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ビール濾過助剤珪藻土のリサイクル活用

■化学食品部 北川賀津一 佐々木直哉 中村静夫
■富山大学 山名一男
■(株)アースエンジニアリング 田中晋介 大西和弥

 ビール濾過助剤の大部分は珪藻殻で,多孔性の非晶質シリカから構成され不純物が少ない。キリンビール株式会社北陸工場の使用済みビール濾過助剤をリサイクル活用することを目的に,スラグと粘土を混合して大型平板に成形し,1150℃で焼成して大型パネルを試作した。多孔性(かさ比重1.5以下)を保ちつつ薄肉(厚み10mm以下)で長さと幅が1m×1mの大型パネルが得られた。
キーワード: ビール濾過助剤, 珪藻殻, リサイクル, 大型パネル

Recycling of Diatomaceous Earth used for Filtration of Beer

Kaduichi KITAGAWA, Naoya SASAKI, Shizuo NAKAMURA, Kazuo YAMANA, Shinsuke TANAKA, and Kazuya ONISHI

Diatomaceous earth used as a filtration agent for beer is composed of porous amorphous silica, and contains few impurities. To recycle diatomaceous earth used for the filtration of beer at Kirin Brewery Company Limited, Hokuriku Plant, a large flat green panel was made of a mixture of used diatomaceous earth, slag and clay, and sintered at 1,150oC. The panel had the following properties: (1) thickness: 10mm or lower, (2) length and width: 1m×1m, and (3) bulk specific gravity: 1.5 or lower.
Keywords : filtration agent of beer, diatomaceous earth shell, recycling, large size panel

1.緒  言
 ビールを製造する際は精製する工程でホップなどの固形物やコロイド状の浮遊物を,ビール濾過助剤で濾過除去しビールとしている。このビール濾過助剤には,一度に大量のビールを速く処理できること,濾過した濾液の品質が優れていること,コスト的に安価なことが要求され,珪藻土が使用されている。
 白山市のキリンビール株式会社北陸工場では6銘柄のビールを製造しているが,毎月ドライ換算で10〜35トンのビール濾過助剤が排出され,有償でセメント原料として売却されている。産業廃棄物排出はなく北陸工場ではゼロエミッションが達成されている。ビール濾過助剤(以下,使用済みのビール濾過助剤を意味する)は,無数の微細な細孔を持ち比較的熱に強い非晶質シリカ(珪藻殻1),2))から構成されるので,軽量で断熱性に優れた材料の原料となる可能性がある。
 珪藻土は吸放湿性に優れているので建築材料にも多く活用されているが,能登珪藻土は粘土など珪藻殻以外のものが多く板材として製造した場合には,焼成時に歪みが生じやすく大型サイズの焼成が困難であった。今回,純度の高い珪藻土を用いることで,多孔性を保ち薄肉で(厚み10mm以下),機械的強度の大きい大型内外装パネルを開発する研究を行った。

2.実験方法
2.1 ビール濾過助剤の物性
 本実験で用いたビール濾過助剤は6銘柄のビール濾過助剤の混合物である。粒度分布は500℃で熱処理したビール濾過助剤と能登珪藻土を用いて湿式法による篩い分け法と,レーザー回折散乱式粒度分布装置(堀場製作所製LA-920)を併用して測定した。ビール濾過助剤は水分を多く含むので100℃で一夜間乾燥して以下の測定に用いた。熱特性は示差熱重量分析装置(理学電機製TG8120)で,鉱物組成はX線回折装置(マックサイエンス製MXP-18A)で,化学組成は蛍光X線分析装置(理学電機製サイマルテックス12)で測定した。微構造は走査型電子顕微鏡(日立製作所製SEMEDX)で観察した。

2.2 大型内外装パネルの試作と物性評価
 大型パネルの配合比を決定するために混合比を20〜40%で変えた原料(ビール濾過助剤,スラグ,粘土)の混合比,厚さ,焼成温度を変化させ手練りで200mm角の試料を試作した。パネル粉砕して鉱物組成をX線回折装置(マックサイエンス製MXP-18A)で測定した。機械的強度の測定は成形加工機(マルトー製セラミクロンMX-833)で長さ70mm,幅12mm,厚さ0.6〜0.7mmに切断し,下部支点間距離50mmとして材料試験機(島津製作所製AGS-500D)で3点曲げ強度を測定した。熱伝導率は平板型熱流法熱伝導率測定装置(英弘精機製HC-071H)で測定した。試料をゴムプレートで挟み込み,上面20℃,下面10℃の温度として定常法で熱伝導率を測定した。
 試作した強度試験のデータをもとに配合組成を決定し,1m角×10mm厚み以下で欠け割れのない大型パネル試作を株式会社アースエンジニアリングに委託した。

3.結果と考察
3.1 ビール濾過助剤の特性
 ビール濾過助剤と能登珪藻土の粒度分布を図1に示す。ビール濾過助剤は濾過スピードを上げるため珪藻土を1000℃以上の加熱処理と空気分級で細かい粒子を除去しているので3),能登珪藻土は2μm以下の粒子が約40%存在するのに対して,ビール濾過助剤は2μm以下の粒子がほとんど無い。
 ビール濾過助剤を100℃で前処理乾燥したものと能登珪藻土の熱分析結果を図2と図3に示す。ビール濾過助剤は600℃までに約8%の重量減少が認められ, 300℃付近で大きな発熱現象が,500℃付近で小さな発熱現象が観察された。

300℃と500℃の発熱現象はビール濾過助剤に付着した酵母やタンパク質成分が燃焼分解したことによる。能登珪藻土は有機物等を含むので,600℃までに約10%の重量減少が観察された。
 500℃で熱処理したビール濾過助剤と能登珪藻土のX線回折パターンを図4と図5に示す。ビール濾過助剤の主成分は非晶質シリカであるが,結晶構造を持つものでかなり強いクリストバライト(SiO2)のピークと,その他弱い石英と長石のピークが観察された。能登珪藻土は比較的弱い石英,長石と粘土のピークが観察された4)。
 ビール濾過助剤の電子顕微鏡像を図6に示す。円盤状や骨針状の珪藻殻が多数みられ珪藻殻の特徴である多数の細孔は認められたが,粉砕が進み珪藻殻そのものの形態で残っていなかった5)。ビール濾過助剤と能登珪藻土の化学組成を表1に示す。SiO2が約80%で,Al2O3が約6%,その他はFe2O3,K2O,Na2Oで,能登珪藻土よりもSiO2以外の不純物が少ない。
 以上の結果からビール濾過助剤と能登珪藻土を比較した場合の違いは,ビール濾過助剤には2μm以下の粘土分がほとんどないこと,酵母やタンパク質が付着しているのでIg. lossが約10%付着していることであることがわかった。

(図1 ビール濾過助剤と能登珪藻土の粒度分布)
(図2 ビール濾過助剤の示差熱分析)
(図3 能登珪藻土の示差熱分析)
(図4 ビール濾過助剤のX線回折パターン)
(図5 能登珪藻土のX線回折パターン)
(図6 ビール濾過助剤の電子顕微鏡写真)
(表1 ビール濾過助剤と能登珪藻土の化学組成)

3.2 大型内外装パネルの試作と物性評価
 原料の由来が異なる6水準の試料でパネルの3点曲げ強度をビール濾過助剤添加量に対して図示した結果を図7に示す。3点曲げ強度はビール濾過助剤添加量の増加に伴い強度は減少している。
 試作したパネルを粉砕してX線回折パターンを測定した。ビール濾過助剤添加量20%及び40%で作成したパネルのX線回折の結果を図8と図9に示す。ビール濾過助剤原料では比較的強いクリストバライト(SiO2)ピークが観察されたが,いずれのパネルも原料のスラグにカルシウム分を多く含まれるのでワラストナイト(CaSiO3)とトリジマイト(SiO2)が主生成物であった。他にムライト(3Al2O3・2SiO2)の弱いピークが検出された。ビール濾過助剤添加量20%と比較するとビール濾過助剤40%の場合は全般的にピーク強度が強くなる傾向がみられた。化学組成分析の結果,ビール濾過助剤添加量が増えるとSiO2量は増加し,Al2O3,CaO量は減少した。
 X線回折でトリジマイト(SiO2) (-4,0,4)線とワラストナイト(CaSiO3) (2,-1,1)線のピーク強度比をビール濾過助剤添加量に対してプロットした結果を図10に示す。ビール濾過助剤添加量が増えスラグ添加量が減少すると強度比は増加した。石英多孔体の焼成の場合は粒子ネックにワラストナイトが凝集すると焼結が進むとの報告がある6)。本研究の場合,ビール濾過助剤添加量が多いとトリジマイトが増え,トポタクティック反応で生成するワラストナイトが減少することで機械的強度が低下したと推測される。
 試作当初はビール濾過助剤に有機物が多く含まれること,粘土が少なく成形性に乏しいことにより乾燥工程,焼成工程,冷却工程で欠け割れが多数発生したので,有機物の分解温度域や焼成収縮の温度域での昇温速度を下げた結果,欠け割れのない大型内外装パネルを試作することが可能となった。最終的には大型パネルの原料配合をビール濾過助剤20%,スラグ40%,粘土40%とした。
 パネル写真を図11に示す。1150℃で焼成したパネルの寸法は1m角×7mm厚みであった。かさ比重1.3で,熱伝導率は0.23 W/mKで十分な断熱性を示し,曲げ強度は全自動工程で試作することで37 MPaまで増加した。 4.結  言 キリンビール株式会社北陸工場から発生するビール濾過助剤が珪藻殻の純度が高く,多孔性を保持していることに注目して有効利用する研究を行った。ビール濾過助剤20%,スラグ40%,粘土40%の配合比で成形し1150℃で焼成することで,寸法が1m角×7mm厚みの大型内外装パネルが試作できた。このパネルはワラストナイトとトリジマイトが主成分で,かさ比重1.3,熱伝導率0.23 W/mK,曲げ強度37 MPaであった。

(図7 試作パネルの3点曲げ強度)
(図8 パネル(ビール濾過助剤20%)のX線回折パターン)
(図9 パネル(ビール濾過助剤40%)のX線回折パターン)
(図10 ビール濾過助剤添加量とX線回折によるトリジマイト(-4,0,4)とワラストナイト(2,-1,1)の強度比)
(図11 試作した大型内外装パネル写真)

4.結  言
 キキリンビール株式会社北陸工場から発生するビール濾過助剤が珪藻殻の純度が高く,多孔性を保持していることに注目して有効利用する研究を行った。ビール濾過助剤20%,スラグ40%,粘土40%の配合比で成形し1150℃で焼成することで,寸法が1m角×7mm厚みの大型内外装パネルが試作できた。このパネルはワラストナイトとトリジマイトが主成分で,かさ比重1.3,熱伝導率0.23 W/mK,曲げ強度37 MPaであった。

謝  辞
 本研究は,独立行政法人科学技術振興機構(JST)イノベーションプラザ石川の平成19年度実用化検討(FS)の一環で実施したものです。本研究を遂行するに当たり,ビール濾過助剤試料をご提供頂いたキリンビール株式会社北陸工場に感謝します。

参考文献
1) Bell.G.R, Hutto Jr. F.B.“Analysis of Rotary Precoat Filter Operation-New Concepts”. Chem.Eng.Prog. 1958, vol.54, no.12, p.69.
2) 非金属鉱物資源環境技術調査委員会. 経済産業省 東北経済産業局. “東北地域に産出するけいそう土の有効利用に関する調査”, 2001, p.10.
3) 昭和化学工業株式会社カタログ. “珪藻土・パーライト事業(珪藻土とは)”.
4) 大塚正. “耐火断熱煉瓦のふるさと”. セラミックス. 2009, vol.44, no.4, p.318.
5) 福嶋喜章. “植物のシリカ集積機能”. セラミックス. 1993, vol.28, no.1, p.7.
6) 永田達也, 今村潔, 柳田憲一郎, 白神達也, 浦部和順. “ウォラストナイトで結合された石英多孔体”.
J.Ceram. Soc. Japan, 2001, vol. 109, no. 2, p. 110-113.