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画像処理による凝固検査装置の開発

■電子情報部 米沢裕司 漢野救泰
■株式会社松浦電弘社 松浦隆弘
■株式会社高井製作所 天野原成

 豆腐をはじめとする食品には,その凝固状態が重要な品質項目であるものが多い。しかし,凝固検査は手作業で行うほかなく,また検査の際には包装を開封する必要があった。そこで,非接触,非破壊かつ自動的に凝固検査を行える装置の開発を行った。
本研究では,まず,凝固状態によって検査対象物のスペックルパターン画像の特徴が異なることを明らかにした。次に,ラインセンサで撮影したスペックルパターン画像の時間的な変化をコンピュータで求めることにより凝固検査を行う方法を考案し,凝固検査装置の試作を行った。そして,性能検証実験の結果,コンベア上を移動する豆腐の凝固検査が可能なことを確認した。
キーワード:凝固検査,スペックルパターン,画像処理,ラインセンサ

Development of a Coagulated Product Inspection System Using Image Processing

Yuji YONEZAWA, Sukeyasu KANNO, Takahiro MATSUURA and Motonari AMANO

The state of coagulation of products is one of the important quality factors for a lot of food including bean curd. However, the inspection of the coagulated state of products requires manual operations and the opening of food packages. We developed a system that enables the inspection of the coagulated state of foods to be carried out without contact, non-destructively and automatically.
In this study, first we found that the characteristics of the speckle pattern image of the object being inspected depended on the state of coagulation. Next, we devised a method for inspecting coagulated products by computing the transition of the speckle pattern image using a line sensor, and we made a prototype of our inspection system. Then, it was confirmed by experiments that the system that we had developed could inspect the coagulated state of bean curd moving along the conveyer.

Keywords:coagulated product inspection, speckle pattern, image processing, line sensor

1.緒  言
  製造現場における検査は,製品の品質を維持する上で必要不可欠なものであり,全数検査を行うことができる自動検査装置を導入し,製品の品質維持に努めている製造現場も多い。
一方,食品はその硬さや弾力などの物性が非常に重要な品質項目であるものが多い。例えば,豆腐,ゼリー,ヨーグルトなどはその硬さや弾力,つまり物体の凝固状態が重要な品質項目である。しかし自動的に物体の凝固状態を計測する手段がなく,現状は,容器を開封した上で手作業によりレオメータ1)等の物性試験機で計測しているにすぎない。これは,これらの製品が容器に封入されている状態では,外観からは凝固状態の判断ができないためである。また, X線,超音波など容器を透過する既存の手段によって凝固状態の判断ができるという報告もなされていない。
しかも,開封による検査では,全数検査は不可能であり,抜き取り検査にならざるを得ない。そして,抜き取り検査では,そのロットがすべて同じ結果である保証はなく,検査漏れのリスクを伴う。その結果,品質の悪い製品が出荷され市場に流通することがあり,その場合,信用の失墜と多大な経済的損失を被ることになる。
そこで,本研究開発では,食品,特に豆腐を対象にして,非接触,非破壊かつ自動的に凝固状態を検査できる凝固検査装置の開発を行った。

2.凝固状態検査の原理
2.1 スペックルパターンと凝固状態
本装置の開発に際して,スペックルパターンに着目した。スペックルパターン2)とは,レーザなどの干渉性の強い光を物体に照射した際に,物体の粗面から散乱した光が干渉し合って形成される粒状の干渉模様である。
このスペックルパターンに関して分析したところ,凝固状態によってスペックルパターンの特徴が異なることがわかった。図1は豆腐(凝固状態)と豆乳(未凝固状態)にレーザを照射し,CCDカメラにより1/60秒のシャッタスピードでスペックルパターンを撮影したものである。豆腐ではスペックルパターンが粒状になっているが,豆乳では粒がぼやけたようになっている。これは,豆乳の場合,スペックルパターンが時間とともに激しく変化しているためではないかと推測した。
これを確かめるため,スペックルパターンの時間的変化について分析した。高速度カメラを使用して1/8000秒のシャッタスピードで連続撮影したスペックルパターンを図2に示す。
1/8000秒の時間差で撮影された2枚の画像を拡大して比較すると,豆腐の場合はこの2枚の連続画像はよく似ている。一方,豆乳の場合は2枚の連続画像は明らかに異なる。つまり1/8000秒というごく短時間にスペックルパターンが変化しているといえる。このことから,豆腐の場合はスペックルパターンが時間的に比較的安定なのに対し,豆乳の場合は時間的な変動が大きいことがわかった。そして,この時間的な変動が,図1の豆乳のスペックルパターンにおいて粒がぼやけたようになる原因であることがわかった。

(図1 豆腐と豆乳のスペックルパターンの違い(CCDカメラにより撮影))
(図2 豆腐と豆乳のスペックルパターンの違い(高速度カメラにより撮影))

2.2 凝固検査方法の検討
  前節で述べた凝固状態によるスペックルパターンの違いを利用すれば,凝固状態を自動的に検査することができると考えられる。例えば,図1のようなスペックルパターン画像の粒の鮮明さの違いをコンピュータで分析することによって凝固状態を検査する方法が考えられる。しかしながら,この方法は,検査対象物(豆腐など)が静止している場合のみ適用することができる。これは,スペックルパターンがどの場所でも同一というわけではなく,場所によってランダムに変化するためである。つまり,検査対象物が移動している場合,1/60秒のシャッタスピードの間にスペックルパターンの撮影領域が変動することによってスペックルパターンが変動し,その結果,豆腐でも豆乳の場合と同様にスペックルパターンがぼやけてしまう。この場合,豆腐と豆乳のスペックルパターンを区別することはできない。工場内のコンベア上を移動する検査対象物を検査する場合,検査対象物を静止させて検査することは一般的に容易ではなく,この方法をコンベア上のオンライン検査で使用することは困難である。
  一方,図2のようなごく短時間で連続撮影された画像間のスペックルパターンの変動量をコンピュータで分析することによって,凝固状態を検査する方法も考えられる。この方法は,検査対象物が静止していなくても適用することができる。これは,画像の撮影時間間隔がごくわずかであり(図では1/8000秒),検査対象物の動きによる影響が軽微なためである。
しかしながら,このような高速で連続撮影可能なカメラ(高速度カメラ)は通常のカメラに比べて非常に高価である。また,通常のCCDカメラに比べて大型であったり,コンピュータからの制御に制約があったりする。そのため,高速度カメラを用いた凝固検査装置は,実用に供するには不向きである。
そこで,高速度カメラの代わりにラインセンサを用いてスペックルパターンを撮影しコンピュータで解析する方法を考案した。これについて次節で述べる。

2.3 ラインセンサを用いた凝固検査方法
ラインセンサを用いた凝固検査方法の概要について図3に示す。通常のカメラはCCD等の撮像素子が面状に配置されているのに対し,ラインセンサは撮像素子が一列に並んでいる撮像装置である。そのため,スペックルパターンを撮影した場合,通常のカメラでは2次元のスペックルパターンが得られるのに対し,ラインセンサでは1次元のスペックルパターンが得られる。つまり,図3右上のように,ある1ラインにおける濃淡情報が得られる。
一方で,ラインセンサは非常に高速に撮影できるという特徴がある。一般のカメラを用いた場合,1秒間に撮影できる回数は30回程度だが,ラインセンサでは毎秒1万回以上の撮影が可能である。この撮影速度は高速度カメラと比べても遜色がない。そして,ラインセンサは画像検査装置などの産業用に広く普及しており,高速度カメラと比べて小型で低価格でもある。
そこで,ラインセンサを用いて,ごくわずかの時間差でスペックルパターンを高速に連続撮影して蓄積し,このスペックルパターンの時間的な変動の大きさをコンピュータで解析することを検討した。
  ラインセンサで撮影した豆腐と豆乳のスペックルパターンを図4に示す。撮影は,高速度カメラと同じ1/8000秒の間隔で20回繰り返して行っており,図4の縦軸は時間軸である。そして,図4からは,豆乳の場合はスペックルパターンが時間とともに大きく変化しているのに対し,豆腐の場合はスペックルパターンの時間的な変化は少ないことがわかる。このことから,ラインセンサで撮影したスペックルパターンの時間的な変化をコンピュータで解析することにより,凝固状態を検査することができると考えられる。

(図3 ラインセンサを用いた凝固検査の概要)
(図4 豆腐と豆乳のスペックルパターンの違い(ラインセンサにより撮影))

3.凝固検査実験
3.1 実験方法
この凝固検査方法の有効性を確かめるために凝固検査装置を試作し,検査性能の検証を行った。
装置の構成を図5に示す。実験では,コンベア上を移動する凝固検査対象物(豆腐)に対して,側面よりレーザを照射し,照射した箇所をラインセンサにより撮影した。なお,レーザは近赤外半導体レーザを使用した。これは,近赤外光は豆腐の包装容器に対する透過性があり,包装容器内の豆腐のスペックルパターンを撮影することが可能なためである。つまり,近赤外光を使用することにより,包装容器を開封することなく,凝固状態を検査できるようにした。
また,ラインセンサは予備実験で最も良好な結果が得られた1/17000秒の時間間隔で,4000回の連続撮影を行うように設定した。そして,撮影データはパソコンに取り込み,ソフトウェア(図6)によってスペックルパターンの時間的な変化を解析し,スペックルパターンの変化量,すなわち凝固状態の指標値を求めた。
なお,コンベアの搬送速度は毎秒200mmである。そして,コンベアに設置した光スイッチによって,検査対象物(豆腐)の通過を検知し,ラインセンサの撮影開始タイミングの制御を行った。
そして,豆腐を作る際に使用する凝固剤の量を変化させ,凝固状態が異なる7種類の豆腐を作り,それをコンベア上に流し,凝固状態の違いが識別できるかどうかを検証した。

(図5 試作した凝固検査装置の構成)
(図6 凝固検査用ソフトウェアの操作画面)

3.2 実験結果
実験結果を図7に示す。グラフの横軸はレオメータで計測した破断力であり,破断力が大きいほど凝固していることを示している。そして,縦軸は,実験装置により出力された凝固の程度を示す指標値であり,数値が小さいほど凝固していることを示している。図7からは,破断力と装置の出力との相関がはっきりとわかる。つまり,考案した凝固検査方法により,豆腐の凝固状態が自動的に検査できることを確認した。なお,パソコンでの処理時間は約0.5秒であり,全数検査も可能な処理速度であった。
  そして,このような良好な実験結果が得られたことから,(株)高井製作所と(株)松浦電弘社が共同で図8のようなオンライン型凝固検査装置として商品化を行った3)。本装置は,凝固状態の全数検査を行って結果をモニタに表示するとともに,不良品を自動的にコンベア上から排除することができる。

(図7 実験結果)
(図8 オンライン型凝固検査装置)

4.結  言
  スペックルパターンに着目し,画像処理によって豆腐等の凝固検査を行う装置を開発した。そして,検証実験の結果から本装置により豆腐の凝固検査を行うことができることを確認した。本装置は,非接触,非破壊で,自動的に全数検査を行うという従来にはない優れた特徴があることから,凝固状態の検査や品質管理に大きな役割を果たすことができる装置であると考えている。
  なお,本稿では凝固検査の対象物として豆腐を取り上げたが,豆腐以外の各種製品への適用も可能だと考えている。今後は,本装置の適用範囲の拡大を図って行く予定である。また,処理速度の向上や検査精度の向上などに取り組みたいと考えている。

謝  辞
  研究を遂行するに当たりご助言をいただいた,金沢大学自然科学研究科教授の安達正明氏に感謝します。

参考文献
1) 内藤正. 工業計測法ハンドブック. 東京, 朝倉書店, 1982, p.402.
2) 谷田貝豊彦. 応用光学光計測入門. 東京, 丸善, 2001, p.152.
3) 天野原成他. ゲル状食品の凝固検査装置の改良開発. 日本食品工学会年次大会講演要旨集, 2005, p.140.