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CGを利用した県内企業の新商品開発支援 −布製の車いす用スポークカバーと木の単板を用いたバッグの開発−
■繊維生活部 松山治彰 餘久保優子 梶井紀孝 杉浦由季恵
■企画指導部 前川満良
緒 言
工業試験場デザイン開発室では,コンピュータグラフィックス(CG)システムや三次元加工機等を活用して,伝統工芸品やインテリア・繊維製品の新商品開発の支援を行っている。平成17年度に文部科学省都市エリア産学官連携促進事業に「温新知故産業創出プロジェクト」が採択され,平成19年度までの3年間にわたり研究開発に取り組んだ。本事業では,北陸先端科学技術大学院大学が感性評価と質感表現の研究を行い,工業試験場は,この研究成果を受けて,輪島塗,山中漆器,九谷焼,金沢箔などの伝統工芸素材の高品位な質感を3次元CG画像により表現できる「伝統工芸デザイン支援システム」を開発した。
現在,CGを活用して企業の新商品開発を広範囲にわたって支援しており,本稿ではその事例として平成21〜22年度に実施した「布製の車いす用スポークカバーの開発」と「木の単板を用いたバッグの開発」について報告する。
布製の車いす用スポークカバーの開発
[背景] 車いすスポークカバーは,車輪への手の巻き込みを防ぐ目的で用いられており,既存品にはプラスチック製のものがある。車いす等の福祉機器の製作・販売を行っている(株)トータルシステムでは,顧客から意匠性を高めたカバーへの要望が寄せられるようになったため,透明プラスチック製カバーにオーダーメイドで図案を作成し,個別に対応してきた。さらに,室内利用の多い顧客からは,軽量,かつ持ち運ぶ際に収納性の良い製品への要望も寄せられるようになった。そこで,プラスチック製ではなく,布製のスポークカバーの商品企画から製造,販売まで一貫した指導を行うこととした。
[対応] 既存のプラスチック製スポークカバーは,車輪と共に回転するので,回転しない車輪の中心軸部分には,穴が開けられている。これは,高速回転時におけるカバーと中心軸部品の接触防止のためである。しかし,室内利用が主な顧客は,速度が遅いため, カバーの内側に補強用のあて布をすることにより,車輪全体を布で覆うことができた。
商品企画に際しては,同社の顧客ニーズより,若者向け,高齢者向け,冠婚葬祭用など,対象や使われる場面に分類し,加賀友禅の文様も使用することで金沢に拠点を置く会社であるという特徴を示し,他社との差別化を図った。
デザイン展開の方向性については,CGを活用してデザインシミュレーションを行いながら,加賀友禅の伝統的な花柄をモチーフに,現代的で明るい色で展開することとした。その後,同社でデザイン展開を行い,基本となる30点のパターンを抽出した。
さらに,結婚式に参加する際の華やかな図柄に対応した手描き友禅による一品物(図1(a),(b))や,顧客と一緒にCGを見ながらオリジナルなデザインを展開できるインクジェットプリンタによる製作も可能とした。
さらに,布のよれや変形などをできるだけ少なくする取付け方法や,図1(c)に示すスポークカバーの車輪への取付け部品の開発を併せて行った。
以上のような開発は,友禅作家や染色会社,印刷会社,加工会社等との連携を図りながら行ったものであり,その結果,意匠性に優れ,軽量かつ折り畳んで収納できるといった様々な長所を実現できた。
このスポークカバーは,その後同社で商品化され, 平成22年度石川ブランド優秀新製品の認定を受けた。また,東京ビッグサイトで開催された「国際福祉機器展」に出展したところ,多数の問い合わせがあり,今後の量産化と新しい販路開拓が期待される。
(図1 開発したスポークカバーと取付け部品 (a)車椅子への取付け,(b)各種スポークカバー例,(c)取付け部品)
木の単板を用いたバッグの開発と新しい商品ブランドの展開
[背景] 木製碁笥(碁石入れ)ではシェア日本一のニッチトップ企業である(株)谷口は,多様化する生活者のニーズに対応するために,1980年頃からはインテリア小物や家具等の木製工芸品の開発に取り組み,約10年前には木の単板(木を薄く剥いだ板)をランプシェードに用いた電気スタンドを開発した。その後,同社はこの単板に布を張り合わせる特殊加工技術を開発した。開発した単板は,剥いだ木をウレタン系接着剤等で不織布に貼ったもので,厚さが約0.15mmと薄く,柔らかく,かつ丈夫である。よって,筒状に曲げたり,革と縫製したりしても割れにくく,表面は木本来の質感と香りを残している(図2)。この単板を用いて新たにバックへの展開を進めるため,デザイン,商品企画等の支援を行った。
[対応] 本開発によって,単板に用いる木を極めて薄くできたので,材料コストが抑えられ,希少価値の高い「黒柿」など高価な銘木を使用することが可能となった。デザイン開発にあたっては,CGを活用してデザインシミュレーションを行った。具体的には,「黒柿」や「けやき」など,木の種類を変えると商品がどんな表情になるかを,側面等の革との色合いのバランス等も含めてデザインの検討を重ねた(図3)。さらに,この単板の利点を活かして,バッグだけでなく,ファッション雑貨として財布や名刺入れなど幅広く展開することにした。なお,単板の摩擦試験や強度試験を実施して,耐久性の確認を行った。
販売にあたっては同社が持っている伝統工芸品の販売ルートではなく,若い女性や自然に関心の高い層をターゲットとした。また,同社は常にお客様の声を聞きながら商品開発に取り組んできたことから,商品ブランド名は,木や森を意味するフランス語の「Bois(ボア)」と,英語で声の「Voice(ボイス)」を掛けて「BOIS(ボイス)」とした。また,黒を基調にモダンなパンフレット作成を提案し,ブランディングの展開も支援した。
以上のように開発した製品は,平成22年度石川ブランド優秀新製品として金賞を受賞した。販路開拓に向けて出展した東京ギフトショーでは,数多くの商談が成立し,有名百貨店や専門店で販売されるようになった。
(図2 開発した木の単板)
(図3 CG によるシミュレーション)
結 言
コンピュータグラフィックス(CG)を活用して開発した商品は,それぞれ石川ブランド優秀新製品の認定を受け,出展した見本市では多くの商談があり,商品開発の方向性が適切であったことも確認できた。このようにデザイン開発室では様々な企業の新商品開発の支援を行っている。