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発酵大豆ホエー・オカラを利用した高機能化食材の開発 −有機酸分析による乳酸菌の発酵条件及び試作食品の評価−

■化学食品部 武春美 勝山陽子 道畠俊英 中村静夫
■石川県立大学 熊谷英彦 宮脇長人 榎本俊樹 松井裕
■羽二重豆腐(株) 川嶋正男

 豆腐加工副産物である大豆ホエーとオカラは,腐敗しやすいことから食品廃棄物として処分されており,環境面および廃棄処理コスト面において大きな負担となっている。これらの副産物を再利用するための多くの方法が提案されてきたが,実用化に至っていない。本研究では,大豆ホエー及びオカラの乳酸発酵について,有機酸の評価により検討を行った。その結果,大豆ホエー及びオカラを用いた発酵物の最適培養条件を乳酸生成量及びランニングコストにより決定した。また,得られた発酵物を用いた試作食品は,製造後も有機酸成分が残存することを確認した。
キーワード: 大豆ホエー,オカラ,乳酸発酵

Development of Highly Functional Foods Using Soybean Whey and Okara
- Fermentative Condition of Lactic Acid Bacteria and Evaluation of Trial Food Products -

Harumi TAKE, Yoko KATSUYAMA, Toshihide MICHIHATA, Shizuo NAKAMURA, Hidehiko KUMAGAI,
Osato MIYAWAKI, Toshiki ENOMOTO, Hiroshi MATSUI and Masao KAWASHIMA

Soybean whey and okara, byproducts of tofu, are disposed of as industrial wastes because they are perishable. This costs a great deal and harms the environment. Many methods for reusing these byproducts have been proposed, but none have been put to practical use. In this study, we examined the lactic acid fermentation of soybean whey and okara by analyzing organic acids. As a result, optimum conditions were determined to maximize the quantity of lactic acid in the fermented materials and minimize running costs. Futhermore, examination of trial fermented food products confirmed that the organic acid element remained after its manufacture.
Keywords : soybean whey, okara, lactic acid fermentation

1.緒  言
 豆腐加工副産物である大豆ホエー及びオカラは,主に食品廃棄物として処分されており,環境面及び廃棄処理コスト面において大きな負担となっている1)。また,県下におけるオカラの年間発生推定量は約6万トン,大豆ホエーでは約2.5万トンに及んでいる。その一方で,オカラについては種々の有効利用法1)-3)が提案されているが,保存性が低いことや処理コストの点から実用化が困難とされてきた。保存性を向上させるためには,乳酸菌やビフィズス菌などの乳酸発酵で雑菌繁殖を抑制する方法が有効である。大豆ホエーには炭水化物(大豆配糖体,少糖類),蛋白質,無機質(Ca,Mg,P)などが多く含まれるものの,発酵に必要な糖質が微量であり,これまで発酵原料には適さないとされてきた。この課題を克服するために,我々は大豆ホエーを濃縮し,乳酸発酵する技術を検討した。また,得られた発酵大豆ホエーとオカラを混合発酵する技術を検討し,豆腐加工副産物の保存性の向上と機能性の付与を図り,新規機能性食品や飲料等に有効利用するシステムを確立した。
 本報告では,食品素材用,養魚飼料用等として選定された乳酸菌のうち,有胞子乳酸菌(Bacilluscoagulans)を主として用い,大豆ホエー及びオカラを基質とした最適培養条件,発酵物,発酵物を用いた試作食品について有機酸分析による結果から評価・検討した内容について報告する。

2.実験方法
2.1 試料
  羽二重豆腐(株)の豆腐加工副産物である大豆ホエー及びオカラを試料とした。

2.2 微生物
 石川県立大学及び羽二重豆腐(株)の保有株である乳酸菌,ビフィズス菌の中から, 選抜されたBacilluscoagulansの他,5種(Bifidobacterium longum,Streptococcus thermophilis, Lactobacillus acidophilus,Lactobacillus delbrucki,Enterococcus faecium)の乳酸菌を用いた。

2.3 有機酸分析
 大豆ホエーについては,フィルターユニット(日本ミリポア(株)製,Millex0.45μm)でろ過したものを以下の条件で有機酸分析計(日本ダイオネクス(株)製,ICS-1500)により定量した。オカラについては,蒸留水を加え2時間振とう抽出後,ろ紙Aによりろ過後100mLに定容したものを分析用試料とした。
HPLC:ICS-1500(日本ダイオネクス(株)製)
カラム:IonPacICE-AS6(日本ダイオネクス(株)製)
移動相:0.4mmol/Lヘプタフルオロ酪酸
流速:1.0mL/min
カラム温度:19℃
検出器:電気伝導度

3.結果と考察
3.1 大豆ホエー及びオカラの培養条件検討
3.1.1 大豆ホエーの濃縮倍率の検討
 大豆ホエーの最適濃縮倍率について検討するために,試験用逆浸透膜透過濃縮装置(日本ピュアウォーター(株)製,架橋全芳香族ポリアミド系複合膜4インチスパイラル型)を用いて,2〜4倍の段階別濃縮液を調製した。この濃縮液に乳酸菌B.coagulansを添加し,培養温度37℃,培養時間24時間,pH7.0の条件下で発酵を行った。各濃縮倍率の大豆ホエー発酵物,および未発酵の2倍濃縮大豆ホエーの有機酸組成を表1に示す。未発酵の大豆ホエーにはクエン酸が含まれているのに対し,発酵大豆ホエーはクエン酸に加え,乳酸が含まれている。発酵により乳酸が生成したものと考えられる。また,濃縮倍率の増加に伴い乳酸量の増加が見られ,濃縮倍率4倍で最も多い乳酸量を示している。濃縮倍率1 倍に対する各倍率の乳酸生成量を比較する と,2 倍濃縮で乳酸量が約1.5 倍に大きく増加するが, それ以上の倍率では大きな増加は見られなかった。な お,他の5 種の乳酸菌について実験を行った結果も同 様の傾向がみられた。大豆ホエーの濃縮に要する時間, 濃縮膜の消耗等のランニングコストを総合的に考慮す ると,大豆ホエーを効率よく乳酸発酵するには,2 倍 濃縮液を用いることが適当であると判断できる。

(表1 B.coagulansによる大豆ホエー発酵時の濃縮倍率による有機酸組成の変化)

3.1.2 大豆ホエーのpH の検討
 大豆ホエーを発酵する際の水素イオン濃度の影響について検討するため,2倍濃縮大豆ホエーをpH6.0,6.5,7.0,7.5の5段階に調整し,B.coagulansによる発酵(37℃,24時間)を行った。大豆ホエーのpHはpH5.7であり,pH調整はNaOHを添加して行った。発酵物の有機酸分析結果を表2に示す。この結果,pH6.0-7.0で乳酸生成量が多かった。しかしながら,乳酸生成量の差は小さく,最も生成量が少ないpHにおいても発酵前の大豆ホエーと比べると十分な乳酸生成量であった。このことから,pHの違いによる大きな発酵阻害はないと考えられる。
 他の5種の乳酸菌について実験を行った結果,B.longum,S.thermophilis,L.delbrucki,E.faeciumにおいては同様の傾向がみられたものの,L.acidophilusはpH未調整の大豆ホエーで乳酸生成量が最も高い値を示した。

(表2 B.coagulans発酵時の水素イオン濃度による有機酸組成の変化)

3.1.3 大豆ホエーの培養時間の検討
 大豆ホエーの培養経過時間が有機酸生成量に及ぼす影響を検討するために,培養温度37℃,pH7.0の条件下で乳酸菌6種を培養した。いずれの菌においても培養時間の経過に伴い乳酸生成量が増加し,32時間後の乳酸生成量が最も多かった。さらに培養を続けると,乳酸生成量が低下した。また,24時間で108cfu/mL程度の十分な菌数が得られていることから,乳酸生成量と菌数から判断し,培養時間は24時間が最適であると判断した。

3.1.4 オカラの培養条件の検討
 オカラにB.coagulansで発酵した大豆ホエー10,20,30%を添加し,37℃,24時間で培養した。この発酵オカラ,および未発酵オカラの有機酸組成を表3に示す。未発酵オカラにはピルビン酸,クエン酸が含まれているのに対し,発酵オカラにはこれら有機酸に加え,乳酸,酢酸が含まれている。発酵により乳酸,酢酸が生成したものと考えられる。また,大豆ホエー添加量の増加に伴い乳酸量は純増するものの,ほぼ同程度であった。
 E.faeciumを除く他の5種の乳酸菌についても実験した結果,B.longumはB.coagulansと同様に,大豆ホエー添加量が30%で乳酸量が最も多かった。一方,S.thermophilis,L.acidophilu,L.delbruckiについては,大豆ホエー添加量が20%のときに乳酸量が最大となった。この原因は,添加量10%では,液量の不足によってオカラ全体が十分に発酵しなかったのに対し,添加量30%では液量が過剰となり,静置培養中にオカラの上部と下部に菌体の濃度勾配が生じ,均一な乳酸発酵ができなかったものと考えられる。また,S.thermophilis,L.acidophilu,L.delbruckiは他の乳酸菌と比べ酢酸が増加しており,ヘテロ乳酸発酵の特徴が確認された。乳酸菌の代謝にそれぞれの特徴があるものの,いずれにおいても乳酸の生成量が最も多く,腐敗に関与する有機酸の生成はない。このことから順調な乳酸発酵が行われたものと考えられる。
 以上の結果より,大豆ホエーの最適添加量はS.thermophilis,L.acidophilus,L.delbruckiで20%が適していると判断した。また,B.longum,B.coagulansでは,大豆ホエー添加量の増加に伴い乳酸量の大きな増加がないことから,他と同様の20%を最適量と決定した。

(表3 B.coagulans発酵時の発酵大豆ホエー添加量による有機酸組成の変化)

3.2 発酵物を用いた試作品の評価
 オカラ混合発酵物20%を練りこんだ「豆乳がんも」と「あわせ豆腐」を試作した(図1)。オカラ混合発酵物を含まない既存品とB.coagulans発酵オカラを20%添加した「豆乳がんも」と「あわせ豆腐」の有機酸組成を表4に示す。主な有機酸はクエン酸,乳酸,酢酸であり,「豆乳がんも(オカラ混合発酵物20%入)」は「豆乳がんも(既存品)」に対し,乳酸で約1.8倍,コハク酸で約2.1倍高く,クエン酸がやや低くなる傾向がみられる。また,あわせ豆腐については,主な有機酸は乳酸,クエン酸であり,「あわせ豆腐(オカラ混合発酵物20%入)」は,「あわせ豆腐(既存品)」に対し,乳酸で約1.6倍,コハク酸で約2.3倍,クエン酸で約4.4倍高くなる傾向がみられる。
 以上より,試作品2品ともオカラ混合発酵物の添加により,乳酸の増加が確認され,仕込み時の原料に含まれる有機酸量は,試作品製造後には豆乳がんもで46%あわせ豆腐で74%残存していることが確認された。

(図1 試作の大豆加工品)
(表4 試作品の有機酸分析結果)

4.結  言
  豆腐製造副産物である大豆ホエー及びオカラの有効利用法として,B.coagulansを主として乳酸発酵による保存性の向上と同時に発酵の最適条件を検討した。さらに,発酵物を用いた試作食品について有機酸分析の結果から,以下の知見を得た。
(1)大豆ホエーの各種乳酸菌による最適培養条件として,乳酸生成量とランニングコストの面から濃縮倍率2倍,pH7,培養時間24時間等の条件を決定した。
(2)オカラの最適培養条件として,この場合も乳酸生成量及びランニングコストより発酵大豆ホエー添加量を20%とした。
(3)既存の豆腐加工食品の20%をオカラ混合発酵物で置換した試作品2品は,製造後も有機酸成分が残存することを確認した。
 今後は,発酵物及び試作食品の品質の安定や量産技術の向上を目指す。

参考文献
1) 江崎光雄. おからの現状と高度利用のための機能. 食品工業. 2005, p. 69-77.
2) 稲葉美穂子, 江崎光雄. 大豆クリーム「プロプラス−SY」の特性と食品への利用効果. ジャパンフードサイエンス. 2001, vol. 40, no. 1, p. 45-50.
3) 渡辺篤二. 大豆加工食品副産物(おから)の高度利用技術の開発. 研究ジャーナル. 1994, vol. 8, no. 17, p. 6-11.