簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:152KB、4ページ)


組紐を用いたFRP用立体高性能基布の開発

■企画指導部 森大介
■繊維生活部 吉村治 守田啓輔
■丸井織物(株) 永井章裕 忍久保正治

 組紐(組物)は織物や編物と並ぶ繊維製品の一つであり,製品の長手方向に対して複数の糸が互いに斜めに交差することによって形成されており,円筒形状(丸打ち)と平板形状(平打ち)に分類される。我が国における組紐の歴史は,土器の文様に見られるように縄文時代にまで遡り,武具等の装飾品から着物の帯締め等に用いられてきた。近年は靴紐やロープ等に加えて,携帯電話のストラップにも利用されている。一方,炭素繊維強化材料(以下,CFRP)は高強度や軽量性という特徴から主に航空宇宙分野に用いられてきたが,今後,自動車や産業機械分野等において需要の伸びが期待されている。本研究は,組紐を長手方向に異なる断面を有するCFRPの立体基布製造手法として活用するため,糸ボビンの回転速度やマンドレルの移動速度の関係等を数値解析により調べた。その結果を基に瓢箪や円錐形状の組紐とそのCFRPの試作開発を行ったので報告する。
キーワード: 組紐,炭素繊維,炭素繊維強化複合材料

Development of a 3-D Braid for Tubular Carbon Fiber Reinforced Plastic

Daisuke MORI, Osamu YOSHIMURA, Keisuke MORITA, Akihiro NAGAI and Masaharu SHINOKUBO

A braid is a type of textile product, along with woven fabric and knit fabric. A braid is formed when obliquely crossed yarns are inclined relative to the longitudinal axis. There are two kinds of braids: flat braid and corded braid. The braid was used in the pattern of Jomon pottery in ancient times in Japan; since the Middle Ages, there has been a significant increase in the number of people who use it for the obi of kimonos, etc. In recent years, the braid has been used for shoestrings, ropes and the straps of mobile telephones. The braid is used in carbon fiber reinforced plastic (CFRP) for the reinforced material. CFRP has been applied in the space and aeronautical fields. In the near future, there is expected to be a growth in the demand for CFRP in the automotive and industrial machinery fields.In this study, the relationship between the velocity of the mandrel and the rotating velocity of the braid carrier was researched through experimentation and simulation in order to apply the braid to CFRPs that are gourd- and cone-shaped.
Keywords : braid, carbon fiber, CFRP

1.緒  言
 石川県は合成繊維を中心とした全国有数の繊維産地を形成している1)。しかし,近年中国を中心とした東南アジア諸国の技術向上にともない,県内繊維産業は厳しい状況下にあり,従来の衣料製品に加えて非衣料分野における新商品開発が必要とされている。
 一方,炭素繊維は日本が世界市場の7割以上を生産しているにもかかわらず,その応用製品であるCFRPの開発は欧米が中心となっている。CFRPは高強度や軽量性という特徴から主に航空宇宙分野に用いられてきたが,今後,日本においても自動車や産業機械分野等に対して需要の伸びが期待されている2)。
 このCFRPの基布(強化材)の製造手法のひとつとして組紐が注目されている3),4)。組紐の特徴は,[1]全ての糸が途中に切断されることなく連続的に配向していること,[2]糸の配向の設計変更が容易,[3]複雑形状への対応が可能なこと等があげられる。一方,石川県を中心とした北陸3県で組紐を含むゴム入り細幅織編物素材は全国シェアの8割以上を占めていることから,県内に培われた組紐技術を先端材料であるCFRPの基布として応用する取り組みを行ってきた。
 平成19年度に炭素繊維用の組紐装置(図1,詳細は後述)が当場に導入されたことにともない,県内を中心とした繊維やプラスチック企業等の28社で構成されるブレード技術研究会を立ち上げ,組紐を非衣料分野へ用途展開を図るとともに,経済産業省の地域資源活用型研究開発事業として,組紐と引抜成形を連動させた筒型長尺CFRPの製造方法に関する研究開発を行った5)。
 本研究では,組紐を長手方向に異なる断面を有するCFRPの立体基布製造手法として活用するため,糸ボビンの回転速度やマンドレルの移動速度の関係等を数値解析により調べた。その結果を基に瓢箪や円錐形状の組紐とそのCFRPの試作開発を行ったので報告する。

(図1 ブレード装置(組紐装置))

2.組  紐
2.1 組紐装置
  東レ(株)が経済産業省の電源地域産業機能強化事業(平成18年度)に採択されたことにともない,地域において新たな炭素繊維素材等の開発に活用できるブレード装置(組紐装置)が当場に設置された。この組紐装置の主な仕様を表1に示す。この組紐装置は丸組方式で,糸数は組糸が64錘,中央糸が32錘の計96錘の糸を用いることができる。また,CFRPの最終形状となるマンドレルの移動距離は最長2mである。

(表1 組紐装置の主な仕様)

2.2 組紐構造
 組紐は,組紐装置(図1)の軌道上を糸ボビンが移動する回転運動とマンドレルが移動する直進運動を合成することにより,3次元の筒状に形成される(図2)。CFRPの強度や弾性率等の性能を左右する要因の一つに糸の配列(組角度)があり,長手方向に異形断面を有する組紐工程においては,糸をCFRP等の強度設計に応じた所定の組角度に傾斜させることが要求される。

(図2 組紐構造)

3.組紐製造条件の解析
3.1 解析方法
 本研究では,糸ボビンの回転速度を一定とし,マンドレルの移動速度を変化させることにより,所定の組角度が得られる方法を用いた。図3,4より,組角度は糸ボビンの回転速度とマンドレルの移動速度に加えて,マンドレルの形状,糸の長さ等から解析することができる。
 組紐の組角度は次式から求めることができる。
 ここでθは組角度,Vmはマンドレルの移動速度,Rmはマンドレルの半径,ωcは糸ボビンの角速度を示している。これらの関係からシミュレーション用のプログラムを作成し,マンドレルの移動速度や組角度等を求めた。

(図3 立体組紐製造の概略図)
(図4 解析モデル)

3.2 解析結果
 円錐と瓢箪形状のマンドレルを用いた場合のシミュレーション結果を図5,6に示す。Z方向がマンドレル移動方向で,糸ボビンを時計回りと反時計回りの2方向に回転させた結果である。また,円錐形状のマンドレルを用いた場合のマンドレル移動速度の変化を図7に示す。図5より,45°と60°の両角度について,糸が先細りの螺旋形状に巻かれている。両者ともマンドレルの軸方向(Z方向)に対して糸が組角度一定で傾斜しており,組角度が大きいほど多くの糸量が必要となることがわかる。また,図7より,組角度を小さくするには,マンドレルの移動速度を大きくする必要があり,また,組角度を一定にするには,断面形状の半径が小さくなるに従って,マンドレル移動速度を小さくする必要があることがわかる。
 図6,8より,瓢箪形状についても,マンドレルの断面形状に応じてマンドレルの移動速度を制御することにより,糸が組角度80°の一定の状態で巻けることがわかった。
 また,CFRPは炭素繊維の配向や積層状態を変えることにより,強度や弾性率を設定することができるので,設計に応じてCFRPの位置によって組角度を変える場合がある。そこで,マンドレルの移動速度をステップ状に制御することにより,組角度を30°→60°→30°に変化させた場合の応答性を図9に示す。組角度を小さくする場合は大きくする場合と比較して組角度が安定するのに要する時間が長くかかっているが,補助リング(図10)を用いることにより,組角度の応答性を向上させている。

(図5 円錐のシミュレーション結果)
(図6 瓢箪のシミュレーション結果)
(図7 マンドレル形状と移動速度(先細り))
(図8 マンドレル形状と移動速度(瓢箪))
(図9 組角度の応答性)
(図10 補助リング)

4.CFRP への応用
 前述のシミュレーションの結果を基に,瓢箪や円錐(バット)形状のCFRPを試作した(図11)。具体的には水溶性の粘土材でマンドレルを作製し,組紐加工と樹脂成形加工後にマンドレルを水で溶かして除去した。成形は樹脂成形用上下型を用いて,VaRTM成形により正確な形状ができた。糸は東レ製炭素繊維T700-12K,樹脂は昭和高分子製ビニルエステルを用いた。

(図11 試作したCFRP)

5.結  言
(1)CFRPの性能を左右する組角度,マンドレルの形状や移動速度,及びキャリアボビンの回転半径や回転速度との関係等を数値解析により調べた。
(2)複雑な最終成形品(マンドレル)に対して,数値解析の結果を基にマンドレルの移動速度を制御する手法について製造条件の確立を行った。
(3)組角度を減少させる場合は,増加させる場合と比較して組角度が安定するのに要する時間が長くなること,また,補助リングを用いることにより,組角度を安定させるのに必要な時間を短縮することができることなどがわかった。

謝  辞
  本研究を遂行するに当たり,終始適切なご助言を頂いた京都工芸繊維大学濱田泰以教授,仲井朝美准教授,並びに金沢工業大学金原勲教授,宮野靖教授に感謝します。また,炭素繊維の供給や組紐装置の改造等に御協力頂いた東レ(株)松久要治氏に感謝します。

参考文献
1) 小山英之 . 北陸産地の構造調整の動向と新たな胎動. 東レ経営研究所, 2007, vol. 63, p. 52-59.
2) 松井醇一. FRP の現状と将来展望. 強化プラスチックス. 2009, vol. 48, no. 1, p. 27-32.
3) 仲井朝美. 組物技術とテキスタイル複合材料. 強化プラスチック. 2009, vol. 55, no. 1, p. 22-32.
4) 魚住忠司. 組物技術を用いた高機能繊維強化複合材料. 日本機械学会誌. 2003, vol. 106, no. 1019, p.825.
5) 吉村治. 組紐技術を用いたCFRP 製品の開発. 石川県工業試験場研究報告. 2009, no. 58, p. 37-38.