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軽金属部材の精密スポット接合技術

■機械金属部 舟木克之 舟田義則 根田崇史

 近年,自動車産業等では,鋼部材をアルミニウムやマグネシウム合金等の軽合金に変更し,軽量化する取り組みが活発になってきた。自動車の組み立て用途では,主として重ね合わせスポット溶接が行われているが,電気抵抗の小さな軽合金では抵抗溶融溶接が困難である。一方,スポット摩擦接合(FSJ:FrictionSpotJoining)は,高速で回転する鋼製ツールと母材間の摩擦熱を利用する接合プロセスであり,軟化温度の低い軽合金を対象に研究開発と実用化が急速に進んでいる。しかし,本接合法においては標準化がなされておらず,継手品質の確保や保証に対して不安が残る。そこで本研究では,FSJ継手の接合性を定量的かつ迅速に評価できる非破壊評価法の確立を目的として,厚さ1mm以下のアルミニウム合金薄板をスポット接合する条件を確立するとともに,薄板FSJ継手で生じやすい接合部におけるすきまの成長メカニズム,超音波探傷画像での可視化による接合状態の良否評価を行った。
キーワード: アルミニウム合金,スポット摩擦接合,超音波探傷,金属組織

Study on Fine Spot Joining of Aluminum Alloy Sheets

Katsuyuki FUNAKI, Yoshinori FUNADA and Takashi KONDA

In the automobile industry in recent years, there has been an increasing trend to substitute steel parts for lightweight metals such as aluminum and magnesium alloys. Overlap spot welding is predominantly used in the automobile assembly process, but molten welding of lightweight alloys is difficult because of their low electrical resistance. On the other hand, friction spot joining (FSJ) is a non-melting joining process using a high-speed rotating steel tool and frictional heat between the tool shoulder and the material's surface. Research on FSJ with regard to lightweight alloys that have low softening temperatures has been rapidly advancing to the practical stage. However, with no standardization in this joining method, there is still some anxiety with regard to security and guaranteeing of joint quality. In this study, for the purpose of establishing joint quality guidelines consisting of quantitative and rapid assessment of the characteristics of spot friction joined parts, we validated the utility of the spot joining condition of Al alloy sheets with a thickness of 1 mm or less. We also examined the widening mechanism of the joint gap between tin sheets that tends to form during FSJ processing, and carried out an evaluation by means of an ultrasound image.
Keywords : aluminum alloy, friction spot joining, ultrasonic inspection, metal structure

1.緒  言
 近年,自動車産業等では,鋼部材をアルミニウムやマグネシウム合金等の軽合金に変更し,軽量化しようとする取り組みが活発になっている。自動車板金部品の組み立てでは,鋼板を重ね合わせてスポット溶接するのが主流であるが,電気抵抗の小さなアルミ合金に適用する場合,材料間での通電発熱に数万アンペアの電流や大きな加圧力,電極の頻繁な清掃や交換が必要となるなど問題点が多い。そのため,新幹線等の大型車輌を除いてはほとんど利用されておらず,産業界からは簡易なスポット接合技術が求められている。このような背景から,摩擦熱を利用して,接合面の機械的な撹拌と圧着を行うスポット摩擦接合1),2)(FSJ)が注目されている。この接合方法は,重ね合わせたアルミ板の上に合金工具鋼製のツールを高速回転させながら数秒間押し付けると,摩擦熱と回転撹拌力を受けることで押し付け部分の界面が消失して強固に接合されるというシンプルな工法であり,自動車のアルミ製ドア3)や送電線の引留クランプ4)等の接合に応用されている。
 石川県,富山県,岐阜県,愛知県の4公設試は,中-2-小企業者がこの新しい接合技術に取り組む際の一助となるべく,軽金属部材の摩擦スポット接合技術に関する共同研究を行い,摩擦スポット接合の加工条件の他,接合部分の超音波画像探傷等による接合継手の評価手法を含む技術マニュアル5)を作成した。本研究ではその一環として,小型NCフライス盤を用いて厚さ1mm以下のアルミ合金薄板をスポット接合する条件を検討するとともに,薄板FSJ継手で生じやすい接合部におけるすきまの成長メカニズムや継手品質に及ぼす加工条件の影響,超音波画像での可視化による接合状態の評価を行った。

2.実験内容
2.1 薄板用FSJ ツール
 図1に示すような薄板のFSJに特化した接合ツールを試作した。SKD11のミガキ丸棒を用い,片端は中心に短いネジ(ピン)を埋め込んだ円盤状の摩擦板(ショルダー)を形成,主軸への伝熱低減のためにネックを付けた。また,摩擦中に軟化した母材がはみ出るのを防ぐ目的で,ショルダー面の中央部が凹むように逆テーパー加工を行い,ピンの突き出し量は板厚と同じとした。なお,FSJツールにおけるショルダー径には最適な領域があることが実験的に求められており,その最適値はφ10〜12mm程度とされている6)。
 FSJの接合プロセスは,[1]ツールの圧入,[2]接合部の摩擦加熱,[3]ツールの引抜きの3段階で行われる。図2はFSJ加工を示した模式図である。重ね合わせたワークの表面に高速回転させたツールを押し付けると,ピン先端との接触による摩擦熱でワークが軟化し,ピンはワーク内にめり込んでいく(Step1)。ただしツールの回転速度が遅いと摩擦熱が不十分となるため,ピン外周のネジによって切削されて穴があくだけで接合されない。次にショルダーが接触すると大きな摩擦熱が発生してショルダー下の母材が軟化し,ツールの回転に引きずられることで合わせ面には剪断力が生じる。これにより界面の酸化皮膜が破壊されるとともに,ピン外周のネジ送りによって板厚方向の塑性流動を受けることで,接合界面は徐々に消失する(Step2)。所定の時間摩擦加熱を行った後にツールを引抜くと,上板下板が一体化したナゲットが形成されて接合が完了する(Step3)。この時の摩擦時間は,ワークの板厚や硬さによって異なる。

(図1 接合ツール(1t用))
(図2 FSJ加工の模式図)

2.2 接合実験
 本実験では,小型NCフライス盤等に接合ツールを装着し,ショルダー面の位置を制御しながらFSJ接合を行った。ワークに使用したアルミニウム合金薄板はA1050 1t,及びA5052 0.6tの2種類である。JISのせん断試験片(Z 3136)に準拠して,板材を30×100の大きさに切断後,鋼製正直台の上に重ね代30mmでセットし,マシンバイスで軽く挟んで固定した。図3に示したように,FSJ加工中は溶接ヒュームや閃光を発生することもなく,ショルダーの首が摩擦熱で青焼けする程度で,エンドミル加工並みの静かさである。
 ツール回転速度を920,1300,1800rpmの3水準とし,ショルダー面の摩擦時間とワーク表面からの押込量をパラメータとして,薄板に対する最適FSJ加工条件を検討した。

(図3 FSJ接合加工の状況)

3.結果および考察
3.1 ツール回転速度の影響
 図4にA5052 0.6t材を用い,ツール回転速度を1300または1800rpmとし,押込量0.1mmで3秒間撹拌したFSJ継手の外観を示す。この時に使用したツールは,ショルダーの直径10mm,ピンにはM3×0.5の細目ネジを用い,ピンの突き出し量は0.6mmとした。(a)のツール回転速度1300rpmでは,ショルダーとの摩擦面がむしれた状態になっており,発熱不足でツールと母材が凝着したものと考えられる。これに対して,(b)のツール回転速度1800rpmでは,ショルダーとの摩擦面にツール旋削加工時のツールマークが転写された良好な外観である。良好なFSJ接合を行うためには1800rpm以上のツール回転数が必要であることがわかる。しかし,ショルダー下の首径を8mmとしたツールでは,1800rpmでも発熱不足となって接合できなかった。薄板のFSJにおいては発生させた摩擦熱の放散ロスの抑制が重要であることが,接合部分の熱解析7)により明らかにされている。
 板厚が大きくなると,ツールのショルダー径とピン径をより大きくすることができることから,生じる摩擦熱量が大きくなり,1t材では0.6t材よりも容易にFSJ接合を行える。そこで図1に示したツールを用い,A1050 1t材をツール回転速度920,1300,1800rpm,押込量0.15mmの条件で,3秒間摩擦を行った際のFSJ継手の外観を図5に示す。いずれの継手もせん断試験において接合部ではがれることはなく,接合部上板が下板に残存した状態で接合部の周囲より破断(プラグ破断)しており,2kN以上の引張荷重を示した。
 ツール回転速度が920と1300rpmでは,ショルダーとの摩擦面の中心付近が若干凝着気味の粗い表面状態となった。一方,回転速度1800rpmでは,凝着の痕跡は見られず,ショルダーとの摩擦面にツール旋削加工時のツールマークが転写された平滑な外観であった。
 しかし,920rpmで1.5秒以下の摩擦時間では,発熱温度が不十分であるために母材がツールに凝着しやすく,図6に示すようにツール引抜き時に軟化した接合部位がむしり取られ,FSJ加工が不可能となった。このことから,1t材のFSJでは,1300rpm以上のツール回転数があれば接合可能であることがわかる。

(図4 ツール回転速度と接合部の外観(A5052, 0.6t))
(図5 ツール回転速度と接合部の外観(A1050, 1.0t))
(図6 ツールに凝着した加工例(920rpm, A1050))

3.2 摩擦時間の影響
 アルミニウム合金薄板は曲げ強度が低いため,FSJ接合において重ね合わせ面を封止するために十分な拘束力が得られず,摩擦熱で軟化した母材が重ね合わせ面から押し出され,継手の上板と下板の間で図7に示すような「すきま」を生じやすい。すきまは摩擦時間とともに重ね合わせ面から混錬された母材が張り出すため,重ね合わせ部位の変形が大きくなる。図8にA10501t材を用い,ツール回転数1800rpmでFSJした際に生じる接合界面の経時変化を示す。
 回転ツールをワーク表面に押し付けることにより,ショルダーとの摩擦熱によって接合部の軟化と接合面の圧着が起こる。このプロセスはショルダーが接触した直後から始まり(a),その後,ツールの押付力を受けてツール直下の撹拌領域に生じる内部圧力により,重ね合わせ面を押しのけるように軟化した母材がせり出し始める(b)。さらに,ピン外周のネジによる撹拌効果で中心部板厚方向の塑性流動が起こり,上板から下板へ母材が流入した結果,下板側の合わせ界面が隆起する(c)。合わせ面から軟化母材が流出して撹拌領域の内部圧力が低下すると,すきまの成長が停止し,接合界面の消失が起こる(d)。
 次に摩擦時間と継手の引張強さの関係について,図9にA10501t材をツール押込量0.15mmでFSJした結果を示す。ツール回転速度1800rpmの場合,摩擦時間0.1秒でも高い継手強度が得られ,その後は時間と共にゆるやかに減少した。また,1300rpmでは0.5秒,920rpmでは1.5秒以上摩擦することで高い継手強度が得られた。
 また,この時の継手接合部のすきま高さをノギスで測定した結果を図10に示す。摩擦時間の経過に比例して,すきま高さが大きくなっていることがわかる。
 図9と図10の結果から,十分な引張強さを示した継手はすきまの高さが0.2mm以上となっており,重ね合わせ面のすきまは接合面における接合状態を示すバロメーターであると考えることができる。また,摩擦時間に伴って継手強度が低下する理由は,図8で示したように,重ね合わせ面においてすきまが成長することで最小板厚が変化するためと考えられる。そのため,必要以上の摩擦時間をかけることは,継手強度にとっては負の要因となると言える。

(図7 重ね合わせ面に生じたすきま(A1050, 1t))
(図8 摩擦時間に伴うすきまの成長(A1050, 1t))
(図9 摩擦時間と引張強さ(A1050, 1t))
(図10 摩擦時間とすきま高さ(A1050, 1t))

3.3 ツール押込深さの影響
 ツール押込深さをショルダーの外縁をワーク表面にくい込ませた量と定義する。本実験ではNC制御によりツール位置を制御しているが,FSJプロセス中では,回転するツールのピン外周ネジのピッチによって軟化した母材が下方向に塑性流動し,下板側の合わせ界面が隆起してすきまを生じる。上板が持ち上げられた分だけ接合部の押込は深く仕上がることになり,継手強度に大きく影響する。これはナゲット部の混錬状態に差があるためであり,図11にA10501t材をツール回転速度1800rpm,摩擦時間3秒の条件で,押し込み深さを0〜0.2mmの範囲で変化させてFSJ接合したナゲットの断面組織を示す。
 押し込み深さ0mmでは中心に近い一部分のみがショルダー面と接触し,混錬を受けた領域はネジピンの周囲に1mmの範囲で確認される。また混錬領域では,合わせ界面が圧着されて上方へ垂直に屈曲している。
 押し込み深さ0.1mmではショルダーとの接触面で山形を形成し,外周に小さなバリを生じている。また,ショルダー下に位置する合わせ界面では圧着や混錬が起こり,ショルダー径に相当したナゲットが形成されている。大きな撹拌力を受けるピン根元やショルダー外周部などには,混錬が不十分な黒色の塑性流動組織が観察された。高い継手強度を示したが,摩擦撹拌が不足したナゲットの組織である。
 押し込み深さ0.15mmではナゲット外周のバリが少し大きくなるとともに,界面での混錬領域がショルダー径全域に広がり,下板側界面は適度に蛇行している。最適条件でFSJ接合された健全な組織であると考えられる。
 押し込み深さ0.2mmでは,ナゲット外周のバリがさらに大きくなるとともに,下板側界面がナゲット高さ方向に大きく蛇行しており,過大な摩擦条件でFSJ接合された過熱組織である。この場合,高い摩擦熱を受けて軟化した母材がピンネジのピッチに沿って下方向に押し出され,ナゲット裏面に局部的なヒケや開口穴を生じていた。

(図11 押し込み深さとナゲット断面組織(A1050, 1t))

3.4 継手品質の非破壊評価
 混錬不足によりナゲット内部に欠陥を含みやすい条件を選んでFSJ継手を作製し,局所超音波探傷装置((株)IHI検査計測製,Miniscanner)を用いて可視化による非破壊評価を行った。
 図12にツールの押付力が不十分な条件で作製したFSJ継手について,超音波Cスキャン像と断面組織を比較して示す。(a)の断面組織において,ショルダーとの摩擦部分に混錬を受けて接合界面が湾曲した領域と圧着されただけの直線的界面が存在する。その境界を矢印で示した。また,スポット接合部(ナゲット)のCスキャン像を(b)に示す。板の厚さ(1mm)以下で反射した信号は灰色で表示され,接合状態が良好な領域は暗く表示される。なお,画像中に示した白黒2つの円は,それぞれショルダーとピンの直径を表している。超音波画像により,ショルダー径に比べて接合部位のナゲットが過小であることがわかる。
 同様に,図13に十分な押付力と摩擦時間を与えて接合したFSJ継手の断面組織とCスキャン像を示す。断面組織では,ショルダーとの摩擦部分全体にわたって接合界面が湾曲した領域が存在し,Cスキャン像でショルダー径と等しいナゲットの形成が確認される。また,ナゲット内部には接合不良や割れ等の欠陥は存在しないことがわかる。

(図12 ナゲット径が過小の接合部(A1050, 1t))
(図13 正常な接合部(A1050, 1t))

4.結  言
 1mm以下のアルミニウム合金薄板をスポット接合する条件を確立するとともに,薄板FSJ継手で生じやすい接合部のすきま成長メカニズム,超音波探傷画像による可視化評価について検討した。得られた結果は以下のとおりである。
(1)継手品質に及ぼす主なパラメータは,ツール回転速度と摩擦時間,押し込み深さであり,特に押し込み深さは,継手強度やナゲット部の混錬状態に大きく影響している。
(2)薄板FSJ継手では,重ね合わせ面から摩擦熱で軟化した母材が押し出され,ナゲット周囲にすきまを生じる。摩擦時間に比例してすきまは広がり,継手強度は低下する。
(3)超音波Cスキャン像を用いた接合部の可視化により,FSJ継手のナゲット形状の良否を非破壊で評価できる。

謝  辞
 本研究は,経済産業省中部イノベーション創出共同体形成事業の支援を受けて実施した。参加機関及び中部科学技術センターに対し,謝意を表する。

参考文献
1) 藤本光生, 犬塚雅之, 西尾護, 中島康雅. フリクションスポット接合の開発. 溶接学会講演概要. 2004, no. 74, p. 4-5.
2) 時末光. 摩擦熱応用接合技術. 軽金属. 2005, vol. 55, no. 7,p. 416-434.
3) 廣瀬明夫, 小林紘二郎. 自動車用溶接・接合技術. 軽金属.2006, vol. 56, no. 3, p. 184-188.
4) 中村満, 佐藤裕, 鈴木祐一. アルミニウムの摩擦スポット接合に関する研究. AEW技報. 2009, no. 38, p. 17-22.
5) 中部科学技術センター. 軽金属部材の摩擦撹拌接合を最適化するための接合継手評価法マニュアル. 2010, p.1-55.
6) 戸崎康成, 植松美彦, 戸梶恵郎. 摩擦撹拌スポット接合継手の強度特性に及ぼすツールショルダー径の影響. 日本機械学会論文集A, 2008, vol. 74, no. 2, p. 94-100.
7) 富村寿夫, 平澤茂樹, 羽田光明, 平野聡, 青田欣也. スポット摩擦撹拌接合における非定常熱移動プロセスの数値解析. 溶接学会講演概要. 2004, no. 74, p. 14-15.