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伝統的技法を取り入れた繊維製品の開発−石川らしい繊維製品の開発−

■繊維生活部 杉浦由季恵 松山治彰 餘久保優 森大介

 本研究では,付加価値の高い高品質な商品を求める消費者に対し,いしかわの特色を活かしたファッション性に富んだ高品質な繊維製品の開発を目的に,県内ハイテク素材,加工技術と県内伝統工芸技術を用い,石川らしい繊維小物製品(羽織モノ,友禅小物)のデザインイメージについて検討した。その結果を基に試作提案し,製品化への取り組みを行った。
キーワード: 石川らしい繊維製品, ハイテク素材, 伝統的技法

Development of Textile Products utilized Traditional Techniques
- Development of Textile Products using trait of Ishikawa -

Yukie SUGIURA, Haruaki MATSUYAMA, Yuko YOKUBO and Daisuke MORI

With the increased demand on the part of consumers for high-quality products with high added values, we focused our research on the development of high-quality, fashionable textile products using the high-tech materials, processing technology and traditional techniques of Ishikawa. We examined the design image of textile products such as haori coats and yuzen products, which are characteristic of Ishikawa. We made trial products based on the results, and made suggestions for commercialization.
Keywords: textile products using the characteristics of Ishikawa, high-tech materials, traditional techniques

1.緒  言
 平成16年度〜17年度に「いしかわユニバーサルファッション研究会」と共同で,中高年齢者に快適な婦人衣料(スーツ,スカート,セーター,ショール等)の研究開発1)を行い,その評価段階で,「石川らしい繊維製品の開発」が次のテーマとして浮かび上がった。このため,石川らしい繊維製品を「県内のハイテク素材・加工技術と伝統工芸技術を用いた,ファッション性に富んだ高品質な繊維製品」と定義づけ,新たな製品開発に取り組んだのでその研究成果を報告する。

 

2.内  容
 この研究を進めるにあたり,県内のハイテク素材・加工に伝統工芸技法の加賀友禅や加賀刺繍を,どのように取り入れるか調査・検討し,テストサンプルづくりを行った。その経過を加賀友禅染色団地に研究の概要説明や試作シミュレーションの提案を行った事から,友禅小物開発の要望があり,従来の「羽織モノの開発」に「友禅小物の開発」というテーマを加えの二つのテーマを同時に進めた。
2.1 羽織モノの開発
 中高齢者に快適な衣料の開発コンセプトや嗜好別イメージマップを基に,生活者の嗜好やファッショントレンド情報2,3)の分析を重ね,県内のハイテク素材や伝統工芸技法を用いた新たな繊維製品の開発を行った。
2.1.1 デザインコンセプト
 中高齢者衣料の開発のテーマやシーンについての考察を深め,デザインコンセプトは元気で若々しい中高齢女性に向けた「生き生きとしたマダムへの提案」とし,開発アイテムは,様々な着回しで個性が出せるショールやマフラー等の「羽織モノ」とした。

(表1 デザインコンセプト)

2.1.2 嗜好別デザイン提案
 繊維製品は,嗜好が重要視される事から,嗜好にマッチする色あいや素材感について,最新ファッショントレンドと重ね合わせた。研究会メンバーとの意見交換の結果,嗜好別の分類は,座標軸の縦軸を「自然−人工」,横軸を「質素−華やか」とし,以下の形容語の4イメージをマップ化した(図1)。
(1) 自然で華やか=ロマンチック
(2) 自然で質素=ナチュラル
(3) 人工的で質素=シック
(4) 人工的で華やか=ゴージャス

(図1 嗜好別の分類(イメージマップ))

2.1.3 嗜好別試作提案
 デザインコンセプトを基に,嗜好別の分類と合わせながら,イメージごとにデザイン展開を行い,10点の試作提案を行った。素材は,透け感のあるソフトで軽い超極細織物(天女の羽衣)と県内合繊素材を組み合わせたものを採用し,伝統工芸技術は加賀刺繍とした。
(1)ロマンチック:キュート,かわいい(図2)
A. カットジャカードと超極細織物にドレープを持たせ,組み合わせた。
B.手編みニットにモルフォテックス糸を一 部編み込んだ素材をベースに,しわ加工した超極細織物に丸いふくらみを持たせ,あしらった。
(2)ナチュラル:素朴,粗野な(図3)
C.キッドモヘア糸によるニット素材と超極細織物を重ねあわせ,加賀刺繍を施した。
D.キッドモヘア糸によるニット素材とむら染めの超極細織物を重ね合わせた。
E.手編みニットとしわ加工した超極細織物を組み合わせた。
(3)シック:レトロ,モダン(図4)
F.高密度織物としわ加工した超極細織物を重ね合わせ,菊柄の加賀刺繍を施した。
G.高密度織物としわ加工した超極細織物を重ね合わせ,桜柄の加賀刺繍を施した。
H.ジャカード織物とドレープを付けた超極細織物をビースで装飾的に留め,重ね合わせた。
(4)ゴージャス:装飾的,パワフル(図5)
I.カットジャカード織 物に超極細織物を重ね合わせた。
J.手編みニット素材に超極細織物を組み合わせ,蔦柄の加賀刺繍を施した。

(図2 (1)ロマンチック)
(図3 (2)ナチュラル)
(図4 (3)シック)
(図5 (4)ゴージャス)

2.1.4 評価・改良
 試作したショールを一般の中高齢者を対象としたアンケート調査や,首都圏の百貨店バイヤーによるプロの視点からの評価を基に,6点の改良試作を行った(図7)。アンケート調査は,平成19年5月11日〜15日,小松三日市商店街婦人服専門店サンムロヤで,年代,嗜好,用途,価格について調査し(図6),さらに県内外の展示会出展での聞き取り調査を基に,商品化に向けたイメージの絞り込みを行った。
 主なアンケート結果の内容は,以下のとおり。
・アンケート回答者は,60〜70歳代の女性が多く,旅先での暑さ・寒さよけやスタイルの補正にショールを持って行きたい。
・どのショールが好きですかという質問には,前ページで紹介した試作写真(3)シックGのショールが一番人気だった。
・価格帯については,1万円ぐらいという回答が多かった。
 百貨店のバイヤーからのアドバイスは以下のとおり。
・商品化に向けて大切なことは,誰が作り,誰が販売するのか,明確にすること。
・ショールの適正な価格は15000円から20000円。
・刺繍の付け方が大胆すぎ,付ける分量も多すぎる。
 装飾の配置については,サンプルを手に取りながら, どこにどう付けるか具体的なアドバイスを得た。
 その結果,刺繍の加工に係る経費を抑え,価格も抑える事ができた。
・タグの付け方など,販売を前提とした具体的なアドバイスも得た。
 上記の結果を踏まえ,研究会メンバーが,それぞれの持ち味を生かしたショールを6点改良試作し(図7),研究会メンバーの神後幸子氏のコレクション展において, 商品化に向けたテスト販売を行った(図8)。
K.モヘア糸によるニット素材と装飾的に軽く,超極細織物をあしらったショール。
L.ジャカード織物を用い,羽織ったり,手を通したりできる,着回しのきくエキゾチックなショール。
M.超極細織物とタッチングレースを組み合わせた, エレガントなショール。
〔出展参加〕
・中小企業技術展(H18.5.17-19,H19.5.22-24)
・婦人服専門店サンムロヤ(H19.5.11-15)
・2007いしかわ繊維産地展(H19.11.19-20)
・加賀繍展(H19.12.7-24)
・金沢ビジネスメッセ(H20.3.12)
・大阪ギフトショー(H20.3.12-14)

(図6 婦人服専門店サンムロヤ)
(図7 ショールの改良試作)
(図8 神後幸子氏コレクション展 (H19.11.21-12.4))

2.2 友禅小物の開発
2.2.1 開発の方向性について
 加賀友禅染色団地では,これまで呉服を中心に取り組んできたが,ここ数年で呉服の売り上げは激減し,業界の課題として,新たな商品開発が検討されていた。 しかし呉服業界は,旧態依然とした商慣習が根強く,新商品を開発しても取り扱ってもらえないという問題点を抱えていた。そこで,従来の流通ルートではない新しい販路開拓を前提とした,和装小物や洋装分野の商品開発とした。
2.2.2 試作提案
 加賀友禅染色団地の会員を対象に,友禅小物の開発に向けた検討会を実施した。県内のファッションデザイナー高瀬由紀氏と共同で,何回かの検討会に参加し,機械化や高度な技術開発を前提としたものではなく,会員が誰もが取り組めるものとして,期待できる商品領域としてショールやバッグを提案した。装飾については従来の友禅柄ではなく,オールドコレクションをモチーフにデザイン展開することとした(図9)。
 オールドコレクションは,1800・1900年代のフランス・リヨン地方を中心としたヨーロッパ各地の織物や,大正・昭和初期の友禅等,大変貴重な織物,約30000点のテキスタイルサンプルで,国内でも有数のコレクションと言われている。中でも,大正・昭和初期の友禅模様のサンプルは,大変個性的なコレクションの1つであり,現在は(株)繊維リソースいしかわが保管し,(社)石川県繊維協会ホームページ4)で紹介されている。
 提案手法としては,高瀬由紀氏による手書きスタイル画等を基に,デザインイメージをデジタル画像により加工処理した(図10)。同時に会員に対しては,県内のハイテク素材やトレンド素材(光沢感,透け感,ドレープ感等)の紹介も行った。

(図9 オールドコレクション(友禅模様))
(図10 友禅小物の提案)

2.2.3 評価・改良
 ファッションデザイナーの提案を,オールドコレクションや新素材を用いて展開し(表2),ショール10点とバッグ10個を試作した。
 試作品は,デザイナーのコレクション展で展示し(図11),来場者の要望や意見を採り入れ,商品化への検討を進めている。
 来場者の主な意見は,以下のとおり。
・従来の和装用バッグは,とても小さい物が多く,少し大降りで,使いやすい大きさとの意見が多かった。
・子育て期の母親から,お宮参り等着物を着たときのママさんバックに使いたいという声もあった。

(表2 試作素材について)
(図11 YUKI TAKASEコレクション展)

 

3.結  言
 本研究において県内のハイテク素材や,伝統工芸技法を用いた羽織モノ(16点)と友禅小物(20点)の試作を行った。さらに商品化への取り組みとして,展示会やアンテナショップへの出展参加を行い,一般消費者やプロのバイヤーの意見を基に,商品化に向けて検討を進めている。

 

謝  辞
 本研究を遂行するにあたり,ご協力を頂きました,いしかわユニバーサルファッション研究会,サンムロヤ,(協)加賀友禅染色団地,田中智子氏((株)三越),高瀬由紀氏(Design office YT),(株)繊維リソースいしかわの皆様に感謝いたします。

 

参考文献
1) 杉浦由季恵, 餘久保優子, 守田啓輔, 志甫雅人, 梶井紀孝. 高齢者ニーズに対応した快適衣料の研究開発. 石川県工業試験場研究報告, 2006, No.55, p.35-38. 
2) 三菱レイヨン. 2007-08 Autumn&Winter Women`s Wear FASHION MESSAGE, ダイヤ・ファッション・プランニング(株), 2007, 14p.
3) FaSHioN LaB. 日本色研事業(株). 2007, vol.1, p.1-72.
4) (社)石川県繊維協会. http://www.ita.or.jp/tafric/, (参照 2008-08-21).