簡易テキスト版

簡易テキストページは図や表を省略しています。
全文をご覧になりたい方は、PDF版をダウンロードしてください。

全文(PDFファイル:102KB、4ページ)


二酸化チタン触媒粒子による廃水処理技術の開発−農業廃水への応用−

■化学食品部 中村静夫 勝山陽子 井上智実
■明和工業(株) 北野滋 
■金沢工業大学 大橋憲太郎

 本研究では,二酸化チタン触媒粒子と高圧水流を用いた廃水処理について検討を行った。二酸化チタン触媒粒子は直径2mmのもので,高圧水流の圧力は,14.7MPaとした。得られた結果は,次の通りである。(1)二酸化チタン触媒の励起源として超音波を用いてトリフミゾールの分解試験を行い,初期濃度の80%まで低減させることができた。(2)二酸化チタン触媒粒子を含む反応装置を試作し,その装置を用いてメチレンブルーが完全に分解することを確認した。(3)試作した装置を用いて,トリフミゾールの分解試験を行い,初期濃度の1/2まで低減させることができた。
キーワード:二酸化チタン,高圧水流,超音波,廃水処理

Development of water treatment technique with TiO2 catalyst particles -Application to agricultural wastewater-

Shizuo NAKAMURA, Yoko KATSUYAMA, Tomomi INOUE, Shigeru KITANO and Kentaro OHHASHI

In this research, the water treatment technique that used TiO2catalyst particles and a high-pressure water current was examined. The diameter of TiO2 catalyst particles was 2mm, the pressure of water was 14.7MPa at these experiments. The following results were obtained. (1) The examinations to which a triflumizole was decomposed by using the supersonic wave as an excitation source of TiO2 catalyst particles were done, and it was able to be decreased up to 80% of the initial concentrations. (2) The equipment that sent a high-pressure water current to a reactive layer including TiO2catalyst particles was made on an experimental basis. And it was confirmed to decompose a methylene blue completely. (3) The examinations to which a triflumizole was decomposed by the same experimental equipment were done. As a result, it was able to be decreased to 1/2 of the initial concentrations.

Keywords:TiO2 catalyst particles, high-pressure water current, supersonic wave, water treatment technique

1.緒  言
  二酸化チタンの光化学反応は1950年代以前から知られ,1972年発表された本多・藤嶋効果から注目されるようになった。その後,1980年前後からは二酸化チタン光触媒の持つ酸化力を利用した防汚・抗菌について開発が進められた。さらに,1995年頃からは,光誘起親水性反応が見いだされ,防曇機能といった新たな応用展開がなされてきた。これら,光触媒の原理,開発状況等は多くの報告1)〜3)がなされている。
この二酸化チタンを各種担持体に担持させることにより,上述の機能を様々な形態のものに付与することができる。また,それ自体は安定かつ安全で,太陽光や室内蛍光灯の光エネルギー,雨水を利用することにより安価に機能を発揮させることが可能で化学薬品を使うことがないので環境に優しい材料である。これを環境浄化に応用することは,二次公害を起こさない優れた浄化法の一つであると言える。
  しかし,二酸化チタンを用いる反応は,光を励起源としている表面反応であるため,光の照射量の低減による反応量の減少,光の照射領域のみの反応さらに短時間で多量の対象物を処理できない課題があり,その対応としてシステム的な工夫4)がなされている。しかし,光を励起源としているため廃水処理においては,提案される処理方法では飛躍的な効率向上が望めないのが現状である。
そこで,本研究では廃水処理において大量処理を可能とするために励起源を紫外光から超音波と高圧水流のエネルギーへの転換の可能性について検討した結果について報告する。

2.分解実験方法
2.1 二酸化チタン粒子
二酸化チタンの主な結晶構造には,高温型のルチル型,低温型のアナターゼ型及びブルッカイト型の三種の結晶形態があると報告1)されている。一般に,光触媒としてはアナターゼ型結晶の方が,ルチル型結晶より高活性であるとされている。しかし,超音波を励起源とする場合には,ルチル型が有効であるとの報告5)があり,本試験でもルチル型の二酸化チタン粒子(富山セラミック(株)製)を用いた。粒子の大きさは直径2mmで,TiO2粉末に所定量のSiO2粉末を添加してプレス成型後,約1200℃で焼成したものである。なお,この粒子の破壊荷重は,888Nである。各実験に用いた二酸化チタン粒子は,室温で試験溶液に24時間以上浸漬したものを用いた。比較のために,粒子径が同じである酸化アルミニウム粒子(ニッカトー製)についても同じ条件で試験を行った。

2.2 超音波による分解試験
2.2.1 試験農薬物質
  本研究では処理対象の農薬として,トリフミン水和剤の有効成分であるトリフルミゾール(ジーエルサイエンス(株)製:99.9%)を用いた。濃度は,10ppmに調整して試験溶液とした。

2.2.2 開始剤
  反応開始剤として過酸化水素(和光製薬(株)製:31.0wt%)を用いた。所定量を,実験開始前に所定濃度に調整して注入した。本実験では,試験溶液100mLに添加量を1,3,10mLと変化させた。

2.2.3 実験方法
  アセトニトリル水溶液を溶媒とする10ppmのトリフミン溶液100mLを,所定量の粒子が充填された容器に注入し,超音波洗浄器(シャープ(株)製:UT-105型)中央に容器を固定した。その後,所定濃度の過酸化水素を所定量添加すると同時に超音波振動子を作動させた。この作動開始時を実験開始時間とし,3時間反応させた。この時の,超音波の出力は130Wで,周波数は35kHzとした。60分毎に1mL分取し,分析試料とした。 
トリフルミゾールの分析には,吸光光度検出器を組み込んである高速液体クロマトグラフ (日立製作所製:LaChrom)を用いた。移動層にはGH-C18 を用い,測定時の温度を40℃とした。この層には,アセトニトリル78wt%水溶液に炭酸アンモニウム(和光純薬(株))製特級試薬)を10wt%添加したものを毎分5mL流した。濃度測定は,238nmの波長における吸光度測定により定量を行った。

2.3 高圧水流による分解実験
2.3.1 試験溶液
メチレンブルー水溶液は,蒸留水で10mg/L(無水重量基準)となるように調整した。なお,試験溶液は実験開始時に常時調整した。
トリフミン水和剤はトリフルミゾール30%,鉱物質微量分と界面活性剤等が70%からなる総合殺菌剤として,種籾等の種子消毒に使用される。また,本実験でも開始剤として,所定濃度の過酸化水素水を用いた。

2.3.2 実験装置
  高圧水流を用いる実験装置の概略図を図1に,装置本体を図2示す。実験は,所定量の濃度の試験溶液を溶液タンクAに充填し,循環ポンプCにより加熱タンクDに800L/Hで送り込み所定の温度まで加温した。その後,高圧ポンプEによりリアクターGに送り込んだ。リアクター内に流入する直前に開始剤を所定量注入した。リアクターの大きさは,長さ550mm×直径200mmのステンレス製で,内容積17.28Lである。リアクター内に設けた二酸化チタン粒子層の大きさは,幅8cm×円直径18.5cm(内容積2.15L)とした。リアクター内では,吐出しノズルにより試験溶液の流速を早め,吐出圧力約14.7MPaで二酸化チタン粒子充填層に垂直に当たるようにした。
(図1 実験装置概略図)
(図2 試作した実験装置)

3.結果と考察
3.1 超音波による試験結果と考察
図3には,二酸化チタン粒子300gを用い開始剤添加量を変化させた時の初期濃度に対する溶質濃度比(以下、「分解率:C/C0」とする。)の経時変化を示した。図から過酸化水素量は1mLと3mLでは分解率に違いが認められるが,3mLと10mLでは分解率に大きな相違は認められない。以上より,開始剤としての所定量の開始剤の添加が必要であることが明らかとなった。また,超音波を励起源とし,ルチル型の二酸化チタン粒子による有機物の分解を確認することができた。
  図4は,開始剤3mL添加し充填する二酸化チタン粒子を変化させた時の分解率の経時変化を示したものである。図から,二酸化チタン粒子量が0〜200gの時は,大きな相違はなく300gの時に分解率が向上している。このことは,300g充填した場合試料液面と粒子最上面がほぼ等しいことから,液全体が二酸化チタン粒子に接することが必要であることがわかった。
  図5は,開始剤3mL添加し充填する粒子種を変化させた時の分解率の経時変化を示したものである。比較粒子には,粒子径2mmの酸化アルミニウム粒子を用いた。粒子充填量は,各々300gであった。図から,粒子を充填しない場合とアルミナ粒子充填の場合は,二酸化チタン粒子充填の場合と比較して分解率が低いことがわかり,二酸化チタン粒子の効果が明らかとなった。
以上のことから,超音波を励起源とする二酸化チタン粒子の触媒効果が確認でき,農薬の一種であるトリフルミゾールを分解できることがわかった。
(図3 開始剤添加量による分解率の経時変化) 
(図4 粒子量の変化による分解率の経時変化)
(図5 粒子種の相違による分解率の経時変化)

3.2 高圧水流による試験結果と考察
試作装置を用いてメチレンブルー水溶液の処理を行った結果,2時間でメチレンブルーが完全に分解することを確認できた。この時,二酸化チタン粒子充填量は1500g,開始剤は31%濃度の過酸化水素水を14mL/min供給した。粒子層には流動性を有する状態で最大3000g充填できるが,前節の試験で確認したように粒子充填量が多いほど効果が認められる。メチレンブルー等の易分解性有機物では,試作装置では粒子充填量が1500gでも処理が可能であることがわかった。
図6は,試作装置によるトリフミン水和剤の溶液を分解した時の結果を示したものである。この時の溶液の初期濃度C0は30ppmで,二酸化チタン粒子量3000g,注入する開始剤の濃度を変化させて実験を行ったものである。図から,開始剤濃度によるトリフミン水和剤の分解に大きな影響を与えないことがわかり,また開始剤濃度が31%の場合で初期の濃度の約50%が分解していることがわかる。
以上のことより,試作装置では,トリフミン水和剤について初期濃度約1/2まで分解可能であることが明らかとなり,試作装置の有効性が確認できた。
図7は,開始剤濃度31%の時の粒子量による分解の経時変化を示したものである。他の条件は,図6の場合と同じである。図から粒子量による相違は認めることが出来ない。このことは,粒子量の増加による分解の促進よりも,高圧水流による分解への影響が大きいことを示している。また,粒子種を酸化アルミナに変化させて同一条件で行った実験で,二酸化チタン粒子と同程度の分解率を示したことからも,高圧水流による分解への寄与が大きいと推定できた。すなわち,励起源を超音波とした時は,二酸化チタン粒子の触媒効果は確認されたが,励起源としてのエネルギー量が大きい高圧水流では二酸化チタン粒子の効果が明確に表れなかったものと考えられる。
高圧水流のみによる既往の分解試験6)では,吐出圧力35MPa,径1mmのノズルを用いp-ジクロロベンゼンを40%分解した結果が得られている。また,同一条件で直接染料の処理を試みた報告7)もある。本試験では,吐出圧力を1/2に設定し,ノズル径2mmとしたが,二酸化チタン粒子よりも高圧水流による分解への影響が大きい結果が得られたので,さらなる吐出圧力の低減が可能であると考察される。
以上のことから,二酸化チタン粒子触媒を効果的に活用する実用機の試作においては,初期及びランニングコスト削減のために吐出圧力を低減したものとすることが望ましいことがわかった。
(図6 開始剤濃度による分解率の経時変化)
(図7 粒子量による分解率の経時変化)

4.結 言
  本研究では,超音波による二酸化チタンの触媒効果によるトリフルミゾールの分解を確認することができた。しかし,試作装置を用いた高圧水流によるトリフミン水和剤の分解は確認できたが,二酸化チタン粒子の触媒効果に起因する分解効果を明確にすることはではなかった。効果を明確にするには,水流の吐出圧力を14.7MPa以下に設定することが必要であると推定された。

謝  辞
  本実験の遂行にご協力頂いた金沢工業大学修士2年 橋本智史,学部4年生 西村康志君に感謝します。

参考文献
1)Fujishima et.al.TiO2 PHOTOCATALYSIS,BKC, Inc(1999)
2)藤島昭.会報光触媒,vol.12,2003,p.18-19.  
3)早瀬修二.会報光触媒,vol.16,2005,p.8-12.
4)中島哲夫.会報光触媒,vol.15,2004,p.140-141.
5)野坂芳雄.入門光触媒,東京図書,2004,p.138-139.
6)掛川晃彦.キャビテーションに関するシンポジウム要旨集
(第12回),2004,p.37-40.
7)阿部浩之.滋賀県東北部工業技術センター研究報告書,1999,p.35-38.