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超音波アクチュエータの長時間安定性向上の研究

■機械金属部 高野昌宏

 超音波モータ(アクチュエータ)は,摩擦駆動の接触部に摩耗が生じるため,電磁モータと比べて耐久性が低いことが課題である。耐久性向上のため,ファインセラミックスが接触部の材料に使われているが,摩耗を避けることは難しく長距離駆動後に性能が低下する現象が生じる。そこで本研究では,これまで開発した超音波リニアアクチュエータの高寿命化を目的に,長時間駆動におけるアクチュエータの性能低下の原因を調べた。その結果,性能低下の主な要因は摩耗による接触面積の増加であることが確認された。その対策として,接触面積の増加が無い円柱形状の摩擦接触部材を考案した。これを用いた超音波リニアアクチュエータの長時間駆動試験を実施し,1500km駆動後も安定した性能が維持されることを確認した。
キーワード: 超音波モータ,リニアモータ

Improvement in Durability of Ultrasonic Linear Actuators

Masahiro TAKANO

In general, ultrasonic motors and actuators are associated with the problem of low durability compared with electromagnetic motors, due to abrasion of contact surfaces. To improve durability, fine ceramics are used for contact surfaces; however it is difficult to prevent abrasion, so motor performance decreases during a long-distance drive. In this study, for the purpose of improving the durability of the ultrasonic linear actuator that we developed, the causes of performance deterioration during long-time operation were examined. The main reason for performance deterioration was found to be an increase in the contact area, caused by abrasion. As a countermeasure, a cylindrical component that would not cause an increase in the contact area was proposed. A long-time drive test of an ultrasonic linear actuator incorporating the component was carried out, and it was confirmed that the actuator performance was maintained after a 1500 km drive.
Keywords : ultrasonic motor, linear motor

1.緒  言
 超音波モータ(アクチュエータ)は,振動子と移動体から構成されており,振動子を移動体に加圧接触させ,その接触部に楕円運動を生成することで,移動体を摩擦で駆動する仕組みである。振動子は原理的に送り方向に等速運動させることができないため,振動子と移動体の摩擦接触部では,必ず相対滑りが発生する。モータの定速動作時においてもこの滑り状態は1秒間に数万回以上の頻度で発生することから,非常に摩耗が生じやすい環境である。油潤滑は摩耗の低減に有効ではあるが,摩擦力の減少によるモータ推力や保持力の低下が問題とされており,一般的に超音波モータは無潤滑環境で使われる。このような理由から接触部の摩耗を避けることは難しく,電磁モータと比較して駆動時間や駆動距離が短く適用できる用途が限られていた。
 本研究では,これまで開発した超音波モータの用途拡大を目的に,長時間駆動後も安定した性能を維持できる超音波モータについて検討を行った。超音波モータにとって摩耗は避け難いものであることから,摩耗によるモータ性能の低下を抑えることを目的に,長距離駆動時の性能低下の要因について調査した。さらに,得られた結果をもとに新たに考案した摩擦ヘッドの形状及びその効果について報告する。

2.摩耗による性能変化の要因
2.1 耐久試験
 長期運転中にモータ性能が低下する原因を調べるため耐久試験を実施し,駆動距離とモータ特性および摩耗の関係を調べた。試験に用いた超音波アクチュエータの外観写真を図1に示す。本アクチュエータは,平板状振動子の縦振動モードと屈曲振動モードを励振して,振動子先端の摩擦接触部(摩擦ヘッド)に楕円運動を生成する方式である。振動子と移動体の摩擦接触部の構成を図2に示す。スライダを駆動する直動型とロータを駆動する回転型でそれぞれ検討した。直動型の摩擦ヘッド(振動子側摩擦接触部材)には半径1mmの半球状のジルコニアセラミックスを用い,回転型の摩擦ヘッドには半径1mmの半円筒状のジルコニアセラミックスを用いた。また,スライダの摩擦接触部材は,板厚2mmのアルミナセラミックスを用い,ロータの摩擦接触部材はφ20mmのアルミナセラミックスを用いた。このように摩耗を極力抑えるために,接触部には硬度の高いファインセラミックス材料を用いた。表1に摩擦接触部の形状と材質を示す。直動型,回転型いずれも初期は摩擦接触部材が点接触する構成である。耐久試験は,約1〜2mmのステップ移動量で断続的に始動と停止を繰り返す駆動条件とし,直動型(s-1,s-2),回転型(r-1,r-2)でそれぞれ2体ずつ実施した。
 図3に駆動距離と縦振動の共振周波数の関係を示す。直動型,回転型ともに駆動距離に応じて共振周波数が上昇し,その増加の割合は駆動初期に大きく,その後徐々に小さくなる傾向を示した。摩耗面の面積(接触面積)も共振周波数と同様の増加傾向を示した。また,回転型のr-2の試験では約1300m駆動後からモータ速度に大きなムラが発生し,最後には完全に動作しなくなる現象が生じた。一方,r-1に関しては,1300m駆動後もスムーズに動作した。この両者の違いはr-1のロータの偏芯量が約1µmに対し,r-2では約18µmであったことが関係していると考えられる。次に摩耗面の状態について観察した。振動子側の摩擦ヘッドの摩耗面の写真を図4に,表面形状(直動型)を図5に示す。摩耗面は,円状(直動型)もしくは楕円状(回転型)となっている。摩耗面初期の表面粗さが,Ra0.02程度に対し摩耗後はさらに平滑になり,Ra0.01以下となる結果が得られた。このことから,摩耗状態としてはマイルド摩耗1)であり,表面粗さが乱れるような異常摩耗を起こしていないことが確認できる。また,振動子側の摩擦ヘッドの摩耗量と比べて,スライダ,ロータ側の摩耗量は著しく小さく,表面形状の違いはほとんど観察できなかった。これらのことから,駆動距離に伴って起こるモータ性能の変化は,摩耗の進行による接触面積の増加が大きな要因と考えられる。

(表1 摩擦接触部材の形状)
(図1 超音波アクチュエータ外観写真)
(図2 摩擦接触部材の形状の構成図)
(図3 共振周波数と駆動距離の関係)
(図4 摩耗面写真)
(図5 直動型摩擦ヘッドの摩耗面表面形状)

2.2 接触面積とモータ性能の関係
 駆動距離による性能変化は,接触面積の増加が原因と考えられることから,接触面積とモータ性能の関係を調べた。試験に用いたアクチュエータは,摩擦ヘッドの接触面積が異なるφ0.1mm,φ0.4mm,φ1.2mmの3種類とし,半球状の摩擦ヘッドを長距離駆動により摩耗させることで面積を調整した。各アクチュエータの駆動条件は同一条件とした。定常速度と駆動周波数の関係を図6に,最大推力と駆動周波数の関係を図7にそれぞれ示す。図6において速度が反転する周波数は,共振周波数である。この共振周波数は,接触面積の増加に伴い上昇することが同図からも確認できる。ピーク速度は接触面積の増加に伴って減少しているが,図7のピーク推力は,ほぼ一定の大きさを示した。速度の低下は,接触面積の増加により振動子に作用する負荷が大きくなったためと考えられる。また,接触面積φ1.2mmのアクチュエータでは,速度や最大推力のばらつきが他のケースと比べて大きくなっている。
 本試験から接触面積の増加は,モータ速度の低下やばらつきの増大を引き起こすことが確認された。

(図6 定常速度と駆動周波数の関係)
(図7 最大推力と駆動周波数の関係)

2.3 摩耗による性能変化のメカニズム
 図8に摩耗によってモータ性能が変化するメカニズムを示す。摩耗が動作性能に及ぼす要因としては,摩擦接触部の接触面積の変化と表面粗さの変化が考えられる。駆動後の摩耗面(接触面)の表面粗さは,前節で示したとおり,鏡面状態を維持していることから,動作性能の低下は接触面積の増加が支配的である。試験結果の共振周波数の上昇や速度の低下現象は,接触面の負荷の増加によるものであり,また速度,推力のばらつきは接触面の当たり方が変化しやすくなったためである。特に回転型では,これにロータの偏芯が加わって接触面の当たり方が更に大きく変化するため,モータが停止する現象が生じたと考えられる。
 以上の結果から,摩擦ヘッドの接触面積を小さく,且つ摩耗しても面積変化の無い摩擦ヘッド形状とすれば,長距離駆動後も安定した性能を維持できる可能性が得られた。

(図8 性能変化のメカニズム)

3.ピンタイプ摩擦ヘッドの提案
 前節までの結果をもとに,摩擦ヘッドの形状を図9に示す直径φ0.5mmの突起のついた形状(ピンタイプ)とした。なお,材質はジルコニアセラミックスとした。この形状では,図9に示すように摩耗が進行しても接触面の大きさが変化せず,φ0.5mmの接触面積を長時間維持することができる。このピンタイプの摩擦ヘッドを取り付けた振動子を用いて,ロータを回転させる回転型で長期耐久試験を実施した。ピン直径全面がロータに接触するまで約100kmのエイジングを行い,その後駆動周波数を固定した。運転条件は連続駆動とし,加圧力は約15Nとした。図10にアクチュエータの速度と駆動距離の関係を示す。同図に示すように,若干速度が増加する傾向にはあるが,11〜12rad/sの間でほぼ安定しており,モータ性能が低下するような速度変化は観察されなかった。ただし,約10km周期で速度が多少変動する結果となったが,この周期は1日の周期と一致している。冬期に試験したため,昼夜の室温の変化が10℃以上と大きく,そのことがモータ速度に多少影響したと考えられる。本耐久試験はその後も継続して行い,最終的には,1500km駆動後も安定した動作性能を示した。また,1500km駆動後の摩擦ヘッドの摩耗量は約0.1mmであった。

(図9 摩擦ヘッドの形状)
(図10 速度と駆動距離の関係)

4.結  言
 超音波リニアアクチュエータの耐久性を向上させることを目的に,性能変化の要因調査および対策方法の検討を行った。その結果,アクチュエータ性能の低下は,摩耗による接触面積の増加が支配的であることを確認し,その対策として接触面積の変化の無いピンタイプの摩擦ヘッドを提案した。提案したアクチュエータの長期耐久試験を実施し,1500kmの連続駆動後も安定した性能を維持することを示した。

謝  辞
 本研究を遂行するに当たり,装置開発にご協力を頂いたニッコー(株),シグマ光機(株)に感謝します。

参考文献
1) 足立幸志, 加藤康司, 陳寧. セラミックのWear Map. 日本機械学会論文集(C偏). 1997, vol. 63, no. 609, p. 1718-1726