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 デザインモデル作製システムを利用したデザイン開発技術の研究
 繊維生活部 ○梶井紀孝 志甫雅人 餘久保優子

 工業試験場では,平成13年度に三次元CGデータを用いて,モデルを切削加工する高速デザインモデル作製システムを導入した。これまで県内の漆器産地を中心として,製造業への製品開発支援を行ってきた結果,次のことが明らかになった。
(1)三次元CGデータを利用したモデル作製技術により,デザインから試作までの開発期間を短縮できた。
(2)実際の製品素材の加工が行えるため,県内の漆器産地では,漆器木地の加工装置として利用できた。その中でも,特に同型形状の木地作製で効果を発揮した。
(3)非接触式の三次元形状入力システムを併用することにより,実物モデルによる握りやすさの検証等,機能性を考慮したデザインモデルの開発を迅速に行えた。
キーワード:三次元CGデータ,CAM,製品開発,漆器,三次元形状入力システム

Study on the Design Method Using 3D CG and CAD/CAM System

Noritaka KAJII , Masahito SHIHO and Yuko YOKUBO
   
A high-speed modeling system for cutting out prototypes using 3D CG data was introduced in 2001. The use of this system to support product development in lacquerware manufacturing districts of Ishikawa Prefecture led to the following conclusions.
(1) The use of 3D CG data in modeling could shorten the period from the designing to the manufacturing of prototypes.
(2) Because it could be used for processing product material, we were able to use the system to process the wood of lacquerware. It was particularly effective in manufacturing models of an identical shape.
(3) Using a 3D laser digitizer combined with a 3D CG and CAD/CAM system enabled speedy development of models with an ergonomic design.
Keywords:3D CG data,CAM, product development,lacquer wares,3D laser digitizer

1.緒  言
 県内製造業では,市場の変化に迅速な対応を迫られており,製品開発の短縮化が重要な課題となっている。そのため,三次元CGやCADシステム等のコンピュータを利用したデザイン開発手法を取りいれている企業は多い。
石川県工業試験場では,平成5年度から三次元CG技術に関する研究および県内企業への普及指導を展開してきた。その後,平成10年度に光造形システムを導入し,三次元データの利用による迅速試作加工技術の普及および県内企業の製品開発支援を図っている1)。光造形システムは,光硬化型のエポキシ系樹脂によるモデル作製のため,研磨や塗装等の加工が必要である。また,木材や金属等の質感を活かしたデザインの検討はできないため,県内の伝統産地からこれらの素材を用いた迅速試作加工技術が要望されていた。そこで,平成13年度に三次元CGデータを用いてモデルを切削加工する高速デザインモデル作製システムを導入し,デザイン開発の研究を進めてきた。以下にその内容および経過について報告する。

2.高速デザインモデル作製システムの概要
2.1 システムの構成
表1に高速デザインモデル作製システム(以下,システム)の構成を示す。本システムは三次元形状のデータ作成(モデリング)と修正や,加工データの作成(CAM)を行う三次元データ編集装置,およびCNC切削加工用工作機械である加工装置で構成されている。その中で,県内企業が使用する三次元CG,CADシステムのデータフォーマットに対応するため,各種の中間フォーマットが利用可能なモデリング専用のソフトウェアを用いている。
 また光造形のCAMソフトウェアでは,ソリッドモデルと呼ばれる三次元面で囲まれ,体積が計算できる三次元データが必要であるのに対し,本システムのCAMソフトウェアでは,サーフェスモデルと呼ばれる1つの三次元面データで切削加工が可能であることが上げられる。これにより,三次元CGシステムでデザインした外観面のモデル作製が可能となる。

(表1 高速デザインモデル作製システムの構成)

2.2 モデル作製データの蓄積
 本システムを用いたモデル素材の切削加工では,加工データと素材,加工装置の相対する位置出しが造形の精度に大きく影響する。そのため,通常の両面加工では,図1で示すように上下の水平面を基準にして,モデル素材の固定を行う。固定方法が難しい造形に関しては,固定部分をモデリングソフトウェアで追加する。
 また,モデル素材の切削加工では,加工装置メーカが装置のトルクに合わせて,使用工具別に回転数,送り速度をCAMのデータベースに用いているため,素材の加工精度は,切削ピッチ(切込み量)と切削工具の消耗度合いに準ずる2)。そのため,データベースの値を用いた木材の加工では,樹種による加工精度の違いが生じており,桐や栓等の木目があり,軟質な木材の加工では,切削による割れや毛羽が発生するため(図2),切削ピッチを調整することで解消している。

(図1 両面加工)

(図2 桐材の荒加工)

(表2 システムの利用実績)

3.システムの利用状況
 表2に本システムの導入時からの利用実績を示す。平成15年度まで合計41件の利用があり,特に導入当初から県内の輪島や山中漆器産地で積極的な技術普及に務めてきたため,漆器業界での利用が多い。次にその具体的な利用事例を報告する。

4.輪島漆器産地の利用事例
 伝統的な漆塗りで有名な輪島漆器産地では,製造工程の多さからサンプル作りに多くの時間を要するため,取引先との打ち合わせには(株)イーフロンティ製Shadeで作成した三次元CG画像を利用している。
 工業試験場では,輪島漆器商工業協同組合を対象に,平成11年度から平成15年度まで,輪島地域漆器産業集積活性化支援事業を行った。この事業で,CGやモデル作製技術に関する研修会を開催し,産地技術者が三次元CG画像を作成して,デザインの検討やプレゼンテーションが行えるように研修を行っている(図3)。
 また産地内の個別企業と共同で,本システムの利用による新製品の開発を行った。高級品として有名な産地では,1品種の受注量は椀等においても10単位と少ない。そのため,産地における本システムの利用方法は,漆器の木地を製造する事例となった。

(図3 三次元CG技術の研修)

4.1 漆塗り小箱の開発
 輪島塗の製造販売を行う当該企業では,金属の金具を用いて,漆塗り小箱を製造している。そのデザイン開発は,漆塗りの本体部品をモジュール化し,用途に合わせて組み合わせを換えるものである。また,漆塗りの部分と金具が一体化した造形が求められるため,寸法精度の高い木地の加工が要求される。 
 そこで,三次元CGシステムを用いて,金具との接合部分に形状寸法を合わせてモデリングし,高さが違う三次元データを複数案作成した(図4)。その後,本システムを用いて木地の作製を行った(図5)。
 従来の製造工程では,同型の木地でも各種類別に製造工程を換える必要があるため,作製には多くの時間を必要とした。しかし本システムでは,作成した三次元データの寸法を変更することにより,モジュール化した木地の作製を容易に行えるため,大幅な時間短縮に繋がった(図6)。

(図4 三次元CGシステムでのモデリング画像)

(図5 作製木地)

(図6 木地と金具の組み付け)

(図7 祭事用提灯の台座)

(図8 CAMでのCL画像)

(図9 仕上げ加工)

4.2 祭事具部品の加工
 従来,輪島漆器産地で図7のように複雑な菊型形状をした祭事用提灯の台座を作製する場合,2軸のルータ機械を用いて,菊の葉数枚分にあたる部品の木地を切削加工し,接着剤を用いて張り合わせている。そのため,均一な部品の加工や張り合わせの調整に多くの時間が必要となっている。そこで,三次元CGシステムで菊の葉1枚分のサーフェスデータの作成を行い,円状に複写して菊型形状の三次元データを作成した。その後本システムで加工データを作成して (図8),15個の木地の作製を行った(図9)。
 この結果,従来の加工方法では15個の木地を作製するために,6週間を要していた作製期間が,2週間に短縮できた。三次元CGシステムでは,形状データの複写は容易なため,実際の加工段階における作業が大幅に合理化できた。

4.3 アクセサリーの開発
 工業試験場では,高輝性素材を利用した新しい漆器の開発を行っている。その中で,光発色繊維であるモルフォテックス(素材協力:帝人ファイバー(株)をパウダーとして,蒔絵に利用したアクセサリーを開発した(図10)。
三次元CGシステムを用いて,新素材の特徴を活かしたデザイン形状のシミュレーションを行い,複数の木地を同時に加工するよう並列に三次元データを配置した後,本システムで1枚の板材から木地を作製した(図11)。その結果,産地内企業から,従来の輪島漆器産地には無いシャープな造形をしたアクセサリーが開発されたと評価を得た。

(図10 モルフォテックスを利用したアクセサリー)

(図11 アクセサリー木地の加工)

5.山中漆器産地の利用事例
 近代漆器と呼ばれるプラスチック製品を製造販売している山中漆器産地では,平成5年から産地の蒔絵加工業が印刷版の図案シミュレーションを目的として,三次元CGシステムを利用している3)。
 またギフト市場を対象として,プラスチック製品を製造販売する産地では,平成元年をピークとして,その生産額は大幅に低迷し,各企業では新しい販路の開拓を求めている。
 このような中で,平成14年度に山中漆器連合協同組合において,量販店への販路拡大を目的に,新商品の開発事業(事業名:山中新生会議)を行った。外部専門家と産地内企業が量販店向け商品開発のワークショップを行い,その中で工業試験場は試作支援を行った。2週間間隔で開催するワークショップで,本システムによる試作支援により,実物モデルによるプラスチック成型の利点を生かした製品開発の検討が行えた(図12)。現在,この事業で開発した製品の一部が量販店で販売されている。

(図12 試作モデル)

6.骨密度測定装置開発の利用事例
 人間の骨密度を超音波を用いて簡単に測定する装置を製造している県内の装置メーカでは,新しく人間の指から骨密度を測定する手法を研究し,マウス形状をした小型骨密度測定装置の開発を行っている。この装置は筐体のデザイン開発を行う上で,測定部分への指の置き方のほか,装置の握りやすさや手とのフィット感が重要なデザイン開発の要素となる。そこで,この装置を開発する装置メーカから,本システムと非接触式の三次元形状入力システムを用いて,装置筐体のデザイン開発期間の短縮について相談があり,共同でデザイン開発を行った。
 図13に開発の流れと使用システムを示す。矢印は三次元データの流れを示し,形状の修正はモデリングソフトウェアを用いた。
 初めに装置デザインの方向性を確認するため,三次元CGシステムで,デザインのアイデアレンダリングを数点作成した。次にその中からコンセプトに沿う筐体形状を粘土を用いて,測定部に中指を置いた握りやすさや,指や手のひらのフィット感,見た目のボリューム感を確認して,手加工でモデルを作製した(図14)。また,三次元形状入力システムで作製した粘土モデルの表面形状を測定し(図15),モデリングソフトウェアで測定データを基に,サイズが異なる筐体形状を設計した(図16)。その後,本システムを用いて原型モデルを作製し,装置メーカでこれらのモデルを用いて,デザイン形状に関わるアンケート調査を行った(図17)。
その結果,小型骨密度測定装置として,握りやすく,手とのフィット感がある筐体のデザインが短期間で開発できた。

(図13 開発の流れと使用システム)

(図14 粘土モデルによるフィット感の確認)


(図15 粘土モデルの形状測定)

(図16 測定データとモデリング形状)

(図17 アンケートに使用したモデル)

7.結  言
 本研究では,県内企業との具体的な製品開発や試作支援を行い,本システムの利用によるデザイン開発を行った。以下にその結果をまとめる。
(1)三次元CGデータを利用したモデル作製技術により,デザインから試作までの開発期間を短縮できた。
(2)実際の製品素材の加工が行えるため,漆器産地では,漆器木地の加工装置として利用できた。その中でも,特に同型形状の木地作製で効果を発揮した。
(3)非接触式の三次元形状入力システムを併用することにより,実物モデルによる握りやすさの検証等,機能性を考慮したデザインモデルの開発を迅速に行えた。

参考文献
1) 梶井紀孝. 石川県試験場報告.平成11年度,p83 - 86.
2) 横山哲男. NC加工-プログラミングと活用技術
3) 志甫雅人. 石川県試験場報告.平成7年度,p101 -108.




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