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層状共析組織による鉛フリー青銅鋳物の摩擦摩耗特性の向上

■機械金属部 舟木克之 南川俊治
■産業技術総合研究所 岡根利光
■関西大学化学物質生命工学部 小林武 丸山徹
■(株)明石合銅 明石隆史

緒  言
 鉛青銅鋳物は,工作機械やディーゼル機関等の軸受ブッシュ,ライナーや高圧油圧ポンプ部品など中高速・高荷重用途の摺動部材として広く使用されている。近年,RoHSやELV指令等により,部材中の鉛やカドミウムなどの特定有害物質の含有を禁止・減少させる動きが急速に広まっており,軸受材料における環境配慮型代替合金の早急な研究開発が産業機械メーカ等から切望されている。本研究では,鉛フリー組成の合金元素でスズ青銅の共析変態を制御すれば,鋳放しで層状共析組織が大量に出現することを見いだした。そして,摩擦摩耗特性に及ぼす共析組織の影響を考察し,CAC603の環境配慮型代替合金としての有効性について検討した。

銅合金試料の作製と摩耗試験
 溶解は高周波溶解炉を用い,リン青銅(CAC502)35kgの元湯へ種々の合金元素を必要に応じて添加し,表1の組成を有する青銅合金を溶製した。なお,表中にあるLBAは建設機械用油圧ポンプや摺動部材に使用されている現行の材料であり,LBC3中のスズを増量し,ニッケルを1.5 mass%添加して基地を固溶強化したものである。
 また,摩耗試験はリングオンディスク方式のトライボット試験機を用い,333Kに保ったSAE10W級エンジンオイルを循環させた油槽中でS45Cの回転板に試験片を10MPaで押付け,周速を連続的に増加させながら焼付限界PV値を求めた。焼付判定基準は固着停止の他,トルク計指示の摩擦係数が0.2以上,または摩擦熱により試験片の温度が473Kを越えた時点とした。

(表1 各種試料の化学組成)

合金化による青銅の金属組織変化
 表1に示した組成の青銅合金を塩化第二鉄塩酸アルコール溶液でエッチングした金属組織を図1に示す。試料A及びCが鉛フリー組成であり,合金BとDはRoHS指令の許容範囲内で鉛を添加した低鉛組成,LBAとLBC3 (CAC603) は鉛青銅系の実用合金である。このうち,合金C,D,LBAにおいては共析組織が観察された。
 スズ青銅に1.47mass%ニッケルと0.72mass%硫黄を加えた試料Aの組織では,デンドライト樹間に花弁状の晶出物が存在し,EPMA分析による原子量比からCu2Sであった。右上にはδ相の周りが濃くエッチングされた包晶組織も観察される。これに少量の鉛を加えた試料Bでは,デンドライトの樹間にδ相及びδ相を包むように鉛が晶出し,Cu2Sは球形になった。
 また,試料Aにビスマスを添加した試料Cでは,デンドライトの樹間にδ相や球状Cu2Sと隣接してα+δ共析組織が出現している。これに少量の鉛を加えた試料Dでは,初晶αを取り囲むように共析組織が網状に成長し,試料Cに比べて面積率が増加した。これらのことから,共析組織の出現にはビスマスが関与し,偏晶反応後の残留液相中に存在するビスマスと鉛の量が共析組織の面積率に影響していると考えられる。
 一方,硫黄を含まない鉛青銅系のLBAとLBC3では,原則的にはα+δ+鉛相の基地組織となるが,LBAには共析組織がわずかに観察された。化学分析ではLBA中に0.43mass%ビスマスが含まれており,製造工程において混入したビスマスの影響で共析変態したものと考えられる。

(図1 各種試料の金属組織)

摩擦摩耗特性
 図2に各試料の焼付限界PV値を示す。LBC3の3000MPa・m/min弱に対して,共析組織が出現した合金Cと合金Dでは5000MPa・m/min以上と高く,LBAと同レベルの耐焼付性を示した。一方,合金A,Bでは,合金C,Dと固溶強化元素のスズやニッケル量に差がないことから,PV値における大きな差異は共析組織出現の有無が深く関与していると考えられる。また,層状共析組織が出現しているC,DとLBA,LBC3について,摩擦面圧5MPa,すべり速度5m/sの一定負荷を与え, 36000m摩擦した後に測定した各試料の質量減を図3に示した。なお,各試験値は3個の平均値である。LBC3の質量減0.397gに対して,鉛フリー材C,低鉛材Dともに0.2g前後と小さく,LBAと比べても遜色のない耐摩耗性が得られている。

(図2 焼付限界PV値の比較)
(図3 摩耗減量の比較)

共析組織の微細構造
 図4に鉛フリー合金の反射電子組成像を示す。各位置をEPMAで組成分析した結果,基地のα相を基準にして黒く見える微粒はFeS,明るいグレーに見えるのが銅スズ金属間化合物,白い微粒子が金属ビスマスであった。共析組織中の銅スズ金属間化合物ではニッケルと窒素が濃化し,さらに,数μm以下の分散したビスマス粒子は,その大きさから固液相分離によって晶出したものではなく,過飽和固溶体から析出したものであると考えられる。合金中に含まれる約5%のビスマスがナノ粒子析出物となることで,凝固晶出物よりも表面積が増大し,固体潤滑材として耐焼付性や耐摩耗性に対して良好な結果をもたらしたものと考えられる。

(図4 共析組織の反射電子組成像)

結  言
(1) 層状構造の共析組織を持つ本合金は,金属組織の形態的特徴により高い耐焼付性や耐摩耗性を発揮し,鉛青銅CAC603の環境配慮型代替合金として極めて有効である。
(2) 共析組織中に析出したビスマス微粒子は,摩擦摩耗特性に対して良好な結果をもたらした。

論文投稿
 鋳造工学,2011,vol.83, no.91, p.513-518