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ホームページ上の電子メモを用いた情報共有システムの開発

■電子情報部 加藤直孝 上田芳弘 林克明
■(株)富士通北陸システムズ 中川健一
■北陸先端科学技術大学院大学 國藤進

 ホームページとして電子化されたドキュメントにコメント情報を付加することで,利用者間の情報共有を支援するシステムを開発した。本システムでは,ホームページの内容に補足的に付加するコメント情報をWebアノテーションと呼び,文字や図形あるいは画像を利用できるほか,同時にシステムを利用する複数のPC端末間でWebアノテーションおよびホームページ画面を共有することができる。ネットワーク環境で行ったシステムの性能実験からは,多数端末の接続のもとで高速性を確認した。また適用実験としてホームページのデザインレビュー作業に本システムを利用した結果,レビュー作業の効率化に有効であった。
キーワード:アノテーション,情報共有,協調作業

Development of an Information-Sharing Support System using Web-based Annotation

Naotaka KATO , Yoshihiro UEDA , Katsuaki HAYASHI , Kenichi NAKAGAWA and Susumu KUNIFUJI

We developed an information support system that can support information sharing among users through the use of secondary comments attached to electronic documents such as web pages. In the system, text, diagrams and images can be used as web annotations that display supplemental explanations and comments on the web pages. The system displays the web annotations and the web pages synchronously in the web browsers of all PC clients. Our experimental results for system performance in a network environment demonstrated the system’s high performance with multi-user connections. We also found that the system could be used for reviewing website designs.

Keywords:annotation, information sharing, collaborative work

1.緒  言
  組織内あるいは組織間の円滑な情報共有あるいはコミュニケーションを実現する手段として,オフィスにおける情報インフラが必要不可欠な存在となっている。近年では,情報システムを活用して,資料の電子ドキュメント化による情報共有の効率化や,インターネットを活用したWebによる情報検索が普及している。そこでは利用者側の環境としてWebブラウザを搭載したPCを利用して様々な情報の閲覧や検索が行われている。組織では,このような情報活動は個人はもちろん複数人の参加による協調作業として行われる場合が多くなってきており,参加者間の情報共有手段が課題となっている。そこで本研究では,より効果的で利便性の高い情報共有システムの開発を目的に,複数の利用者がインターネットあるいはイントラネットを利用して,Webブラウザ画面に表示されるホームページ上に付箋やマーカなどのようなメモ感覚で電子的な二次的情報を書き残すことにより情報共有を図る遠隔コミュニケーション支援システムを開発した。ここで,何らかの方法で原資料に付記される情報は,文字や図的表現として原資料上に空間配置される二次的な情報であり,アノテーション1)と呼ばれている。以下では,ホームページ上で用いられるアノテーションをWebアノテーションと呼ぶことにする。
本報告では,2章で試作したシステムの概要2)について述べる。次に3章でシステムの評価について述べ,最後の4章で結論をまとめる。

2.内  容
2.1 システムのプログラム構成
  本システムのプログラム構成を図1に示す。プログラムは,Webアプリケーションとして作成されている。アノテーション生成および編集プログラムは,あらかじめクライアントPCにインストールしておく必要はなく,サーバにログインした時にサーバ側から自動的にダウンロードされて実行されるしくみとなっている。したがって,利用者はソフトウェアを意識することなくシステムを利用することができる。
一方,サーバ側には,ログイン中の全てのクライアントPCに常に同じ画面を表示するためのデータ配信機能と,クライアントPC側で作成したアノテーションをサーバ上に保存する機能およびデータベースに登録して検索を行うデータ管理機能がある。利用者は,クライアントPCのWebブラウザ画面からユーザIDとパスワードを入力して,本システムにログインすることで利用が可能となる。
またシステムの動作環境については,本研究では,クライアントPC側のOSにはWindowsXP,WebブラウザはInternet Explorer 6.0,サーバ側のOSには,Windows2000サーバを用いた。またサーバとクライアントPCの双方にJavaランタイム版が必要である。

(図1 システム構成)

2.2 Webアノテーションの機能
本システムでは,Webアノテーションの実装に関して,1)多様な図形を扱える,2)高速に描画できる,3)Webブラウザ上で追加プログラムをインストールせずに利用できる,4)ホームページに対して重ね書き表示が可能である,の各条件を満たす実装技術としてVML(Vector Markup Language) 3)と呼ばれるベクターグラフィック記述言語を採用した。
Webアノテーションの種類には,円,四角形,矢印,文字,画像,半透明マーカ,取り消し二重線などを用意した。図2は,ユーザが本システムにログインした時の初期画面の例である。画面には任意のWebサイトのホームページを表示させることができる。画面左側に表示されるWebアノテーション編集メニューからアノテーションのタイプを選択し,画面右側のホームページ画面上の任意の場所をマウスで左クリックすることでWebアノテーションが配置される。図3にWebアノテーションの例を示す。画面上には,楕円,フリーハンド曲線,マーカー,指アイコン画像などが付記されている。Webページ上に付記したアノテーションは,マウスでドラッグすることにより任意の場所に移動できる。これらのWebアノテーションの追加,移動,削除などの操作結果は,本システムに同時にログインしているすべてのユーザのPC画面にリアルタイムに反映される。さらにユーザが作成したすべてのWebアノテーションを対象に,一斉に表示・非表示をフィルタリング制御したり,ユーザ別,グループ別にリアルタイムに表示を切換えたりできるほか,他のユーザには自分の作成したWebアノテーションを表示させない公開制御機能や,特定の利用者だけに特定の情報をプッシュ配信する機能などを持つ。この他,現在のホームページに付記されているWebアノテーションの情報一覧表示などが可能である。
なお,アノテーションを配置可能なホームページとしては,一般のWebサイトがそのまま利用できる。たとえば,位置情報サービスではRFID から取得した情報をWeb に表示するなど,昨今開発される多くのシステムはWeb ベースのため,既存のWeb システムと本システムを連携させることで応用範囲を広げられる特徴がある。

(図2 ログイン時の初期画面 )
(図3 Webアノテーションの例)

2.3 Webアノテーションのデータ構成
Webアノテーションのデータは,通信情報,補足情報および可視情報から構成される。通信情報は,サーバを経由して他のユーザPCにアノテーションの操作イベントを配信するためのものである。Webアノテーションの補足情報には,1) 表示位置の座標,2) 生成時刻,3)ユーザ名,4) コメント文,5)重要度,6)グループ名,7)カテゴリ(意見,補足,質問,回答,同意, 反論,事実),8)リンク情報,9)ファイル情報があり,Webアノテーションを右クリックすることで表示される補足情報の編集画面に表示される情報である。ここで,ログイン時に入力したユーザ名,表示位置の座標および生成時刻は,システムが自動で設定する。その他の項目は,この編集画面においてユーザが選択もしくは任意入力する。可視情報は,アノテーションのタイプに応じて画面上に表示される図形情報である。

2.4 Webアノテーションデータの検索
Webアノテーションのデータは,XML(eXtensible Markup Language)形式でサーバにファイル保存される。XMLは,インターネット上で扱われる文書やデータの意味あるいは構造を記述するための言語の一つであり,ユーザが独自に定義できる特定の文字列による「タグ」を用いて,データ構造を比較的容易に記述できるため,Webアノテーションのデータ記述に適している。XML形式で保存されたWebアノテーションデータは,検索を可能とすることで再利用の効率性が高まる。そこで,フリーウェアとして利用できるXML用データベースXindice4)を利用して,ユーザ名,ホームページのタイトルなどで過去に作成したWebアノテーションを検索できるようにした。なお,Webアノテーションの保存と同時に,下書き部分となったホームページもサーバにファイル保存されるため,検索結果は,Webアノテーションを保存した時の画面状態がそのまま再現される。

3.システムの評価
3.1 インターネット環境での接続実験
試作システムの稼動実験に際して,図4に示すネットワーク接続環境を構築し,ファイアウォールを経由したインターネット接続およびモバイル接続による利用において正常な動作を確認した。

(図4 実験に用いたネットワーク環境)

3.2 性能評価実験
北陸IT 研究開発支援センター(能美市辰口町)の設備を利用して,Webアノテーションの生成および表示制御に関する処理性能を計測した。その結果,アノテーションの描画種類によって性能の差異はなく,表示個数のみが性能に影響を与えた。図5のグラフからは,処理時間10秒以内が求められる状況であれば,Webアノテーションの新規生成数は200 個程度であることがわかる。またWebアノテーションの表示を非表示に切り替えるフィルタリングの連続処理に関しては,回数に応じて時間が線形で比例する結果となった。以上の結果から,Webアノテーションの処理性能面での実用性を確認できた。なお,実験に用いたPCの仕様は,CPU がPentium III 1GHz,メモリ512MB,OS はWindows 2000 Serverである。

(図5 Webアノテーションの性能試験結果)

3.3 適用実験
本システムの適用実験例として,ホームページのデザインレビュー作業支援に利用し,実験から得られたデータや被験者のコメントに基づいて本システムの有効性について考察を行った。レビューアとなる被験者は,場内の広報関係プロジェクトのメンバー,情報技術およびデザインの専門分野の職員計6名である。またデザインレビュー対象としたホームページは,実際に当場のホームページのデザインリニューアル案として検討段階にあったトップページおよび業務紹介ページの2種類である。
本実験では,図4のネットワーク環境で6名のレビューアが各自都合のよい時間帯に本システムを利用してデザインレビューを実施し,その後,外部のデザイナーと打ち合わせを行う編集担当者が指摘箇所をまとめる作業を行った。表1は,6名のレビューア全員の作業時間およびWebアノテーションの入力数などをまとめた結果である。ホームページ1件当たりの平均作業時間は約16分程度,Webアノテーションの平均作成個数は約8個,平均コメント数は約5個であった。またコメントの内容については,トップページはデザインに関するコメントが多く,色,位置,大きさの3種類であった。一方,校正に関するコメントとして,削除,言い換え,追加の3種類が確認された。

(表1 デザインレビューの結果)

今回の適用実験で,6名の被験者からは,1) 本システムのコメント一覧表示機能を利用することで,レビューア全員のコメントを一括で参照することができ,レビュー作業での意見の集約に役立つ,2)全員のWebアノテーションを全て同時に表示すると画面が複雑となるが,フィルタリング表示機能を利用することで,ユーザ別や様々な分類でWebアノテーションを選択表示させることができ,コメントの分析がしやすい,3)都合の良い時間に利用でき,また必要に応じて相手と同時に利用する形態で情報共有が行える,などといったコメントが得られた。また本実験に参加した企業のデザイナーからは,従来は,FAXやメール等の個別の情報伝達手段を組み合わせた校正指示や確認が中心であったのに対し,画面上で直接,校正指示や確認が行えるため,4)校正箇所やレイアウト修正の位置を直接画面上で指示でき,校正ミスの抑止に効果がある,5)原稿と校正指示の履歴を一元的に電子化ファイルで版歴の管理ができる,等のコメントを得た。

4.結  言
  ホームページ上にWebアノテーションを付記することで複数の利用者間の遠隔コミュニケーションを支援するシステムを開発した。ネットワーク環境で行ったシステムの性能実験からは,多数のPC端末が接続されたネットワーク環境においてWebアノテーションの生成や表示制御が高速で処理できることを確認した。また適用実験としてホームページのデザインレビュー作業に本システムを利用した結果,レビュー作業を効率的に進めることができた。
今後,デザインレビュー支援のほか,協調作業支援の場面への適用事例を増やしながら,さらに改良を加えることで実用性を高める必要があると考えている。

参考文献
1) 伊藤,角,間瀬,國藤.Smart Courier:アノテーションを介した適応的情報共有環境.人工知能学会論文誌.Vol.17,No.3,2002,p.301-312.
2) 中川,加藤,上田,國藤.Webコラボレーションを応用したWebコンテクストアウェアネスの一提案と実装.情報処理学会論文誌.Vol.47,No.7,
2006,p.2081-2090.
3) http://www.w3.org/TR/NOTE-VML
4) http://xml.apache.org/xindice/