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独立電極を持つ縦・屈曲積層振動子を用いた超音波リニアモータの制御性改善

■機械金属部 高野昌宏 廣崎憲一
■ニッコー(株) 滝本幹夫
■シグマ光機(株) 市村悟
■東京工業大学 中村健太郎

緒  言
 超音波モータは小型・高分解能という優れた特徴を有しているが,入力(電圧)と出力(モータ速度)の関係に非線形性を有するので,精密な制御が難しいという欠点を持っている。この非線形性は,振動子の楕円運動軌跡と関係している。超音波モータは,振動子と移動体から構成されており,振動子を移動体に加圧接触させ,その接触部に楕円運動を生成することにより,摩擦で移動体を駆動する仕組みである。この楕円運動軌跡の大きさを変えることで,モータ速度を変化させているが,楕円運動軌跡の大きさがある値よりも小さくなると,モータ速度が急激に低下し,最終的には,停止してしまう現象(不感帯)が生じる。これは,楕円運動の加圧方向成分(振動子の加圧方向の成分)が低下し,振動子と移動体を接触・分離させるクラッチの役目が十分機能しなくなくなったためである。したがって楕円運動の加圧方向成分を一定に保ち,送り方向成分のみを速度に応じて変化させることができれば,入出力特性を改善することが期待できる。
 そこで,超音波モータの制御性を改善することを目的に,楕円運動軌跡を自在に制御できる積層振動子を提案した。本報では,楕円運動軌跡の形状による入出力特性の変化及び制御性の改善結果について報告する。

入出力特性
 図1にアクチュエータの基本構造を示す。アクチュエータは振動子と移動体から構成されており,振動子は移動体と摩擦ヘッドを介して加圧接触した状態で固定される。振動子の加圧方向の振動は,縦1次モード(L1モード)で励振し,送り方向の振動は屈曲2次モード(B2モード)で励振する。本振動子は,このL1モードとB2モードを個別に励振できるため,摩擦ヘッドの楕円運動の軌跡形状を自在に制御することが可能である。
 超音波モータの速度制御は一般的に電圧制御法,周波数制御法,位相制御法の3種類の駆動方法が使われている。そのときの楕円運動軌跡の形状変化のイメージを図2に示す。電圧制御法,周波数制御法(Drive C)では,低速になると楕円運動軌跡の形状は変化せず,振幅が全体的に小さくなる。また,位相制御法(Drive B)では,楕円運動軌跡の形状を変化させることで速度制御を行っている。本研究では,加圧方向の振幅を一定の大きさに保ったまま,送り方向の振幅のみを変化させる駆動方法(Drive A)を用いた。この3種類の駆動方法の入出力特性を比較した。図3に定常速度と制御入力の関係を示す。Drive B,Drive Cでは不感帯(速度が0の領域)が存在し,速度のばらつきも大きいため,0.02m/s以下の低速制御が困難な結果となった。一方,Drive Aでは,不感帯がほとんど無く,制御信号に対して線形に速度が比例する結果が得られた。

(図1 アクチュエータの基本構造)
(図2 駆動法による楕円運動軌跡の形状変化)
(図3 定常速度と制御入力の関係)

フィードバック制御
 Drive Aで良好な入出力特性が得られたので,この駆動方法を用いてフィードバック制御を行った。用いた制御ループを図4に示す。不感帯補償などは行わず,速度補償器,位置補償器を持つ一般的なフィードバック制御法を用いた。図5に5mmのステップ指令時のスライダの位置,及び目標値に対する偏差の時間波形を示す。Drive B,Drive Cでは,4秒経過後も偏差が2µm以上残るが,Drive Aでは,約2秒後にエンコーダの最小分解能である20nm以下で収束した。

(図4 制御ループ)
(図5 5mmステップ指令時のスライダ位置,偏差の時間波形)

結  言
 超音波モータ・アクチュエータの制御性改善を目的に,縦振動と屈曲振動を個別に励振できる積層平板振動子を考案し,その制御特性について検討した。その結果,縦振動(加圧方向)を一定の大きさに保ちながら,屈曲振動(送り方向)のみを変化させる駆動制御を行うことで,超音波モータの課題である不感帯を1/20以下にまで低減でき,良好な入出力特性を得ることができた。これにより,通常の制御方法で20nmの位置決めが可能であることを明らかにした。

論文投稿
 Jpn. J. Appl. Phys. 2011, vol. 50, 07HE25, p. 1-6.