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風力および太陽光発電機能を有した広告塔の開発支援 −風力発電機の高効率制御回路の開発−
■電子情報部 田村陽一 上田芳弘 笠原竹博
■(株)フタキ鉄工 二木喜則
緒 言
近年のCO2削減対策や先般の東日本大震災により,自然エネルギーによる発電がますます注目されている。その中でも,風力及び太陽光は最も注目されているエネルギーであり,ともに発電所用の大規模なシステムから家庭用の小規模な発電機までが開発されている。
本開発における発電システムは,垂直抗力型風車によって得られる風力エネルギーと,太陽電池によって得られる太陽光エネルギーを利用するもので,広告塔の照明に必要なエネルギーをまかなうことができる独立電源搭載の広告塔の開発を行っている。本開発において工業試験場では,風力エネルギー発電を制御する回路の開発を担当した。
装置概要
開発中のハイブリッドエコ発電機能を有した広告塔の概観を図1に示す。
4W-LED×3系統の夜間照明用電力を得るため,風力エネルギーを風車と定格200Wの発電機により,太陽光エネルギーを定格43Wの太陽電池2枚により電気エネルギーに変換する。その電力を鉛蓄電池に蓄電して,夜間の広告照明と発電量の表示を行う。なお,外部給電を持たないため,気象条件によっては充電が行われないこともある。
(図1 ハイブリッドエコ広告塔の概観)
風力発電機の制御回路構成
風力発電機の制御回路の構成を図2に示す。交流・直流変換部は発電機が三相交流で電力を出力するため,ダイオードを使用して直流に変換し,バッテリへ充電する。ブレーキ制御部は,強風時の安全のため,風車の回転が高速になりすぎないように抑制する機能と,発電機の出力電圧(以下、発電電圧)が高くなりすぎて回路を破壊しないように風車の回転を抑制する機能を持つ。電圧変換部は,風の状況によって変動する発電電圧を,必要とされる充電電圧である14Vに変換する。発電および充電電力測定部は,電圧と電流を測定し,電力を求める。
(図2 風力発電機の制御回路構成)
風力発電に特化したブレーキ制御
使用した電子部品の耐電圧は100Vであり,電圧変換部の最大入力電圧が100Vを超えることがないように制御する必要がある。開発初期は,リレーと高負荷抵抗器を使用し,発電電圧が電子部品の耐電圧に近づくとリレーをONとし,高負荷抵抗器に発電電力を消費させることで風車の回転を30秒間抑制,その後開放することを繰り返していた。しかし,この方法では回転を抑制している30秒間は,発電電力が高負荷抵抗器に消費され,充電が行われない状態となる。そこで,機械的なスイッチであるリレーに比べて高速でON/OFFが可能な半導体スイッチを使用することにより,回転を抑制し,かつ発電電圧が100Vを超えない96Vを維持できるようにした。すなわち,96Vに設定されたブレーキ作動電圧を発電電圧が一瞬でも超えると,0.5秒間半導体スイッチがONとなり,高負荷抵抗器で発電電力が消費され,風車の回転が抑制される。0.5秒経過後,発電電圧がまだブレーキ作動電圧を上回っている場合は,更に0.5秒間の回転抑制を繰り返し,ブレーキ作動電圧を下回っている場合は,回転抑制は解除される。この動作により,発電電圧がブレーキ作動電圧付近に維持され,充電も継続して行われる。また,このときの風車の回転は見た目に安心できる回転速度となるよう設計した。
風力発電に特化した電圧変換制御
図3に測定した発電機の特性を示す。発電機の回転速度を100rpmから500rpmまで100rpm刻みで一定回転数とし,各々の回転速度で負荷を15Ωから300Ωまで変更した時の電圧,電流を測定した。各回転速度で得られた5本の曲線を示した。
開発初期は,電圧変換部に,出力電圧14Vの汎用DCDCコンバータを使用した。このときの発電特性を図3に一点差線で示す。この方法では低速回転で電流が増加することから風車に制動トルクが掛かりすぎ,強風下であっても風車の回転速度が上昇しなかった。図3にみられる回転速度と発電電圧の関係から,汎用DCDCコンバータでは発電電圧が20Vを超えず,発電量は20W程度であった。そこで,風車の回転速度が低い場合は電力への変換を抑制してエネルギーを残すことで風車の回転速度の上昇を促し,回転速度が上昇するにつれて変換する電力を増加させる電力制御DCDCコンバータを試作した。安定化電源を入力として測定した試作回路の発電特性を図3に太線で示す。この特性線は,100rpm曲線とは2W以下,200rpm曲線とは20W,500rpm曲線とは200Wで交差する。これにより発電機から,低速回転では小さな電力を,高速回転では大きな電力を得ることができ,開発初期の汎用DCDCコンバータと比較して風力エネルギーを効率よく電力に変換できることが期待できる。
(図3 発電機の電圧・電流特性と各回路による発電特性)
結 言
(1) 強風時の安全確保のためのブレーキ制御回路を試作し,設定した発電電圧96Vで作動することを確認した。
(2) 風車の回転速度が低い場合は充電を抑制し,回転速度が上昇するにしたがって充電電流を増加させる電力制御DCDCコンバータの動作を確認した。
以上,風力発電に必要な機能を実装した試作回路が完成した。今後,試作回路を広告塔に組み込み,発電および充電に関するデータの収集を行い,広告塔の製品化を目指す予定である。