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九谷焼用釉薬の物性に与える釉泥しょうの粒度分布変化の影響

■九谷焼技術センター 高橋宏
■福井大学 米沢晋 高島正之

研究の背景
 九谷焼は上絵装飾が特徴であるが、上絵の剥離は九谷焼が発祥して以来の最も深刻な問題である。同一調合の釉において上絵剥離が発生する場合と発生しない場合があり、釉の調合組成以外の要因が予想された。同一調合の釉物性の差を時系列的変化で考えた場合、釉泥しょうの粒度分布が変化してしまうと考えられた。そこで、釉泥しょうの粒度分布に注目し、釉の物性に与える影響を明らかにした。

 

研究内容
 調合組成を同一とし、粉砕混合時間を変え粒度分布(20μm以上の粗い粒子の重量パーセント)が異なる5つの釉を作製した。これらの釉をそれぞれ鋳込み成形した素焼き素地に施釉し、SK9還元焼成で試験用サンプルを作製した。粗い粒子の多い釉は上絵剥離が発生しないが、ヒビ(貫入)が発生しやすいことが明らかになった。一方、粗い粒子の少ない釉は上絵剥離が発生し、ヒビが発生しにくいことが明らかになった。焼成後の釉中には、未融解の残留シリカ粒子が存在しており、釉の粒度分布により残留量が異なっていた。つまり粒度分布が異なると、ガラス化する組成が異なり、図に示すように熱膨張など釉の物性に変化が生じた。未融解シリカ粒子の残留量を定量して、熱膨張係数を計算すると実測値に近似した値となった。粒度分布の釉物性への影響を計算上で示すことが可能となり、釉の有効な管理手法を提案することができた。釉中に残留する粒子と、ガラス化したバルクの熱膨張差から生じる隙間が、上絵剥離の応力を緩和していると考えられた。上絵焼成後の冷却過程における、上絵の収縮による釉への引張応力を、緩和できる隙間の量の差が、釉の粒度分布(粗い粒子の差)によって異なる。残留粒子が比較的多い釉薬は上絵が剥離しにくいことが明らかになり、残留量を制御することにより、上絵剥離を予防可能であることが示された。

(図 粒度分布の違いによる熱膨張率の差)

 

研究成果
 釉の粒度分布に注目して、釉物性に与える影響を検討し以下の結果を得た。
(1)釉泥しょうの粒度分布が、上絵の剥離に大きく影響を及ぼすことが明らかになった。
(2)釉中の残留シリカ量を定量することによって、熱膨張係数の予測値を精密化することができた。
(3)残留シリカ量の制御により、上絵剥離を防止することが可能である。

 

論文投稿
 日本セラミックス協会論文誌2007,Vol.115, No.1344, p.460-465.