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鋳造素材AZ91合金における不連続析出物の母相との結晶方位関係

■機械金属部 藤井要
■富山大学工学部 松田健二 五之治巧 渡辺克己 川畑常眞 池野進
■富山県立大学 上谷保裕

緒  言
 Mg-Al系合金の1つであるAZ91合金は,優れた鋳造性と機械的性質を有するため実用鋳造合金として広く使われている。Mg-Al系合金は,溶体化処理後の時効処理によってβ-Mg17Al12金属間化合物が析出し,結晶粒内での連続析出物と結晶粒界での不連続析出物が形成される。これらの析出挙動は機械的性質に影響することが知られている。析出挙動に関するこれまでの研究は連続析出物に注目したものが多く,実用素材として用いられるAZ91合金における不連続析出物の報告は少ない。そこで本研究では,近年,微細構造の解明において利用が注目されている電子線後方散乱回折(EBSD)法と,目的の領域に対して透過型電子顕微鏡(TEM)試料を作成可能な集束イオンビーム(FIB)を用い,AZ91合金の不連続析出物の結晶方位関係の検討と析出物形状の解析を行った。

不連続析出物
 Fig. 1に,AZ91合金の時効処理材の光学顕微鏡像とSEM像を示す。観察した試料は,鋳造材にそのまま溶体化処理と時効処理を施した鋳造材試料(a)〜(d)と,比較のため鋳造組織を破壊する目的で,温間圧延後に溶体化処理と時効処理を施した圧延材試料(e)〜(h)の2種類である。それぞれ時効初期段階の1.8ksと硬さが最大値(ピーク)を示した処理時間での組織である。鋳造材の光学顕微鏡像(c)では,鋳造組織特有のデントライト組織が観察されるのに対し,圧延を施した(g)では,そのような組織は見られなかった。一方,SEM像の(b)と(f)ではいずれも,層状のラメラ−構造を有する不連続析出物が結晶粒界に観察でき,ピーク時効での(d)と(h)では,不連続析出物が粒内に進行し,視野全体にわたって成長していた。以下,層状のラメラ−構造の析出物に注目して解析を行った。

(Fig. 1 (a), (c), (e), (g)Optical micrographs and (b), (d), (f), (h) SEM image of cast and rolled alloys at 489K;(a)-(d) cast and (e)-(h) rolled alloys aged for (a), (b), (e), (f) 1.8ks, (c), (d)57.6ks and (g), (h)14.4ks)

結晶方位解析
 鋳造材と圧延材のそれぞれの結晶粒間の相対方位差の分布をEBSD法により解析した。Fig. 2にその解析結果を示す。白色のバーは,隣接する母相結晶粒の相対方位差の分布を示し,その結晶粒界に不連続析出物が存在した頻度を灰色のバーで示す。鋳造材と圧延材両方において,不連続析出物は,20°以上の高傾角粒界に多く存在することがわかった。また,不連続析出物の存在数は結晶粒界の数に依存して変化している。これは,鋳造組織を破壊するために行った圧延処理は不連続析出物の核生成に特に影響していないことを示している。
 次に,FIBによる不連続析出物のTEM観察用試料の作製と析出物の立体形状解析を行った。Fig. 3(a)は,鋳造材を1.8ks時効した時の不連続析出物をFIBにより断面加工した試料のTEM像である。なお,Fig. 3(b)は,TEM試料に加工する前のSEM像であり,矢印で示す不連続析出物の領域をFIBにて加工しTEM試料として観察した。Fig. 3(c)は,(a)をより高倍率で撮影した像である。不連続析出物が発生した別の部位については,FIBによる加工と断面観察を繰り返し,不連続析出物の立体形状を推定した。その結果,析出物が板状形状であることを確認した。
 さらに,上記の断面試料についてTEMを用いて結晶方位解析を行った。Fig. 3(a)は,母相の[0001]方向からの明視野像であり,白色の四角く囲った領域からの制限視野回折像を(d)に示す。弱い回折斑点は,β相の[11-1]方向と指数付けられ,白矢印は母相の[2110]方向とβ相の[211]方向である。これらは,Crawleyの連続析出物の報告と一致した。また,それより12°傾いた破線の白矢印は,同報告にあるβ相の形状における長手方向の角度を示し,(a)と(c)中に黒色の破線で示す析出物の長手方向の角度と一致した。一方,(a)中の小さい白矢印で示した析出物のように,異なった方向を示すものも存在した。さらに,(c)に示す析出物に対し,エネルギー分散型X線分析(EDS)によって成分分析を行った結果,Mg/Alの原子比が約17/12であったことから,不連続析出物はβ-Mg17Al12金属間化合物であると確認した。
 同様にいくつか視野の不連続析出物において結晶方位関係や析出物の形状解析を行い,Mg-Al系合金の析出物に関する報告との比較を行った。

(Fig. 2 Relationship between misorientation and GB fraction for (a)cast and (b)rolled alloys.
White bars : all GBs ; gray bars: GBs with DPs.)
(Fig. 3 Microscopic analysis of DP in cast alloy aged for 1.8ks (a)Bright filed TEM image;(b)SEM image from the same;(c)enlarged image of the region indicated by square in (a) and (d) its SAED pattern)

結  言
 AZ91合金を時効し,不連続析出物の形状や母相との方位関係を調査した結果は,以下の通りであった。
(1) 鋳造材と圧延材のそれぞれの結晶粒間における不連続析出物の発生頻度を検討した結果,圧延処理は不連続析出物の核生成に特に影響していない。
(2) 不連続析出物は,板状の形状であり,β-Mg17Al12相である。
(3) 不連続析出物の母相との方位関係は,過去の報告であった連続析出物と同様である。
 以上,不連続析出物の生成に対する圧延処理の影響と,不連続析出物の形状,および母相との方位関係を明らかにした。

論文投稿
Materials transaction, 2011, vol. 52, no. 3, p. 340-344.