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金属樹脂レーザ溶着技術の研究 −ファイバ集積型半導体レーザ装置の開発−

■機械金属部 舟田義則 吉田勇太 廣崎憲一

 精密な金属樹脂複合部品を製造する技術としてレーザ溶着技術が最近注目されているが,接合時間が長く,生産性が低いという課題がある。そこで,本研究では溶着時間の短縮を図るため,接合部の形状や大きさに応じて集光形状を調節することによってレーザ光の走査が不要なファイバ集積型半導体レーザ装置を開発した。これを用いてリン青銅板とナイロンシートを溶着した結果,2秒の溶着時間で5N/mm2以上の溶着強度を得ることができた。また,マルチビーム式レーザ装置によるステンレス鋼パイプとナイロンチューブの円周接合を試みたところ,溶着時間2.5秒で5N/mm2以上の溶着強度を得ることができた。集光形状を溶着面形状に応じて変更することで,時間短縮につながるレーザ光走査不要の溶着が可能となった。
キーワード: 半導体レーザ,金属樹脂レーザ溶着,マルチビーム

Study on Laser Welding of Metal and Plastic
- Development of the Fiber-integrated Direct Diode Laser System -

Yoshinori FUNADA, Yuta YOSHIDA and Kenichi HIROSAKI

Laser welding is gaining attention as an effective technique for making fine composite parts of metal and plastic materials. However, it is a technique that requires a long processing time. In this study, a fiber-integrated direct diode laser system was developed. This system does not require laser beam scanning, and its spot shape is adjusted according to the shape of the processing area on a work piece; accordingly, processing time is reduced. Using this system, welding of a phosphor bronze plate and a nylon sheet was conducted. A welding strength above 5N/mm2 was achieved in a short processing time of two seconds. Furthermore, circumferential welding of a stainless steel pipe and a nylon tube was conducted using the multi-beam laser system. The pipe and tube were welded at a welding strength above 5N/mm2 in a short processing time of 2.5 seconds.
Keywords : diode laser, laser welding of metal and plastic, multi-beam

1.緒  言
 電気・電子部品や医療器具部品などには,金属と樹脂を組み合わせた多種多様な部品が使用されている。近年,機器の小型化や多機能化に伴って,より薄くて微細な金属樹脂複合部品を必要としている。例えば,電極材料である金属と絶縁材料である樹脂を組み合わせて製造されるフラットケーブル用コネクタは,ケーブルの狭ピッチ化と薄肉化に対応した微細化が求められている。
 こうした精密な金属樹脂複合部品の製造技術として,図1に示すレーザ溶着技術が最近注目されている1),2)。透明もしくは半透明の樹脂と金属を密着させ,樹脂側からレーザ光を照射することで金属側界面を直接加熱し,生ずる熱によって樹脂を融かして金属に溶着する技術である。接合に必要な熱を精密制御できることから薄肉な部品や微細な部品の製造技術として期待されている。また,金型レスで製造できるために多品種小ロットの金属樹脂複合部品の製造に有効であるとともに,接着剤を使用しない接合方法であることから異物の混入を嫌う医療器具分野からも注目されている。
 金属樹脂複合部品では接合強度を確保するため,接合部分である程度の面積が必要となる。従来型の集光径が微細なレーザ装置を使用した溶着の場合,レーザ光を接合面全領域で走査する必要があり,超音波溶着や高周波加熱溶着に比べて接合時間が長く,生産性が低いことが課題となっている。これに対し,接合する金属もしくは樹脂の形状や大きさに応じてレーザ光の集光形状を自由に調節できれば,レーザ光の走査は不要となり接合時間を短縮できると考えられる。
 そこで本研究では,加工ヘッドの再製作や交換無しで集光形状を変更可能なファイバ集積型レーザ装置を試作し,レーザ溶着技術への適用性を検討した。

(図1 金属樹脂レーザ溶着)

2.ファイバ集積型半導体レーザ装置の開発
2.1 原理及び構造
 試作したファイバ集積型半導体レーザ装置の原理を図2に示す。同装置には,光ファイバ結合型半導体レーザ素子が複数個組み込まれている。各素子で発生したレーザ光は光ファイバと接続コネクタを介して加工ヘッド内にある光ファイバ集積部品へ導かれる。集積部品から出たレーザ光は一旦広がり,その後のコリメータレンズおよびコンデンサレンズによって集光される。焦点位置での集光形状はレーザ光の導光パターンによって決定される。すなわち,各レーザ素子に結合した光ファイバを,光ファイバ集積部品内の任意の位置の光ファイバに接続することにより,意図した集光形状に変えることができる3)

(図2 ファイバ集積型半導体レーザの原理)

2.2 装置試作
 図3は,光ファイバ結合半導体レーザ素子を搭載したレーザ装置本体と専用の加工ヘッドの外観である。装置本体にはレーザ光の発振波長が915nmで最大出力が10Wのレーザ素子を6個使用した。試作した装置で発生するレーザ光は全て図4(a)に示す接続コネクタを介して加工ヘッドに導光され,そして集光して照射される。図4(b)は加工ヘッド内に組み込んだ光ファイバ集積部品であり,最大5×12の数の光ファイバを縦横ピッチ0.25mmで集積できる。同図に示すように集積部品内の任意の位置に光ファイバを接続し,導光したレーザ光を1対1の光学系で集光すると,焦点位置において各光ファイバに対応する集光点が同じパターンで配置されている。このように集積パターンの設定によって集光形状を任意に変更できることを確認した。

(図3 レーザ装置本体と加工ヘッド)
(図4 光ファイバ接続コネクタと集積部品)

3.板状部材の金属樹脂レーザ溶着実験
3.1 実験方法
 フラットケーブル用コネクタで使用されるナイロン樹脂(板厚0.3mm)とリン青銅(板厚0.1mm)のレーザ溶着を試みた。試料には,ナイロン樹脂とリン青銅の板材をそれぞれ10mm×25mmと2mm×0.5mmの大きさに切り出して使用した。
 溶着実験では,図5に示すようにレーザ装置本体に接続された加工ヘッドと送りテーブル,モニタ用カメラで構成される実験装置を用いた。送りテーブル上に専用ジグを設置し,図6(a)に示すようにリン青銅板材の上にナイロン樹脂板を重ね,これらを石英板で隙間ができないよう固定した。このとき,集光点を直線的に配置することでレーザ光の集光形状を直線とし,同図(b)に示すようにリン青銅板表面上に照射した。

(図5 レーザ溶着実験装置)
(図6 溶着実験時の試料固定方法と集光形状)

3.2 実験結果
3.2.1 切削抵抗の比較
 レーザ光照射時間を2秒で一定とし,レーザ光出力を変えて溶着実験した。その結果,出力が18W以上で溶着可能となり,出力が高いほど図7に示すように周囲の透明部分が広がり,溶融範囲が拡大した。出力が34Wより高いと樹脂が炭化し,溶着できなかった。
 図8に示すようにリン青銅板材に追加したタブを使用して溶着部の引き剥がし試験を行い,溶着強度を調べた。レーザ光出力が高いほど溶着強度が高く,出力が34Wでは,2秒の溶着時間で溶着強度は5.8N/mm2に達した。これは,超音波溶着や高周波加熱溶着と同程度の溶着時間でフラットケーブル用コネクタにおける2N/mm2の抜き差力4)に十分耐え得る強度が得られたことになり,実用化の可能性を確認できた。
 なお,引き剥がし試験後のナイロン樹脂溶着面を観察すると明瞭な変色が認められた。蛍光X線分光分析装置を用いて変色部の元素分析を行った結果,図9に示すように銅に帰属するピークが認められ,ナイロン樹脂側にリン青銅が移着していることを示している。

(図7 レーザ溶着したリン青銅板とナイロン樹脂板)
(図8 溶着部引き剥がし試験と溶着強度)
(図9 ナイロン樹脂溶着部の元素分析結果)

4 円筒状部材の金属樹脂レーザ溶着実験
4.1 実験方法
 医療器具等への応用を検討するため,図10のように,外径φ2mmのステンレス鋼(SUS304)製金属パイプを内径φ2mmのナイロン樹脂チューブに5mmほど挿入し,全周溶着を行った。このとき,レーザ装置を4台使用し,それぞれに接続される加工ヘッドを90°間隔で配置し,全方向から同時にレーザ光を照射するマルチビーム式レーザ溶着法を用いた。この方法では,集光形状が直線のレーザ光を複数のレーザヘッドから照射することにより,試料を回転させることなく全周の均一加熱が可能である。

(図10 マルチビーム式レーザ溶着)

4.2 実験結果
 照射時間を2.5秒で一定とし,4台の加工ヘッドからの全レーザ光出力を12Wから36Wまで変えた溶着実験を行った。図11に溶着後の外観を示す。レーザ光出力を12W以上にすると挿入部分に溶着部と推定される透明な箇所が現れる。レーザ光出力を高めるとその領域はさらに広がり,出力が36Wに達すると,ナイロンチューブ先端が溶融しテーパー状に変形した。
 各条件で溶着した試料を3本ずつ作製し,引張試験により溶着強度を求めた。結果を図12に示す。全レーザ光出力が12Wの場合,溶着強度は1N/mm2程度と小さいが,出力を高くすると溶着強度は高くなり,レーザ光出力が36Wでは,溶着強度は5N/mm2を超えた。これは,市販されている紫外線硬化型医療用接着剤5)の接合強度と同程度である。
 これらの結果から,試作したファイバ集積型半導体レーザは金属樹脂溶着に利用できることを確認した。このようなレーザ溶着技術は接着剤を使用しないため,接合部の衛生確保や工程省略による製造コスト低減が見込め,医療用器具製造分野での利用が期待される。

(図11 レーザ溶着した金属パイプと樹脂チューブ)
(図12 レーザ出力による溶着強度の変化)

5.結  言
 ファイバ集積型半導体レーザ装置を開発し,金属樹脂レーザ溶着技術への適用を試みた。以下にその結果を総括する。
(1) 光ファイバの切替えによって集光形状を変更可能なファイバ集積型半導体レーザ装置を開発した。
(2) リン青銅板材(2mm×0.5mm)をナイロン樹脂フィルムに溶着し,溶着時間2秒で5N/mm2の強度を得た。
(3) 外径φ2mmのステンレス鋼パイプをナイロンチューブに2.5秒で溶着し,5N/mm2の強度を得た。
(4) 集光形状を溶着面と同様の形状に変更することで,溶着時間短縮につながるレーザ光走査もしくはワーク回転なしの溶着が可能となった。

謝  辞
 研究実施にあたり,ご協力を頂きました国立大学法人大阪大学准教授阿部信行氏および(株)村谷機械製作所に感謝致します。

参考文献
1) 三瓶和久. レーザによる樹脂の溶着技術. レーザ加工学会誌. 2007, vol. 14, no. 4, p. 1-5.
2) 水戸岡豊, 日野実, 浦上和人. インサート材を用いたプラスチック-金属接合における金属表面の影響. レーザ加工学会誌. 2008, vol. 15, no. 3, p. 36-40.
3) (株)村谷機械製作所, 石川県. レーザ加工装置及びレーザ加工方法. 特開2011-227269. 2011-11-10.
4) 富士通コンポーネントカタログ. p. 62.
5) ヘンケル社製ロックタイト製品総合カタログ. p. 20-22.