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SiCウィスカ(SiCw)強化Al合金の弾塑性変形における相応力挙動

■機械金属部 舟木克之 鷹合滋樹 藤井要
■金沢大学大学院自然科学研究科 佐々木敏彦 広瀬幸雄

研究の背景
 セラミックス短繊維で強化した金属基複合材料(以下,短繊維MMC)は高い比強度と耐摩耗性を持ち,押出しや鍛造,圧延が可能なため,自動車や航空宇宙産業を中心に応用が期待されている。この材料は延性な母相に脆性な繊維を含みながら数%の破断伸びを示すなど,弾塑性的な挙動を呈して母相や繊維の相ひずみは短繊維MMCの巨視的ひずみとは異なっている。そのため引張変形下の相ひずみを知ることは強化機構や破壊メカニズムを解析し,信頼性を向上させる上で興味深いが,MMC相ひずみについて広範囲な弾塑性域で評価した例は少ない。本研究ではX線応力測定によりAl,SiC相応力の弾性域および塑性域での相応力挙動を調べた。

 

研究内容
 負荷ひずみと相応力の関係を右図に示す。図中には引張試験の応力−ひずみ曲線と複合則により求めたMMCのマクロ応力σij0も同時に示した。Al相では10MPa程度の引張残留応力が存在し,相応力はε11A=2800×10-6まで直線的に増加し,その後は塑性変形するため飽和した。塑性変形後ではσij0の増加勾配が引張試験のそれに比べて極端に小さく,MMCの塑性変形領域では繊維強化ではなくX線相応力挙動として現れにくいOrowan mechanismのような分散強化機構が支配的である。
 一方,SiC相ではMMC製造過程や熱処理におけるAl相との熱膨張のミスマッチにより100MPa以上の圧縮応力が残留する。またε11A=800×10-6以下の領域では相応力が一旦減少し,その後にσij0の増加勾配よりもはるかに大きな勾配を伴って反転増加するという負荷ひずみに対して非線形な挙動を示した。この弾性域中での非線形な領域はAl相には現れずにSiC相のみの現象であり,母相の優先的な変形によるMMC内部に生じる不均一ひずみと3次元ランダムに配向した繊維が受けるポアソン効果によるものと推察された。

(図 負荷ひずみに対するMMCの相応力挙動)

 

研究成果
 本論文では引張変形下のSiCw強化Al合金の相応力状態について検討し,以下のことを明らかにしている。
(1) Fe-Kα線を用いるとAl400とSiC311より回折強度の強い単一ピークが得られる。この場合,プロファイルのすそ野部分に重なりを生じるが,関数近似による波形分離により各相応力を精度良く測定できる。
(2) SiC相では,800×10-6以下の低ひずみ領域において平均相応力が一旦減少し,その後反転増加する。
(3) 本MMCの相応力変化は,球状介在物を多数含む二相材料に対するEshelby / Mori-Tanakaモデルによる理論解とほぼ一致し,MMC内部ではクラスタ単位で変形していると思われる。

 

論文投稿
 材料 2007, Vol. 56, No. 11, p.1049-1054.