簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:281KB、2ページ)


葡萄粕等を利用したリキュール製造技術の開発指導 −葡萄粕の発酵と蒸留−

■化学食品部 武春美 中村靜夫
■石川県立大学 矢野俊博 野口明徳
■能登ワイン(株) 森山文徳 吉田譲
■柳田食産(株) 上天春男
■数馬酒造(株) 数馬嘉雄

緒  言
 石川県能登地方では,地域特産品の葡萄,ブルーベリー等を用いて,ワイン,ジュース,ジャムなどを商品化し地域の活性化に取り組んでいる。現在,これらの製造の時に発生する果実の搾り粕は,肥料として栽培地に還元,もしくは近隣畜産農家へ飼料として提供されている。しかし,これら搾り粕には,抗酸化性を示すポリフェノール等の有用成分が多く含まれており1),2),食品素材としての活用が求められている。そこで,ワイン産地等での利用方法である"マール"や"グラッパ"と呼ばれる蒸留酒の製造方法を参考に,廃棄物フリーの循環型利用方法の確立を目指し,数馬酒造(株),能登ワイン(株),柳田食産(株),石川県立大学,工業試験場が共同で新規リキュールの開発に取り組んだ。本稿では,糖化,発酵,蒸留等における技術指導の内容と,一般成分および機能性成分評価結果について報告する。その概要は,(1)清酒製造副産物の白糠(酒米の精米時に発生する米粉)を補糖材料とし,(2)補糖材料である白糠糖化液と葡萄粕を混合発酵して,(3)混合発酵物から蒸留によりリキュールを製造する最適蒸留条件の検討を行った。

実施内容
(1) 補糖材料の検討
 補糖は,原料の葡萄粕に不足する糖源を補うために使用する。ここでは,数馬酒造(株)で排出される酒米の白糠を用い,糖化酵素が主活性である食品用粗酵素により糖化液へ変換し用いることとした。この酵素には,α-アミラーゼ(ヤクルト薬品工業(株)製 ユニアーゼBM-8),グルコアミラーゼ(ヤクルト薬品工業(株)製 ユニアーゼ30)の2種を用いた。糖化方法は,白糠1に対し,水2の割合とし,α-アミラーゼを白糠の0.05wt%添加し,75℃で30分反応させた。その後,温度を60℃に低下させ,グルコアミラーゼを白糠の0.05wt%を添加し,65時間反応させて糖化液を得た。糖化液の評価は,甘さの指標となる糖度(Brix)とグルコース濃度を測定することとした。なお,Brixは糖度計((株)アタゴ製 PAL-J),グルコース濃度はグルコース用測定キット(和光純薬工業(株)製 グルコースCII-テストワコー)により測定した。
 糖化液の評価の結果,糖化開始直後はBrix22.4,グルコース濃度10.5g/100gであったが,いずれも時間の経過とともに増加し,65時間後にはBrix29.0,グルコース濃度19.8g/100gとなった。この結果から,米を原料とした場合と同等の糖度の糖化液を得ることができ3),葡萄粕の補糖材料として有効であることが確認できた。

(2) 白糠糖化液と葡萄粕の混合発酵
 葡萄粕は,能登ワイン(株)の赤ワイン製造時の副産物を用いた。葡萄粕1に対し,白糠糖化液をそれぞれ1,2,4,10の割合で混合し,ワイン用酵母(MAURI製 Maurivin PDM)により,温度18℃,約3週間の条件で発酵させ,得られた発酵液のアルコール濃度を評価した。なお,発酵試験中は,毎日発酵液の重量を計量し,重量の減少率が見られなくなった時点で発酵停止とした。アルコール濃度は,葡萄粕と白糠糖化液の混合発酵物を遠心分離(8000rpm,10min)後に上清を簡易アルコール分析器(理研計器(株)製 AL-2型アルコメイト)により測定した。
 葡萄粕と白糠糖化液の混合発酵試験の結果,いずれの混合比においても発酵経過14日目までに発酵液の重量は大きく減少し,順調に発酵が進行した。また,14日目以降はほぼ一定の重量であったことから,発酵日数は14日程度が適切であると考えられる。発酵14日後の発酵液のアルコール濃度を測定したところ,葡萄粕と白糠糖化液の混合比1:10の時に最もアルコール濃度が高く,15.0%であった。

(3) リキュールを製造の最適蒸留条件
 葡萄粕と白糠糖化液の混合発酵物の蒸留は,アルコール蒸留装置に葡萄粕と白糠糖化液の混合発酵物1.5kgを入れ,常圧単式蒸留により行った。蒸留開始後5分間および5分後から蒸留終点までの蒸留液を2回に分けて回収した。なお,蒸留の終点は,原料の液分が無くなる直前とした。蒸留物の評価は,アルコールを簡易アルコール分析器(理研計器(株)製 AL-2型アルコメイト)により,有機酸を有機酸分析計(日本ダイオネクス(株)製 ICS-1500)により測定した。
 この蒸留の結果,蒸留液は蒸留開始から5分間(以下,5分蒸留)で140mL,5分後から終点まで(以下,終点蒸留)では690mLを回収できた。蒸留液のアルコール濃度は,5分蒸留で63.8%,終点蒸留で21.3%であり,蒸留前の葡萄粕と米粉糖化物の混合発酵物に含まれるアルコール濃度が15%であったことから,5分蒸留では約4倍,終点蒸留では約1.4倍の濃度に増加した。また,蒸留液の有機酸分析の結果,主な有機酸としては酢酸が検出され,5分蒸留で50mg/100mL,終点蒸留で10mg/100mLであり,市販のマールやグラッパと同程度であった。さらに,官能的に好ましい蒸留液を得るために香気成分分析等の評価を実施した結果,5分蒸留では甘い香りがするイソアミルアルコールや果実様の香りがする酢酸エチルが主成分として検出された。なお,終点蒸留ではこれらの香りはほとんど含まれていなかった。以上により,本試験蒸留では,蒸留液の回収時間は5分程度が適切であると推定できた。
 上述の試験結果に基づいてスケールアップした試験醸造のフローシートを図に示す。これにより数馬酒造(株),柳田食産(株)の既存装置にて米粉15kgの試験醸造を行い,上述の試験と同等の糖化物および混合発酵物,蒸留物の生成が確認できた。この蒸留液に葡萄果汁を加えればリキュールを製造することができる。

(図 試験醸造のフローシート)

結  言
 食品副産物の食品への有効活用および廃棄物フリーの循環型利用方法の確立を目指し,葡萄粕を用いたリキュールの製造技術の開発について指導を行い,以下の成果を得た。
(1) 葡萄粕の補糖手段として,清酒製造副産物である白糠を原料とした糖化物を調製し,原料を米とした時と同等の糖度の糖化液が得られた。
(2) 葡萄粕と米粉糖化液の混合発酵物の調製し,この混合発酵物を蒸留する新規リキュールの製造方法を検討した。

謝  辞
 本報は,財団法人石川県産業創出支援機構の平成21年度次世代産業創出支援事業「葡萄粕等を利用したリキュール,入浴剤等の製造技術の開発」による支援を受けて実施したものです。

参考文献
1) Falchi M, Bertelli A, Lo Scalzo R, Morassut M, Morelli R, Das S, Cui J, Das DK. Comparison of cardiopro-tective abilties between the flesh and skin of grapes. J. Agric. Food Chem. 2006, vol.54, p. 6623-6622.
2) 津志田藤二部. 食品と劣化. 株式会社光琳, 2003, p. 29-40
3) 中野政弘編. 発酵食品. 光琳書院,1967, 244 p.