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染色余剰汚泥の配合割合を高めた屋上緑化材用セラミックス多孔体の開発

■化学食品部 北川賀津一 中村靜夫 田畑裕之
■小松精練(株) 奥谷晃宏 金田明久
■(株)トーケン 玉井禎人
■(株)アースエンジニアリング 大西和弥
■石川県立大学 長谷川和久

緒  言
 北陸地域は国内合繊織物80%を生産する産地で,合繊織物に風合い,染色などの付加価値を高める染色整理業が多く集積している地域である。染色整理業では多くの排水が発生し,これを活性汚泥法で処理しているが,その際に多量の余剰汚泥(以下汚泥)が発生し,産業廃棄物処理に多額の費用を要している。そこで,小松精練(株),(株)トーケン,(株)アースエンジニアリングは,汚泥を資源として活用するために汚泥を10%配合した多孔体の開発を試み,商品化し屋上緑化材として平成21年から販売を開始している。しかし,発生量の全量を活用するまでには到っていない。今回,汚泥の配合率を高めた製品とその用途開発を進め,汚泥の配合比率を30%に上げた多孔体の開発について報告する。

多孔体の試作とその物性
 汚泥30%に鋳物スラグ45%と粘土24%,焼成珪藻土1%を添加した原料を十分に混練,押出し,平板(厚さ13mm,幅500mm,長さ1000mm)を成形した。平板は水分が1%以下まで乾燥し,中央部の最高温度(焼成温度)を980℃に設定しローラーハウスキルンで焼成した。最高温度に到達するまでに,乾燥体から残りの水分を除去し,汚泥中の有機物を400〜500℃付近で燃焼させて多孔体を作製した。なお,ヒートカーブを適正に管理することで,破壊(爆砕)を防いだ。
 汚泥10%と30%で試作した多孔体の物性を表1に示す。3点曲げ強度は1.6MPa(N/mm2)で現行品の約1/2で,今後の課題となった。一方,目標としたかさ比重0.8以下,飽和含水率45%以上の値を示した。JIS A5208に準拠した凍結融解試験で,吸水させた多孔体を-20℃で8時間以上保持した後に6時間以上水中に放置する操作を5回繰り返したが,割れや亀裂などの不具合の発生は認められなかった。汚泥配合率30%の多孔体の熱伝導率は0.13W/mKで耐火断熱れんがと同等の熱伝導率(断熱性)を示した。多孔体のX線回折パターンから石英(SiO2)と,少量のワラストナイト(CaSiO3)とクリストバライト(SiO2)が検出された。汚泥0%,10%,30%各多孔体を観察すると,汚泥なしの場合が最も発泡し厚みが50mm,配合率10%では発泡は若干抑えられ,厚み40mm,配合率30%では発泡は僅かで厚み15mmであった。汚泥0%,10%における多孔体は鋳物スラグの発泡によりmmオーダーで水平方向に発達した気孔が多数観察されたが,汚泥30%の多孔体は気孔の異方性は薄れ,円形ないし柱状の気孔が観察された。
 多孔体の細孔分布測定では10〜100μmにブロードなピークが,0.2μmにやや鋭いピークが観測された。汚泥量が増えると0.2μmのピークが増加し,10〜100μmのピークが減少したことから,10〜100μmのブロードなピークは鋳物スラグの発泡による気孔,0.2μmのピークは汚泥による細孔(微気孔)と考えられる。

(表1 染色余剰汚泥10%と30%で試作した多孔体の物性)

セダム種の植栽
 汚泥配合率30%の多孔体の植栽試験のため,平成22年5月26日から平成23年2月14日までセダム4種を植栽し生育状況を観察した。植栽の結果を図1に示す。(a)は多孔体上に10mmの土壌を吹き付けセダムを植裁したものを示す。(b)に示すように植栽後2週間程で根が出始めた。(c)に示すように2カ月で出荷出来る状態となった。セダムが基盤に根付くまでは今までの10%基盤より1〜2週間長く時間がかかったが,活着後は基盤への根付きも良好で現行基盤との差はなかった。(e)は冬季期間のセダムの常態で緑色から赤色に変化したが,春になると再び緑色に回復した。この緑化材を用いて環境貢献効果の検証を実施している。

(図1 多孔体へのセダム種の植栽 (小松精練(株)屋上に設置))

結  言
 染色工場から排出する汚泥の有効利用と用途拡大を目指し,屋上等用緑化材として多孔体の開発を行った。
(1) 3点曲げ強度は1.6 MPa(N/mm2)の薄型で軽量な多孔体が得られ,-20℃で5回の凍結融解試験を実施したが,割れや亀裂の発生はなかった。汚泥混合率30%の多孔体は耐火断熱れんがと同等の熱伝導率(0.13W/mK)を示し,鉱物組成として石英(SiO2)と,少量のワラストナイト(CaSiO3) ,クリストバライト(SiO2)が観察された。細孔分布測定から 10〜100μmにブロードなピークの細孔と0.2μmに鋭いピークを持つ細孔が観測されたが,これはサブミクロンの細孔は汚泥による細孔(微気孔)と考えられる。
(2) 多孔体の上に10mmの土壌を吹き付け,セダム4種を植裁し良好な活着と生育を観察した。

論文投稿
 日本緑化工学会誌 2012, vol. 37, no. 3, p. 433-436.