂材の配合比率の一例を挙げる。これより,発泡剤の発泡方法及び樹脂剤の金型への充填方法等を工夫することで,比重0.5以下の立体形状コア材の製造が可能であることを検証できた。

(図6 試作した平板コア材(比重:0.2))
(図7 コア材の比重と圧縮強度の関係)
(図8 試作した小型箱形形状のコア材)
(表1 発泡コアの調整)
(表2 樹脂剤の配合比率の一例(小型箱形形状コア材))

3 サンドイッチ構造複合材料の試作
3.1 繊維素材とコア材による一体成形
 上記の軽量コア材に炭素繊維素材及び耐衝撃性繊維素材を重ねた後,VARTM(Vacuum assisted Resin Transfer Molding)成形法により熱硬化性樹脂を注入することにより,立体形状でかつサンドイッチ構造材の一体成形が可能になった。

3.2 サンドイッチ構造複合材料の耐衝撃性
 試作開発した10mm厚さのサンドイッチパネル材(炭素繊維織物4層(コア材を真中に片側2層)+コア材+耐衝撃性繊維織物2層(同片側1層))と炭素繊維のみ(炭素繊維織物6層)のパネル材について耐衝撃性を比較するため,図9に示す落錘型衝撃試験機を使用して衝撃試験を行った。その結果を図10と図11に示す。これより,試作開発したサンドイッチパネル材は120Jでも貫通しないのに対し,炭素繊維パネル材は80Jで破損貫通した。最大衝撃力1)についてもサンドイッチパネル材の方が大きくなる傾向であった。このことより,試作開発したサンドイッチパネル材は,炭素繊維パネル材よりも耐衝撃性の面で優位性が見られた。

(図9 落錘型衝撃試験機)
(図10 衝撃性の比較)
(図11 衝撃試験の結果(120J))

3.3 HIC試験
 HIC(Head Injury Criteria:頭部障害基準)値2)は,衝突や落下などの衝撃により脳や頭蓋骨への損傷程度を表す数値で,自動車の衝突時の乗員の安全性の評価や子供が遊具から転落した際の遊び場の頭部保護基準値としても活用されている。表3に,サンドイッチパネル材のHIC試験を実施した結果を示す。これより,サンドイッチパネル材のHIC値は鉄板のそれに比べ約1/4とかなり小さく,この分野への展開が期待される。

(図12 HIC試験)
(表3 HIC試験結果)

4.結  言
 高耐衝撃性で軽量な複合材料の製造技術の開発について検討し,以下のことを明らかにした。
(1) 賦形性の良い織物及び組紐の条件として,[1]糸の繊度は小さいほど良い,[2]織物は平組織よりもツイル(綾)組織の方が良い,[3]組物は2軸構造よりも3軸構造の方が良い。
(2) 樹脂系あるいは油剤系の前処理剤塗布による繊維表面の改質は,耐衝撃性の向上に有効で,油剤系では賦形性への影響も少ない。
(3) 感熱発泡剤及び中空ガラスビーズを用いた軽量コア材において,発泡方法や樹脂剤の充填方法等を工夫することで,比重0.5以下の立体形状コア材の製造が可能である。
(4) 試作開発したサンドイッチ構造のパネル材は,衝撃試験において炭素繊維のみのパネル材よりも変形が少なく貫通しにくい。

謝  辞
 本研究は,経済産業省「平成21年度戦略的基盤技術高度化試験事業」の委託を受け,丸井織物(株),クボタリサーチジャパン(株),ワイエムポリマックス(有),平松産業(株),優水化成工業(株),一村産業(株)との共同研究の一環として実施しました。関係諸氏に感謝の意を表します。

参考文献
1) 東洋紡績(株). 耐衝撃性に優れた繊維強化複合材料, 特開2003-165852. 2003-6-10.
2) FMVSS(米国連邦自動車安全基準)No.201:1995. 標準乗員の頭部衝撃保護のため性能要件.